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 ―――そういえばこの世界は幽霊が割と可視化されるもんなんだっけ。

 幽霊になった気分……? ヘンな感じ。ふわふわしてて、半分眠ってるような。寂しくて、ちょっと不安。霊界が無性に恋しくなるんだ。だからみんな、大人しく列車に乗るのかな。



「よいか。必ず俺と同化してから、主の魂を食らうのだぞ。でなければ後悔するからな」



 誰の、声だっけ? わかんない……なつかしいかんじ。

 ああ……でも、そうだ。俺は邪神と契約、して。だから霊界には行けないんだ。邪神に食われて消える運命だったんだ。

 でも不思議と後悔はしてない。これでいいんだ。俺、これで……



「順序など、どうでもよかろうに」



 誰かの声がまたする。同じ声だけど、違う誰か?

 煩わしそうにしながら、暫くして――――



「……おお」

「おお………」

「おぉおおおおお!!」

「何たることじゃ、我にとってそなたが全てだったのに。どうして勝手にくたばったのじゃ。この衝動をどうしてくれるのじゃ!!」

「こんな知識、こんな感情知りとうなかった」

「いやじゃ、いやじゃ、失うのはいやじゃ……!!」



「いやじゃぁあああ!!」



 俺の意識が浮上していく。

 同時に感覚も少しずつ。頭、胸、肩、胴、手足。

 すっかり体が出来上がり、くたりと崩れそうになったところを、大きな……俺をすっぽり覆ってしまうほど大きな手が俺を包んだ。

 泣いているのはミクラエヴァだった。ミクラエヴァの、本霊だ。

「エヴァ……?」

「ひどい、ひどいひどいひどい!」

「うえげげ、エヴァ、つぶ、つぶれ、」

「そなたは我のものじゃ! 我の主じゃ! 死ぬことなど許さぬ!!」

 エヴァは泣いて泣いて嘆いて嘆いて、大変だった。

 そりゃ覚えてて欲しいとは思ったけど、ここまで分霊の、俺のエヴァとシンクロしちゃうなんて予想外だった。

「エヴァ、ごめん。ごめん」

「謝ったって許してやらん! もう絶対に絶対に、死なせてやらんからな!!」

「わか、わかったって」

「わかっとらんじゃろうが! 死ねない体にしてやったと言うとるんじゃ!」

 死ねない……体?

 そういや死んだような気がするのに、なんで今ここに体があるんだ? ミクラエヴァが体を作ったってのか。それも死ねないやつを。邪神ならそのくらい出来そうではあるが……

 ミクラエヴァ本霊は、くすんくすんとその巨体で可愛らしく泣いて、俺を頬に寄せた。

「エヴァ……」

 俺は彼の瞼に触れる。

「こんなに大きいと抱きしめられないよ、エヴァ」

 言うと、エヴァはしゅるしゅると小型化した。分霊と同じ姿になって、口を尖らせ、泣いている。かわいい……その長身を抱きしめた。

「契約、終わったから。俺の魂はお前のものだよ、エヴァ。好きにしてくれて構わない」

「ずっと側にいてくれるのじゃな?」

「はは」

 ずっと昔に俺がエヴァに願ったことを口にするエヴァに、俺は苦笑した。

 こうして俺は、人ではなくなった。



 神殿では俺の葬儀が行われていた。わあ、コントかな?

「……あれ?」

「え?」

 という人々の声を聞きながら、棺が運ばれる葬列の真ん中をエヴァとさかのぼってく。

「え?」

 先頭を歩いてた神官の爺ちゃんにきょとーんとされた。リンカーが俺と棺を二度見して、思わず棺開けちゃったよ。

「死体あるじゃん!」

「あ、うん」

「お前そこにいるじゃん!」

「うん」

「何があった!」

「いやエヴァが……これ本霊なんだよ」

「ふぁー!」

 ほんと「ふぁー」だよな。ミクラエヴァ本霊はにっこにこしながら俺の後ろに立っている。以前の面影は俺のエヴァに呑み込まれた感じ。

「我とぉ、主はぁ、永遠に一緒なのじゃぁ」

 幸せぼけしたミクラエヴァが俺に抱きついて頬ずりをする。もう好きにしてくれ。俺はお前のだからな。

「まあ分霊は? こうなることを予想していたようじゃが? 我が短気を起こして先に主の魂を喰らってしまう可能性も考えていたようじゃの。後悔をすると己に注意された上で先に食うほど我も愚かではないからの。

 それに強く影響を及ぼさない可能性も案じておったようじゃ。杞憂だったがの」

 エヴァの分霊からすれば賭けに等しかったろうな。本霊はあの調子だったしさ。

 でも結果はこれ。いっそ前より酷いんじゃないかってほど、でろでろのめろめろ。大図書館では着せ替え人形にされたし、気が済むまで抱きしめられたし。俺はその間、死んだ目をしていた。

「皆の衆! デルヘイアを封印するにはまだまだ信仰が足らんぞ! この調子ではあと数十年から数百年はかかるの」

 そんなかかるのかよ! 二年程度でへばってたぞ、俺。

 道理でデルヘイアも本気で潰しに掛かって来ない訳だ。時間はたっぷりあるんだから……

「あるじ。仇敵打倒、がんばろうの」

 語尾にハートマークの散る笑顔に曖昧な笑みを返しながら、でも満足を得ていた。

 俺のエヴァは本霊の中に混じり、本霊が俺のエヴァになった。もしこの結果が得られなければ、永遠を生きるエヴァを永遠に一人ぼっちにするとこだった。

 それこそ、デルヘイアの攻撃なんか目じゃない最悪の結果だったんだ。なんで気づかなかったんだろう。

「ずっと一緒だ、エヴァ」

 ささやくと、エヴァは顔を真赤にして、涙目になり、こくんと恥ずかしそうに頷いた。

 俺とエヴァは、ずっと側にいる。永遠に。

 愛してるよ、俺だけのエヴァ。





いちおうのおわり

→同人誌エヴァ視点、その後のラブ生活につづく
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