92 / 316
迷宮挑戦の章
90.虫の迷宮?
しおりを挟む
何とか再びGに遭遇する事なく、下へと続く階段を見つけた愛莉達クローバーの五人(見つけたのは三眼狐だが)。
途中で他の冒険者の姿を見つけた愛莉は、心の中で(この階は危険だよ!)と警鐘を鳴らすが、当然そんなのが相手の心に届く筈も無い。
そんなクローバーは現在、地下二階の探索を終えて、順調に地下三階まで下がって来ていた。
因みに地下二階で頻繁に遭遇したのは、『フレアワーム(無足虫種Lv21)』と『バトルアント(昆虫種Lv20)』である。
フレアワームは炎を吐く巨大なミミズの様なモンスター。見た目はかなりグロテスクで気持ちが悪いモンスターだが、愛莉にとってはGじゃなければとりあえず良しという事だった。
巨大だが単独で行動しているので、吐き出す炎にさえ気をつけていれば、それほどの強敵では無かった。
問題はバトルアントの方で、一匹は大体1メートル程の大きさの蟻のモンスター。しかし群れで行動しているし、途中で仲間を呼ぶしで、倒すにはサフィーの広範囲魔法や、リーシャの召喚獣が必要不可欠だった。
ともあれ、かなりの連戦だったので、気がつけば全員レベルが23まで上がっていた。そして現在は地下三階、対峙しているモンスターはーーーーー
『ダンジョン・スパイダー(八足虫種Lv22)』
「また虫!虫、虫、虫、この迷宮には虫しか居ないの!?」
「あはは……どうなんだろうね」
魔法を放ちながら愚痴を零すサフィーと、流石に虫相手ばかりで辟易とした様子の未来。愛莉は先ほどからずっと無表情だ。またもや心を閉ざしつつある。
「迷宮に入ってどれくらい経ったのかしら………?そろそろ休憩したいわね」
「えっと、今は午後三時だよ。迷宮に入って五時間くらい?ってかお腹空いた!」
腕時計で時刻を確認する未来。途中で歩きながら食事をしているので、未来以外の四人は腹は空いていない(未来は大体いつも腹を空かせている)。そんな未来目掛けて、ダンジョン・スパイダーが糸を放出する。
「ミク!?」
「ほいほーい」
もはや息をするように発動可能な【短距離転移】で、糸を余裕で躱す未来。そのままダンジョン・スパイダーの頭上に転移し、背中に剣を突き刺すと再び転移で戻った。
「たっだいまー」
「エスト、今よ!」
「はい!」
弱っているジャイアント・スパイダーに矢を射るエスト。もちろん矢には【身壊術】を付与してある。
「当たったわね。じゃあトドメよ!」
最後にサフィーが初級魔法の【火球】を放つ。見事に命中し、ダンジョン・スパイダーを燃やし尽くした。
「おおー!初級魔法とは思えない威力だね!」
「まあ、レベルも上がったし、さっきの連戦でパッシブスキルの『魔力上昇』もレベル4になったから」
サフィーのパッシブスキル『魔力上昇』は、本来の魔力にプラスの補正値が掛かる、かなり有能なスキル。現在レベル23のサフィーだが、このスキルのお陰でレベル30の魔道士が放つ初級魔法の威力と比べても、それほど大差ない威力にまで達している。
今の所、この迷宮に出現するモンスターのレベルは、今のダンジョン・スパイダーの22が最高だ。地下一階のジャイアント・ジー相手には覚えたての中級魔法を放ったが、この程度の相手ならば、初級魔法でも十分だと気づいたのだ。
「そうよね~、魔力は温存しておくに越した事はないものね」
「そういう事。さ、進みましょ」
澄まし顔で先頭を歩くサフィー。つい先日までは、自分だけがこのパーティのお荷物だと悲観していた少女が、今は誰よりもこのパーティで活躍している。
その事に本人は気づいていないみたいだが、今やサフィーの実力は誰もが認めていた。その最たるが、長年近くでサフィーを見続けて来たリーシャである。
(凄いわサフィー。いつの間にかこんなに強くなって)
つい先日、未来と愛莉に出会う前までは、なかなかレベル4から上がらずに弱いモンスターを倒すのも一苦労だったサフィー。そんなサフィーに対して、何の力にもなれずに歯がゆい思いをして来たリーシャ。
幼い頃から、サフィーの魔法の素質を信じて疑った事は無かった。そしてそれは、間違いではなかったのだと証明されたのだ。
(これからも一緒に頑張りましょうねサフィー)
サフィーの目標は、冒険者としての高みに立つ事だ。その階段を、リーシャはいつだって何処までだって、サフィーと一緒に登る覚悟は出来ている。
■■■
