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剣士の章
152.楽に
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勇者との戦いへ赴く当日の朝、魔王城の前には大勢の魔族が集まっていた。
「来たぞ!あれが新しい魔王様か!………まだ若いな」
「はは……本当に人族なんだな。あんな髪の色初めて見た」
「ねえねえ……新しい魔王様、超イケメンじゃない?」
「それな。魔王様しか勝たん」
「前の魔王様って、この城でドンパチやらかそうとしてたんだろ?とんでもねえ話だ」
「うんうん。あの新しい魔王様はレイゼル様同様、魔族領の外で勇者を迎え撃つらしいわよ。若いのにあたしらの事を考えてくれて、素晴らしい魔王様じゃないの」
魔王となったアルトを見て、思い思いの事を口にする人々。主にアルトを褒める声ばかりで、人族のくせにと罵る者は誰一人居なかった。
あとはリティアの容姿を褒める者や、”三魔闘”となったエルマー、ミミリの事を口々に褒め称える。
皆、新しい魔王と三魔闘を一目見ようと集まったのだが、中には馬車を持参し、自分達も連れて行ってくれと懇願する者も居た。なので当初よりも人数は膨れ上がり、結局百名近くの魔族がアルト達と共に出発する事となった。
魔族領には人族領と違い訓練された兵士や、鍛え抜かれた冒険者などは居ない。しかし魔族とは生まれつき魔力が高いので、たとえ一般の領民でも攻撃魔法の一つ二つは使える。勇者一行が兵士を連れて現れても、十分な抑止力になるだろう。
「いやぁーー、凄い人数だね!やっぱりアルト君人気かなー!?」
「でしょうね。まあ……そもそも魔王クレイが酷過ぎたせいもあるでしょうけど」
「お兄ちゃん………」
しょんぼりとするリティア。あんな男でも、血を分けた兄だったのだ。
リティアがしょんぼりするのを見て自らの失言を悟るエルマー。慌ててリティアに頭を下げる。
「ご、ごめんなさいリティア!」
「ううん、本当の事だから………ふふ、それよりもわたしね、今すっごく嬉しいの!」
「ほえ?」
「嬉しい……ですか?」
思わず呆けるエルマーとミミリの前で、リティアは嬉しそうに表情を弾ませる。
「うん!アルトが魔族みんなに認めて貰えて!アルトがみんなに好きになって貰えて、すっごく嬉しい!」
攻撃魔法研究所の所長と話をしているアルトを見ながら、リティアは心底嬉しそうにそう言った。それを聞いたエルマーとミミリもアルトを見て、表情を綻ばせる。そんな三人の視線に気付いてか気付かずか、アルトは所長との話を終わらせて皆の方を向く。
「じゃあ行こう。みんな準備はいい?」
アルトが皆に声を掛けると、アルト達に着いて行く者達が一斉に「オオォォォーーッ!!」っと声を張り上げた。
「うわ、凄いね!」
「ええ。これはますます負けられません」
「負けたら死んじゃうからね!」
「そうだ、絶対に勝って帰って来よう」
アルトの言葉にこくりと頷くリティア、エルマー、ミミリ。必ず勝って、全員生きて帰って来よう。改めてそう誓うアルト達。
「よし、じゃあ出発!」
『オオォォォーーーッ!!!!』
そして動き出す馬車の列。集まった人々が、アルト達に声援を送る。そんな大歓声の中、御者席に座るリティアは最後に魔王城を見上げた。
(行ってきますお父さん。どうかわたし達を………アルトを見守ってください)
父に祈るリティアに、優しい風が頬を撫でながら通り過ぎて行ったーーーー
■■■
旅は順調に進み既に五日目。魔王城のある『中央区』を抜けて、アルト達一行は『南地区』へと入っていた。
