上 下
90 / 191
魔姫の章

85.裏切り※

しおりを挟む
 アルトはノエルの部屋のドアノブに手を掛け、ゆっくりとドアを開いた。すると部屋の中にはーーーーー


「………………え?」


 ベッドの上に全裸で横たわる桃色の髪の少女。昼間、精一杯の言葉で気持ちを伝えてくれたその少女の上に乗り、腰を振っているのは幼馴染の青髪の青年。


「よおアルト」


 ビリーがノエルに陰茎ペニスを挿入し、腰を振っている。ノエルは涙を流しながら口を手で覆い、声を我慢していた。そんな光景をまざまざと目撃したアルトは、思考が停止し思わず固まってしまう。そんなアルトにビリーが声を掛けた。


「遠慮しないで入れよ。ってか早くドア閉めろ。誰かに見られちまうだろ」
「あ………………」


 ビリーに言われ、急いでドアを閉めるアルト。その間も、ノエルの我慢した嬌声が聞こえてくる。


「ふっ………んん………はうっ……!」
「ノエルちゃん、もっとアルトに聞かせてあげなよ。ほら、こんなにエロいって所をアルトに見て貰いたいんだろ?」
「な、何言って………ああっ!………そ、そんなの………あっ………う、嘘……んんッ!」


 ふるふると首を振り、泣きながらビリーの言葉を否定するノエルだが、ビリーが絶えず腰を動かしているので嬌声を我慢出来ずに口から漏れる。
 

「すげーだろアルト。あまりにも気持ち良すぎて涙流してるんだぜノエルちゃん」


 違う違う違う違う違う違う違う違う違う!

 心の中で必死に否定するノエルだが、喋ろうとしても口から出て来るのはアルトに聞かせたくない淫らな声ばかり。必死に目でアルトに訴えるが、アルトは呆然としていた。


「んで、何しに来たのお前」
「あ…………お、俺はノエルに…………」


 答えを伝える為に来た。ノエルからの告白の答えを今日一日、自分なりに一生懸命考えて答えを出した。
 今はまだノエルの気持ちには応えられない。でもいつかセリナの事が吹っ切れた時は、ノエルを好きになる努力をする。だからそれまで待っていて欲しいと、そう伝えに来たのだ。

 それなのに、この状況は一体何なのだろうか。何故ノエルがビリーと?ノエルは俺の事が好きなんじゃなかったのか?あの告白は嘘だったのか?そもそもビリーにはエリーゼという恋人が居る筈だ。それなのに何故ノエルと?
 そんな考えがアルトの脳裏に次々に浮かび、結局は何も言えずに立ち尽くす。
 そんなアルトを見て、ビリーが再び口を開いた。


「いい事教えてやるよアルト。ノエルちゃんさ、もっと前からとこういうエロい事してたんだぜ?」
「え……………」
「いやっ!そ、その事は…………ああっ!」
「な?否定しないだろ?」
「俺達って………」


 誰の事を言っているのか。ノエルはビリーだけではなく、他の者ともこんな事をしていたと言うのか?アルトの中でノエルに対する義憤が芽吹く。


「俺とノエルちゃんとエリーゼ。んでレックさんとサリーさん。五人でした事もあったなぁ」
「なっ……………」


 つまり、一緒に王都までの道のりを旅した自分以外の全員。それはまさか、自分に隠れてそんな事をしていたのかと、アルトは驚愕の表情を浮かべる。


「ノエルちゃんさ、レックさんにオマンコ舐められてイッたんだぜ?兄妹なのにさ」
「やめてぇぇぇーーーっ!!お願いだからもうーーーああっ!あああっ!」


 ビリーが激しく腰を振る。その瞬間、ノエルの身体に恐ろしい程の快感が押し寄せる。


「いやっいやっ!だめだめぇぇーーーっ!!」


 狂った様に髪を振り乱すノエル。このままでは、アルトの目の前でビリーに絶頂かされてしまう。そんな姿など、絶対に見せたくない。
 しかしビリーはすぐに腰の動きを止める。このまま続ければ自分も果ててしまうからだ。


「はぁはぁ……分かっただろアルト………何でもかんでも手に入れようとするからこうなるんだよ」
「何が…………」


 そんな事をした覚えなど一つも無い。手に入れるどころか、大事な者が次々と自分の手から零れて行く。


「セリナっていう美少女の彼女が居るのにノエルちゃんに手を出そうとしやがって。お前、セリナとやりまくってたんだろ?それで充分過ぎるだろうが」
「ち、違う………俺は………」


 セリナとは一度もしていない。抱いた事はあるが、最後まで出来なかった。そしてもう、セリナは恋人では無い。今のセリナの恋人はーーーーー、勇者アリオンだ。
 そう口にしようとするが出来ない。今さらそれをビリーに言った所で、何が変わる訳でもない。


「その上エリーゼにまで想われて、モテる男は羨ましいなアルト」
「エリーゼ………が……?」


 そんな事、初めて知った。エリーゼはビリーが好きなのだと思っていた。だから秘密基地で、をしていたのだと思っていたのだ。


「気付いてなかったってか?だよな、お前セリナしか眼中に無かったもんな。他の女になんて見向きもしなかったもんな。お前のそういう所が昔から嫌いだったんだよ!」
「ビリー…………」
「ウルスス村の女の子達はな、みんなお前に惚れてた!知らないだろ?セリナしか眼中に無かったお前は気付いてなかっただろ!?」