「今日はこの辺にしておこっか」
そう言い出したのは、他ならぬ愛莉だった。地下四階への階段を見つけた所で、今日の探索はこの辺で切り上げて休もうと皆に提案する。
「そうね~、流石に疲れちゃったし、なるべくMPもSPも回復させないといけないものね」
「さんせーい!お腹空いた!」
「ミクはいつもそれね……って今さら言うのも何なんだけど、本当に迷宮内で野宿する気の……?」
本当に今さらだが、サフィーの不安も当然だった。こんな、いつモンスターが襲って来るかも分からない場所では、気になっておちおち寝てもいられない。
「うん。とりあえず寝るのは交代で、未来が寝てる時はリーシャが起きて辺りをコンで警戒。リーシャが寝てる時は未来の【気配察知】で警戒していれば、奇襲される事は無いから」
それは事前に愛莉から聞いていたので全員理解している。しかし、実際に迷宮に入り込んで地下深くまで来ると、まだ駆け出しの冒険者であるサフィーが心配になるのも頷けた。
「そ、それは分かってるんだけど……」
「う、うん……アイリちゃんみたいに冷静になれないって言うか……」
サフィーだけではなく、リーシャとエストも不安そうな表情を浮かべている。もちろん愛莉とて全く不安が無い訳ではない。しかしまだ地下三階。所々にかがり火が置いてある事を見ても分かるように、この階はまだ冒険者も多くて比較的安全だ。問題は、もっと下の階へと降りた時に、同じように冷静になれるかどうかだった。
「確か、地下五階からモンスターの強さが上がるらしいわ。どんなモンスターが出るのかまでは聞いてないけど」
「そう言えばさー、この迷宮って今んとこ虫のモンスターばっかりだけど、こんなので狩場になるの?素材安そうなんだけど」
なかなか的を射ている未来の突然の質問。確かに虫の素材が、それほど高値が付くとは思えない。
「虫のモンスターでも『魔石』はそれなりの値段が付くみたいよ~?獣でも虫でも、モンスターは必ず体内に魔石を持っているものだから」
なるほど、ならば何故ここまでの間、倒したモンスターから一度も魔石を取らなかったのだろうか。未来がそう訊ねると、リーシャとサフィーはチラリと愛莉を見る。
「そ、それは……わたし達は別に構わないのだけれど………」
「虫を解体してる所なんてまともに見てられる?それに、取り出した魔石はアイリが肩からぶら下げてる魔法鞄に入れるのよ?」
激しく首を横に振る愛莉。嫌だ、あんなにデカい虫の解体など、絶対に見たくない。それに虫の血で真っ赤に染まったリーシャやサフィーの手など、絶対に繋ぎたくない。
「あはは……チョー納得した……」
「でも、このまま虫のモンスターしか出ないとは思えないよね……?前にCランクの冒険者の方が、骨……?みたいな素材を買い取って貰う所を見た事があるよ」
「エストの言う通りよ。きっともう少し下の階まで行けば違うモンスターも出て来る筈だわ」
なるべく早くそうなって欲しいなと、祈らずにはいられない愛莉。それはそうと、快適な野宿をする為にどうしても試してみたい事があった。
現在クローバーの五人が居るこの場所は、比較的広い場所になっている。そして辺りには、壁や天井から崩れた大きめの岩が散乱していた。
愛莉は落ちている岩を見ながら、岩肌が剥き出しの壁へと近づく。そして落ちている岩の一つに手を伸ばし、頭の中でイメージを始めた。
(流石に何も無い所で寝るのは度胸がいるから………出来れば部屋の様な………)
頭の中で、石の壁をイメージする。広場の丁度角地、造る壁は対となる二枚でいい。
(壁はなるべく厚く……モンスターが突進しても壊れないぐらい……)
愛莉の手が光り始め、その光が岩へと移る。そして岩は、徐々に形を変え始めた。
(外を覗ける穴も必要だよね……あと入口は、人が一人通れる分空けて………天井も欲しいかな)
一つ目の岩で横の壁を、そして二つ目の更に大きめの岩で、正面の壁と天井を造る。
何も無かった広場に、岩が見る見ると形を変えて石造りの部屋を造ってゆく。その信じられない光景に、未来もリーシャもサフィーも、そしてエストも絶句していた。
ーー錬金術のレベルが上がりました。
「ふう……何とかイメージ通りに出来た」
そして出来上がった、愛莉の錬金術で造り上げた簡易部屋。岩肌が剥き出しの、後ろと左側の天然の壁。そして愛莉が造り上げた右側と正面の壁が融合し、まさに小屋と呼んでも差し支えない建物が完成した瞬間だった。