人数が少ない旅ならば毎日宿屋に泊まりながら移動も出来るが、流石に百人近い人数での移動ではそうもいかず、かなり栄えている中央区ですらほとんど毎日、馬車の中や空き地などを見つけてテントを張り、その中で寝たりしながら進んでいた。
とは言え毎日野宿も辛いので、なるべく女性を優先して宿屋に泊まらせたり、アルトが魔王だと分かると自分の家を宿代わりに使わせてくれる者も大勢居たので、それなりに快適に進んでいた。こんな所でも魔族の温かさが身に沁みたアルト。
そんなアルトは現在、移動中の馬車の中で勇者に関する文献を読み耽っている。出発前日にエルマーが馬車に持ち込んだ書物だ。
「ふう………」
かなり量が多いので、一日一冊を目標に読み進めている。どれもかなり古い書物だが、幸い使われている文字は人族と共通、しかも古い割に痛みなどはなく、文字が掠れたりもしていない。
エルマー曰く魔王城の図書室と、新たに発見された宝物庫(クレイが青孔雀を発見した)にあったらしいのだが、誰がいつの時代に書いて保管したのかは謎との事だった。
「さて、休憩の前にもう少し読んどかないと」
リティア、エルマー、ミミリの三人は御者席に座って手綱を握っている。リティアはいつもミミリに「アルト君の傍に居ていいよ」と言われるのだが、アルトの勉強の邪魔をしたくないからと言っていつも御者席に座る。本当はどんな時でもアルトの傍に居たいのだが、そこは我慢している。何となくそんなリティアの心遣いに気付いているだけに、なるべく早く読み終えようとアルトも懸命に文献を読み進めていた。
ふむふむと文献を読み進み、今読んでいる項目を読み終えたアルトは次の頁を開いた。そこに書いてあったのはーーーーー
「何だこれ?勇者の加護……?」
そこは勇者の加護について書かれている頁。アルトは訝しげな表情を浮かべながら読み進める。すると、次第にアルトの顔色が青白く変わっていった。
「なん……だ……?勇者の加護を付与する方法とは………相手と繋がる事………?繋がるとは即ち………勇者の男性器を…………相手の……膣………内……に…………そ……挿入…………」
膝に書物を乱暴に置き、天井を見上げるアルト。鼓動は激しく胸を叩き、全身の血が冷たくなって身体中を掛け巡る。
「ふう………ふう………」
何とか呼吸を整えるアルト。今すぐ読む事を放棄したい衝動に駆られるが、それは出来ない。これは絶対に知っておかなければならないと、アルトの魂が警告して来る。
「ふうぅぅぅぅ………はあぁぁぁ」
大きく息を吐き出し、もう一度吸う。そして意を決し、もう一度文献を目で追った。
「勇者の加護を受けた者は………飛躍的に身体の強度が上がる。だが一度でも勇者と繋がってしまうと………その者は………勇者の夜伽をする義務が発生………す……る……?夜……伽………」
文献を持つ手に力が入る。アルトも夜伽の意味ぐらいは知っている。夜の相手ーーー、つまりは身体を差し出して相手を喜ばせる行為だ。
「そ……んな……じゃあセリナは………」
自分の意思で勇者に処女を捧げたのだと思っていた。自分から勇者に抱かれに行ってるのだと思っていた。
だがもしも、勇者の加護の為に無理やり処女を奪われたのだとしたら?その後も断れぬ夜伽を嫌々強要されていたのだとしたら?
「セリナ………」
勇者の屋敷で、セリナが勇者に抱かれているのを見た。あの時のセリナは、確かに自分から勇者を求めていた。だが、そこに至るまでの過程はどうだったのだろうか。
もしも、無理やり犯されるように何度も身体を求められ、その身に快楽を植え付けられてしまったのだとしたら?
逃げられない状況でいつしか心を閉ざし、せめて辛くないようにと身体だけの快楽を求めるようになったのだとしたら?
