ロマの王

いみじき

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「あのさ、人の恋路をどうのこうの言いたくないんだけどさ、そろそろクロートくん何とかしてあげたら……」

 親友が猫を拾って一年。

 どうせすぐ飽きるだろうと思われた気まぐれは続くどころか重症化し、そのうち「猫さえいればいい」と言い出さないか不安になるほど入れ込んでいる。

 菊蛍は、これでなかなかの浪費家だ。

 元が王族育ちのせいもあり、身につけるものも置くものも使うものも高級品。不要な物でも「気に入った」と言って購入しては衛星バンクに放置する……

 菊蛍の持つ各星系にある衛星バンクは、ちょっとした宝物庫になっている。

 その菊蛍が猫を拾ってからピタリと無駄遣いをやめた。

「クロネに買ってあげたつもり貯金をしている」

 などと嬉しそうに言うほどであり、ちょっとこのモンペ大丈夫かなという思いがちらつくものの、

「猫はかまいすぎるとストレスで死ぬ」

 という理論のもと、程よい距離感を保っているようだ。

 鷹鶴としても、普通に有能な社員であり、今や人気芸人となった猫を潰されたくはないので、賛同している。が。

「もう利害関係一致してんだから要人との関係は切れないし、愛人関係精算するとかさ」

「だめだ」

 厳しく、追求を許さず突っぱねられた。

「皇帝陛下やオオタチは理解してくれるだろう。だが、そうでない輩はどうなる? 不満に思った輩の矛先はどこへ向かう?」

 黒音が大勢の中の一人である内は見逃されるだろうが、他を切って黒音一人を選べば、腹いせに黒音に危害を加えかねない者は多い。

 電脳ワーカー創立時はとにかく金と人脈が必要で、手段を選んでいられなかった。

 鷹鶴はロマの未来のために、親友を生贄に差し出した。

 共に地獄まで堕ちる覚悟はあった。

 だが、その累が彼の愛した猫にまで及ぶのは想定外だったのだ。



***



 俺なりに、色々調べて、ものすごく、たくさん、無い知恵絞って、決断を下した。

「志摩王子、シヴァロマ殿下と連絡とれますか」

「どうした」

「ハイドウィッカーを釈放する。被害届を取り下げる」

 ハイドウィッカーは皇帝に見限られて逮捕された。でも、元はといえば俺が拉致誘拐、性的暴行を受けた件だ。

「難しいと思うぞ。奴には余罪がいくらでもあるし、それこそ偽装も偽証も可能だ。主にお前のおっかないモンペが」

「モンペは俺が何とかする。てか、モンペで定着してんのか蛍。

 調べたけど、やっぱりウィッカプールを纏めるにはアイツがいるんだ。少なくとも暫くは。こんな幕引きで退場していい奴じゃない」

 ハイドウィッカーはウィッカプールの重要な抑止力だった。馬鹿だけど。

 社長や蛍に相談擦る前に、例のカジノのほうに連絡入れて、オーナーさんに取り次いでもらう。

「ハイドウィッカーを釈放しようと思うんだけど」

「それで本当によろしいのですか?」

「あんな馬鹿でも必要なんだろ」

「……正直、ウィッカプールの住人として有り難いことです。現在ウィッカプールはハイドウィッカーの後釜争いでまともに表を歩けません。当然、観光客など入るはずもない。

 ウィッカプールには星の子バイオームが少なく、物資は他所を頼るしかない。宇宙における海賊行為も激増しております」

 予想以上に酷いことになってる……自分のせいとは思わない。あの馬鹿のせいだ。責任とらせる。

「しかし、ハイドウィッカーはほぼ現行犯として逮捕され、貴方の身体状況からも拉致・性的暴行と断定されました。法廷では無慈悲なセカンドレイプが行われますよ。覚悟はおありですか」

