37 / 41
玄冬
げんとう11
しおりを挟む
次に目を開いた時も、真っ暗だった。
これ以上寝るわけにもいかず、渋々電気を付け、スマホで時間を確認する。
スマホには二十時五十分と表示されており、かなり眠っていたことが分かった。
通知も確認するが、重要なものは来ていない。
蒼依からも、三宅さんからも連絡は来ていなかった。
まあ、そんなものだ。
起きたら謝罪の連絡が来ているなんて都合のいい展開が起こる訳がない。
夕食を作るのもだるく、牛歩でお菓子を入れている棚に向かうとポテトチップスを手に取り、口に入れた。
濃厚チーズ味とパッケージに書いてあるが、味を感じない。
夕食代わりにしては心もとないが、とりあえず口に入れておくことにする。
明日は講義がある。蒼依も同じ講義を受けるはずだ。
更に、夕方からはバイトもある。三宅さんはシフトに入っていなかったはずだが、なんとなく気が重い。
行きたくないな。
そう思うが、サボった後が面倒くさい。
誰かに講義のノートを見せて貰わないといけなくなる。
他の受講生に見せてもらうことは出来るが、絶対聞かれるだろう。
「松下くんに見せて貰わないの?」と。「え、いつも一緒にいるじゃん」とも言うかもしれない。
ああ、とても面倒だ。
ゲームでもするか。
ポテトチップスを頬張りながら考えるが、気が乗らない。
漫画でも読むか。
そんな気分じゃない。
散歩でも行くか。
意外にも、身体はすんなり動いた。
投げ捨ててしまっていたダウンジャケットを羽織り、外に出た。
寒い。
貼るカイロが生ぬるい発熱をしており、夜の寒さに対峙している今は、あまり効果がない。
決して薄着をしている訳ではないが、暖かいとはお世辞にも言えなかった。
アパートを出て、猿待通りを歩く。
まだ深夜ではないからか、意外と歩いている人がいる。
バイト帰りに通る海月通りは、すれ違う人は一人二人しかいないのだが。
猿待公園の横を歩く。
嫌でもあの日を思い出し、顔を歪める。
冬の夜に、こんな場所に来る奴いないだろ。
いるとしたら、変わり者の暇人だ。
ちらりと公園内を見ると、変わり者の暇人が一人、ベンチに座っていた。
電話しているのだろうか、微かに声が聞こえる。
電話相手と円滑に通話できている訳ではなさそうで、時折声を荒げていた。
その声は、なんとなく聞き覚えがあるような気がした。
他人ならそんなことしないが、その声は俺にアイデアをくれた人の声だ。
俺が近づいていくと、声の主はこちらを向く。電話は耳に当てていない。
お互い顔が分かる距離まで近づき、俺は気づいた。
相手は俺のことなんて覚えていないのではないだろうか。
俺は覚えているが、相手はそうではないかもしれない。どちらかというと、そうではない可能性がかなり高い。
ただ、ここまで近づいておいて去ると、それはそれで怪しい。
幸か不幸か、相手は驚愕した表情を浮かべている。
これは、俺のことを覚えてくれていたと判断しても良いだろうか。
「すみません、怪しい人間ではないんですが」
そう口に出して後悔する。そんなことを言ってしまうと、怪しい人間率が急上昇してしまうじゃないか。
「あ、はい」
「板木、アリシャさんですよね」
「ええ……」
困惑した様子の板木アイシャが、こちらを見つめていた。
これ以上寝るわけにもいかず、渋々電気を付け、スマホで時間を確認する。
スマホには二十時五十分と表示されており、かなり眠っていたことが分かった。
通知も確認するが、重要なものは来ていない。
蒼依からも、三宅さんからも連絡は来ていなかった。
まあ、そんなものだ。
起きたら謝罪の連絡が来ているなんて都合のいい展開が起こる訳がない。
夕食を作るのもだるく、牛歩でお菓子を入れている棚に向かうとポテトチップスを手に取り、口に入れた。
濃厚チーズ味とパッケージに書いてあるが、味を感じない。
夕食代わりにしては心もとないが、とりあえず口に入れておくことにする。
明日は講義がある。蒼依も同じ講義を受けるはずだ。
更に、夕方からはバイトもある。三宅さんはシフトに入っていなかったはずだが、なんとなく気が重い。
行きたくないな。