「セリナ………」
そう考えれば、あの日セリナと再会した時に馬車を停め、大勢の人の前で自分の元まで走って来たセリナの行動にも納得出来る。
「セリ……ナ……」
馬車の中で、勇者の屋敷で、照れ臭そうにしながらも心底嬉しそうに話し掛けてくれたセリナの笑顔も納得出来る。
「セ……リ……」
ボロボロと涙が零れた。何故あの時、何が何でも真実を確かめようとしなかったのか。
何故勝手な思い込みだけで、勇者の屋敷から逃げ出してしまったのか。
もしかしたら、セリナは助けを求めていたのかもしれないのに。ウルスス村で別れた時と変わらず、今も待ち続けてくれているのかもしれないのに。
セリナと勇者の行為が終わった後に、聖女フィリアが何かを伝えようとしていたのに、聞く耳持たず逃げるように勇者邸を後にしたあの日の自分の行動が………今もセリナを苦しめているのかもしれない。
「くっ……うっ……」
何がセリナを斬る覚悟が出来ただ。何がセリナを救う術を探すだ。あの日救えなかったせいで、今も苦しめているのはお前のせいじゃないかアルト。
全ては憶測だ。だが、限りなく真実に近い憶測だと自分で思う。何故だかそう思う。
そして、たとえそれが真実だとしても今さらリティアと共に生きる未来を変えるつもりは無い。だが、このままセリナを見殺しにして、セリナを不幸なままにして、それで自分だけ幸せになるなど許される筈が無い。
「………………」
リティアの言った事が、今なら分かるとアルトは思った。リティアはセリナを救いたいと言った。まさかとは思うが、リティアはセリナが決して裏切った訳ではないと見抜いていたのかもしれない、何となくそう感じるアルト。
それなら、セリナを救う道を探すまでだ。もう自分には、セリナを幸せにしてあげる事は出来ない。と言うか、あの日逃げ出した時点でその資格は無い。どんなにセリナが想ってくれても、あの日セリナを見捨てておいて今さらそんな都合の良い話など、セリナが許しても自分が許せない。
「セリナ」
一人よがりかもしれない。自己満足かもしれない。本当にそれがセリナを救う事になるのかも分からない。だがきっとこの方法しか、セリナを本当の意味で救う道は無い。他のどんな道でも、きっとセリナは救われない。
「………ごめんなセリナ」
だからアルトは黒鳳凰の柄を握った。セリナを救うーーーー、いや、セリナを楽にしてあげる為に。
「俺はセリナを…………」
柄を握る手に力を込める。
「…………斬る」
鞘の中で、黒鳳凰が鈍い光を発した。
ーーこの日より一週間後、アルト達は『アルファーム平原』へと遂に辿り着く。勇者一行との最終決戦の地へと。
そして、アルトとセリナの数奇な運命に終止符を打つべく、アルトはこの地に降り立った。
「来たぞ!あれが新しい魔王様か!………まだ若いな」
「はは……本当に人族なんだな。あんな髪の色初めて見た」
「ねえねえ……新しい魔王様、超イケメンじゃない?」
「それな。魔王様しか勝たん」
「前の魔王様って、この城でドンパチやらかそうとしてたんだろ?とんでもねえ話だ」
「うんうん。あの新しい魔王様はレイゼル様同様、魔族領の外で勇者を迎え撃つらしいわよ。若いのにあたしらの事を考えてくれて、素晴らしい魔王様じゃないの」
魔王となったアルトを見て、思い思いの事を口にする人々。主にアルトを褒める声ばかりで、人族のくせにと罵る者は誰一人居なかった。
あとはリティアの容姿を褒める者や、”三魔闘”となったエルマー、ミミリの事を口々に褒め称える。
皆、新しい魔王と三魔闘を一目見ようと集まったのだが、中には馬車を持参し、自分達も連れて行ってくれと懇願する者も居た。なので当初よりも人数は膨れ上がり、結局百名近くの魔族がアルト達と共に出発する事となった。
魔族領には人族領と違い訓練された兵士や、鍛え抜かれた冒険者などは居ない。しかし魔族とは生まれつき魔力が高いので、たとえ一般の領民でも攻撃魔法の一つ二つは使える。勇者一行が兵士を連れて現れても、十分な抑止力になるだろう。
「いやぁーー、凄い人数だね!やっぱりアルト君人気かなー!?」
「でしょうね。まあ……そもそも魔王クレイが酷過ぎたせいもあるでしょうけど」
「お兄ちゃん………」
しょんぼりとするリティア。あんな男でも、血を分けた兄だったのだ。
リティアがしょんぼりするのを見て自らの失言を悟るエルマー。慌ててリティアに頭を下げる。
「ご、ごめんなさいリティア!」
「ううん、本当の事だから………ふふ、それよりもわたしね、今すっごく嬉しいの!」
「ほえ?」
「嬉しい……ですか?」
思わず呆けるエルマーとミミリの前で、リティアは嬉しそうに表情を弾ませる。
