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聖女の章

42.青空の下

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 アルト達がグレノールの街を出て三日目。

 新たな仲間であり、パーティメンバーでもあるレック、サリー、ノエルを加えた王都への旅路は順調に進んでいた。


「そうだ、別に力は要らないからある程度は馬の好きに歩かせてればいい」
「う、うん」


 この日、御者席に座るのはレックとエリーゼ。馬が二頭になったので、御者も二人で行う事にしたのだが、何故この二人が御者席に座っているのか。

 
「俺とサリーは御者の経験がある。ビリーにだけ任せるのは悪いから分担しよう」


 グレノールを街を出発する際にレックが発した言葉。それを聞き、自分だけ何の役にも立てないと思ったエリーゼが、御者のやり方を教えて欲しいとビリー、レック、サリーに頭を下げた。
 それを聞いたノエルも、自分も大して役に立たないから教えてと、レックの腕を引っ張った。
 更に、エリーゼとノエルが教えを請う事で自分だけ御者を務められないと思ったアルトも、三人に頭を下げた。


 こうして、御者の経験があるビリー、レック、サリーの三人が、御者の経験が無いアルト、エリーゼ、ノエルの三人に御者として馬の扱いを教える事となったのだ。
 そして現在はレックがエリーゼの隣で、手綱を握らせている。


「そうだ。変に力をかけると馬にとってストレスになるからな。引っ張り過ぎず緩め過ぎずだ」
「うん。この三日でだいぶ分かって来たかも」


 レックにそう答えながら、内心では少しレックを意識するエリーゼ。
 あのグレノール最後の夜、レックに濃厚なキスをされ、レックの陰茎ペニスを口に含んで愛撫し、レックに愛撫されて盛大に潮を吹き、レックの大きい陰茎を挿入されただけで絶頂に達し、最後には膣内に射精までされた。
 
 射精されたレックの精液は、ノエルが【天浄魔法】という魔法で精液内の子種を浄化してくれた。そのお蔭で子を宿す心配は無いらしい。いつもサリーがレックに中で射精された時に使用して貰っているのだとか。

 あの日の行為は、今でも思い出すと顔が真っ赤になってしまう。とにかく恥ずかしくて、とにかく気持ちが良かった。気持ちが良すぎた。
 ビリーと何度も身体を重ねたが、あんなに気持ちの良い性行為は初めてだった。ビリーには悪いが、彼の我武者羅なだけの行為の比ではない。
 
 
(うぅ………何か緊張する………)


 あの時全身で感じたレックの肉体。ひ弱なビリーの身体とは違い、厚い胸板、硬い腕、割れた腹筋。あんな身体に抱かれて、たかが十五歳の女が意識しないなんて無理だ。どうしたって惹かれてしまう。


「ん?何か変に力が入ってるぞエリーゼ。ほら、これぐらいの力加減だ」


 突然レックがエリーゼの手に自分の手を重ねる。そしてエリーゼの手に重ねた自分の手で手綱を操作した。


「ひゃっ!?」


 思わず変な声が出るエリーゼ。しまった、聞かれてしまったと頬を染める。


「ああ………悪いな。もしかして俺を意識してたのか?」
「え………?うぅ………あの………」


 俯くエリーゼ。否定しなかったので、レックには肯定として受け取られてしまっただろうか。


「そうか。まあ、男としては嬉しい限りだ」
「うん………」
「でもお前は、ビリーの恋人なんじゃないのか?」
「ち、違うよ!あれはビリーが勝手にそう言ってるだけで!」


 そう、初めてレック達に出会った日の夕食時に、ビリーがエリーゼを恋人だと言った事を未だに全員信じている。いや、何やらサリーは気付いているのだが、レックは特に疑ってはいない。


「ほら、また力が入ったぞ」


 すかさずレックがエリーゼの手の上から手綱を緩める。先ほどから、レックはずっとエリーゼの手を握っていた。


「ごめんなさい。って、そう言うレックさんだってサリーさんが恋人なんじゃないの?」


 聞けば、もう三年も一緒に冒険者をやっているらしい。そしてあの日の夜の会話の所々に、二人がだと言わしめる台詞があった。


「いや、俺とサリーは恋人じゃない。今さら隠しはしないが、もちろん何度も行為はしてる。だがな、お互い好きな時に好きな相手と同じ事をしてるんだ」
「え…………それって………」


 恋人では無い。しかし性行為はしている。それはまるで、自分とビリーの様な関係ではないか。


「そうだ。お前とビリーが恋人同士じゃなく行為に及んでいるのと同じだ。まあ、俺は今の今までエリーゼとビリーが恋人って事に疑いを持ってなんかいなかったが………」
「やっぱり………変なのかなわたし達………」


 そういう事は、普通は恋人同士でする事だ。しかしエリーゼもビリーも、そしてレックやサリー、ノエルですら、好きでも無い相手と快楽だけを共有する為に行為に及ぶ。それが正常なのか異常なのか、エリーゼには分からなかった。


「俺とした時はどうだった?」


 唐突にレックがエリーゼに訊ねてきた。そんなの、答えるまでも無い。口を開く代わりに顔を真っ赤に染めるエリーゼ。それが答えだった。


「俺がまた誘ったら、お前は断るか?」


 その質問はとても恥ずかしかった。しかし、身体中が熱くなり、あの日の事を思い出す。あの快楽をまた経験出来る。そんなの、断れる筈が無い。
 エリーゼはふるふると、首を横に振る。もしもまたレックに誘われたら、必ず彼を受け入れてしまう。


「それなら、もしお前に恋人が居たらどうだ?恋人が居たら俺の誘いを断るか?」


 恋人。自分にとってその願望の相手はアルトだけ。もしもアルトが恋人なら、絶対に他の男とそんな関係にはならない。
 仮にアルトがレックよりも自分に快感を与えてくれなくても、そんなのは関係ない。アルトの全てが好きで、アルトと一緒に居られるだけで幸せなのだ。
 アルトに性欲が無く、してくれなくてもいい。ただアルトのそばに居たい。だから、エリーゼの答えは当然のものだった。


「うん、断る。恋人が居たらレックさんとはしないよ」
「そうか。なら、お前は少しも変じゃないぞエリーゼ。今のお前は恋人が居ないから、誰としようがお前の勝手だ。そんなのは、世の中の、大半の奴らがそうなんだよ」


 エリーゼの手を握りながら、レックがエリーゼの目を見る。


「そう………なの?みんな同じ事をしてるの……?」
「みんなって言うと語弊もあるが………恋人が居ない奴は恋人じゃない相手と、恋人がいる奴は恋人と、それぞれ身体を重ねている。それがお前の言う普通だ。もちろん、そういう行為は恋人とだけって奴も大勢居る。つまりな………」
「…………人それぞれ……って事………?」
「だな。個人の価値観で大きく違う事だ」


 その言葉に救われた気がしたエリーゼ。つまり自分が異常では無いと言う事。他にもそういう者は大勢居て、もちろんそうじゃない者も大勢居るが、どちらにしてもそれがエリーゼの言う所の普通。


「わたし………レックさんに都合良く丸め込まれて無いよね?」
「………どうだろうな。正直に言うと、俺はお前とまたしたい。だから適当な事を言ってるのかもしれないぞ?」


 クスクスとエリーゼが笑う。このレックという男は、何処までも馬鹿正直だ。そんな画策までして本懐を遂げようなどとはしない。


「ねぇレックさん」
「何だ?」


 エリーゼがレックの目を見る。そして、目を閉じた。
 そんなエリーゼの唇に、レックの唇が重なる。青空の下、誰にも見られない御者席で、エリーゼとレックは唇を重ねたのだった。








    
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