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剣士の章

144.今宵君と1※

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 どれくらい唇を重ねていただろう。お互い瞳を閉じ、お互いの唇の感触を確かめ合った。

 アルトが感じるリティアの柔らかい唇の感触。リティアが感じるアルトの弾力のある唇の感触。そんなお互いの唇の感触を十分に確かめ合って、やがてどちらとも無く唇を離した。そしてそのまま見つめ合う。


「アルト………」
「うん」
「……キスって……こんなに幸せなんだね」
「うん。俺も同じ事を思った」


 お互い頬を染めながら、相手の瞳を見つめる。見ているだけで、幸せな気持ちになる。相手への愛おしさが心の底から浮かんで来る。
 離れたくない。もっと一緒に居たい。もっと触れ合いたい。もっとキスをしたい。もっと……先へ進みたい。

 しかしそう思っても、アルトにはそれが出来ない。アルトは精神的なショックから男性器が機能しない。たとえ興奮はしても、勃起はしない。こんな状態では、とてもリティアを抱く事など出来ない。
 だがリティアはその事を知らない。アルトが色欲の神の試練で何もして来なかったのは、アルトの優しさだったのだと今でも信じて疑わない。まさか勃起しなかったからなどとは夢にも思わないし、男性がそんな状態に陥る事すら知らない。

 アルトの記憶で見たように、興奮すれば必然的にああいうふうに形を変えるのだと思っている。そしてその先にあるのが愛し合っている者同士がする行為であり、リティアとて愛しいアルト相手なら全てを委ねるつもりでいた。


「アルト………」
「………ん?」
「……キス……だけ……?」
「え…………」


 リティアが恥ずかしそうにアルトを見つめる。頬は桜色に染まり、何処か不安そうな表情でアルトを見つめていた。


「わたしね……アルトだったら………」
「リティア………?」


 リティアの言わんとしている事を悟り、身体が熱くなるアルト。ほとんど知識すらない、穢れを知らない無垢な少女のリティアが、勇気を振り絞って伝えようとしている。
 それはきっと物凄く恥ずかしいだろう。物凄く勇気がいるだろう。その姿に、以前必死に告白してくれたノエルの姿が重なって見えた。


「わたしもね……その……ア、アルトと………」


 これ以上言わせてはいけないと思った。それはリティアが言う事ではなく、男である自分が伝える事だ。そう思うと、更に全身が熱くなる。身体中に熱くなった血が駆け巡り、気持ちが高揚して来る。

 抱きしめたい。抱きしめて、抱き合って、リティアと一つになりたい。自分が男として生まれて来た証を、リティアが女として生まれて来た証を、共に享受したい。

 

 ーーリティアと、繋がりたい。



 はっきりそう思った瞬間、アルトは下半身に違和感を感じた。これは、この感じはーーーーー


「リティア!」


 リティアを抱きしめた。華奢で折れそうなリティアの身体を強く抱きしめながら再び唇を重ねた。先ほどよりも強く重ねたが、リティアは全く嫌がらなかった。リティアも激しく唇を重ねて来た。
 
 股間に痛みを感じた。下着の中ではち切れんばかりに硬くなったアルトの陰茎ペニスが、行き場を探していた。
 そう、勃起したのだ。セリナと勇者の行為を見てから、そしてノエルとビリーの行為を見てから不全に陥っていたアルトの男性器が、その機能を取り戻したのだ。

    何度も何度も唇を重ね、リティアへの愛しさが込み上げて来る。リティアのお陰で、またこうして男性としての尊厳を取り戻せた。
 リティアが再び、誰かを愛するこの熱い気持ちを思い出させてくれた。リティアが再び、誰かを信じるという事を思い出させてくれた。
 そんなリティアが愛しくて愛しくてたまらない。もうずっと離れたくない。離さない。きっとリティアを守る、守りきってみせると再度心に固く誓うアルト。


