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駆け出し冒険者の章
49.危険な想い
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カロンの本名はカロン・フォン・アルザス。帝都に居を構える男爵、アルザス家の三男である。
貴族とは言え下級貴族の男爵家、ましてや領地を持たない法衣貴族の三男ともなれば、成人後は家に居場所など無い。
家督を次ぐ長男と、長男が有事の際に家督を次ぐ事になる次男は家に残れるが、三男以下は成人後すぐに家を出なければならない。
そういった貴族の三男以下の大抵の者は、騎士を目指したり文官を目指したりする。なので、幼少期にどれだけの教養を身に付けるかが人生を左右すると言っても良い。
カロンも例に漏れず、幼少期には色々と学んだ。剣も振ったし、座学も積極的に取り組んだ。そしてある日、槍の稽古をしていると突然頭の中に声が響いた。
ーーカロンは固有スキル【槍突】を会得しました。
槍の固有スキルを会得したのだ。これはかなりのアドバンテージになると、素直に喜ぶカロン。騎士で固有スキルを会得している者など少ない。帝国一強のこの世界において、騎士が固有スキルを持っていた所で使いどころなど皆無に等しい。なので、戦闘系の固有スキルを持つ者の多くが、冒険者を目指す。
それは貴族のカロンも例外ではなく、固有スキルをきっかけにカロンは騎士ではなく冒険者という職業に強く憧れる事になった。
「父上、僕は冒険者を目指そうと思います」
そう父に告げた時に返って来た答えは「好きにしろ」というものだった。家を出た後に三男がどうなろうと、興味は無いらしい。
家名を名乗る事は許されたが、何か不祥事を起こせばすぐに家名を取り上げるとも言われた。しかしカロン自身、男爵のアルザスの家名など別に名乗りたくもない。それを名乗る事に、何の意味も無いのだから。
成人し、家を出たカロンは帝都を離れ、東を目指した。別に何処でも良かったのだが、あまり帝都の近くというのも面白くない。出来れば帝都から少しでも離れたかった。
そんなカロンには野望があった。幼い頃から容姿が良かったカロンは、他の貴族令嬢にそれなりにモテたのだが、それを快く思わない自分の兄達や、他の貴族の長男達から陰険な仕打ちを受ける事もしばしば。なので冒険者になる際には、美少女ばかりのパーティを築き上げ、いつか兄達に見せつけてやろうと、そんな野望を抱いていたのだ。
「やあ、僕はカロン。見ての通りの槍使いさ。良かったら僕とパーティを組まないかな?」
ファルディナの街を自分のホームグラウンドに定めたカロンは、冒険者登録を済ませる。そしてその同じ日に冒険者登録を済ませた、白い髪の美少女を見てすぐに声を掛けた。
帝都でもなかなかお目にかかれない美少女だ。自分の野望の先駆けには丁度いいし、打ち解ければ毎晩この娘を好きに出来る、そう思っての事だったが、カロンの邪な思いは残念ながら叶わない。
その少女はパーティを組む事には了承してくれたのだが、接すれば接する程に、彼女に対して確信めいたものが浮かび上がる。
(間違いない……この娘は貴族だ。しかも、僕なんかとは比べ物にならない上級の………)
普段の一つ一つの美しい所作、立ち振る舞いを見て、かなり上位の貴族令嬢である事を悟る。上級下級はあっても、同じ貴族だからこそ気付いたのだ。幼少期から何度も接して来た貴族令嬢達よりも、更に洗練された立ち振る舞いだったから。
そしてその瞬間、この娘には手を出せない事も悟る。何故こんな街で冒険者として登録したのか、男子と違って貴族の女子、しかも上級貴族ともなれば、例えば三女でも四女でも政略結婚の道具としての価値があるので、普通は成人後も家に残る事を許される筈だ。
(何にしても、下手に手を出して大事にでもなれば僕に未来は無い)
