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 生き物は負の感情を抱くと、そのエネルギーがネファーとして大気中を漂い、それが集まるとネファスという怪物に変化する。その前に霊や邪神に食われることも多いんだけど……

「この街はネファーで穢れきっています。定期的にネファーを集めネファス退治をしなければなりません」

「ネファスを、故意に作っているのか」

「はい。そうしなければ、ネファスが出現する位置がわからず、街に被害が出ます。その前にこちらからネファスを生み出し、討伐してしまうのです」

 なるほど、よく考えてるな。

「で、なんでそれが魔法少年?」

「はじまりは強靭なスタッフを集めてハントを行っておりました。しかし、強面の男が街中でネファス狩りをする様子というのは大変ウケが悪く、苦情が耐えませんでした。

 かといって人気のない場所ではネファスを作り出しにくく……

 ですので、かわいい子を集めてネファス狩りショーとして披露したところ、これが大衆にバカウケしましてウッハウハ」

 そんな文化があったんだな、この魔法都市に。そのへんの記憶あんまねえや、勧誘されてたらしいのに。

「ときおり街の一角が結界で封鎖されて通行止めになるぞ。覚えていないのか」

「いやまったく。欠片も思い出せねえ」

「はは……豪気な御方ですなあ。さすがアラスの秘術師。さて、スタッフを紹介いたしますので、どうぞこちらへ」

 またエレベーターで移動。今度は降りてる。フロアにつくと、ガラス張りの部屋がいくつかあって、何かの規則で分けられているようだった。

「こちらが容姿を基準に選んだ少年たちで、こちらが容姿はそこそこで実力のある少年たち、こちらは容姿と実力のある成人スタッフの部屋です」

「なんでそんな分け方を?」

「喧嘩になりますので……」

 あー、容姿だけで金貰ってるやつと、実力のある奴が同じ給料じゃ割に合わんわな。でも容姿だけのやつの人気でこの会社が支えられてるところもあると。

 俺は成人スタッフのほうに合わせられた。こちらは社員なのでガキと違ってわきまえた落ち着いた雰囲気。

「どうも、派遣で来たアラス出身のリズアル・ロス・サンザルムです」

「お噂はかねがね」

 長い金髪をオールバックにした美青年が甘く微笑んだ。女性ならイチコロだろう。でもエヴァのほうが綺麗だしな……

 そう、ここにいる美青年スタッフ、みんな華々しい美形だけどエヴァのほうが綺麗なんだもん。驚きはねえわ。

「実力のある方は歓迎です。何しろ我々「華麗に」勝たねばなりませんので」

 金髪が苦笑する。ヒーローショーを気取ってる手前、生々しい怪我や敗退は許されないんだろう。

「少年スタッフは学業の合間に働いている子が多く、まだ修行中の身なので守らねばなりません。つまり彼らを守りながら華麗に勝つのが我々の仕事です」

「大変ですね……」

「もう慣れました」

 ちょっとやつれて見える。可哀想……就職しなくてよかった。

「リズアルさんは初めてとのことで、見栄えのよい戦い方を身に着けて頂きたい。修練室のほうへどうぞ」

 そんなことまで気にして戦わなきゃいけないのか。胃に穴あきそー。社会人って大変。

 奥の修練室は結界が張ってある広いホールだった。

「まず何か術を軽く使用してください」

「こうですか?」

 適当に手を差し伸べて治癒のトーテムを呼び出す。

「もっと優雅に手を差し伸べてください。スッと出すのが理想です」

「こ、……こうですか」

「はい、少しゆっくり、余裕を持って。どんなにピンチでも優雅さを忘れずに。間違っても歯をむきだしに踏ん張ってはいけません。そんな顔をしたが最後、翌日ファンの手によって大判ポスターが作られます」

 めっちゃくちゃ嫌だなそれ! ファンっていうかアンチじゃねえか!? 街の平和のために命かけて戦ってるヒーローに対してその仕打ち。酷すぎる。

「ミクラエヴァ様にも本当は練習していただきたいのですが、邪神に対して失礼にあたるかと……」

「別によいぞ。主のためじゃ。それに俺は常に優雅さを心がけておる。今更じゃな」

 エヴァは(俺以外の全てに)乱暴だけど確かに優雅ではある。ミクラエヴァ本霊も知的で品のいい邪神だしな。

 近接系のスタッフと寸止めの軽い組み手をやったが、舞うように鮮やか。俺のエヴァが美しい。でも俺に危害を与えた奴にえげつない。

 俺のほうも優雅に見えるコツを色々教えて貰った。手を翳すときの指の位置。指先をそらすようにして小指と薬指を落とす。他にもローブの裾さばきとか、足さばきとか、立ち姿とか。

「よいぞ主、美しいぞ!!」

 やめてくれ……発表会の練習を親に応援されてる気分だ。

 その日は練習だけで終わって、金貰った。教わるだけで金もらってよかったんだろうか、しかもかなりの額だ。なんか申し訳ない。

 明日は仕事があるんで、次の派遣ではネファス退治についてくことになったら。

 そしたらですね。

 街中にポスター張ってあんですよ、練習中に撮影されたらしい一枚で、

「アラスの秘術師、ついに参戦!? 魔法少年結社」

 っていうのが。はっずっかっしっいぃい!