「うん!アルトが魔族みんなに認めて貰えて!アルトがみんなに好きになって貰えて、すっごく嬉しい!」
攻撃魔法研究所の所長と話をしているアルトを見ながら、リティアは心底嬉しそうにそう言った。それを聞いたエルマーとミミリもアルトを見て、表情を綻ばせる。そんな三人の視線に気付いてか気付かずか、アルトは所長との話を終わらせて皆の方を向く。
「じゃあ行こう。みんな準備はいい?」
アルトが皆に声を掛けると、アルト達に着いて行く者達が一斉に「オオォォォーーッ!!」っと声を張り上げた。
「うわ、凄いね!」
「ええ。これはますます負けられません」
「負けたら死んじゃうからね!」
「そうだ、絶対に勝って帰って来よう」
アルトの言葉にこくりと頷くリティア、エルマー、ミミリ。必ず勝って、全員生きて帰って来よう。改めてそう誓うアルト達。
「よし、じゃあ出発!」
『オオォォォーーーッ!!!!』
そして動き出す馬車の列。集まった人々が、アルト達に声援を送る。そんな大歓声の中、御者席に座るリティアは最後に魔王城を見上げた。
(行ってきますお父さん。どうかわたし達を………アルトを見守ってください)
父に祈るリティアに、優しい風が頬を撫でながら通り過ぎて行ったーーーー
■■■
旅は順調に進み既に五日目。魔王城のある『中央区』を抜けて、アルト達一行は『南地区』へと入っていた。
人数が少ない旅ならば毎日宿屋に泊まりながら移動も出来るが、流石に百人近い人数での移動ではそうもいかず、かなり栄えている中央区ですらほとんど毎日、馬車の中や空き地などを見つけてテントを張り、その中で寝たりしながら進んでいた。
とは言え毎日野宿も辛いので、なるべく女性を優先して宿屋に泊まらせたり、アルトが魔王だと分かると自分の家を宿代わりに使わせてくれる者も大勢居たので、それなりに快適に進んでいた。こんな所でも魔族の温かさが身に沁みたアルト。
そんなアルトは現在、移動中の馬車の中で勇者に関する文献を読み耽っている。出発前日にエルマーが馬車に持ち込んだ書物だ。
「ふう………」
かなり量が多いので、一日一冊を目標に読み進めている。どれもかなり古い書物だが、幸い使われている文字は人族と共通、しかも古い割に痛みなどはなく、文字が掠れたりもしていない。
エルマー曰く魔王城の図書室と、新たに発見された宝物庫(クレイが青孔雀を発見した)にあったらしいのだが、誰がいつの時代に書いて保管したのかは謎との事だった。
「さて、休憩の前にもう少し読んどかないと」
リティア、エルマー、ミミリの三人は御者席に座って手綱を握っている。リティアはいつもミミリに「アルト君の傍に居ていいよ」と言われるのだが、アルトの勉強の邪魔をしたくないからと言っていつも御者席に座る。本当はどんな時でもアルトの傍に居たいのだが、そこは我慢している。何となくそんなリティアの心遣いに気付いているだけに、なるべく早く読み終えようとアルトも懸命に文献を読み進めていた。
ふむふむと文献を読み進み、今読んでいる項目を読み終えたアルトは次の頁を開いた。そこに書いてあったのはーーーーー
「何だこれ?勇者の加護……?」
そこは勇者の加護について書かれている頁。アルトは訝しげな表情を浮かべながら読み進める。すると、次第にアルトの顔色が青白く変わっていった。
「なん……だ……?勇者の加護を付与する方法とは………相手と繋がる事………?繋がるとは即ち………勇者の男性器を…………相手の……膣………内……に…………そ……挿入…………」
膝に書物を乱暴に置き、天井を見上げるアルト。鼓動は激しく胸を叩き、全身の血が冷たくなって身体中を掛け巡る。
「ふう………ふう………」
何とか呼吸を整えるアルト。今すぐ読む事を放棄したい衝動に駆られるが、それは出来ない。これは絶対に知っておかなければならないと、アルトの魂が警告して来る。
「ふうぅぅぅぅ………はあぁぁぁ」
大きく息を吐き出し、もう一度吸う。そして意を決し、もう一度文献を目で追った。
「勇者の加護を受けた者は………飛躍的に身体の強度が上がる。だが一度でも勇者と繋がってしまうと………その者は………勇者の夜伽をする義務が発生………す……る……?夜……伽………」
文献を持つ手に力が入る。アルトも夜伽の意味ぐらいは知っている。夜の相手ーーー、つまりは身体を差し出して相手を喜ばせる行為だ。
「そ……んな……じゃあセリナは………」
自分の意思で勇者に処女を捧げたのだと思っていた。自分から勇者に抱かれに行ってるのだと思っていた。
だがもしも、勇者の加護の為に無理やり処女を奪われたのだとしたら?その後も断れぬ夜伽を嫌々強要されていたのだとしたら?