そう思い至り、白い髪の少女、回復術士のエストには一切手を出さないと誓った。
だがその数日後、カロンの目は一人の女性に釘付けになる。水色の髪の、回復術士とはまた違った白い服装の女性。目元は穏やかで、エストにも負けない整った顔立ち、肌は白く透き通っていて、隣の紫色の髪のこれまた美少女と楽しそうに会話をするその姿に、生まれて初めて胸の鼓動が激しくなった。
(何と可憐な……そして美しい……)
どうやらつい昨日、冒険者登録をしたばかりらしく、まだ何処のパーティにも属していないとの噂を聞いた。当然、カロンは勧誘する為に声を掛ける。しかしーーーー
「ごめんなさいね。わたしとこの娘、少し男性が苦手なのよね……せっかくの申し出をお断りして申し訳ないのだけれど……」
断わられた。しかし簡単に諦められる筈もなく、カロンはその後も熱心に勧誘を続けた。男性が苦手なのであれば、少しずつ慣れてゆけば良い、その為の協力はもちろん惜しまないと。
しかし水色の髪の少女は首を縦には振らない。そして遂に、隣の紫色の少女が我慢出来ずに口を開く。
「しつこいわよ!リーシャが断ってるんだから素直に諦めなさいよ!って言うか、ずっとリーシャの方ばかり見て、下心が丸見えなのよ!」
「なっ………そ、そんなつもりは……」
「ふんっ!行きましょリーシャ!」
「あ、待ってサフィー」
唖然とするカロン。断られた?この僕が?今まで僕の誘いを断った女性など居なかったのに。
気付いた時には、沸々と怒りが込み上げていた。男爵家の三男という、自分でも感じていなかったプライドが初めて傷つけられた瞬間。
許さない。必ず見返して、自分達の方から仲間にしてくださいと頭を下げさせてやる。そしていつか、自分の方から股を開かせてやる。その後はたっぷりと自分好みの女に調教し、二度と離れられないようにしてやる。
「リーシャ……必ず君を手に入れてやる」
スナイプ同様、ここにも歪んだ想いを抱く男が誕生した瞬間だった。そんな二人は互いにパーティを組む事になり、そして現在へと至る。
カロンの新たな野望は、いつしかリーシャを手に入れる事。そのついでにあの生意気なサフィーも手篭めにし、二人揃って従順な女に仕立て上げる事。その為には、この二人に遅れを取る訳にはいかない。常に彼女達の前を進み、実力を見せつけなければならない。
(なのに……随分と状況が変わってしまった……)
数日前に突如として現れた異国の美少女達。彼女達に出会ってから、ずっとEランクのまま停滞していたリーシャとサフィーは、物凄い勢いで冒険者としての階段を駆け上がり始めた。
このままでは実力を見せつけるどころか、あの四人に追い抜かれてしまう。そんな事は断じて許されない。わざわざスナイプとメリッサ、このぱっとしない二人とパーティを組んでいるのは、全て冒険者として上へと昇る為。
パーティを組むためのランク制限が無くなるCランク冒険者になったら、この二人とはパーティを解散して別の実力者とパーティを組む。そして更に高みへと駆け上がり、リーシャ達の遥か頭上に立つ。
(その時になって、初めて君は気付くだろう。あの時、僕の誘いを断るべきでは無かったという事実に)
リーシャとサフィーがCランクに上がる頃には自分はBランク、或いはAランクになっている事だろう。そこでもう一度甘い言葉を囁やけば、きっと向こうから仲間にしてくださいと言って来るに違いない。
貴族として、散々座学を学んで教養を身に着けた筈のカロンだが、リーシャにパーティを断られた怒りと悲しみで少し考えれば有り得ないその未来を、必ず起こり得る現実として捉えていた。その自分本位な妄想はスナイプ以上で、潜在的に持つ心の危うさもスナイプ以上。
そんなカロンとリーシャ達を乗せた馬車は、遂に『風鳴き山』へと辿り着く。
「おおっ!あれが風鳴き山かぁぁーーっ!!」
