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 仕事の合間に学校へ通い、かなり力をコントロールできるようになってきた!

 実戦もしてみたいが、まずは……

「今日はミクラエヴァ本霊に会えないか? それともいま忙しいかな」

「ふむ。問題ないと思うぞ。ただ取り合ってくれるかが問題だが」

 エヴァの心配は挫かれた。

「デルヘイアめが……! 我が分霊を狙い刺客を差し向けおる!!」

 どうもデルヘイアはミクラエヴァを重点的に狙っているらしい。

 混沌側が秩序側に喧嘩を売ったなら、戦争になる。でも一邪神が一邪神に喧嘩を売るなら他の神はノータッチなんだと。

 それであんなビラを撒き、俺の訪問にも応じてくれた。

「俺もエヴァを―――あんたを守りたい。ビラを受け取った奴らもどうしたらいいか途方に暮れてると思う。どうしたらいい?」

「まず我が神殿を建てよ」

 ミラクエヴァの指示がいきなりキャパオーバーだった。一般庶民なんですけども俺。小屋建てるのがせいぜいの貯金しかねえよ。

「神殿を建て、信徒を増やせ。さすれば我が力は強まり、デルヘイアを封印してみせようぞ」

「あのー、そのための資金援助とか……」

「金? くだらぬ」

「人間社会は金がないと動かんのじゃ」

 エヴァが援護してくれた。同じ存在でも経験が違うと意見が変わってくるんだな。面白い。

「だからと言って我に何をしろと? 我が資産といえば蔵書しかない」

「せめて部下くらい貸してくれてもよかろうて」

「貴様らにさほどの価値はないわ。期待すらしておらん。功績を上げた者にのみ褒賞を与える」

「そんなこと言っていいんかの」

 エヴァはニンマリ笑った。

「主は既に大きな功績を上げておる。貴様が涎を垂らして欲しがるものを献上する予定だぞ」

「我が? 我が欲するものなど……」

「我々は知の神。欲しいものなど知識に決まっておる。

 主が死に、俺が貴様の元に帰ったとき、何が手に入ると思う? 貴様が得たくとも得ることのできない……愛と恋の知識じゃ」

「………」

 ミクラエヴァの表情が少し変わった。驚きと興味……だろうか。不審そうでもある。

「俺を見ろ。このように自我が育った例があったか? 愛や恋を与えてくれた契約者がいたか? 我が主はもっと優遇されるべき存在じゃ」

「ふん。一抹の価値はあるようじゃな」

 ミクラエヴァが手を差し伸べ、召喚陣を呼び出すと、そこから黒いシルクハットにモノクルの男が現れた。う、胡散臭ぇ。

「オルヒュめをお呼びなさいましたか、我が神」

「この男は人間の金集めに興味が強くてな、貴様らの役に立つであろう。オルヒュよ、この者に仕え我が神殿を現世に建てるのじゃ」

「仰せのままに」

 うってつけの人物じゃん。投資とかでお金増やすのかな? 知識の神の眷属だし、これは期待大……

 ロビーに出てから「えっと」とオルヒュさんに声をかける。

「俺はリズアル。こっちは……言うまでもないけど、俺のエヴァ」

「俺のエヴァ。良い響きなのじゃぁ」

 抱きつくな擦りつくな。

 俺にとってはいつものことだけど、オルヒュは帽子を上げて目を丸くしていた。

「いやはや我が神の分霊がこのような……分霊がこうなるということは、我が神にもこうなる可能性があるというわけで」

「そうそう、そうなのじゃ。素っ気ない態度はとっておるが、つまるところあやつは主のことが好みなのだろうよ。気まぐれとはいえ、幼い主に分霊を与えるくらいじゃからな」

 ミクラエヴァ本霊の好みと言われると、えらい不思議な感じもするが……俺のエヴァがこんだけ懐いてる姿を見るに、的外れでもないんだろう。

「でもさ、俺が死んだら愛を知るんだよな?」

「あー、そうじゃな」

「愛を知った後、当の愛する俺はいないんだよな?」

