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剣士の章

138.機会

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 右から、左から、そして死角から剣を繰り出すクレイ。しかしその全てをアルトが防ぐ。


「クソが!!」


 見た所、致命傷は無いが全身から出血しているアルト。それなのに、クレイの繰り出す強力な一撃一撃を全て防いでいる。クレイの胸の内の感情が、次第に怒りから焦りに変わっていく。


(どうなってやがる!?何で倒れねえんだこのガキ………とっくに限界だろうがよ!?)


 目で見ても分かる程に疲弊しているアルト。呼吸は乱れ、全身から血と汗が吹き出ている。それでもクレイの剣戟を的確に捌き、ギリギリの所で致命傷を避けている。それは肉体的にも精神的にも、並大抵の事ではない筈だ。


(クソッ………一撃でいい。一撃まともな攻撃さえ入れば………)


 そこから畳み込む様に目の前の人族の男をなます斬りに出来る。あっという間に命を刈り取る事が出来る。だが、その一撃を入れる事が出来ないのだ。
 だからこそ焦る。先ほどアルトに斬られた左腕からは、今も結構な量の血が溢れている。いくら魔王の身体が頑丈だからといって、体内の血の量が増える訳ではないし、失った血が元に戻る訳ではない。
 体力的にはまだまだ戦えるが、あまり血を流しすぎると先に倒れるのはこちらだと、焦りが蓄積していく。だからこそ早く目の前の男を倒そうと、攻撃も雑になってゆく。


「クソッ!クソッ!」


 恐ろしい程の速度と威力の剣戟。並の者ならとっくに殺されているし、中途半端に剣をかじった程度では目で追うことすら出来ないだろう。事実、二人の攻撃を目で追えているのはミミリだけだ。


「凄いアルト君………」


 ごくりと喉を鳴らすミミリ。以前アルトはリティアに、剣技なら自分よりもミミリの方が上だと言った事があるらしいが、決してそんな事はないとミミリは思った。おそらくは自分と互角かそれ以上。純粋な剣戟の応酬でアルトに勝てるかどうかは、ミミリ本人にも分からなかった。

 そんなミミリ達の視線を受けながら、アルトは必死に食らい付く。クレイの焦りを知ってか知らずか、とにかく防御に徹し、耐え忍ぶ戦いを続けている。
 クレイの一撃一撃が必殺の威力を持った攻撃。まともに喰らえば勝敗は一瞬で決まってしまうこの状況で、とにかくクレイの剣に自分の剣を重ねる。


(握力が無くなって来た………ここが踏ん張りどころだアルト……)


 思い出すのはルドルとの過酷な修行。毎日ヘトヘトになるまで剣戟を打ち込まれ、こちらからも何度も打ち込んだ。
 日に日に疲れなくなって来たのは、単純にアルトの体力が向上したのと剣戟の応酬に慣れて来たから。そして”剣士”の称号を授かったアルトに、剣士として必要な筋力が備わって来たから。
 あれから既に二ヶ月、今この瞬間もアルトは剣士として成長している。現に、先ほどエルマーに回復して貰う前より回復して貰ってからの方が長く戦えているし、動きも良くなっている。

 一方のクレイは焦りと出血から、少しずつ動きが鈍くなっている。剣も片手でしか振るえないので、威力も落ちている。体力だけはまだまだ尽きないが、別の部分で身体が悲鳴を上げ始めているのだ。
 

「はあぁぁぁーーーッ!!」
「くおぉぉぉーーーッ!!」


 早く勝負を決めたいクレイと、何とか反撃の機会を伺うアルト。攻める者と守る者の熾烈な戦いは、クレイに軍配が上がる。遂にクレイの猛攻に耐えきれずにアルトが剣を落としたのだ。


「くっ………」
「はぁぁーーっはっはっはっ!!ようやく終わりだなクソガキッ!!」 

 
 その瞬間、リティアが魔法を撃ち出す。


凍結フローズン!」


 青白く光る氷の魔法は、アルト目掛けて飛んでゆく。
 しかしアルトはその魔法を後ろに跳躍して躱した。アルトに追い打ちを掛けようとしていたクレイの動きが一瞬だけ止まる。


「邪魔してんじゃねぇよリティア!今さら何の真似だてめぇ!!」


 リティアが放った凍結の魔法はアルトに躱され、反対側に居るエルマー目掛けて飛んでゆく。エルマーは両手を前に突き出した。



■■■


「あのね、わたし考えたんだけど、エルマーが協力してくれれば、わたしもお兄ちゃん達に攻撃出来るんじゃないかな?」


 リティアの発言を受け、アルト、エルマー、ミミリが首を傾げる。


「どういう事リティアちゃん?」
「つまり、わたしはお兄ちゃん達には攻撃出来ないけどみんなには攻撃出来るから、エルマーの魔法反射リフレクトで上手く魔法を跳ね返せば、間接的にでも攻撃出来るかなって」


 顎に手を当てて、深く考えるエルマー。確かにその方法だと、直接クレイに攻撃を仕掛ける訳ではないので可能かもしれない。


「なるほど、試してみる価値はあるかもしれません」
「凄いねリティアちゃん!そんな事思い付くなんて!」
「あはは……まだ上手くいくって保証無いけどね」


 あの日からこの場面を想定して、リティアとエルマーは毎日練習を重ねて来た。
 エルマーが僅かに残った魔力をアルトの回復には使わずに温存しておいたのは、全て【魔法反射リフレクト】の為。魔法反射とは、その名の通り魔法そのものを反射させる魔法。流石に先ほどバラクーダが放ったような、膨大な魔力を込めた大魔法などは反射出来ないが、リティアの凍結ぐらいなら何とか反射させられる。
 そして、チャンスは一度だけ。たとえエルマーの魔力がまだまだ残っていたとしても、一度外せば二度目からは警戒されてしまい、絶対に当てる事など出来ない。


魔法反射リフレクト!」


 エルマーが突き出した手のひらの先に、薄緑色の透明な壁が現れる。
 その透明な壁にリティアの凍結フローズンがぶつかる。その衝撃で魔法反射の壁が揺らぎ、次の瞬間にはクレイ目掛けて跳ね返された。

 幸運だったのは、クレイがアルトを斬る事に躍起になって周りが見えていなかった事。
 アルトに斬られた腕の傷の出血で、僅かに意識が朦朧とし始めていた事。
 だから、自分の死角から襲って来る氷の魔法には気付けなかった。


「死ねクソガキがぁぁぁーーーッ!!」


 クレイが右腕を振り上げる。そして、アルトに死をもたらすその腕を振り下げる直前でーーーーー





 ーークレイの腕が凍りついた。



「なっ!!?」


 アルトは信じていた。リティアとエルマーをずっと信じて、この時を待っていた。
 必ず反撃の時は来る。リティアとエルマーが必ずその機会を作ってくれる。だからそれまで、歯を食いしばって耐える戦いをするんだ。そう自分に言い聞かせてきたのだ。そして、遂にその機会が訪れた。二人が作ってくれた。あとはそれに応えるだけだ。

 クレイの腕が凍りついた時には、アルトは既に落とした愛剣を拾っていた。二人を信じていたから、回避も防御も捨てて剣を拾う事にだけ意識を集中させていた。だからこそ、その剣を振るうのも早かった。
 腕が凍りついたクレイだが、魔王の身体は物理防御力も魔法防御力も高い。一瞬凍りついただけで、すぐにリティアの魔法の効果は無くなり、クレイの腕は自由を取り戻していた。だが、クレイが剣を振るうよりもアルトの方が圧倒的に早かったのだ。


「アルトッ!!」


 エルマーが叫んだ。


「アルト君!!」


 ミミリが叫んだ。


「アルトーーーーッ!!」


 そして、リティアが叫んだ。


「はあぁぁぁーーーッッ!!!!」


 片膝を付いた状態から、上へ一直線に剣を振るうアルト。その剣戟はクレイの腹を斬り裂き、胸を斬り裂き、そして喉を斬り裂いた。


「がはっ………あぁ!!」


 剣身が青く輝く『青孔雀』を振り上げたままのクレイの身体から、勢い良く血が吹き出しアルトに血の雨を降らせた。そしてそのまま、クレイは床に背中を付けて倒れた。
 全身に返り血を浴びたアルトの身体が、自分の血と混ざって真っ赤に染まっていたーーーーー



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