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聖女の章
77.聖女の涙
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アルトが屋敷を去り、更に夜が更けた頃ーーーー
「はぁはぁ……アルト………アルト!」
アリオンへの夜伽が終わり、廊下を走るセリナ。真っ直ぐにアルトの部屋を目指していたが、途中で足を止める。
「そうだ………フィリアに【天浄魔法】掛けて貰わないと」
今夜もたっぷり、アリオンに膣内で射精された。これからアルトに抱いて貰うのに、このままアルトの元に行く事は出来ない。フィリアに綺麗な身体にしてもらわなくては。
そう思い至り、踵を返してフィリアの部屋へと足を伸ばす。
(今夜はフィリアとは流石に………出来ないかなぁ)
毎日フィリアと身体を重ねるのが日課になっているセリナ。だから一日でも出来ないのは寂しいのだが、今夜はアルトが居る。フィリアと出来ない分、アルトにいっぱいして貰おう。アルトが望むだけ、何度でもいつまででもアルトにして貰おう。
(アルト………まだ経験してないよね。ごめんねわたしだけ………)
その事を考えるとやはり心苦しい。自分から望んだ訳ではないにしろ、アルトに捧げる筈だった処女はもうとっくに無い。きっと、アルトは悲しむだろう。
(大丈夫。アルトならきっと………分かってくれる)
優しいアルト。大好きなアルト。きっとアルトなら、もう処女じゃない事もフィリアとの事も許してくれる。もし許してくれなかったら、全力で謝ろう。
アルトが許してくれるまで何度でも謝って、わたしが好きな男性は、今もこれからも世界でアルトだけだと伝えよう。
魔王を討伐したら一緒に冒険者をやって、毎日アルトとフィリアに抱かれて、アルトとの子を作って、わたしとフィリアがお母さんになって子供を育てる。
もしフィリアも子供を欲しがったら、アルトに作って貰おう。アルトが他の女の人とするのは絶対嫌だけど、フィリアは特別。フィリアならわたしも許せるし、きっとアルトだってフィリアを気に入ってくれる。
だって、フィリアって凄く綺麗だし優しいし、それに凄く温かいから。
(ふふ、フィリアはわたしよりもかなり胸大きいから、アルトびっくりするよね)
もはやただの妄想だ。自分の都合の良い未来を妄想し、そしてそれが実現する事を全く疑っていない。
こうなってしまったのも、全ては快楽に墜ちた代償。フィリアに依存した事によって、セリナの中にフィリアとアルトが同じぐらいの熱量で同居してしまい、もはやどちらか片方とだけ幸せになる未来など考えられない。
(それにしても………今日の夜伽は……いつもより嫌じゃなかったかも)
屈辱にも、自分からアリオンの陰茎を求めてしまった。その事は自分の中でも許せない事だったが、与えられた快感は今まで以上だった。
何度も焦らされ、なかなか絶頂かせて貰えずに、つい彼のモノを求めてしまった。今考えだだけでも恥ずかしい。
(うう………でも仕方ないじゃない………)
この身体は既に、絶頂の悦びを知っているのだ。あんなに焦らされて、最後まで我慢など出来る筈がない。
(次もあんな感じだと………嫌だなぁ………)
確かに今日の夜伽は今までで一番気持ちが良かった。焦らされた後の挿入は、今まで嫌悪していたアリオンの陰茎に対して愛おしさすら覚えた。
しかし、やはりあんなのは嫌だ。毎回アリオンに屈服するなど、屈辱以外の何ものでも無い。屈服して良いのは、アルトとフィリアに対してだけだ。
そんな事を考えながら歩を進めていると、すっかり来慣れたフィリアの部屋に到着する。
そして、いつもの様にフィリアの部屋の扉をノックした。
「…………はい」
「セリナです。フィリア起きてた?」
「今………開けますわ」
セリナは違和感を覚えた。何だろう、フィリアの声に元気が無い様に聞こえた。
程なくして扉が開く。そしていつもの様にフィリアが出迎えてくれたのだがーーーー、そこにいつものフィリアの微笑みは無かった。
「フィリア!?どうしたの!?」
暗く沈んだ表情。目には泣き腫らした痕が残り、セリナを見ようともせずに俯いている。
「何でも………ありませんの。さあ、ベッドに………」
「う、うん」
フィリアに促されて部屋の中へと入る。そしていつもの様に服を脱ぎ、下着も脱ぐとベッドに横たわった。
すぐにフィリアが傍に腰掛け、手がセリナの秘裂へと伸びて来る。そしてそのまま、膣口に指を入れた。