「リティアを……抱きたい」
「………うん。わたしもアルトに抱かれたい」


 既にお互いの気持ちの向かう所は同じ場所だった。お互い全てをさらけ出し、一緒になりたい。初めての経験を一緒にしたい。


「えっと……服……脱ぐね……」
「待って……俺が脱がしてもいい?」


 アルトが訊ねると、リティアは再び顔を真っ赤に染めた。しかし恥ずかしそうに俯きながらもこくりと頷く。


「あの……あまり見ないでね……自信無いから……」
「………そんな事ないよ。どんなリティアでも凄く綺麗だから」


 優しくリティアの頭を撫でるアルト。そのままリティアの部屋着のボタンを、丁寧に外してゆく。その間も二人は緊張のあまり、鼓動が激しく胸を叩いていた。このまま心臓が爆発してしまうのではないかと思う程の緊張の中、アルトがボタンを全て外し終わる。
 ゆっくりとリティアの部屋着を腕から引き抜く。現れたのは、リティアの真っ白い肌と華奢な身体。胸は純白ブラジャーが着けられているが、アルトが見た事のある(主に母親の)ブラジャーとは形が違った。
 アルトが見た事のあるのは、布で出来ていて前を紐で結んでいる物だったが、リティアが着けているのは肩紐があるのは同じだが、前に紐は無い。胸を包み込む部分に繋がっている横の部分が背中まで伸びている。しかも布の中にワイヤーが入っているらしく、随分と形がしっかりしていて、リティアの胸の形をそのまま包み込んでいる感じだ。


「えっと………」


 外し方が分からない。こんなの見た事が無いし、見た感じ外せそうな部分が見当たらない。もしかしてこのまま上にずり上げるのだろうか?


「アルト……?」


 ブラジャーはしているが、やはり見られるのが恥ずかしいリティアは片手で胸を隠す。はっきり言って大きくないし、そもそも男性に見られるのなど初めてなので無理も無い。


「ごめん……外し方が分からなくて……」


 ああそうかとリティアは納得する。ブラジャーは人によって着ける者も居れば着けない者もいる。きっとセリナは着けていなかったのだろうと思い至った。
 それはそれでリティアの考えは正解なのだが、そもそもアルトの住むウルスス村には、リティアが着けている様な形のブラジャーなど売っていない。こんなワイヤー入りのブラジャーなど、大きな街へ行かないと手に入らないのだ。それは魔族領でも似たようなものだが、リティアが住んでいるこの魔王城は魔族領で一番栄えている中央区に位置する。なので普段着ている様な大人っぽいオシャレな服や、こういったブラジャーが主流である。

 余談だが、エルマーとミミリはノーブラ派だ。エルマーはブラジャーを着けるほど胸が大きくないからという理由から。ミミリは動きにくいから嫌!という理由だった。


 目の前で困っているアルトを見て、くすりと笑うリティア。いつもは凄く頼りになるのに、こういう事で困ってるアルトが何だか可笑しかった。


「ちょっと待ってね」


 そう言って両腕を自分の背中に回すリティア。すると小さくカチッという音がして、張り詰めていたブラジャーが途端に緩む。そしてすぐにまた手で胸を隠した。


「……何で隠すの?」
「だって……恥ずかしいもん………」
「自分で外したのに?」
「それはアルトがっ!………もう知らない!」


 ぷいっと横を向くリティア。そんなリティアが可愛くて愛しくて、リティアの頭を優しく撫でる。


「リティアって、たまに語尾に『もん』って付けるよね」
「………うう……子供っぽいとか思ってる……?」


 優しくリティアの身体をベッドに横たえる。リティアも抵抗せずに、アルトにされるがまま横になった。そんなリティアの顔を覗き込みながらアルトが囁く。


「全然。そんな所も可愛いと思う」


 そして再びリティアの唇を奪った。リティアは目を閉じてアルトの唇を受け止める。しばらく互いの唇を重ね、アルトがゆっくりと唇を離すと、リティアは蕩けたような表情でアルトを見つめた。


「ずるい………」


 こんなに優しく、甘美な感触をあたえられてしまったら、もうささやかな抵抗すら出来ない。リティアは押さえていた胸から手を離した。


「脱がすよリティア」
「…………うん」


 純白のブラジャーの肩紐に指を掛け、アルトはゆっくりとリティアのブラジャーを身体から外したーーーーー




※いつの間にか皆様からの感想が300件超えていました。本当にいつもありがとうございます。
お気に入り登録者数より感想の方が多いのは、結構珍しいらしいです(笑)物語も残り僅かですが、これからも感想ドシドシ応募しておりますので、皆様カモーンカモーン!ですw
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