 知らなかった。と言うよりそんな話、にわかには信じられない。ウルスス村に居た時の自分など、何の取り柄も無かった。
 腕っ節が強い訳でも無かったし、頭が良かった訳でも無い。面白い冗談の一つも言えなかったし、明るい性格だった訳でも無い。
 だから、こんな冴えない男を好きになってくれるのなんて、セリナだけだと思っていた。しかし、そのセリナももうーーーーー


「はっ、お前とセリナだけ村で浮きまくってたぜ?あんな田舎に住んでるレベルじゃねえだろお前ら。案の定、セリナは賢者様でお前は伝説の魔剣を持った剣士様だ。ほんとすげーわお前ら」


 何も言えないで立ち尽くすアルト。確かにビリーのいう事が全て真実だとしたら、自分はかなり恵まれていたのだ。そんな存在が目の前に居たら、誰でも羨望するだろう。だがーーーー


「俺はお前が羨ましくてしょうがなかった。ツラもいいし性格もいいし、剣士としての才能もある。おまけに彼女は王都でも話題の美少女賢者様。一方の俺は何処にでも居る鍛冶師見習い。ツラも普通。可愛い彼女も居ない。この差は何なんだろうな?」


 違う。アルトはそう思った。羨ましかったのは俺の方だと。
 あの日、セリナと最後まで出来なかったあの日以来、アルトの中に今まではそんなに無かった性欲が芽生えた。早くセリナを、女性と最後までしてみたいと思う様になった。
 そして目撃したビリーとエリーゼの行為。エリーゼの膣内なかに挿れて腰を振るビリー。悶えた表情を浮かべるエリーゼ。外まで響く嬌声。
 そして、エリーゼと一緒に果てたビリー。エリーゼに放出する精液。
 何もかもが羨ましかった。その場所を代わって欲しかった。俺もしてみたい、エリーゼの膣内に今すぐ挿れたい、ビリーが羨ましい。

 あの日、あの時、たった一度だけそう思った。そう思ってしまった。セリナという許嫁が居ながら、エリーゼの膣内に挿れたいと。思いきり腰を振ってみたいと、そう思ってしまったのだ。


(ああそうか………だから俺は罰を受けたのか)


 そんな事を思ってしまったから、セリナを勇者に奪われたのだ。セリナは自分の元を去ってしまったのだ。セリナに裏切られたのだ。

 そして今も、ノエルに裏切られ、幼馴染のビリーにも裏切られた。
 告白しておきながら、違う男に抱かれているノエル。
 親友親友と言っておきながら、悪意ある言葉で罵声を浴びせて来るビリー。

 もう、何を信じればいいのか分からない。誰を信じればいいのか分からない。
 何もーーーーー見えなくなってしまった。


「ちっ、泣きそうな顔しやがって。もういいよ。行けよアルト」


 ビリーにそう乱暴に言われ、顔を上げるアルト。目の前ではノエルが泣きながら、アルトに手を伸ばしていた。それはまるで、行かないで、わたしの手を取って、わたしも一緒に連れていってと言わんばかりの表情と仕草だったが、アルトには伝わらなかった。ここでアルトがノエルの手を取っていたら何かが変わっていたかもしれないがーーーー、アルトは手を取る事無く踵を返す。


「まっ………待って………行か………ああっ!」


 ノエルがアルトに何かを言おうとした所で、ビリーが抽挿を開始する。アルトはノエルの嬌声を聞きながら、ドアノブを掴んだ。


(待ってアルト君!お願い行かないで!)


 心の中でそう叫ぶが、アルトはそのままドアノブを回す。そしてーーーーー





 ーーそのままノエルの部屋を後にした。部屋の中では、再びノエルの嬌声が響き渡った。






しおりを挟む
感想 454

あなたにおすすめの小説

成長率マシマシスキルを選んだら無職判定されて追放されました。~スキルマニアに助けられましたが染まらないようにしたいと思います~

m-kawa
ファンタジー
第5回集英社Web小説大賞、奨励賞受賞。書籍化します。 書籍化に伴い、この作品はアルファポリスから削除予定となりますので、あしからずご承知おきください。 【第七部開始】 召喚魔法陣から逃げようとした主人公は、逃げ遅れたせいで召喚に遅刻してしまう。だが他のクラスメイトと違って任意のスキルを選べるようになっていた。しかし選んだ成長率マシマシスキルは自分の得意なものが現れないスキルだったのか、召喚先の国で無職判定をされて追い出されてしまう。 一方で微妙な職業が出てしまい、肩身の狭い思いをしていたヒロインも追い出される主人公の後を追って飛び出してしまった。 だがしかし、追い出された先は平民が住まう街などではなく、危険な魔物が住まう森の中だった! 突如始まったサバイバルに、成長率マシマシスキルは果たして役に立つのか! 魔物に襲われた主人公の運命やいかに! ※小説家になろう様とカクヨム様にも投稿しています。 ※カクヨムにて先行公開中

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月が導く異世界道中extra

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  こちらは月が導く異世界道中番外編になります。

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

月が導く異世界道中

あずみ 圭
ファンタジー
 月読尊とある女神の手によって癖のある異世界に送られた高校生、深澄真。  真は商売をしながら少しずつ世界を見聞していく。  彼の他に召喚された二人の勇者、竜や亜人、そしてヒューマンと魔族の戦争、次々に真は事件に関わっていく。  これはそんな真と、彼を慕う(基本人外の)者達の異世界道中物語。  漫遊編始めました。  外伝的何かとして「月が導く異世界道中extra」も投稿しています。

処理中です...