「んっ…………」
「【天浄魔法】」
フィリアの【天浄魔法】の効果で、セリナの胎内に放出された精液が死滅する。これでセリナは綺麗な身体に戻った。
いつもはこの流れでフィリアに抱かれるのだが、今はそんな雰囲気ではなかった。それに、今からアルトの所へ行かなければならない。
「ありがとうフィリア」
何となく寂しい気持ちになりながら下着を履き、服を着る。これで今すぐにアルトの元に行けるのだが…………こんなフィリアを放っては行けない。
「フィリアどうしたの?何があったの?」
「な………何もありませんわ………」
そんな筈は無い。絶対に何かあったのは確実だ。しかしいくら訊いてもフィリアは「何でもありませんわ」の一点張りだった。仕方なくセリナは諦める。
「あの………わたし今夜はアルトの所へ行くね…………」
俯くフィリア。セリナの顔を見ようとしない。
「ご、ごめんね……?フィリアとはまた明日にーーーー」
「アルトさんでしたら…………用事があると言ってお帰りになりましたわ………」
「ーーーーーえ?」
一瞬、何を言われたのかが分からないセリナ。呆然としながらフィリアを見る。
「もう………このお屋敷には居ません………」
「う…………そ………?なん………で…………」
膝から崩れ落ちるセリナ。虚空を見つめながら、アルトの顔を思い出す。
「そんな………せっかく………せっかくまた会えたのに………」
ポロポロの涙が零れ落ちる。アルトの顔を思い出すだけで、胸が締め付けられる。
「今日は………ひっく………いっぱいアルトに………うぅ………うわぁぁぁぁん!うああぁぁぁん!!」
ついには嗚咽を漏らし、大声で泣き出すセリナ。せっかくまた会えたのに。もっともっと話したい事、話さなければならない事がたくさんあったのに。
「わああぁぁぁぁん!アルトォォォ!いやだよぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁん!」
まるで子供の様に泣き喚くセリナ。そんなセリナを見て、フィリアもボロボロと涙を零した。
「わた、わたくしのせいですわ………ひっく……ご、ごめんなさぁぁぁぁい!うわぁぁぁぁぁん!!」
フィリアが泣き出すのを見て、セリナがフィリアを見上げる。
「ひっく……何でフィリアが………ぐすっ………何で泣くの………ひっく……」
「わたくしが………うぅ………わたくしが引き止めていれば………ぐすっ………こんな事には………うわぁぁぁん!」
屋敷から、セリナの前から去るアルトを引き止められなかった。セリナをこんなにも淫らにした張本人は自分だ。そのせいでセリナはアリオンを自ら求め、それを見たアルトが絶望のままセリナの元を去った。その事を、セリナは知らない。
「フィリアの……ひっく……せいじゃないよ………」
「いいえ………わたくしが………うぅ……わたくしが全ていけないのです………ぐすっ」
そのままセリナと同じように床に座り込むフィリア。顔を両手で覆って、グスグスと泣き始めた。そんなフィリアをセリナが優しく抱き締める。
しかしフィリアはブンブンと首を激しく横に振った。
「やめてください………わたくしは貴女に抱きしめられる資格なんて………」
「ぐすっ………そんな事言わないで………わたしはアルトと同じくらいフィリアの事も好きだもの………」
ガバッと顔を上げるフィリア。その顔は明らかに狼狽していた。
「わたくしを………アルトさんと同じくらい………?」
「うん………大好きだよフィリア………だから自分のせいにして泣かないで………」
驚愕の表情を浮かべるフィリア。何という事だろう。セリナが自分に好意を寄せてくれているのはもちろん知っているが、それはあくまでアルトの次にだと思っていたのだ。
しかしセリナは今、アルトと同じくらいだとそう言った。もしもそれが本当ならーーーーー
「いや………やめて………」
「………フィリア?」
「ごめんなさい………わた、わたくしそんなつもりじゃ…………違うんです…………」
セリナを自分に惚れさせたくて助けた訳ではない。こちらが一方的にセリナの事が好きだから、だから我武者羅にセリナを助けたのだ。それでセリナの心は救われたし、今の関係だってアルトの代わりに近くで触れられる恋人で居ただけなのだ。セリナも何処かでそう望んでいると思っていた。しかしーーーーー
「フィリア………違うって何が…………」
「こ、これではわたくしは………セリナを救うどころか………」
