61 / 316
駆け出し冒険者の章
60.勧誘
しおりを挟む
ひとしきり笑い合った未来達”クローバー”の四人とエスト。そんなエストに向かってサフィーが、先ほどルフを解体して取り出した魔石を差し出す。
「ルフの魔石よ。この意味分かるわよね?」
「え………」
突然の事に困惑するエスト。愛莉の持つ魔法鞄の中には、先ほど愛莉と未来が回収したルフの死体四匹分が収納されている。ギルドに持って行けば、四人は晴れてCランクへのランクアップを果たす。それはエストにとってとても喜ばしい事だが、そのエストに差し出されたルフの魔石。つまり、これを受け取るという事はーーーー
「エストの考えてる通りだよ。わたし達、エストと一緒にパーティを組みたいの」
「アイリちゃん………」
「そうそう!ね、うちにおいでよエスト!」
「……ミクちゃん」
見ると、リーシャもサフィーもこちらを見て優しく微笑んでいた。
嬉しい、とても嬉しい。先日、大衆浴場で未来と愛莉が友達になろうと声をかけてくれて物凄く嬉しかったが、あの時と同じかそれ以上に嬉しい。
「わたしは……」
自分がパーティを抜けてしまったらどうなってしまうだろうか。きっとスナイプ達は、今日の傷が癒えてSPやMPが回復したら、またこの山に挑むのだろう。何だかんだでレベルは17にまで上がった。次は無理でも、その次にはルフを倒せるぐらいまで強くなっているかもしれない。
だがそれは、四人揃った状態での話だ。ここで自分が抜けてしまったら、スナイプ達がルフを倒せるのは更に先になってしまうだろう。
「迷っているのねエスト。良く考えて答えを出してくれればいいの」
「リーシャちゃん……」
良く考えて。そう、本音を言えば今すぐにでも”クローバー”の一員になりたい。未来達と一緒に毎日楽しく冒険出来たら、どんなに毎日が素敵なものになるだろうか。
でも、スナイプ達には今まで世話になった。貴族令嬢の自分が家を出て、全く知らない冒険者という世界に飛び込んだ。右も左も分からずにオロオロとしていた所に、カロンが仲間になろうと声を掛けてくれた。
スナイプとメリッサのパーティと合併した時は、二人とも「宜しく」と握手を交してくれた。メリッサだって最初の頃は、こちらを嫌っていた訳ではなかったと思う。
「そうね、でもはっきり言って今のパーティだと、あんたばかり苦労しそうよエスト。あいつら、回復術士を何だと思ってるのかしら」
「サフィーちゃん……」
苦労か。サフィーの言う事は半分は当たりで、半分間違いだ。
本当は戦う力を持っているのに、最初にそれを言い出せなかった。カロンは出会った早々に「回復術士だね!攻撃は僕に任せて君は回復に専念してくれればいいさ」と言って、完全に回復術士の力だけしか持たないと決めつけてしまった。
スナイプにも「回復術士かー!ポーションって結構値段高いし、マジで助かるわ!」と言われて、何も言えなくなってしまった。つまり自分に求められる能力は攻撃力ではなく、あくまで回復術士としての能力だけ。それならそれで、みんなの為に回復を頑張ろうと決心したのだが、そのせいで苦労しているのは自分だけではなくスナイプ達もだ。
初日にスナイプ達三人が苦労の末に倒したビッグフット。もしあそこに自分も参戦していれば、もっと簡単に倒せた。
手も足も出なかった今日のルフ戦。ちゃんと武器を持って来ていたら、一匹か二匹は倒せていたかもしれない。何もかも、自分の能力の事を今まで言い出せなかったせいなのだ。
「はぁはぁ……やっとワイルドウルフ……倒せたわね……」
「だな……でもまだだ。戦えないエストの分の魔石も俺達が用意してやらなきゃな!」
あの日、初めてワイルドウルフを討伐した時にスナイプが言ってくれた言葉だ。正直、ワイルドウルフぐらいなら自分で倒せる自信はあったのだが、あの時の言葉は本当に嬉しかったのを覚えている。自分もパーティの一員として、仲間としてちゃんと大事にされているんだと初めて認識した瞬間だったのだから。だからこそ、エストは皆に向かって深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。わたし……みんなの所には行けません……」
未来達は自分の事を必要としてくれている。でも、スナイプ達だって必要としてくれているのだ。
きっとクローバーの四人は、この先も問題無く先へ先へと突き進んで行くだろう。この四人ならば、誰も追いつけない程の速度で冒険者としての高みまで駆け上るに違いない。
でも、スナイプ達はそうではない。スナイプ達には、きっと回復術士がまだまだ必要だ。いや、もう自分の能力を隠しておく事はやめよう。ちゃんと全てを伝えて、自分も戦闘に参加しよう。そうすれば、みんな今よりももっと楽になる筈なのだから。
「……理由を聞いてもいい?」
「スナイプさん達には……わたしが必要なんです。回復術士としてだけじゃなく、戦闘要員としてのわたしが」
顔を見合わせる未来、リーシャ、サフィー。そんな中で、愛莉だけがじっとエストを見つめていた。
愛莉の目には見えている。エストのステータスに表示される『身壊術』や『破弓』などの攻撃系のスキル、そしてその能力も。
エストが本気を出して、回復術士としてではなく攻撃要因として戦闘に加わっていれば、きっと色々と違う結果になっていただろうと思っている。だがエストはそれをしなかった。いや、もしかすると出来なかったのかもしれない。
「そっか。決心したんだね」
「え………あっ、そっかアイリちゃんは……」
相手のステータスが見える。つまり愛莉は、誰にも話した事のない自分の持つスキルの事を、最初から知っていた。そしてそれを知った上でパーティに勧誘してくれたという事は、愛莉もまた回復術士としてではなく、戦闘要員としても期待してくれていたのだと、エストは理解した。
(そうなんだ……凄く嬉しいな……)
愛莉自身の戦闘は今回は見られなかった。いや、もしかすると愛莉は戦闘要員ではないのかもしれない。それを加味しても、仲間の三人は恐ろしい程の戦闘力を有している。その三人の中に入っても、エストは遜色無いんだよと言われている気がして、エストの心が揺らいだ。
「あのわたし……今は無理だけど、いつかクローバーに入りたいです……」
「エスト?」
「こんな事言える立場じゃないのは承知してます。でもわたし……いつかみんなとーーー」
そう言って顔を上げたエストの視界には、にっこりと笑う未来、嬉しそうに微笑む愛莉、優しい瞳でこちらを見つめるリーシャ、そして真顔で手を差し出すサフィーが映り込んだ。
「いつかじゃなく、なるべく早くしなさいよエスト。早くしないとわたし達はどんどん先に進むわよ」
「サフィーちゃん………」
「にひひひ!サフィーは素直じゃないなー。一日でも早く来て欲しいなら、素直にそう言えばいいのに!」
「ちょっ、ミク!?」
「そうそう。エストの居ない所で一番エストの心配してるのサフィーだし」
「アイリ!それは言わない約束でしょ!」
「ふふ、マジックポーションだって、エストとメリッサの分も買っていこうって言い出したのサフィーだものね」
「リ、リーシャまで!ってかアイリ、マジックポーション出して!」
顔を真っ赤にしながら、エストに差し出していた手を一度引っ込める。そして愛莉からマジックポーションを受け取ると、再びその手をエストの前へと出した。
「あんたからメリッサに渡しておいて。どうせわたしが渡したって受け取らないんだから」
「え……でもわたしが渡しても……」
受け取ってくれるだろうか。そう言えば、さっきは照れながらもこちらの身体を心配してくたなぁと思い出す。もしかすると今なら素直に受け取ってくれるかもしれないと、何故かそう思った。
「ううん、じゃあ遠慮なく貰うね。きっとメリッサさんだから、いつか必ず倍にして返すとか言いそうだけど」
「楽しみに待ってるって伝えといて。あと、同じ女性魔道士なんだから……その、もう少し仲良く………」
「え?」
最後の方は極端に小声だったので、エストの耳に届かなかった。なので首を傾げたのだが、サフィーは更に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「な、何でもないわ!早く持っていってあげて!」
「あ、うん。ありがとうみんな……!」
最後に泣きそうな表情を浮かべて踵を返すエストの背中に、サフィーが声を掛ける。
「一週間以内よ!一週間以内にうちに来なさいよね!」
「あはは……一週間は早いよぉ……」
そう呟きながら、エストはメリッサの元へと戻って行った。しかしその口元は、とても嬉しそうに緩んでいたのだったーーーー
「ルフの魔石よ。この意味分かるわよね?」
「え………」
突然の事に困惑するエスト。愛莉の持つ魔法鞄の中には、先ほど愛莉と未来が回収したルフの死体四匹分が収納されている。ギルドに持って行けば、四人は晴れてCランクへのランクアップを果たす。それはエストにとってとても喜ばしい事だが、そのエストに差し出されたルフの魔石。つまり、これを受け取るという事はーーーー
「エストの考えてる通りだよ。わたし達、エストと一緒にパーティを組みたいの」
「アイリちゃん………」
「そうそう!ね、うちにおいでよエスト!」
「……ミクちゃん」
見ると、リーシャもサフィーもこちらを見て優しく微笑んでいた。
嬉しい、とても嬉しい。先日、大衆浴場で未来と愛莉が友達になろうと声をかけてくれて物凄く嬉しかったが、あの時と同じかそれ以上に嬉しい。
「わたしは……」
自分がパーティを抜けてしまったらどうなってしまうだろうか。きっとスナイプ達は、今日の傷が癒えてSPやMPが回復したら、またこの山に挑むのだろう。何だかんだでレベルは17にまで上がった。次は無理でも、その次にはルフを倒せるぐらいまで強くなっているかもしれない。
だがそれは、四人揃った状態での話だ。ここで自分が抜けてしまったら、スナイプ達がルフを倒せるのは更に先になってしまうだろう。
「迷っているのねエスト。良く考えて答えを出してくれればいいの」
「リーシャちゃん……」
良く考えて。そう、本音を言えば今すぐにでも”クローバー”の一員になりたい。未来達と一緒に毎日楽しく冒険出来たら、どんなに毎日が素敵なものになるだろうか。
でも、スナイプ達には今まで世話になった。貴族令嬢の自分が家を出て、全く知らない冒険者という世界に飛び込んだ。右も左も分からずにオロオロとしていた所に、カロンが仲間になろうと声を掛けてくれた。
スナイプとメリッサのパーティと合併した時は、二人とも「宜しく」と握手を交してくれた。メリッサだって最初の頃は、こちらを嫌っていた訳ではなかったと思う。
「そうね、でもはっきり言って今のパーティだと、あんたばかり苦労しそうよエスト。あいつら、回復術士を何だと思ってるのかしら」
「サフィーちゃん……」
苦労か。サフィーの言う事は半分は当たりで、半分間違いだ。
本当は戦う力を持っているのに、最初にそれを言い出せなかった。カロンは出会った早々に「回復術士だね!攻撃は僕に任せて君は回復に専念してくれればいいさ」と言って、完全に回復術士の力だけしか持たないと決めつけてしまった。
スナイプにも「回復術士かー!ポーションって結構値段高いし、マジで助かるわ!」と言われて、何も言えなくなってしまった。つまり自分に求められる能力は攻撃力ではなく、あくまで回復術士としての能力だけ。それならそれで、みんなの為に回復を頑張ろうと決心したのだが、そのせいで苦労しているのは自分だけではなくスナイプ達もだ。
初日にスナイプ達三人が苦労の末に倒したビッグフット。もしあそこに自分も参戦していれば、もっと簡単に倒せた。
手も足も出なかった今日のルフ戦。ちゃんと武器を持って来ていたら、一匹か二匹は倒せていたかもしれない。何もかも、自分の能力の事を今まで言い出せなかったせいなのだ。
「はぁはぁ……やっとワイルドウルフ……倒せたわね……」
「だな……でもまだだ。戦えないエストの分の魔石も俺達が用意してやらなきゃな!」
あの日、初めてワイルドウルフを討伐した時にスナイプが言ってくれた言葉だ。正直、ワイルドウルフぐらいなら自分で倒せる自信はあったのだが、あの時の言葉は本当に嬉しかったのを覚えている。自分もパーティの一員として、仲間としてちゃんと大事にされているんだと初めて認識した瞬間だったのだから。だからこそ、エストは皆に向かって深々と頭を下げた。
「ごめんなさい。わたし……みんなの所には行けません……」
未来達は自分の事を必要としてくれている。でも、スナイプ達だって必要としてくれているのだ。
きっとクローバーの四人は、この先も問題無く先へ先へと突き進んで行くだろう。この四人ならば、誰も追いつけない程の速度で冒険者としての高みまで駆け上るに違いない。
でも、スナイプ達はそうではない。スナイプ達には、きっと回復術士がまだまだ必要だ。いや、もう自分の能力を隠しておく事はやめよう。ちゃんと全てを伝えて、自分も戦闘に参加しよう。そうすれば、みんな今よりももっと楽になる筈なのだから。
「……理由を聞いてもいい?」
「スナイプさん達には……わたしが必要なんです。回復術士としてだけじゃなく、戦闘要員としてのわたしが」
顔を見合わせる未来、リーシャ、サフィー。そんな中で、愛莉だけがじっとエストを見つめていた。
愛莉の目には見えている。エストのステータスに表示される『身壊術』や『破弓』などの攻撃系のスキル、そしてその能力も。
エストが本気を出して、回復術士としてではなく攻撃要因として戦闘に加わっていれば、きっと色々と違う結果になっていただろうと思っている。だがエストはそれをしなかった。いや、もしかすると出来なかったのかもしれない。
「そっか。決心したんだね」
「え………あっ、そっかアイリちゃんは……」
相手のステータスが見える。つまり愛莉は、誰にも話した事のない自分の持つスキルの事を、最初から知っていた。そしてそれを知った上でパーティに勧誘してくれたという事は、愛莉もまた回復術士としてではなく、戦闘要員としても期待してくれていたのだと、エストは理解した。
(そうなんだ……凄く嬉しいな……)
愛莉自身の戦闘は今回は見られなかった。いや、もしかすると愛莉は戦闘要員ではないのかもしれない。それを加味しても、仲間の三人は恐ろしい程の戦闘力を有している。その三人の中に入っても、エストは遜色無いんだよと言われている気がして、エストの心が揺らいだ。
「あのわたし……今は無理だけど、いつかクローバーに入りたいです……」
「エスト?」
「こんな事言える立場じゃないのは承知してます。でもわたし……いつかみんなとーーー」
そう言って顔を上げたエストの視界には、にっこりと笑う未来、嬉しそうに微笑む愛莉、優しい瞳でこちらを見つめるリーシャ、そして真顔で手を差し出すサフィーが映り込んだ。
「いつかじゃなく、なるべく早くしなさいよエスト。早くしないとわたし達はどんどん先に進むわよ」
「サフィーちゃん………」
「にひひひ!サフィーは素直じゃないなー。一日でも早く来て欲しいなら、素直にそう言えばいいのに!」
「ちょっ、ミク!?」
「そうそう。エストの居ない所で一番エストの心配してるのサフィーだし」
「アイリ!それは言わない約束でしょ!」
「ふふ、マジックポーションだって、エストとメリッサの分も買っていこうって言い出したのサフィーだものね」
「リ、リーシャまで!ってかアイリ、マジックポーション出して!」
顔を真っ赤にしながら、エストに差し出していた手を一度引っ込める。そして愛莉からマジックポーションを受け取ると、再びその手をエストの前へと出した。
「あんたからメリッサに渡しておいて。どうせわたしが渡したって受け取らないんだから」
「え……でもわたしが渡しても……」
受け取ってくれるだろうか。そう言えば、さっきは照れながらもこちらの身体を心配してくたなぁと思い出す。もしかすると今なら素直に受け取ってくれるかもしれないと、何故かそう思った。
「ううん、じゃあ遠慮なく貰うね。きっとメリッサさんだから、いつか必ず倍にして返すとか言いそうだけど」
「楽しみに待ってるって伝えといて。あと、同じ女性魔道士なんだから……その、もう少し仲良く………」
「え?」
最後の方は極端に小声だったので、エストの耳に届かなかった。なので首を傾げたのだが、サフィーは更に顔を真っ赤にしてそっぽを向いた。
「な、何でもないわ!早く持っていってあげて!」
「あ、うん。ありがとうみんな……!」
最後に泣きそうな表情を浮かべて踵を返すエストの背中に、サフィーが声を掛ける。
「一週間以内よ!一週間以内にうちに来なさいよね!」
「あはは……一週間は早いよぉ……」
そう呟きながら、エストはメリッサの元へと戻って行った。しかしその口元は、とても嬉しそうに緩んでいたのだったーーーー
0
お気に入りに追加
737
あなたにおすすめの小説
隣の席の女の子がエッチだったのでおっぱい揉んでみたら発情されました
ねんごろ
恋愛
隣の女の子がエッチすぎて、思わず授業中に胸を揉んでしまったら……
という、とんでもないお話を書きました。
ぜひ読んでください。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる