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賢者の章

29.パーティ

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「それで……ギルドマスターに稽古をつけて貰ったと……?」


 グレノールの宿屋、その食堂で昨日同様アルト、ビリー、エリーゼの三人は、冒険者のレック、サリー、ノエルと共に夕食の席を囲んでいた。

 二日酔いの為、今日一日体調の優れなかったエリーゼも、ようやく回復して皆と一緒に夕食を食べている。そこで聞かされたのは、今日一日のアルトの話。


「はい。冒険者としての基礎や闘気の事など、実戦を交えながら教えて貰いました」


 嬉しそうに語るアルトを見ながら、レックとサリーが信じられない様な表情を浮かべて、お互い顔を見合わせる。
 三年間この街で冒険者をやっているが、ギルドマスター直々に手ほどきを受けた者など、今までに聞いた事が無い。とは言え、アルトが嘘を言っているとも思えず、困惑した表情だった。


「まあ……お前の話を聞けば、その人が本物のギルマスだって事は分かるんだが………」
「あのギルマスがねぇ………豪快な人だけど、自分から誰かに何かを教えるなんて……信じられないわね」


 もしかしたら違う人物ではないかと思い、その人物の事をアルトに詳細に話して貰ったが、確かに自分達の知るギルドマスターの人物像に違いが無い。


「あ、そう言えば冒険者の証も貰いました。このプレートです」
「ほうどれどれ………………はっ?」
「……………嘘でしょ?」


 アルトが懐から取り出したのは、紛れもなく冒険者の免許ライセンスである冒険者プレート。それはレックもサリーも見慣れた物だったが、アルトが取り出した冒険者プレートを見て、二人は驚愕の表情を浮かべる。


「お、どれどれ、俺にも見せてくれ!」
「わたしも!」


 ビリーとエリーゼも、レックが手にした冒険者プレートを覗き見る。そのプレートには『D』と掘られていた。


「へぇ、これが………おめでとうアルト」


 エリーゼが頬を染めながらアルトに祝辞を述べると、アルトは嬉しそうに「ありがとうエリーゼ」と返した。それだけで嬉しくなってしまうエリーゼは、照れ隠しに再びプレートに目を落とす。


「お前これ………マジかよ……」
「いきなりDランク……?信じられない………」


 アルトの冒険者プレートを見ながら、レックとサリーが相変わらず驚愕の表情を浮かべている。このプレートの、一体何が二人を驚かせているのか。


「え………Dランクですか!?」


 ノエルも驚きのあまり大きな声を出す。普段から静かなノエルがこれほどの声を上げるのだから、ビリーもエリーゼもいよいよ只事ではないと察する。


「ん?何か問題あるんすか?」


 ビリーがレックに訊ねると、レックが溜め息をつく。そして、冒険者プレートについて語り始めた。


「冒険者っていうのはな、ランクがあるんだ。最高がSランクで次がAランク。そこからBランクCランクと下がり、最低はFランクだ」


 ふむふむと頷くビリーとエリーゼ。話の続きをサリーが引き取る。


「誰でもね、冒険者になった最初はFランクからスタートするの。それで経験と実績を積み重ねて、次のEランクに上がるのは大体半年から一年の間くらいね」


 結構掛かるんだな、と言うのがビリーとエリーゼの率直な感想だった。すると、今度はノエルが口を開く。


「わたしも冒険者に成り立てなので、まだFランクです。これがわたしの冒険者プレートです」


 そう言って、ノエルが自分の冒険者プレートを取り出す。ビリーとエリーゼがノエルのプレートを見ると、プレートにはFと掘られていた。つまり、プレートに掘られているアルファベットが、今の自分のランクだと言う事。


「へぇ……これがノエルの………んん?」
「ぇ………って言う事は………」


 レック達の驚きの意味を、ようやく理解するビリーとエリーゼ。そう、つまりアルトはーーーーー


「いきなりDランクからスタートって訳。あたしも冒険者三年やってるけど……そんなの初めて聞いたわ」
「俺もだ。しかも試験すら受けずに合格を言い渡されたってか?アルト、お前は一体何者なんだ?」


 ポリポリと頬を掻くアルト。何者かと問われても、田舎の村出身の新米剣士としか言いようがない。他にあるとすればーーーー


「師匠の教え方が良かったとか……?結構修行厳しかったし辛かったし」


 思わず全員脱力する。そんな事でDランクからスタート出来るなら、世界中の冒険者を目指している者がその師匠に弟子入りに行くだろうと。


「お前の師匠が何者なのかは知らねえが………まあ、これで俺も踏ん切りがついた」


 そう言いながらサリーとノエルに視線を送るレック。サリーは楽しそうな顔で、そしてノエルは真剣な表情で頷いた。


「なあアルト、お前……俺達とパーティを組まないか?」
「…………え?」


 あまりにも突然なレックの言葉に、思わず口に運ぶ途中のスプーンが止まるアルト。そのまま一度スプーンを戻す。


「えっと……パーティって事は……俺もレックさん達と一緒に行動を?」


 レック、サリー、ノエルの三人はパーティを組んでいて、このグレノールの街を拠点に冒険者活動をしている。なので、アルトがレック達とパーティを組むと言う事は、アルトもまたこのグレノールを拠点にすると言う事だ。


「そりゃあ、パーティなんだから一緒に行動するのが普通だな」


 考えるまでも無く、アルトの答えは決まっていた。


「ごめんなさい。俺は………王都に行かないといけないんです。だからこの街で冒険者をする訳には………」


 セリナが待っている。一刻も早く王都に到着しなければ、セリナが魔王討伐へと旅立ってしまう。
 そうなる前に、セリナに会いたい。会わなければならない。会って、セリナに元気を、勇気をあげたい。セリナに冒険者になった事を伝えたい。
 そしてーーー、ずっと待っていると、だから安心して行って来いと伝えたい。
 

「知ってるよ。お前らが王都を目指してるって、昨日此処で飯を食いながら聞いたじゃねえか」


 レックが不敵に笑う。そんなレックに首を傾げるアルト。知っているのに勧誘して来たというのだろうか?


「実はな、俺達もボチボチこの街を出ようと思ってな」
「…………え?」
「まあ何て言うか………俺達も先に進もうって訳だ。サリーもノエルも、俺に着いて来るって言ってくれた」


 二人が目を覚した後、レックが自分の考えを二人に打ち明けた。
 この街で冒険者をしている限り、衣食住には困らない。だが、一生この街を拠点に冒険者を続けるつもりは無い。
 もう経験も実績も充分に積んだ。だから、次のステップに進みたいのだと。もっと、冒険者としての高みを目指したいのだと。

 レックの予想通り、ノエルは直ぐに了承して来た。実の妹であるノエルは、レックの傍以外に行く所も無い。見知らぬ誰かとパーティを組む選択肢も、ノエルの中には無かった。

 問題はサリーだった。サリーは実力もあるし、顔もスタイルも良い。レックのパーティを抜けても引く手数多だ。この三年間同じパーティで要られたのは、お互い性欲が強く、身体の相性が良い事。しかし恋人では無いので、お互い好きな時に好きな相手と遊べた事。それに対して嫉妬も文句無い、付き合いやすい関係だった事。

 つまり、サリーにはこの街を離れてまでレックに着いて来る絶対的な理由など無い。そうレックは思っていたのだがーーーー


「あら、いいじゃない。王都なんて賑やかで楽しそう」


 意外にも、サリーは楽しそうにそう答えた。



「いいのか……?この街に不満は無いんだろう?」
「そうねぇ……不満は無いけど王都への憧れはあるかな?だからあたしも一緒に行くわ」


 その瞬間、三人でグレノールを出る事が決まったのだ。そしてレックの提案は、アルトをパーティに引き込み、アルト達と共に王都を目指そうという事だった。
 この提案に一番喜んだのがノエルだったのは言うまでもない。今後もアルトと一緒に行動出来るかもしれないと、頬を染めながら喜んでいた。


「どうだ?俺達とパーティを組んで、一緒に王都を目指さないか?役に立つぜ俺達」


 レック、サリー、そしてノエルがアルトの返事を待つ。
 王都へ向かうのであれば、アルトに異存など無い。戦力も増えるのであれば、それは願ったり叶ったりだ。そう思ってビリーとエリーゼを見るとーーーー






 二人共、笑顔で頷いた。やはり旅は賑やかな方が良いに決まっているのだ。


「分かりました。その話、こちらこそ宜しくお願いします」
「良し!決まりだなっ!」


 顔をプルプルさせながら喜ぶノエル。両手を上げて叫ぶビリー。宜しくねぇと言いながらエリーゼと乾杯するサリー。そしてーーーー


「出発は明日だよな?」
「はい。多分昼前くらいになるかな………人数増えたし」
「ははは!そうだな、特に女共の物は色々と買い揃えて行かないとな」


 そして互いのグラスをカチンッと鳴らすアルトとレック。

 ウルスス村を出る前は一人で王都を目指そうと思っていたアルトだが、いつの間にか六人の大所帯になってしまった。
 しかし何人増えてもアルトの目的は変わらない。王都へ行き、セリナに会う事だ。


(セリナ………待っててくれ)


 今日は昨日よりも少しだけ多く酒を飲むアルトだった。








 
 

    
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