 喧嘩上等。

 訳も分からず陰口叩かれるのは苦手だが、喧嘩となったら関係ない。相手が泣いて謝るまでぶん殴ればいいだけだ。

 このあたりで流石に情報が回ったのか、蛍が凄い顔で通路の向こうから歩いてきた。ちょっと、他の社員が可哀想な形相だし、俺もびびるくらいなんだけど……

「なぜ勝手な真似をした!!」

 胸ぐら掴み上げられたよ。蛍に。

「あやつがお前に何をしたか忘れたか」

「合意だった」

 縮こまりそうな心臓を宥めながら、出来るだけ冷静に蛍の目を真っ直ぐ見つめる。

「俺は合意の上であいつについてったし、薬物や拘束具を使ったのもそういうプレイ。全部合意の上だ。それなのに皆が勝手に踏み込んであいつを犯人に仕立て上げた」

「裁判でその主張を通すつもりか」

「そう。だってあいつ、必要なんだろ」

「………」

 蛍は俺の襟を掴む手を離し、震えながら顔を覆った。

「いやだ」

「嫌だって……なんで」

「その主張をして、裁判でどんな言葉を浴びせられるか分かるか。世間でどれほど下世話な話が飛び交うか。お前は初対面の海賊についてゆく変態嗜好の淫売と呼ばれるようになるのだぞ。このさきの人生にずっと付き纏う醜聞だぞ!」

「それで蛍の為になるんならいい」

「馬鹿者が……っ!!」

 蛍、泣いちゃった。流石におろおろして、周囲を見回す。だ、抱きしめて慰めるか? でも蛍怒ってるし。

「よしてくれ。どうしてお前まで汚れねばならない」

「別に汚れねーけど」

「何十年と侮蔑と罵声を受けていれば、いずれ荒む」

「もう荒んでるよ。陰口叩かれるのは慣れてる。でも、これは自分で選んだ。だから俺は後悔しない」

「かひゅっ……」

 あ、過呼吸。

 ミチルさんにトーキーでヘルプを出す。呼吸器持ってきたミチルさんと一緒に鷹鶴社長も走ってきた。

「クロートくんさあ! こんな重要なことを一人で勝手にやっていいと思ってんの!?」

「志摩王子には相談した。あとハッシュベルさん」

「誰、ハッシュベル!?」

 社長、あの人のこと知らないんだ。ハイドウィッカーの直属ってか腹心っぽい人だったのにな。

 とはいえ、俺一人で出来ることなんか知れてる。信用できるロマの弁護士さんつけてくれたのも社長、国際法廷まで連れてってくれたのも社長。おんぶにだっこ。

「合意でした。暴行や事件性は全くありませんでした」

 黙秘権を主張しますレベルでそれだけを繰り返した。

 ただ、この件でロマの信用が少し落ちた。本当に性犯罪に遭ったロマが「合意だったんだろ?」と言われるようになって、それ知った時は凹んだ。

 でも、仮想次元で「クロネちゃん、誰にでも股を開く」的な噂やニュースが出回っても、卑猥なコラージュが出回っても、気にしなかった。会社のほうに「淫売を雇ってる」といって契約を切ってきた取引先もあって、それは申し訳ないと思ってる。でも会社は共犯だから気にしない。

 こんな悪いイメージのついた俺なのに、志摩王子は変わりなく接してくれて、ヤマト王位を狙ってるところなのにいいのかな。

 トーク番組に寄せられる意見は暫く誹謗中傷の嵐。中には俺と親しくする志摩王子への批判もあったらしい。あんまり酷いのは不敬罪でしょっぴかれたけどな。

 で、ハイドウィッカーに会いに行ったよ。蛍は来なかった。シヴァロマ皇子同伴だったから、それで納得してくれて。

 警官に両脇を固められて出てきたハイドウィッカーはげっそりやせ細って目が浮き出ていた。たった数ヶ月でこんなになるなんて、どんなに厳しい刑務所だったんだ?

 で、俺を見るなり「ヒイ!」って。なんだよヒイって。

「おい、しっかりしろよ。あんたにはウィッカプールに戻って働いて貰わなきゃいけないんだ」

「もうやめてくれ! ほたっほたるゆるしてくれ!!」

 なんで蛍?

 首を傾げてすぐに、モンペの三文字が脳裏に過る。蛍って過保護だよな……俺、大事にされてるのかな。ちょっとキュンとする。でも、ハイドウィッカーに何したんだ? 刑務所にいたってことは、外界からは守られてたんだよな。

 ふんと鼻息漏らし、すっかり髪質の悪くなったハイドウィッカーの頭を撫でる。

「あんたと俺は合意だった。何もなかった。でも反省はしろ。痛かった、下手くそ」

 あとは別に恨んでない。どうだっていい。俺はシヴァロマ皇子とロビーに戻った。

「―――今回の英断、我々皇族及び皇軍警察はしかと理解している。表立って庇ってやれぬが、この件について貴殿に実害を与える輩あらば迷わず俺を頼れ」

 皇族のプライベートナンバーげっとです。嘘だろう。俺の人生どうなってんだ?

「ひとつ聞いていいですか。世の中が混乱するの分かっていたのに、皇帝陛下がハイドウィッカーを捕まえたこと……」

「やつは図に乗りすぎた。今回の事件は切っ掛けに過ぎん。奴が消えればこの程度の混乱が起きることは予測されていた。だが、いい薬にはなっただろう」

 ハイドウィッカーにとっても、ここでブレーキ踏めてよかったのかもな。悪いことって、一度アクセル踏むと止まらないんだ。

「あのぅ。これで少しはお仕事が楽になりますか」

「なに?」

「志摩王子が会いたがっておられたので……」

「………」

 シヴァロマ皇子の鋼鉄の口元が、少しだけゆるんだ。ああ、血も涙もないなんて言われてた人だけど、俺みたいなロマなんか気にかけてくれるし、本当に志摩王子を愛してるんだ。

 いいなあ。

 俺にはきっと望めないことだ。

 皇軍警察の立派な宇宙船が会社の船に送り届けてくれて、蛍が固い表情で出迎えてくれた。

「奴に何か言われたか?」

「蛍を怖がってただけ。なんもない」

「……お前を志摩に預けようと思う」

 蛍の手が俺の頬を撫でる。

 タイミング的には今だよな。志摩王子のお荷物になるのは申し訳ないけど、いずれウィッカー能力の訓練には行かなきゃいけなかった。その間、数年くらい、蛍と離れるのは決まってたことなんだ。

「あのさ、これは帰ってくるなってこと?」

「まさか。志摩王子にロマの世話をずっとさせる訳にいくまいよ」

「だよな……じゃあ、帰ってきていい?」

「……当たり前であろうが」

 ぎゅうっと羽織の袖で包むように抱きしめられた。着物特有の甘い匂いがする。これ、すき。暫く嗅げなくなるんだなあ。

「連絡は?」

「志摩王子とは親密に連絡をとりあっておったくせに。俺にはなしのつぶてか?」

「なんか……遠距離恋愛みたいだな」

 言ってしまってから、ちょっと後悔した。こういうこと、意識的に言わないようにしてきたから。

 蛍は、返事はしなかったけど、薄く微笑んで触れるだけの口づけをしてくれた。みんなの前なんだけど。サガキくんがびっくりして二度見してるよ。

 ちょっと蛍を人の居ないとこまで引っ張ってって、うつむきながら胸元に額をつけた。

「あの…あのさ。暫く、離れるからさ」

「うん」

「蛍の好きにされたい」

 いつも俺が悦いようにしてくれるから、蛍がしたいことしてほしい。

 まあ、もしかしたら俺相手にしたいことなんか無いかもしれないけど―――そう思ってちらっと様子窺ったら、蛍の目がきらきら輝いていた。

「なんでもよいのか?」

「あ、ウン。でも、あの条件付の時みたいのは勘弁な」

「そんなことではない。ふふふ」

 急にご機嫌、ふわふわうさぎちゃんモードになって、蛍は俺の手を引いて自分の部屋まで連れていった。

 蛍の部屋は、机とベッドだけあるような俺の部屋とは違う。ホテルとは比べ物にならないけど、宇宙船にしては広い、ヤマト風の家具で揃えた蛍らしい寝室だ。茶箪笥や格子行灯なんかが目立つ。こういうのが作れる職人はもう本当に少ないから、高いんだろうな。