「セリナ………」
勇者の屋敷で、セリナが勇者に抱かれているのを見た。あの時のセリナは、確かに自分から勇者を求めていた。だが、そこに至るまでの過程はどうだったのだろうか。
もしも、無理やり犯されるように何度も身体を求められ、その身に快楽を植え付けられてしまったのだとしたら?
逃げられない状況でいつしか心を閉ざし、せめて辛くないようにと身体だけの快楽を求めるようになったのだとしたら?
「セリナ………」
そう考えれば、あの日セリナと再会した時に馬車を停め、大勢の人の前で自分の元まで走って来たセリナの行動にも納得出来る。
「セリ……ナ……」
馬車の中で、勇者の屋敷で、照れ臭そうにしながらも心底嬉しそうに話し掛けてくれたセリナの笑顔も納得出来る。
「セ……リ……」
ボロボロと涙が零れた。何故あの時、何が何でも真実を確かめようとしなかったのか。
何故勝手な思い込みだけで、勇者の屋敷から逃げ出してしまったのか。
もしかしたら、セリナは助けを求めていたのかもしれないのに。ウルスス村で別れた時と変わらず、今も待ち続けてくれているのかもしれないのに。
セリナと勇者の行為が終わった後に、聖女フィリアが何かを伝えようとしていたのに、聞く耳持たず逃げるように勇者邸を後にしたあの日の自分の行動が………今もセリナを苦しめているのかもしれない。
「くっ……うっ……」
何がセリナを斬る覚悟が出来ただ。何がセリナを救う術を探すだ。あの日救えなかったせいで、今も苦しめているのはお前のせいじゃないかアルト。
全ては憶測だ。だが、限りなく真実に近い憶測だと自分で思う。何故だかそう思う。
そして、たとえそれが真実だとしても今さらリティアと共に生きる未来を変えるつもりは無い。だが、このままセリナを見殺しにして、セリナを不幸なままにして、それで自分だけ幸せになるなど許される筈が無い。
「………………」
リティアの言った事が、今なら分かるとアルトは思った。リティアはセリナを救いたいと言った。まさかとは思うが、リティアはセリナが決して裏切った訳ではないと見抜いていたのかもしれない、何となくそう感じるアルト。
それなら、セリナを救う道を探すまでだ。もう自分には、セリナを幸せにしてあげる事は出来ない。と言うか、あの日逃げ出した時点でその資格は無い。どんなにセリナが想ってくれても、あの日セリナを見捨てておいて今さらそんな都合の良い話など、セリナが許しても自分が許せない。
「セリナ」
一人よがりかもしれない。自己満足かもしれない。本当にそれがセリナを救う事になるのかも分からない。だがきっとこの方法しか、セリナを本当の意味で救う道は無い。他のどんな道でも、きっとセリナは救われない。
「………ごめんなセリナ」
だからアルトは黒鳳凰の柄を握った。セリナを救うーーーー、いや、セリナを楽にしてあげる為に。
「俺はセリナを…………」
柄を握る手に力を込める。
「…………斬る」
鞘の中で、黒鳳凰が鈍い光を発した。
ーーこの日より一週間後、アルト達は『アルファーム平原』へと遂に辿り着く。勇者一行との最終決戦の地へと。
そして、アルトとセリナの数奇な運命に終止符を打つべく、アルトはこの地に降り立った。
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