しかしその結果、セリナはアルトと同じくらいにフィリアを愛してしまった。フィリアに依存してしまった。これでは、間接的にセリナからアルトを奪ったばかりか、アルトからセリナを奪った張本人ではないか。そんな残酷な事があるだろうか。
「ごめんなさいごめんなさい………わたくしはセリナが好きです………でも違うのです………わたくしは全てが終わったらちゃんとセリナとーーーー」
お別れする筈だった。どんなに辛くても、ちゃんとセリナをアルトの元へ帰すつもりだった。それなのにアルトはセリナの元から去り、セリナは帰る場所を失った。そしてこんなにも自分に惚れてしまったセリナはきっと、もう自分の元を去らないだろう。それで、本当にセリナが幸せになれる筈など無いのに。
「フィリア………キスして」
「な………セリナ………?」
「違うとか何だとかもう嫌。聞きたくないもの………だからキスして………?」
セリナが目を閉じる。頬には涙の流れた跡が浮かび、どうしたってキスをして慰めてあげたくなる。
「だ………駄目です………もうこれ以上わたくしと…………」
関わるべきでは無い。そう、全て間違いだったのだ。自分が余計な事をしたせいで、セリナが本来掴む筈だった幸せな未来を摘み取ってしまった。
だが、もしかしたらまだ修復出来るかもしれない。何とかアルトを探し出し、ちゃんと説明すれば、まだ何とかなるかもしれない。その為には、セリナはもう自分とはーーーーー
「んっ」
「ーーーー!?」
ーー突然、セリナが唇を重ねて来た。
「んんっ!セ、セリナ!?ちょっと待っ………んん!」
「んっ………んん」
すぐに唇を離すフィリアだが、セリナもすぐに唇を重ねて来る。そしてそのままフィリアにギュッと抱きつき、フィリアの口の中に舌を滑り込ませる。
(だめ…………だめなのに……………)
セリナの舌の侵入を拒んでいたフィリアだが、結局はーーーーー
「んんっ……じゅぷ………あむっ……」
「んっ………んん………はぁはぁ……んんっ」
濃厚に舌を絡ませる。セリナとフィリア。
(ああ…………だめ…………セリナの事が愛おし過ぎて…………)
最後まで拒む事が出来ずに、結局はセリナを受け入れるフィリア。その瞳からは再び涙が流れ落ちたーーーーー
※『聖女の章』終了です。どうでしたでしょうか?感想お待ちしております。
遂に始まったアルトの転落は、もう少し続きます。読んでいで辛い場面も多々ありますが、何とか着いて来てくださると幸いです。
「はぁはぁ……アルト………アルト!」
アリオンへの夜伽が終わり、廊下を走るセリナ。真っ直ぐにアルトの部屋を目指していたが、途中で足を止める。
「そうだ………フィリアに【天浄魔法】掛けて貰わないと」
今夜もたっぷり、アリオンに膣内で射精された。これからアルトに抱いて貰うのに、このままアルトの元に行く事は出来ない。フィリアに綺麗な身体にしてもらわなくては。
そう思い至り、踵を返してフィリアの部屋へと足を伸ばす。
(今夜はフィリアとは流石に………出来ないかなぁ)
毎日フィリアと身体を重ねるのが日課になっているセリナ。だから一日でも出来ないのは寂しいのだが、今夜はアルトが居る。フィリアと出来ない分、アルトにいっぱいして貰おう。アルトが望むだけ、何度でもいつまででもアルトにして貰おう。
(アルト………まだ経験してないよね。ごめんねわたしだけ………)
その事を考えるとやはり心苦しい。自分から望んだ訳ではないにしろ、アルトに捧げる筈だった処女はもうとっくに無い。きっと、アルトは悲しむだろう。
(大丈夫。アルトならきっと………分かってくれる)
優しいアルト。大好きなアルト。きっとアルトなら、もう処女じゃない事もフィリアとの事も許してくれる。もし許してくれなかったら、全力で謝ろう。
アルトが許してくれるまで何度でも謝って、わたしが好きな男性は、今もこれからも世界でアルトだけだと伝えよう。
魔王を討伐したら一緒に冒険者をやって、毎日アルトとフィリアに抱かれて、アルトとの子を作って、わたしとフィリアがお母さんになって子供を育てる。
もしフィリアも子供を欲しがったら、アルトに作って貰おう。アルトが他の女の人とするのは絶対嫌だけど、フィリアは特別。フィリアならわたしも許せるし、きっとアルトだってフィリアを気に入ってくれる。
だって、フィリアって凄く綺麗だし優しいし、それに凄く温かいから。
(ふふ、フィリアはわたしよりもかなり胸大きいから、アルトびっくりするよね)
もはやただの妄想だ。自分の都合の良い未来を妄想し、そしてそれが実現する事を全く疑っていない。
こうなってしまったのも、全ては快楽に墜ちた代償。フィリアに依存した事によって、セリナの中にフィリアとアルトが同じぐらいの熱量で同居してしまい、もはやどちらか片方とだけ幸せになる未来など考えられない。
(それにしても………今日の夜伽は……いつもより嫌じゃなかったかも)
屈辱にも、自分からアリオンの陰茎を求めてしまった。その事は自分の中でも許せない事だったが、与えられた快感は今まで以上だった。
何度も焦らされ、なかなか絶頂かせて貰えずに、つい彼のモノを求めてしまった。今考えだだけでも恥ずかしい。
(うう………でも仕方ないじゃない………)
この身体は既に、絶頂の悦びを知っているのだ。あんなに焦らされて、最後まで我慢など出来る筈がない。
(次もあんな感じだと………嫌だなぁ………)
確かに今日の夜伽は今までで一番気持ちが良かった。焦らされた後の挿入は、今まで嫌悪していたアリオンの陰茎に対して愛おしさすら覚えた。
しかし、やはりあんなのは嫌だ。毎回アリオンに屈服するなど、屈辱以外の何ものでも無い。屈服して良いのは、アルトとフィリアに対してだけだ。
そんな事を考えながら歩を進めていると、すっかり来慣れたフィリアの部屋に到着する。
そして、いつもの様にフィリアの部屋の扉をノックした。
「…………はい」
「セリナです。フィリア起きてた?」
「今………開けますわ」
セリナは違和感を覚えた。何だろう、フィリアの声に元気が無い様に聞こえた。
程なくして扉が開く。そしていつもの様にフィリアが出迎えてくれたのだがーーーー、そこにいつものフィリアの微笑みは無かった。
「フィリア!?どうしたの!?」
暗く沈んだ表情。目には泣き腫らした痕が残り、セリナを見ようともせずに俯いている。
「何でも………ありませんの。さあ、ベッドに………」
「う、うん」
フィリアに促されて部屋の中へと入る。そしていつもの様に服を脱ぎ、下着も脱ぐとベッドに横たわった。
すぐにフィリアが傍に腰掛け、手がセリナの秘裂へと伸びて来る。そしてそのまま、膣口に指を入れた。
「んっ…………」
「【天浄魔法】」
フィリアの【天浄魔法】の効果で、セリナの胎内に放出された精液が死滅する。これでセリナは綺麗な身体に戻った。
いつもはこの流れでフィリアに抱かれるのだが、今はそんな雰囲気ではなかった。それに、今からアルトの所へ行かなければならない。
「ありがとうフィリア」
何となく寂しい気持ちになりながら下着を履き、服を着る。これで今すぐにアルトの元に行けるのだが…………こんなフィリアを放っては行けない。
「フィリアどうしたの?何があったの?」
「な………何もありませんわ………」
そんな筈は無い。絶対に何かあったのは確実だ。しかしいくら訊いてもフィリアは「何でもありませんわ」の一点張りだった。仕方なくセリナは諦める。
「あの………わたし今夜はアルトの所へ行くね…………」
俯くフィリア。セリナの顔を見ようとしない。
「ご、ごめんね……?フィリアとはまた明日にーーーー」
「アルトさんでしたら…………用事があると言ってお帰りになりましたわ………」
「ーーーーーえ?」
一瞬、何を言われたのかが分からないセリナ。呆然としながらフィリアを見る。
「もう………このお屋敷には居ません………」
「う…………そ………?なん………で…………」
膝から崩れ落ちるセリナ。虚空を見つめながら、アルトの顔を思い出す。
「そんな………せっかく………せっかくまた会えたのに………」
ポロポロの涙が零れ落ちる。アルトの顔を思い出すだけで、胸が締め付けられる。
「今日は………ひっく………いっぱいアルトに………うぅ………うわぁぁぁぁん!うああぁぁぁん!!」
ついには嗚咽を漏らし、大声で泣き出すセリナ。せっかくまた会えたのに。もっともっと話したい事、話さなければならない事がたくさんあったのに。
「わああぁぁぁぁん!アルトォォォ!いやだよぉぉぉぉ!うわぁぁぁぁぁん!」
まるで子供の様に泣き喚くセリナ。そんなセリナを見て、フィリアもボロボロと涙を零した。
「わた、わたくしのせいですわ………ひっく……ご、ごめんなさぁぁぁぁい!うわぁぁぁぁぁん!!」
フィリアが泣き出すのを見て、セリナがフィリアを見上げる。
「ひっく……何でフィリアが………ぐすっ………何で泣くの………ひっく……」
「わたくしが………うぅ………わたくしが引き止めていれば………ぐすっ………こんな事には………うわぁぁぁん!」