 蛍は俺をぶん回すようにして紺地の寝台に放り込んだ。

「実はな、前から試したかったのだが、お前は嫌がるだろうと思って……」

 そう言って仮想次元からプログラム内蔵型テクスチャ(リアル干渉するアバターの亜種)を呼び出した。

 なんだと思う? 黒い猫の耳だよ。

「尻尾もあってな!!」

 なんでそんなにイキイキしてんの。どんだけこの人俺を猫にしたいの。

「そんなに蛍がしたいなら、構わなかった」

「いや、こうなっては今まで取っておいてよかった。さ、つけてくれ。マイクロチップと接続するタイプだ、他人が装着させることはできない」

 言われるままにテクスチャを頭に装着。

「位置このへんか」

「もう少し右だな」

「尻尾は……尾てい骨でいいか」

「衣装は何にする? 実物を揃えたかったが、流石に荷重がな……テクスチャの仮想で我慢してくれ」

 ふわふわした黒のかぼちゃぱんつ。いわゆる「フェリシア」黒猫バージョン。ゴシックメイド服。和風メイド服。

「蛍。俺、蛍のイメージ壊れそうだよ」

「俺が着てもよいが」

「チャイナドレスお願いしやす!! あとそっちのレース張りのタイトドレス」

 ノリノリで着てくれた。ポーズもとってくれた。蛍は首や手首や視線の使い方が凄く巧い。どうすれば上品に美しく見えるか分かってる。滅茶苦茶激写した。

 別に女装趣味って訳じゃない、むしろ格好いい蛍のほうが好きだ。なので、学生時代に好きだったゲームのキャラの衣装テクスチャを購入して着て貰った。ああー、闇の魔戦士様かっこいいんじゃあー。本物より美しいじゃねえか、逆作画崩壊。

 はっ、俺が堪能してどうする。蛍の好きにして貰うんだった。

「で、なに着ればいい……」

 もじ…と指を弄って用意されたテクスチャを見やる。

「最も好みなのは普段の小袖袴だが」

「やっぱりあの書生スタイル、あんたの趣味なんだ」

「一通り着てもらおうか。何が似合うか分からんからパッケージで買ったのだ」

 変な大人買いしないでくれ……

 最悪だったのは、着るたび条件付でイカされたこと。これら着てイッてるとこ撮りたいって。

 蛍、だいぶ変態か。変態か。物凄く嬉しそうに笑う輝く顔は乙女のように可愛らしい。イイトシしたおっさんだってことを忘れそうになる。言っても100歳にはまだ遠いしな。

 メタ的に説明すると、100歳でテラ時代の30歳くらい。だから蛍はアラサー。150歳でアラサー終了。だからまあ、若いっちゃ若いんだ。俺の四倍生きてるけど。

 で、どれ着てヤルかって話になって、考えた蛍は、

「やはり裸体に敵うものはないな」

 そういう結論に至った。裸猫耳でぺたん座りしてるとこ撮影された。顔真っ赤にして睨んでる3Dフォト。

「はあ、かわいい。ねこ、ねこ」

 あんたが満足そうでよかったよ。抱き寄せられて頬ずりされながら遠い目。

「ふっ?」

 髪を撫でられる間にテクスチャの猫耳に触れられてぴくっと反応した。え、なんだ。感触あったぞ。どういうことだ。

「ほお、疑似神経が通る仕様か」

「ちょやめ、さわんなっ」

「はむ」

「ぎゃっ」

 前から腰を抱き寄せられて、頭の上の耳を食まれた。痛くはないが、妙なびりっとした感覚が背筋を抜ける。流れるように腰から尻尾へ指が走り、人にありえないはず感覚に戸惑った。ひゃんとか言った。

「あ、あんた。これ何処で買った」

「アダルトショップである」

 完全にソレ用の玩具じゃねえか!

 テクスチャだから良かったものの、こいつは平気で物理アイテムも買いかねない。そうしたら社長が生暖かい目で船内持ち込みリスト眺めて「へー、クロートくんがつけるんだね」って見ないふりすることになるんだぞ。

「可愛いなあ、お前は。このような他愛ない遊びが変態行為か。ふふ」

 本当に微笑ましそうに、母猫か何かのように慈愛の目で見るのでむっとした。

「じゃあ、何処からが変態行為になるんだ」

「線引きはない。人によって価値観は違うしな。ただ、付き合いで吐き気を催す趣味を目にする機会もある。流石に俺は拒否しているが」

 ああ……凄い人のは凄いもんな。実物を見たことがなくても、知識はある。汚物フェチとか、死体フェチとか。最近では宇宙船にサカった奴が逮捕されてたな……

「変態といえば、そうさな」

 蛍が袂からプレゼントボックスを取り出した。差し出されるんで包みを開けてみると、チョーカー。それもタグのついているやつ。菊花の形に蛍の字。

 あ。

 なんか涙出てきた。

「その涙はどちらだ? 嫌か」

「いや。うれしい。俺、たぶんあんたに所有されてたい。こういうの依存かな」

「自立心旺盛で好奇心旺盛で勝手なことばかりする奴が何を言う」

 むに、と唇を押される。

 なんかその日は、ヤル前に延々遊んでた。猫耳と尻尾は蛍にもつけさせた。思ったよりグッとくる。何したって絵になるよ。あんたはさ。

 裸猫耳でグルーミングごっこしたり。蛍の尻尾噛んでみたり。ふお!?って言った、蛍が。声を上げて大笑いしたら、蛍がきょとんとした。

「お前がそのように笑うのは珍しいな」

 そうだっけ。まあ、そうかも。根暗野郎だからな。

 お互いに噛んだり舐めたりじゃれて猫みたいに遊び、ふっと気付いたらお互いその気になってて、雰囲気が変わってた。

「ん…あ」

 いつもより念入りに、味わうように肌を舐められる。珍しく吸い跡をつけられた。それも何箇所も。

 俺、いつもあんまり蛍に触らないようにしてる。汚しちゃいそうな気がして、怖い。

 確かに蛍の肌は「新しい」感じじゃない。でもハリがあって、美術館で大事に保管された宝石のような輝きがある。肌理も細かい。

 何よりイイ肉体してやがる…くびれて腰骨出てるから細く見えるんだよな。腕はやや細いかも。とにかく神が与えた造形美としか思えない。男の肉体にうっとりする日がくるとは思わなかったよ。

 胸元をするする触ってたら、蛍が笑った。

「覚えておるか? 幼児帰りをしていた間、俺の乳を吸っていたぞ」

 知りたくなかったそんなこと。

「どうやったらこんないい身体になれるんだ」

「ファイバースーツなしで過酷な作業をするとなるな」

「囚人兵時代のこと聞いてもいい?」

「楽しかった」

「楽しかったのか!?」

「看守も囚人どもも言いなりでな。守ってくれるし貢いでくれる。もともと兄の罪の肩代わりで差し出されたことを皇軍警察のほうも把握していて、配慮してくれた。

 みっちりと経験を積んで骨肉とし、模範囚として最短出所。実に有意義であった。実家を出る口実にもなったしなあ」

 刑務所のほうが実家より楽しかったなんて……

 表情を曇らせた俺のこめかみにキスが落ちる。

「最初は重い物も持てず、苦労した。しかし、負けるものかと奮起して、少しずつ出来ることが増え、戦闘訓練も吐いてばかりだたったが、強くなる実感があった。囚人兵が送り込まれる戦場は、死傷者が多く恐ろしいと言われるが、殆どは人命救助のための戦いで、やりがいがあった。

 どこぞに属して戦争に参加するとなれば、正義の戦いなんぞ殆どない。利害と、政治的な駆け引きによる殺し合いばかり。それを思えば美しい戦場である」

 美しい戦場。パワーワードだな。

「あ」

 濡れた指が入り口をまさぐる。尻の割れ目をぬるぬるした手が何度も撫でた。そうしながらお上品な唇が膨れた乳首を食む。

「やっ…最近、そこだけでイくことあるからぁ……」

「ずいぶんと敏感な体になった。苦労の賜物である」

 本当にこの一年、蛍は丁寧に俺の体を開発していった。いっぺん乱暴なのがあったけど。

 もうどこ触られても気持ちいいよ。脇腹あたりをさすりながら指がさしこまれると、はぅう…って気の抜けたような声が鼻から抜ける。

 ぬうっと押し込まれた二本の指が優しく腹の裡を愛撫する。

「はあ、もうい、いいから挿れて……」

「せっかちだな」

「前戯ながくてっ……焦れたからちょっとイキそ…っで!」

「イケばよかろ」

「ひぅっ!?」

 くっと押されて眼の前がちりっとした。腰が反るし顎も反る。しかも絶頂が過ぎ去るまでうりうりと刺激続けるもんだから、ドライでイキっぱなし。

「んぁんん…! は、んあ」

「お前は達している時の顔が幼気でかわゆい」

 俺が活魚みたいにビクビクしてるのを見て興奮してんのか、蛍の吐息が熱い。

 今日の趣味もそうだけど、蛍は『見る』ことに興奮する性質なのかも。ずっと、俺ばっかり悦くして嬉しそうにしてんのは何でだろうと思ってた。

 悦がるのを「見て悦る」ってのはまあ、あるよな。アダルトムービーだって女優が悦がってるの見て楽しむもんだし。

 それにしたって自分の快楽そっちのけってのは珍しい部類だと思う。視姦好きなのか?

「は…、も、いいだろ。俺、蛍と繋がってるの、好き」

 俺は俺でこういう趣味なんだと思う。アナルを最初に開発されたからって理由もあるかもだけど、繋がってるっていうのが、満たされる。

 尻尾があるんで今日はバックから。ああ、挿入ってくる。ぞくぞくして喉をそらせ、ふるっと身震い。

「はは、尻尾と耳があるので後ろから腰がしなると本当に猫のようである」

「あっ、尻尾いじる…やぁって!」

 付け根揉むな! 尻尾の先までびりびりくる! 蛍の顔を尻尾でべしべし叩いてやったが、かつてなく緩んだ顔してた。堪能してやがる。

 あんたが楽しそうで何よりだよ。

「あ…あ、あっあっ、ああっ」

 本格的に蛍が腰を使い初めて余裕が消えた。もっとここ、もっとここって強請るように俺も尻を擦り付ける。

「バック……バックきらっ、ぃ」

「嫌いだったか」

「かお、みえない…」

 思ったよりずいぶんと心細い声が出て、ああ、と思った。

 そっか、俺にもトラウマ残ってた。ヤラレたことより、どうしてこれが蛍じゃないんだって、そのことがショックで。

 蛍は何も聞かず、器用に俺の身を反転させて、尻尾が潰れないように腰を上げさせた。肉棒がナカで回転するときの感覚がちょっと悦かった……

「これでよいか」

 うん。蛍の優しい顔が見える。

 それに向き合ってるとキスもできるしな。首に腕を回してキスをねだる。いつの間にか強請れるようになったんだな、俺。前はおこがましいとかそんな事ばっか思って縮こまってた。

 船はけっこう志摩の近くなんで。

 これで暫くお預けのセックス。

 名残惜しむように抱き合って、長いこと繋がっていた。
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