途中で他の冒険者の姿を見つけた愛莉は、心の中で(この階は危険だよ!)と警鐘を鳴らすが、当然そんなのが相手の心に届く筈も無い。
そんなクローバーは現在、地下二階の探索を終えて、順調に地下三階まで下がって来ていた。
因みに地下二階で頻繁に遭遇したのは、『フレアワーム(無足虫種Lv21)』と『バトルアント(昆虫種Lv20)』である。
フレアワームは炎を吐く巨大なミミズの様なモンスター。見た目はかなりグロテスクで気持ちが悪いモンスターだが、愛莉にとってはGじゃなければとりあえず良しという事だった。
巨大だが単独で行動しているので、吐き出す炎にさえ気をつけていれば、それほどの強敵では無かった。
問題はバトルアントの方で、一匹は大体1メートル程の大きさの蟻のモンスター。しかし群れで行動しているし、途中で仲間を呼ぶしで、倒すにはサフィーの広範囲魔法や、リーシャの召喚獣が必要不可欠だった。
ともあれ、かなりの連戦だったので、気がつけば全員レベルが23まで上がっていた。そして現在は地下三階、対峙しているモンスターはーーーーー
『ダンジョン・スパイダー(八足虫種Lv22)』
「また虫!虫、虫、虫、この迷宮には虫しか居ないの!?」
「あはは……どうなんだろうね」
魔法を放ちながら愚痴を零すサフィーと、流石に虫相手ばかりで辟易とした様子の未来。愛莉は先ほどからずっと無表情だ。またもや心を閉ざしつつある。
「迷宮に入ってどれくらい経ったのかしら………?そろそろ休憩したいわね」
「えっと、今は午後三時だよ。迷宮に入って五時間くらい?ってかお腹空いた!」
腕時計で時刻を確認する未来。途中で歩きながら食事をしているので、未来以外の四人は腹は空いていない(未来は大体いつも腹を空かせている)。そんな未来目掛けて、ダンジョン・スパイダーが糸を放出する。
「ミク!?」
「ほいほーい」
もはや息をするように発動可能な【短距離転移】で、糸を余裕で躱す未来。そのままダンジョン・スパイダーの頭上に転移し、背中に剣を突き刺すと再び転移で戻った。
「たっだいまー」
「エスト、今よ!」
「はい!」
弱っているジャイアント・スパイダーに矢を射るエスト。もちろん矢には【身壊術】を付与してある。
「当たったわね。じゃあトドメよ!」
最後にサフィーが初級魔法の【火球】を放つ。見事に命中し、ダンジョン・スパイダーを燃やし尽くした。
「おおー!初級魔法とは思えない威力だね!」
「まあ、レベルも上がったし、さっきの連戦でパッシブスキルの『魔力上昇』もレベル4になったから」
サフィーのパッシブスキル『魔力上昇』は、本来の魔力にプラスの補正値が掛かる、かなり有能なスキル。現在レベル23のサフィーだが、このスキルのお陰でレベル30の魔道士が放つ初級魔法の威力と比べても、それほど大差ない威力にまで達している。
今の所、この迷宮に出現するモンスターのレベルは、今のダンジョン・スパイダーの22が最高だ。地下一階のジャイアント・ジー相手には覚えたての中級魔法を放ったが、この程度の相手ならば、初級魔法でも十分だと気づいたのだ。
「そうよね~、魔力は温存しておくに越した事はないものね」
「そういう事。さ、進みましょ」
澄まし顔で先頭を歩くサフィー。つい先日までは、自分だけがこのパーティのお荷物だと悲観していた少女が、今は誰よりもこのパーティで活躍している。
その事に本人は気づいていないみたいだが、今やサフィーの実力は誰もが認めていた。その最たるが、長年近くでサフィーを見続けて来たリーシャである。
(凄いわサフィー。いつの間にかこんなに強くなって)
つい先日、未来と愛莉に出会う前までは、なかなかレベル4から上がらずに弱いモンスターを倒すのも一苦労だったサフィー。そんなサフィーに対して、何の力にもなれずに歯がゆい思いをして来たリーシャ。
幼い頃から、サフィーの魔法の素質を信じて疑った事は無かった。そしてそれは、間違いではなかったのだと証明されたのだ。
(これからも一緒に頑張りましょうねサフィー)
サフィーの目標は、冒険者としての高みに立つ事だ。その階段を、リーシャはいつだって何処までだって、サフィーと一緒に登る覚悟は出来ている。
■■■
「今日はこの辺にしておこっか」
そう言い出したのは、他ならぬ愛莉だった。地下四階への階段を見つけた所で、今日の探索はこの辺で切り上げて休もうと皆に提案する。