屋敷から、セリナの前から去るアルトを引き止められなかった。セリナをこんなにも淫らにした張本人は自分だ。そのせいでセリナはアリオンを自ら求め、それを見たアルトが絶望のままセリナの元を去った。その事を、セリナは知らない。
「フィリアの……ひっく……せいじゃないよ………」
「いいえ………わたくしが………うぅ……わたくしが全ていけないのです………ぐすっ」
そのままセリナと同じように床に座り込むフィリア。顔を両手で覆って、グスグスと泣き始めた。そんなフィリアをセリナが優しく抱き締める。
しかしフィリアはブンブンと首を激しく横に振った。
「やめてください………わたくしは貴女に抱きしめられる資格なんて………」
「ぐすっ………そんな事言わないで………わたしはアルトと同じくらいフィリアの事も好きだもの………」
ガバッと顔を上げるフィリア。その顔は明らかに狼狽していた。
「わたくしを………アルトさんと同じくらい………?」
「うん………大好きだよフィリア………だから自分のせいにして泣かないで………」
驚愕の表情を浮かべるフィリア。何という事だろう。セリナが自分に好意を寄せてくれているのはもちろん知っているが、それはあくまでアルトの次にだと思っていたのだ。
しかしセリナは今、アルトと同じくらいだとそう言った。もしもそれが本当ならーーーーー
「いや………やめて………」
「………フィリア?」
「ごめんなさい………わた、わたくしそんなつもりじゃ…………違うんです…………」
セリナを自分に惚れさせたくて助けた訳ではない。こちらが一方的にセリナの事が好きだから、だから我武者羅にセリナを助けたのだ。それでセリナの心は救われたし、今の関係だってアルトの代わりに近くで触れられる恋人で居ただけなのだ。セリナも何処かでそう望んでいると思っていた。しかしーーーーー
「フィリア………違うって何が…………」
「こ、これではわたくしは………セリナを救うどころか………」
しかしその結果、セリナはアルトと同じくらいにフィリアを愛してしまった。フィリアに依存してしまった。これでは、間接的にセリナからアルトを奪ったばかりか、アルトからセリナを奪った張本人ではないか。そんな残酷な事があるだろうか。
「ごめんなさいごめんなさい………わたくしはセリナが好きです………でも違うのです………わたくしは全てが終わったらちゃんとセリナとーーーー」
お別れする筈だった。どんなに辛くても、ちゃんとセリナをアルトの元へ帰すつもりだった。それなのにアルトはセリナの元から去り、セリナは帰る場所を失った。そしてこんなにも自分に惚れてしまったセリナはきっと、もう自分の元を去らないだろう。それで、本当にセリナが幸せになれる筈など無いのに。
「フィリア………キスして」
「な………セリナ………?」
「違うとか何だとかもう嫌。聞きたくないもの………だからキスして………?」
セリナが目を閉じる。頬には涙の流れた跡が浮かび、どうしたってキスをして慰めてあげたくなる。
「だ………駄目です………もうこれ以上わたくしと…………」
関わるべきでは無い。そう、全て間違いだったのだ。自分が余計な事をしたせいで、セリナが本来掴む筈だった幸せな未来を摘み取ってしまった。
だが、もしかしたらまだ修復出来るかもしれない。何とかアルトを探し出し、ちゃんと説明すれば、まだ何とかなるかもしれない。その為には、セリナはもう自分とはーーーーー
「んっ」
「ーーーー!?」
ーー突然、セリナが唇を重ねて来た。
「んんっ!セ、セリナ!?ちょっと待っ………んん!」
「んっ………んん」
すぐに唇を離すフィリアだが、セリナもすぐに唇を重ねて来る。そしてそのままフィリアにギュッと抱きつき、フィリアの口の中に舌を滑り込ませる。
(だめ…………だめなのに……………)
セリナの舌の侵入を拒んでいたフィリアだが、結局はーーーーー
「んんっ……じゅぷ………あむっ……」
「んっ………んん………はぁはぁ……んんっ」
濃厚に舌を絡ませる。セリナとフィリア。
(ああ…………だめ…………セリナの事が愛おし過ぎて…………)
最後まで拒む事が出来ずに、結局はセリナを受け入れるフィリア。その瞳からは再び涙が流れ落ちたーーーーー
※『聖女の章』終了です。どうでしたでしょうか?感想お待ちしております。
遂に始まったアルトの転落は、もう少し続きます。読んでいで辛い場面も多々ありますが、何とか着いて来てくださると幸いです。
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