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異世界転移の章
7.冒険者
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尿意を催したので木の陰で放尿していると、異世界の少女リーシャとサフィーに目撃され、あまりの恥ずかしさに愛莉に抱きついて泣きじゃくっていた未来だが、しばらく愛莉に抱きついていたので少し元気を取り戻したらしい。
しかし恥ずかしさは消えないらしく、未だに顔を真っ赤に染めて愛莉の背中に隠れている。
「それで、わたし達に聞きたい事って何ですか?」
「ふふ、敬語なんて使わなくても大丈夫よ。さっきサフィーも言っていたけど、歳も近そうだし。聞きたい事を聞く前にわたし達の素性を明かしておくわね」
そう言ってその場でくるりと回るリーシャ。
「見ての通り冒険者をやってるの」
見ての通りと言われても、冒険者と言われても、未来も愛莉も全くピンとこない。未来は冒険者なんて言葉自体聞くのが初めてだし、愛莉もゲームで何となく知っているだけで、実際の冒険者というのがどんな者達なのかはよく知らない。
故に二人が首を傾げていると、リーシャもサフィーも驚きの表情を浮かべた。
「えーと……冒険者……知ってるわよねぇ?」
ふるふると首を振る未来と愛莉。そんな二人を見てサフィーが大声を上げる。
「嘘でしょ!?あんた達冒険者知らない……ってか冒険者じゃないの!?」
「違うよ」
「冒険者じゃないよー」
きっぱり否定する愛莉と、呑気な声で否定する未来。どうやら未来もいつもの調子が戻って来たらしい。
そしてそんな二人の返事を聞き、顔を見合わせるリーシャとサフィー。服装からして冒険者っぽくはない黒髪少女の二人だが、先ほど自分達の目の前であのワイルドウルフを倒したのだ。どう考えても普通の少女達だとは思えない。
「冒険者じゃないのなら……貴女達は何者なのかしら……?あら、そう言えばお名前聞いてなかったわ」
「あ、ごめんなさい。わたしは望月愛莉、後ろの娘は日下未来」
「モ、モチヅキア、イリ……?クサカミ……ク?」
「ず、随分長い名前ね……」
「あ、わたしは愛莉だけでいいよ。こっちは未来だけで」
名字という概念が無いのか、どうやらフルネームをファーストネームだと勘違いしたらしい。改めて名前だけ紹介する。
「アイリとミクね。呼び捨てで平気かしら?」
「全然いいよー」
愛莉の後ろから未来が返事をする。放尿を目撃された恥ずかしさはだいぶ無くなって来たらしい。
「それで、アイリとミクは何者なの?さっき貴女達が倒していたあのモンスターはワイルドウルフと言って、普通の女の子達が倒せる相手じゃないのだけど……」
「そうよ!それに、あの急に消えて遠くに移動する魔法とか、落ちてる石を剣に変える魔法は何!?あんなの見た事も聞いた事も無いんだけど!」
困ったような顔をして話すリーシャと、かなり興奮気味に言葉をぶつけてくるサフィー。未来と愛莉は顔を見合わせ、コソコソと話を始める。
(どうするの愛莉?正直に説明する?)
(うーん……悪い人達には見えないけど、異世界から来ましたって言っても信じてくれないよね……)
「ちょっと!何をコソコソと話してるのよ!」
(えっ!?ここって異世界なの!?あたし達異世界に居るの!?)
(それって今気にする事!?ってかとっくに気づいてると思ってたのに)
「無視しないで!」
コソコソ話を続ける未来と愛莉に、サフィーが批難の言葉をぶつけるが、二人はコソコソ話をやめようとしない。
(じゃあさ、スキルの事だけ話してみる?あたし達が使えるって事は、この世界の人達はみんなスキル持ってるのかもしれないし)
(あ、みんなかどうかは分からないけど、この人達はスキル持ってるよ。さっき鑑定眼で確認したから)
(さっすが愛莉!そういう所も愛してる!)
(ちょっと!二人に聞こえちゃうよ!)
だんだんとこめかみに血管が浮かび上がってゆくサフィー。先ほどから無視するなと文句を言っているのに、一向にコソコソ話をやめない二人に怒りが込み上げていく。
「ちょっと!いい加減にーーーー」
「あ、うん。えーと……二人共固有スキル持ってるよね?リーシャは召喚獣契約と精霊契約で、サフィーは攻撃魔法契約と補助魔法契約の二つずつ。パッシブスキルも持ってるけど……それは今はいいよね」
愛莉の言葉に驚愕の表情を浮かべるリーシャとサフィー。何故?何故貴女がわたし達の固有スキルを知っているの?二人の表情にはそんな言葉が浮かんでいた。
「どういう事……かしら……何故アイリがわたし達のスキルを知っているの……?初対面よねわたし達……?」
「えーと、実はわたしもいくつか固有スキルを持ってて、そのうちの一つが【鑑定眼】ってスキルで、相手のステータスとか、人とか生き物とか物の名前とかが見えるスキルなの」
「な……なんですってぇぇーーーッ!!」
サフィーの大きな声が静かな森の中に響きわたった。
■■■
「おっきい声だね!ちょっと耳がキーンってなってた!」
「あはは……わたしも……」
両耳を手で塞ぐ未来と愛莉。しかしリーシャとサフィーはそれどころではない。相手のステータスが見えるスキルなど、聞いた事もない。それが本当なら、どれほど有益なスキルだろうか。
ステータスとは本来、教会が所持している『魔鏡』に自身の姿を映し出す事で確認する事が出来る。使用料は一回につき銅貨三枚。もちろん魔鏡の前に立つのは自分一人なので、自分で口外しない限りステータスは自分にしか分からない。
「それってモンスターのスキルとかも分かっちゃうのかしら……?」
「さっきのワイルドウルフは名前とレベルしか見えなかったよ。もしかしたら鑑定眼のレベルが低いからかもしれないし、ワイルドウルフが何のスキルも持って無かったかもしれないし、今の所は不明かな」
思わず顔を見合わせるリーシャとサフィー。それは冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルだ。事前に相手のステータスが分かれば、戦闘の選択肢が幾重にも増える。見た目以上に強いモンスターなら戦わずに逃げられるし、見た目よりも弱いと分かれば、臆せずに戦う事も出来る。特殊なスキル持ちなら、事前に準備して戦いに望む事も出来る。
「はぁ……それが本当ならとんでもないスキルね……って、本当なんでしょうね。わたしとリーシャのスキルを言い当てたんだから」
「うん。それで、石から剣を作り出したのもわたしのスキル。急に消えて遠くまで移動したのは未来のスキルだよ」
つまり魔法ではなくスキルなのだと愛莉は説明する。最初は驚いていただけのリーシャとサフィーは、愛莉の話を聞くうちに気付けば興奮していた。
「凄いわ!どれも聞いた事の無いスキルばかりだもの!本当に何者なの貴女達?」
「そうよ!そんな優秀なスキル持ってるのに冒険者じゃないなんて……ああ勿体無い!」
「あのさ、その冒険者ってどんなの?あたし達よく知らないんだよね」
今度は未来がリーシャ達に質問をぶつける。冒険者とはどんな職業なのか。何を目的として活動しているのか。便利なスキルを持っていると冒険者には有利なのか、などなど。
それに対するリーシャ達の答えは、冒険者とは文字通り冒険を生業とする者達である事、活動は多岐にわたり薬草の採取から旅の護衛、モンスター退治やダンジョン攻略など。
「へぇ~、何だか面白そう!」
「まあ楽しい事ばかりじゃないけどね。ランクが低いと受けられる依頼もショボいのばっかだし、自分が強くならないと強いモンスターは倒せないし」
「そうなのよねぇ、わたしは攻撃手段が無いからサフィーに頼りっぱなしで……本当に申し訳無いわ」
何やら色々と大変そうだな、というのが愛莉の抱いた率直な感想だった。話だけ聞くと楽しそうだが、どんな世界でも職業でも下っ端というのはキツい。自分も高校の生徒会では一番の下っ端で、普段から雑用を押し付けられたりしているので気持ちは分からなくもない。
「ところで……あんた達そのワイルドウルフの死体どうするの?冒険者じゃないなら解体も出来ないんでしょ?」
サフィーの言葉に顔を見合わせる未来と愛莉。どうすると言われても、こんな巨大な獣の死体など放置する以外にない。解体など、ただの女子高生でしかない自分達が出来る筈もないし、そもそも解体してどうしようと言うのか。
「どうするって……どうもしないけど」
「へ……?ま、まさかこのまま放置してくつもり!?」
突然驚きの声を上げるサフィー。信じられないようなものでも見るような目で、未来と愛莉に交互に視線を送る。そんなサフィーの視線を受け、未来と愛莉は顔を見合わせ、そして再びサフィーに対して頷く。
「じゃ、じゃあ!このワイルドウルフの死体わたし達に頂戴!!」
サフィーの突然の言葉に、未来と愛莉は再び顔を見合わせたのだった。
しかし恥ずかしさは消えないらしく、未だに顔を真っ赤に染めて愛莉の背中に隠れている。
「それで、わたし達に聞きたい事って何ですか?」
「ふふ、敬語なんて使わなくても大丈夫よ。さっきサフィーも言っていたけど、歳も近そうだし。聞きたい事を聞く前にわたし達の素性を明かしておくわね」
そう言ってその場でくるりと回るリーシャ。
「見ての通り冒険者をやってるの」
見ての通りと言われても、冒険者と言われても、未来も愛莉も全くピンとこない。未来は冒険者なんて言葉自体聞くのが初めてだし、愛莉もゲームで何となく知っているだけで、実際の冒険者というのがどんな者達なのかはよく知らない。
故に二人が首を傾げていると、リーシャもサフィーも驚きの表情を浮かべた。
「えーと……冒険者……知ってるわよねぇ?」
ふるふると首を振る未来と愛莉。そんな二人を見てサフィーが大声を上げる。
「嘘でしょ!?あんた達冒険者知らない……ってか冒険者じゃないの!?」
「違うよ」
「冒険者じゃないよー」
きっぱり否定する愛莉と、呑気な声で否定する未来。どうやら未来もいつもの調子が戻って来たらしい。
そしてそんな二人の返事を聞き、顔を見合わせるリーシャとサフィー。服装からして冒険者っぽくはない黒髪少女の二人だが、先ほど自分達の目の前であのワイルドウルフを倒したのだ。どう考えても普通の少女達だとは思えない。
「冒険者じゃないのなら……貴女達は何者なのかしら……?あら、そう言えばお名前聞いてなかったわ」
「あ、ごめんなさい。わたしは望月愛莉、後ろの娘は日下未来」
「モ、モチヅキア、イリ……?クサカミ……ク?」
「ず、随分長い名前ね……」
「あ、わたしは愛莉だけでいいよ。こっちは未来だけで」
名字という概念が無いのか、どうやらフルネームをファーストネームだと勘違いしたらしい。改めて名前だけ紹介する。
「アイリとミクね。呼び捨てで平気かしら?」
「全然いいよー」
愛莉の後ろから未来が返事をする。放尿を目撃された恥ずかしさはだいぶ無くなって来たらしい。
「それで、アイリとミクは何者なの?さっき貴女達が倒していたあのモンスターはワイルドウルフと言って、普通の女の子達が倒せる相手じゃないのだけど……」
「そうよ!それに、あの急に消えて遠くに移動する魔法とか、落ちてる石を剣に変える魔法は何!?あんなの見た事も聞いた事も無いんだけど!」
困ったような顔をして話すリーシャと、かなり興奮気味に言葉をぶつけてくるサフィー。未来と愛莉は顔を見合わせ、コソコソと話を始める。
(どうするの愛莉?正直に説明する?)
(うーん……悪い人達には見えないけど、異世界から来ましたって言っても信じてくれないよね……)
「ちょっと!何をコソコソと話してるのよ!」
(えっ!?ここって異世界なの!?あたし達異世界に居るの!?)
(それって今気にする事!?ってかとっくに気づいてると思ってたのに)
「無視しないで!」
コソコソ話を続ける未来と愛莉に、サフィーが批難の言葉をぶつけるが、二人はコソコソ話をやめようとしない。
(じゃあさ、スキルの事だけ話してみる?あたし達が使えるって事は、この世界の人達はみんなスキル持ってるのかもしれないし)
(あ、みんなかどうかは分からないけど、この人達はスキル持ってるよ。さっき鑑定眼で確認したから)
(さっすが愛莉!そういう所も愛してる!)
(ちょっと!二人に聞こえちゃうよ!)
だんだんとこめかみに血管が浮かび上がってゆくサフィー。先ほどから無視するなと文句を言っているのに、一向にコソコソ話をやめない二人に怒りが込み上げていく。
「ちょっと!いい加減にーーーー」
「あ、うん。えーと……二人共固有スキル持ってるよね?リーシャは召喚獣契約と精霊契約で、サフィーは攻撃魔法契約と補助魔法契約の二つずつ。パッシブスキルも持ってるけど……それは今はいいよね」
愛莉の言葉に驚愕の表情を浮かべるリーシャとサフィー。何故?何故貴女がわたし達の固有スキルを知っているの?二人の表情にはそんな言葉が浮かんでいた。
「どういう事……かしら……何故アイリがわたし達のスキルを知っているの……?初対面よねわたし達……?」
「えーと、実はわたしもいくつか固有スキルを持ってて、そのうちの一つが【鑑定眼】ってスキルで、相手のステータスとか、人とか生き物とか物の名前とかが見えるスキルなの」
「な……なんですってぇぇーーーッ!!」
サフィーの大きな声が静かな森の中に響きわたった。
■■■
「おっきい声だね!ちょっと耳がキーンってなってた!」
「あはは……わたしも……」
両耳を手で塞ぐ未来と愛莉。しかしリーシャとサフィーはそれどころではない。相手のステータスが見えるスキルなど、聞いた事もない。それが本当なら、どれほど有益なスキルだろうか。
ステータスとは本来、教会が所持している『魔鏡』に自身の姿を映し出す事で確認する事が出来る。使用料は一回につき銅貨三枚。もちろん魔鏡の前に立つのは自分一人なので、自分で口外しない限りステータスは自分にしか分からない。
「それってモンスターのスキルとかも分かっちゃうのかしら……?」
「さっきのワイルドウルフは名前とレベルしか見えなかったよ。もしかしたら鑑定眼のレベルが低いからかもしれないし、ワイルドウルフが何のスキルも持って無かったかもしれないし、今の所は不明かな」
思わず顔を見合わせるリーシャとサフィー。それは冒険者にとっては喉から手が出るほど欲しいスキルだ。事前に相手のステータスが分かれば、戦闘の選択肢が幾重にも増える。見た目以上に強いモンスターなら戦わずに逃げられるし、見た目よりも弱いと分かれば、臆せずに戦う事も出来る。特殊なスキル持ちなら、事前に準備して戦いに望む事も出来る。
「はぁ……それが本当ならとんでもないスキルね……って、本当なんでしょうね。わたしとリーシャのスキルを言い当てたんだから」
「うん。それで、石から剣を作り出したのもわたしのスキル。急に消えて遠くまで移動したのは未来のスキルだよ」
つまり魔法ではなくスキルなのだと愛莉は説明する。最初は驚いていただけのリーシャとサフィーは、愛莉の話を聞くうちに気付けば興奮していた。
「凄いわ!どれも聞いた事の無いスキルばかりだもの!本当に何者なの貴女達?」
「そうよ!そんな優秀なスキル持ってるのに冒険者じゃないなんて……ああ勿体無い!」
「あのさ、その冒険者ってどんなの?あたし達よく知らないんだよね」
今度は未来がリーシャ達に質問をぶつける。冒険者とはどんな職業なのか。何を目的として活動しているのか。便利なスキルを持っていると冒険者には有利なのか、などなど。
それに対するリーシャ達の答えは、冒険者とは文字通り冒険を生業とする者達である事、活動は多岐にわたり薬草の採取から旅の護衛、モンスター退治やダンジョン攻略など。
「へぇ~、何だか面白そう!」
「まあ楽しい事ばかりじゃないけどね。ランクが低いと受けられる依頼もショボいのばっかだし、自分が強くならないと強いモンスターは倒せないし」
「そうなのよねぇ、わたしは攻撃手段が無いからサフィーに頼りっぱなしで……本当に申し訳無いわ」
何やら色々と大変そうだな、というのが愛莉の抱いた率直な感想だった。話だけ聞くと楽しそうだが、どんな世界でも職業でも下っ端というのはキツい。自分も高校の生徒会では一番の下っ端で、普段から雑用を押し付けられたりしているので気持ちは分からなくもない。
「ところで……あんた達そのワイルドウルフの死体どうするの?冒険者じゃないなら解体も出来ないんでしょ?」
サフィーの言葉に顔を見合わせる未来と愛莉。どうすると言われても、こんな巨大な獣の死体など放置する以外にない。解体など、ただの女子高生でしかない自分達が出来る筈もないし、そもそも解体してどうしようと言うのか。
「どうするって……どうもしないけど」
「へ……?ま、まさかこのまま放置してくつもり!?」
突然驚きの声を上げるサフィー。信じられないようなものでも見るような目で、未来と愛莉に交互に視線を送る。そんなサフィーの視線を受け、未来と愛莉は顔を見合わせ、そして再びサフィーに対して頷く。
「じゃ、じゃあ!このワイルドウルフの死体わたし達に頂戴!!」
サフィーの突然の言葉に、未来と愛莉は再び顔を見合わせたのだった。
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