「そこらへんは奴次第じゃ」

 エヴァは色っぽく含み笑いをして、俺の髪を撫でた。

「それで、ええと。資金集めのほう詳しい話を詰めたいんだけど、俺の家にくる……っていうか、オルヒュさんの住むところはどうしたらいい?」

「そのうちには神殿に住みますが、暫くは経費削減のためにも間借り致したく……」

「それじゃ、エヴァは暫く俺の部屋で暮らして、エヴァの部屋をオルヒュさんに使ってもらおう」

「一緒に寝るんじゃな!?」

 いや、ベッドをもう一つ買おうと思ってたけど……なんかエヴァが嬉しそうだからいいや。俺もエヴァに甘くなったもんだな。

 魂呼せ鳥に乗って自宅の屋上へ帰り、まずオルヒュさんのためにエヴァの部屋を整理。といってもエヴァの私物って少ないんだな。本棚いっぱいにノートが並んでるくらいだ。

 エヴァはそのうち、自分の衣服だけ運び出した。

「リネンの類はブラウニーさんがやってくれるのじゃ」

「やるぞやるぞ」

「あたらしいひとだー」

 わぁわぁ言ってるブラウニーさんたちはやる気満々だ。可愛い。

 談話室なんてものはないので、ダイニングで卓についた。

「まずは元出が必要になりますね。リズアルさんの貯金に手をつけては生活がままらないと思いますので……」

「職場の関係で空いた時間が多いんだよな。トーテム販売と職場の給料で軽く貯金できて裕福に暮らせるくらい。神殿を建てるとかはとてもとても」

「というわけで、まずは此方に参加して頂こうかと」

 オルヒュさんが出したのは求人のビラだった。



――来たれ勇者!空いた時間にピッタリの高額バイト!



 デフォルメされた可愛い戦士が剣を掲げるイラストが掲載されてるが、どう見ても宇宙より真っ黒なブラックバイトのような気がしてならない。

「高額の日雇いバイトですね。実力のない方にはオススメできませんが、リズアルさんなら可能でしょう」

「え、具体的にはどんな依頼が?」

「竜狩りだとか犯罪者狩りだとかそのあたりですね」

「俺、前から竜狩ってたんだっけ?」

「手慣れたものであったぞ。ただ、記憶をなくして戦い方も忘れているようだからの。実戦経験を積むのも良いのではないか」

 エヴァもいるし、何とかなるかな。

 というわけで該当の派遣所に登録しに行くことにした。

「これはこれは、アラスの秘術師リズアル様では?」

「そうだけど、何か?」

「即戦力ですよ! ぜひぜひご登録お願いいたします。お仕事が決まりましたら使い魔でお知らせいたしますので、ご自宅でお待ちください」

 結局、自宅待機かい。

 なんて思ってたのは甘かった。

 帰ったら既にコウモリたちがキィキィ塔の周辺を回ってて、ポストに書類を押し込んでるところだった。開けるとドサドサ封筒が落ちてくる。

 それをオルヒュさんに見せると、書類をひとつひとつ確認し、スッと俺にいくつか差し出してきた。

『魔界ツアーサバイバル コンダクター募集』

『現世凶悪霊取締課助っ人募集』

『魔法少年結社臨時助っ人募集』

 他も怪しいが、魔法少年って年じゃねえぞ! なんで俺んとこに依頼きた?

「ああそこですね、年齢云々より容姿のほう重視らしく……魔法美少年に警備や護衛をしてもらえるというサービスで、常に人手不足のようですよ」

「魔法美少女じゃだめなのか……」

「このご時世のこの世界で美少女がこんなお仕事を出来ると思いますか?」

 そらそうだけども。美少年も危ないんじゃねーか?

「とりあえず、実戦訓練を積みたいと思ってたとこだ。この現世凶悪霊取締の助っ人に行こうと思う。魂呼せ鳥もいるし、役に立てるはずだ」

「事務所はこちらですね。行ってらっしゃいまし」

 割と近い。うちっていうより職場の近く。あのへんオフィス街だしな。
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