「そうね~、流石に疲れちゃったし、なるべくMPもSPも回復させないといけないものね」
「さんせーい!お腹空いた!」
「ミクはいつもそれね……って今さら言うのも何なんだけど、本当に迷宮内で野宿する気の……?」
本当に今さらだが、サフィーの不安も当然だった。こんな、いつモンスターが襲って来るかも分からない場所では、気になっておちおち寝てもいられない。
「うん。とりあえず寝るのは交代で、未来が寝てる時はリーシャが起きて辺りをコンで警戒。リーシャが寝てる時は未来の【気配察知】で警戒していれば、奇襲される事は無いから」
それは事前に愛莉から聞いていたので全員理解している。しかし、実際に迷宮に入り込んで地下深くまで来ると、まだ駆け出しの冒険者であるサフィーが心配になるのも頷けた。
「そ、それは分かってるんだけど……」
「う、うん……アイリちゃんみたいに冷静になれないって言うか……」
サフィーだけではなく、リーシャとエストも不安そうな表情を浮かべている。もちろん愛莉とて全く不安が無い訳ではない。しかしまだ地下三階。所々にかがり火が置いてある事を見ても分かるように、この階はまだ冒険者も多くて比較的安全だ。問題は、もっと下の階へと降りた時に、同じように冷静になれるかどうかだった。
「確か、地下五階からモンスターの強さが上がるらしいわ。どんなモンスターが出るのかまでは聞いてないけど」
「そう言えばさー、この迷宮って今んとこ虫のモンスターばっかりだけど、こんなので狩場になるの?素材安そうなんだけど」
なかなか的を射ている未来の突然の質問。確かに虫の素材が、それほど高値が付くとは思えない。
「虫のモンスターでも『魔石』はそれなりの値段が付くみたいよ~?獣でも虫でも、モンスターは必ず体内に魔石を持っているものだから」
なるほど、ならば何故ここまでの間、倒したモンスターから一度も魔石を取らなかったのだろうか。未来がそう訊ねると、リーシャとサフィーはチラリと愛莉を見る。
「そ、それは……わたし達は別に構わないのだけれど………」
「虫を解体してる所なんてまともに見てられる?それに、取り出した魔石はアイリが肩からぶら下げてる魔法鞄に入れるのよ?」
激しく首を横に振る愛莉。嫌だ、あんなにデカい虫の解体など、絶対に見たくない。それに虫の血で真っ赤に染まったリーシャやサフィーの手など、絶対に繋ぎたくない。
「あはは……チョー納得した……」
「でも、このまま虫のモンスターしか出ないとは思えないよね……?前にCランクの冒険者の方が、骨……?みたいな素材を買い取って貰う所を見た事があるよ」
「エストの言う通りよ。きっともう少し下の階まで行けば違うモンスターも出て来る筈だわ」
なるべく早くそうなって欲しいなと、祈らずにはいられない愛莉。それはそうと、快適な野宿をする為にどうしても試してみたい事があった。
現在クローバーの五人が居るこの場所は、比較的広い場所になっている。そして辺りには、壁や天井から崩れた大きめの岩が散乱していた。
愛莉は落ちている岩を見ながら、岩肌が剥き出しの壁へと近づく。そして落ちている岩の一つに手を伸ばし、頭の中でイメージを始めた。
(流石に何も無い所で寝るのは度胸がいるから………出来れば部屋の様な………)
頭の中で、石の壁をイメージする。広場の丁度角地、造る壁は対となる二枚でいい。
(壁はなるべく厚く……モンスターが突進しても壊れないぐらい……)
愛莉の手が光り始め、その光が岩へと移る。そして岩は、徐々に形を変え始めた。
(外を覗ける穴も必要だよね……あと入口は、人が一人通れる分空けて………天井も欲しいかな)
一つ目の岩で横の壁を、そして二つ目の更に大きめの岩で、正面の壁と天井を造る。
何も無かった広場に、岩が見る見ると形を変えて石造りの部屋を造ってゆく。その信じられない光景に、未来もリーシャもサフィーも、そしてエストも絶句していた。
ーー錬金術のレベルが上がりました。
「ふう……何とかイメージ通りに出来た」
そして出来上がった、愛莉の錬金術で造り上げた簡易部屋。岩肌が剥き出しの、後ろと左側の天然の壁。そして愛莉が造り上げた右側と正面の壁が融合し、まさに小屋と呼んでも差し支えない建物が完成した瞬間だった。
0
お気に入りに追加
737
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる