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聖女の章

71.思惑

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 勇者一行を乗せた馬車が去った後も大通りはしばらくの間、喧騒に包まれていた。

 馬車が停まったかと思えば、中から突然”賢者”セリナが現れ、そのまま駆け出した。そして人混みに飛び込もうとした所で後ろから追いかけて来た”剣聖”サージャに腕を掴まれた。
 その後は”聖女”フィリアも馬車から降りて来て、セリナとサージャ、そしてセリナの目の前に居た銀髪の青年も一緒に馬車に乗せ、そのまま去って行った。

 その一部始終を見ていた人々の口からは「賢者様はどうしたのか」やら、「近くで見ると凄い美少女だった!」やら、「あの青年は何者なんだ?」など、突然現れた”救世の三職”とアルトの話題が飛び交っていた。
 そしてその一部始終を見ていたのは、もちろんビリーやエリーゼもだった。


「アルト………連れてかれちまった……」
「アルト………セリナ………」


 無事にセリナと再会出来たアルト。いや、あの状況を無事にと言えるのかは疑問だった。


「ビリー君!エリーゼちゃん!」


 二人の後ろからサリーが興奮気味に声を掛ける。後ろにはレックとノエルも居て、ノエルは不安げな表情を浮かべていた。


「ねえ、どういう事?アルト君が急に走り出したと思ったらその後に馬車が停まって、中から出て来たのって賢者様でしょ!?」
「あ………はい………」
「アルト君と賢者様ってどういう関係!?何故アルト君が勇者様に連れて行かれるの!?」
「そ、それは…………」
「落ち着けサリー。お前らしくないぞ」


 興奮するサリーをなだめるレック。事情を知っているレックはサリーほど驚いていないが、アルトが勇者の馬車に乗せられて連れて行かれたのは予想外だった。


「だって………いえ、そうね。あたしらしくなかったわ」
「ふぅ………こうなっちまったら仕方無い。サリーとノエルにも話すしか無いだろう」
「その言い方だとレックは全部知ってるのね」
「全部かどうかは分からんが、大体の事はエリーゼに聞いた」
「エリーゼお前………話したのかよ」
「ごめんなさい………レックなら大丈夫だと思って」


 俯くエリーゼ。アルトとセリナの事は内緒にしておきたかったが、リーダーであるレックには話しておこうと思って彼にだけは教えた。
 しかしこうなった以上はレックの言う通り、サリーとノエルにも話すべきだろう。特にアルトに想いを寄せているノエルには、きちんと話しておくべきだとエリーゼは思った。
 その結果、ノエルがきっぱりとアルトを諦めるのか、あるいは自分と同じく諦めきれずに苦しむのか…………それはノエル次第。一人だけ蚊帳の外に置かれるよりはずっとマシだと、エリーゼは自分を納得させる。


「とりあえず買い物は中止だ。少し早いが晩飯を食いがてら話そうか」


 レックがそう言うと皆は無言で頷く。そしてそのまま適当な料理屋へと入り、料理を注文した。
 料理が来るまでの間は誰も言葉を発しなかった。あんなに楽しみにしていた王都到着記念の夕食だったが、今は空気が重い。

 料理が出揃った所で、一応乾杯する。少し酒が入った方が口も滑らかになるだろうと、レックが注文したのだ。


「さて、話を聞いただけの俺が説明するより、実際に本人達から話して貰った方がいいだろう。飯を食いながらでいいから頼めるかエリーゼ?ビリーも」
「あ………うん」
「………分かりました」


 頷くエリーゼとビリー。そんな二人を緊張した面持ちで見つめるノエルと、こくこくと喉を鳴らしながら酒を飲み始めているサリー。そんな皆を見ながら、エリーゼがゆっくりと語り始めた。


「まず最初にわたし達の故郷の村なんだけど………わたしとビリー、そしてアルトはウルスス村って所の出身なの」
「ウルスス村………」
「俺とノエルの故郷よりも、更に東にある村だな」


 レックが説明を交える。東地区だけでも大小いくつもの村があるので、何処に何という名の村があるのかなど、把握している者の方が少ない。
 

「そのウルスス村の今年の『成人の儀』で、わたし達は称号を授かった。わたしは会計士、ビリーは鍛冶師、そしてアルトは剣士」


 そこまではサリーもノエルも知っている。知らなかったのはウルスス村の出身だったという事実。そしてこの時点で、サリーは大体の状況を把握した。
 伊達に冒険者を三年もやっている訳では無い。今もそうだが、グレノールに居た時も常に情報収集は欠かさなかった。なので、今年そのウルスス村で現れたのかも知っている。


「今年ウルスス村で成人の儀を受けたのは全部で四人。わたし、ビリー、アルト、そして……………セリナ」
「え………?セリナさんって…………賢者の……?」


 エリーゼが頷く。そして言い辛そうな、苦しそうな表情を浮かべて続きを話した。


「アルトとセリナは…………恋人同士なの」


 ノエルの手からフォークがコトリとテーブルに落ちた。



■■■



 ソワソワしていた。お互い、相手の瞳から目を離せない。
 こんな状況でなかったら抱きしめ合い、唇を重ねていた事だろう。しかし今の状況はそれを許さない。


「ひ、久しぶりだねアルト………げ、元気だった……?」
「う、うん。セリナこそ………元気そうで何よりだよ」
「あ、ありがとう………」
「いや別に…………」


 お互い見つめ合うのだが、何やら言葉が続かない。もしも二人きりならもっと会話も弾むのだがーーーーー


「はぁ………何だかお見合いしているみたいね。セリナはさっきの勢いは何処へ行ったの?」
「はっはっはっ、僕達も居るから緊張しているんだよ!」


 そう、ここは馬車の中。セリナを連れ戻しに来たフィリアにアルトも一緒にと誘われて、現在はこうして勇者一行の馬車に乗っている。
 そしてアルトを見て我を失っていたセリナは落ち着きを取り戻したのだが、その瞬間急に恥ずかしくなってギクシャクとしている。


「あの………すみません俺まで一緒に」


 アルトがセリナから視線を外し、アリオンに頭を下げる。


「いや、構わないさ。君はセリナの大事なお客様だ。ならばこちらも丁重におもてなししないとね」
「はあ…………」


 お客様。何やらアルトの中で引っかかる言葉だった。自分とセリナはそんな他人行儀な関係ではなく、恋人であり許嫁だ。未来の家族なのだ。


「ア、アルト、王都にはいつ着いたの?」


 少しでもアルトと話がしたくて、セリナはアルトに声を掛ける。視線を外されて寂しい気持ちになってしまったのだ。


「ああ、うん。今日着いたばかりなんだ」
「え、ホントに?」
「うん。まさかいきなりセリナに会えるなんて思ってなかったから………驚いたよ」
「うん………わたしも………」


 再び見つめ合う二人。しかし、やはり周りの目が気になってしまう。


「お、王都はどうアルト?」
「凄いよね。って言ってもまだ冒険者ギルドにしか行ってないんだけど。そこで”剣王”って人に会ったんだ」
「あら、剣王レグレス様に会ったの?わたしとアリオンはあの方に剣の修行をつけて貰ったのよ」
「そうそう、強いよねあの人は。剣技だけだと未だに勝てる気がしないよ」


 サージャとアリオンの話に驚くアルト。まさか勇者と剣聖の剣の師が、ギルドマスターのレグレスだったとは思ってもみなかった。勇者や救世の三職の称号を持つ者は、誰に師事する事なく勝手に強くなると思っていたからだ。


(もうアルトったら………わたしももっといっぱいアルトとお喋りしたいのに………)


 アルトがサージャやアリオンと話し始めて、少し不機嫌になるセリナ。せっかくこうして会えたのだから、もっと自分を見て欲しい。もっとお喋りがしたいと。

 そんな中、フィリアは終始無言だった。いつもの優しい微笑みを浮かべ、アルトやセリナの話を黙って聞いていた。
 せっかくセリナが愛する人に会えたのだから、邪魔をするなど無粋だ。今はアルトとセリナの時間なのだ。
 それに、アルトとは後でゆっくりと話がしたい。今の自分とセリナの関係。セリナのアルトへの変わらぬ想いと、セリナがどれ程の苦しみを乗り越えて来たのか。

 そんなセリナは、今夜はいっぱいアルトに甘えようと心に誓う。もう処女では無いが、その事情をきちんと説明し、それを理解して貰った上で改めて今夜、アルトに抱かれたい。
 フィリアとの事もきちんと説明し、どれだけフィリアに救われたのかを分かって貰いたい。

 アルトはアルトで、ようやくセリナに会えたのだから、とにかく彼女に勇気をあげたいと思っている。そして、セリナが魔王を討伐して帰るまで、いつまでもこの王都で待ち続けると約束し、セリナを抱きしめたい。
 変な事ばかり考えて不安になっていた事も告げて、二人で笑い話にしたい。そして今夜、セリナと結ばれたい。あの日最後まで出来なかったその先をーーーーー、続きをしたい。

 
(さて、今夜が楽しみだね。彼はきっと絶望に耐えきれず…………)


 心の奥底でほくそ笑むアリオン。わざわざ邪魔をしに来た目の前の男を、アリオンは決して許さない。せっかく最近セリナは夜伽の最中も快感に身を委ねる様になってきたのに、アルトとの再会でまた嫌々されるだけの、つまらないセリナに戻ってしまったらどうしてくれると言うのか。


(今さら君の出る幕など無いんだよ。)


 それぞれの思惑を胸に、馬車は勇者邸へと到着する。
 成人の儀で狂い始めたアルトとセリナの運命。そんな二人の運命を決定づける事になる勇者邸へとーーーーーー




 
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