楽しそうに響く未来達の声を聞きながら、カロンは拳を握りしめた。今度こそ必ず頂上へと辿り着く。そしてランクアップモンスターを倒すのだと、決意を胸に。
貴族とは言え下級貴族の男爵家、ましてや領地を持たない法衣貴族の三男ともなれば、成人後は家に居場所など無い。
家督を次ぐ長男と、長男が有事の際に家督を次ぐ事になる次男は家に残れるが、三男以下は成人後すぐに家を出なければならない。
そういった貴族の三男以下の大抵の者は、騎士を目指したり文官を目指したりする。なので、幼少期にどれだけの教養を身に付けるかが人生を左右すると言っても良い。
カロンも例に漏れず、幼少期には色々と学んだ。剣も振ったし、座学も積極的に取り組んだ。そしてある日、槍の稽古をしていると突然頭の中に声が響いた。
ーーカロンは固有スキル【槍突】を会得しました。
槍の固有スキルを会得したのだ。これはかなりのアドバンテージになると、素直に喜ぶカロン。騎士で固有スキルを会得している者など少ない。帝国一強のこの世界において、騎士が固有スキルを持っていた所で使いどころなど皆無に等しい。なので、戦闘系の固有スキルを持つ者の多くが、冒険者を目指す。
それは貴族のカロンも例外ではなく、固有スキルをきっかけにカロンは騎士ではなく冒険者という職業に強く憧れる事になった。
「父上、僕は冒険者を目指そうと思います」
そう父に告げた時に返って来た答えは「好きにしろ」というものだった。家を出た後に三男がどうなろうと、興味は無いらしい。
家名を名乗る事は許されたが、何か不祥事を起こせばすぐに家名を取り上げるとも言われた。しかしカロン自身、男爵のアルザスの家名など別に名乗りたくもない。それを名乗る事に、何の意味も無いのだから。
成人し、家を出たカロンは帝都を離れ、東を目指した。別に何処でも良かったのだが、あまり帝都の近くというのも面白くない。出来れば帝都から少しでも離れたかった。
そんなカロンには野望があった。幼い頃から容姿が良かったカロンは、他の貴族令嬢にそれなりにモテたのだが、それを快く思わない自分の兄達や、他の貴族の長男達から陰険な仕打ちを受ける事もしばしば。なので冒険者になる際には、美少女ばかりのパーティを築き上げ、いつか兄達に見せつけてやろうと、そんな野望を抱いていたのだ。
「やあ、僕はカロン。見ての通りの槍使いさ。良かったら僕とパーティを組まないかな?」
ファルディナの街を自分のホームグラウンドに定めたカロンは、冒険者登録を済ませる。そしてその同じ日に冒険者登録を済ませた、白い髪の美少女を見てすぐに声を掛けた。
帝都でもなかなかお目にかかれない美少女だ。自分の野望の先駆けには丁度いいし、打ち解ければ毎晩この娘を好きに出来る、そう思っての事だったが、カロンの邪な思いは残念ながら叶わない。
その少女はパーティを組む事には了承してくれたのだが、接すれば接する程に、彼女に対して確信めいたものが浮かび上がる。
(間違いない……この娘は貴族だ。しかも、僕なんかとは比べ物にならない上級の………)
普段の一つ一つの美しい所作、立ち振る舞いを見て、かなり上位の貴族令嬢である事を悟る。上級下級はあっても、同じ貴族だからこそ気付いたのだ。幼少期から何度も接して来た貴族令嬢達よりも、更に洗練された立ち振る舞いだったから。
そしてその瞬間、この娘には手を出せない事も悟る。何故こんな街で冒険者として登録したのか、男子と違って貴族の女子、しかも上級貴族ともなれば、例えば三女でも四女でも政略結婚の道具としての価値があるので、普通は成人後も家に残る事を許される筈だ。
(何にしても、下手に手を出して大事にでもなれば僕に未来は無い)
そう思い至り、白い髪の少女、回復術士のエストには一切手を出さないと誓った。
だがその数日後、カロンの目は一人の女性に釘付けになる。水色の髪の、回復術士とはまた違った白い服装の女性。目元は穏やかで、エストにも負けない整った顔立ち、肌は白く透き通っていて、隣の紫色の髪のこれまた美少女と楽しそうに会話をするその姿に、生まれて初めて胸の鼓動が激しくなった。
(何と可憐な……そして美しい……)
どうやらつい昨日、冒険者登録をしたばかりらしく、まだ何処のパーティにも属していないとの噂を聞いた。当然、カロンは勧誘する為に声を掛ける。しかしーーーー
「ごめんなさいね。わたしとこの娘、少し男性が苦手なのよね……せっかくの申し出をお断りして申し訳ないのだけれど……」
断わられた。しかし簡単に諦められる筈もなく、カロンはその後も熱心に勧誘を続けた。男性が苦手なのであれば、少しずつ慣れてゆけば良い、その為の協力はもちろん惜しまないと。
しかし水色の髪の少女は首を縦には振らない。そして遂に、隣の紫色の少女が我慢出来ずに口を開く。
「しつこいわよ!リーシャが断ってるんだから素直に諦めなさいよ!って言うか、ずっとリーシャの方ばかり見て、下心が丸見えなのよ!」
「なっ………そ、そんなつもりは……」
「ふんっ!行きましょリーシャ!」
「あ、待ってサフィー」
唖然とするカロン。断られた?この僕が?今まで僕の誘いを断った女性など居なかったのに。
気付いた時には、沸々と怒りが込み上げていた。男爵家の三男という、自分でも感じていなかったプライドが初めて傷つけられた瞬間。
許さない。必ず見返して、自分達の方から仲間にしてくださいと頭を下げさせてやる。そしていつか、自分の方から股を開かせてやる。その後はたっぷりと自分好みの女に調教し、二度と離れられないようにしてやる。
「リーシャ……必ず君を手に入れてやる」
スナイプ同様、ここにも歪んだ想いを抱く男が誕生した瞬間だった。そんな二人は互いにパーティを組む事になり、そして現在へと至る。
カロンの新たな野望は、いつしかリーシャを手に入れる事。そのついでにあの生意気なサフィーも手篭めにし、二人揃って従順な女に仕立て上げる事。その為には、この二人に遅れを取る訳にはいかない。常に彼女達の前を進み、実力を見せつけなければならない。
(なのに……随分と状況が変わってしまった……)
数日前に突如として現れた異国の美少女達。彼女達に出会ってから、ずっとEランクのまま停滞していたリーシャとサフィーは、物凄い勢いで冒険者としての階段を駆け上がり始めた。
このままでは実力を見せつけるどころか、あの四人に追い抜かれてしまう。そんな事は断じて許されない。わざわざスナイプとメリッサ、このぱっとしない二人とパーティを組んでいるのは、全て冒険者として上へと昇る為。
パーティを組むためのランク制限が無くなるCランク冒険者になったら、この二人とはパーティを解散して別の実力者とパーティを組む。そして更に高みへと駆け上がり、リーシャ達の遥か頭上に立つ。
(その時になって、初めて君は気付くだろう。あの時、僕の誘いを断るべきでは無かったという事実に)
リーシャとサフィーがCランクに上がる頃には自分はBランク、或いはAランクになっている事だろう。そこでもう一度甘い言葉を囁やけば、きっと向こうから仲間にしてくださいと言って来るに違いない。
貴族として、散々座学を学んで教養を身に着けた筈のカロンだが、リーシャにパーティを断られた怒りと悲しみで少し考えれば有り得ないその未来を、必ず起こり得る現実として捉えていた。その自分本位な妄想はスナイプ以上で、潜在的に持つ心の危うさもスナイプ以上。
そんなカロンとリーシャ達を乗せた馬車は、遂に『風鳴き山』へと辿り着く。
「おおっ!あれが風鳴き山かぁぁーーっ!!」
楽しそうに響く未来達の声を聞きながら、カロンは拳を握りしめた。今度こそ必ず頂上へと辿り着く。そしてランクアップモンスターを倒すのだと、決意を胸に。
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