 ポスター見て赤面してるのを通行人に二度見されたから、エヴァの背中に隠れた。エヴァ盾べんり。俺の心のシェルター。

 とりあえずパーカーのフードを深く被り、職場へいった。

「あんた、ついに魔法少年結社入ったって?」

「もう知ってるんですか……派遣ですよ」

「内定もらってたんでしょ? あっち行けばよかったのに。あんたがいて助かることも勿論あるけど、ほとんどの場合過剰戦力なのよね……あんたレベルの術士を雇えるような職場じゃないの、うちは。

 それこそ派遣で来てほしいくらいよ」

「切り替えましょうか?」

 別に社会保障とかあるわけじゃないしな、この世界。バイトや派遣のほうが切り捨てられやすいってデメリットはあるけど、他でも働けるみたいだし。

「じゃあ新しいの雇うから、それまではいてよ」

「わかりました。で、今日は?」

「いつもの。復讐よ」

 ほんとこの案件多いな。どんだけ理不尽が横行してんだこの街は。

 ただ、ほんとたまーに、例の悪夢事件みたいなものあるから、そういう時は大学院までいった術士がいると便利なんだろうけどな。俺は相談役くらいでちょうどいいのかも。



 次の派遣の日、オフィスに行こうと思ったら四足のナマモノ車両が迎えに来た。

「すでにリズアルさんを一目見ようとファンがいるので……」

「そ、そうですか」

「大型新人が出るといつもこうですよ。リズアルさんはもともと有名でしたし、容姿がいいので……」

 四足が街中をテッテッテと走ってく。ヘンな乗り心地。日本で車に慣れた身には何とも言えない。

 オフィスの周辺には様々な種族で溢れかえっていた。警備スタッフが出て道を開けている。ねじ込むように入る間際にいっぱいフラッシュ焚かれた。

 あの……俺、派遣で仕事に来ただけだよね?

「今度から鳥に乗って屋上に来ますよ」

「鳥で登場、いいですね。今回も現場までそれでいきましょう」

 行くのかよ。

 オフィスにつくと、入り口近辺に少年が四人ほど並んでいた。

「こちらが今回、リズアルさんに面倒を見ていただく少年たちです。これが一番人気で看板のカヴィルで」

「チッ」

 なんかえらい美少年に舌打ちされたぞ今。なんだこいつ。

「こちらがショナー、エイリ、ロスクス」

「よろしくおねがいします!」

 素朴少年系たちが目を輝かせて俺を見上げた。か、かわいいー。子供って顔がいいより、こういうののほうがよくないか? 子犬みたいなさあ。

「サポーターとして私、ヘンリオがつきます」

「よろしく、ヘンリオさん」

 オールバック金髪の人ね。この人はほっとするわ。

「連携とか練習してないけど、いいのかな」

「子供たちはまだ、そのレベルに達してないので……本日は中型のネファスを召喚しますし、もしかしたら一瞬で終わるかもしれません。お前たち、プロの戦い方をよく見ておくんだぞ」

「はあい!」

 他の子は元気に返事してるが、カヴィルだけは態度が悪かった。

 他の子は車で、俺とエヴァはカロで行くことになった。場所は地図で把握してるし、結界を張って道を封鎖し、人だかりができてるからすぐ分かる。

 それにしても、ネファスが発生しやすい場所を特定して、ネファスを呼び、強固な結界を張る……スタッフのほうがずっと地道でハイレベルな仕事をしてる。俺も裏方に回りたかったな。

 結界を張り終える前に中へ降り立つと、周辺から歓声があがった。ここで転落したら台無しだろうな。用心深く降りて、カロを戻す際に指を鳴らした。不要な動作なんだけど、こういうのがウケいいんだってさ。

「リズアルさん、ぼくがんばりますっ」

 と言ったのは、煌めく笑顔のカヴィロ。プロだな。さっきまで「死ねよクソが」って顔してたのに。

 黒ローブに覆面の裏方スタッフがネファーを呼び集め始める。今回は中型か……ネファス狩りは実は初めてだけど。

 黒いもやのようなものが集まってきて、それが形を成していく。影みたいな、牙の生えたまるいうさぎのような、なんとも言えない異形だ。

 ただ、様子がおかしい。

「……おい、ネファーを集め過ぎだ」

 サポートのヘンリオさんが止めるが、覆面スタッフはネファーを大量に集めるだけ集めてさっと結界の外に逃げてった。

 俺たちの前にいるのは、聳え立つように巨大なネファス。

「フフン」

 背後でカヴィルの笑い声が聞こえた。お前の仕業か!?
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