そう思うが、サボった後が面倒くさい。
誰かに講義のノートを見せて貰わないといけなくなる。
他の受講生に見せてもらうことは出来るが、絶対聞かれるだろう。
「松下くんに見せて貰わないの?」と。「え、いつも一緒にいるじゃん」とも言うかもしれない。
ああ、とても面倒だ。
ゲームでもするか。
ポテトチップスを頬張りながら考えるが、気が乗らない。
漫画でも読むか。
そんな気分じゃない。
散歩でも行くか。
意外にも、身体はすんなり動いた。
投げ捨ててしまっていたダウンジャケットを羽織り、外に出た。
寒い。
貼るカイロが生ぬるい発熱をしており、夜の寒さに対峙している今は、あまり効果がない。
決して薄着をしている訳ではないが、暖かいとはお世辞にも言えなかった。
アパートを出て、猿待通りを歩く。
まだ深夜ではないからか、意外と歩いている人がいる。
バイト帰りに通る海月通りは、すれ違う人は一人二人しかいないのだが。
猿待公園の横を歩く。
嫌でもあの日を思い出し、顔を歪める。
冬の夜に、こんな場所に来る奴いないだろ。
いるとしたら、変わり者の暇人だ。
ちらりと公園内を見ると、変わり者の暇人が一人、ベンチに座っていた。
電話しているのだろうか、微かに声が聞こえる。
電話相手と円滑に通話できている訳ではなさそうで、時折声を荒げていた。
その声は、なんとなく聞き覚えがあるような気がした。
他人ならそんなことしないが、その声は俺にアイデアをくれた人の声だ。
俺が近づいていくと、声の主はこちらを向く。電話は耳に当てていない。
お互い顔が分かる距離まで近づき、俺は気づいた。
相手は俺のことなんて覚えていないのではないだろうか。
俺は覚えているが、相手はそうではないかもしれない。どちらかというと、そうではない可能性がかなり高い。
ただ、ここまで近づいておいて去ると、それはそれで怪しい。
幸か不幸か、相手は驚愕した表情を浮かべている。
これは、俺のことを覚えてくれていたと判断しても良いだろうか。
「すみません、怪しい人間ではないんですが」
そう口に出して後悔する。そんなことを言ってしまうと、怪しい人間率が急上昇してしまうじゃないか。
「あ、はい」
「板木、アリシャさんですよね」
「ええ……」
困惑した様子の板木アイシャが、こちらを見つめていた。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

俺と代われ!!Re青春
相間 暖人
青春
2025年、日本では国家主導で秘密裏に実験が行われる事になった。
昨今の少子化は国として存亡の危機にあると判断した政府は特別なバディ制度を実施する事により高校生の恋愛を活発にしようと計ったのだ。
今回はその一組の話をしよう。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

執事👨一人声劇台本
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。
一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
とあるアプリで出題されたテーマから紡がれるセカンドストーリー❤︎
砂坂よつば
青春
「書く習慣」というアプリから出題されるお題に沿って、セリフが入っていたり、ストーリーが進む予測不可能な小説。第2弾は新たな物語ラブコメでお届け!!
主人公、高校1年生 輪通 萌香(わづつ もえか)が屋上でクラスメイトの友達と昼食を食べながらグランドを眺めていると、萌香好みの男子生徒を発見!萌香は彼と両思いになって楽しくも甘酸っぱい?青春高校生活を送ることが出来るのだろうか運命やいかに––––!?
※お題によって主人公が出てこない場合もございます。
本作品では登場する様々なキャラクターの日常や過去、恋愛等を描けてたらと思っています。小説家になろうとカクヨムの方でも同じ内容で連載中!※
いくつかのお題をアルフォポリス限定で執筆予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる