青春活動

獅子倉 八鹿

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玄冬

げんとう7

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「奏汰の考える青春って何なんだろうな」
 先程までスマホを触りながら歩いていた蒼依も話に入ってきた。
 三宅さんがいるからだろう。二人きりの時よりも、言い方が柔らかい。

「今までさ、俺や奏汰、りょーちゃんが投稿してきた写真の中で、青春を感じるものはあった?」
「うん。りょーさんが学校で撮ってる写真とかは、結構青春を感じることがある」
 そこまで言って、俺はあることに気付く。

「ていうかさ、二人とも俺のことは本名だけど、あきとりょーさんに関してはなんで本名明かさないの? 不平等だ」
「だって奏汰の本名だけしか知らないもん」
「私も、鈴名さんの本名しか知りません」

「いや、直接会ってるんだから自己紹介すればいいじゃん。俺だけ本名はおかしくない?」
 実際、三宅さんはほとんど本名なのだが。

「それもそうですね。私、三宅涼っていいます。りょーっていうのもほん」
 意外とすんなり、自己紹介が始まった。
「松下蒼依です。顔面蒼白のそうに、憑依のい」

 そういえば、俺も入学式の日にこの挨拶されたな。
 知らない人ばかりで緊張していたけど、この自己紹介に大笑いして緊張が吹き飛んだ気がする。

 三宅さんは笑うだろうか。
「もっといい例えないんですか。分かりにくいです」
 笑わないどころか、不快感を露わにしていた。

「そっか。りょーちゃんは笑わなかったかー」
 ヘラヘラと笑う蒼依。
 どこか違和感を抱くその笑いは、蒼依の癖だ。
 大切な事はカミングアウトできるようだが、自分の心の内はさらけ出せていないらしい。
 それが分かっても、俺に出来ることはない。
 俺と打ち解けることが出来た時と同じように見守り、出来る範囲の手伝いをするだけだ。

「鈴名さん、飛びましょう」
 蒼依と三宅さんがお互いの呼び方を決めているのを気持ち半分で聞いていると、藪から棒にそう提案される。
「飛ぶ?」
「知りませんか? 女子高生の間で流行ってるんですが。何人かで手を繋いで、一斉にジャンプして撮る、あれ」
「あれか」

 そういえば、WINGで見た事がある。
 制服を身にまとった女子高生が、手を繋ぎ、宙に浮いた状態で写真に写っていた。
 後から加工をしているらしく、文字やイラストが書いてあったり、コマ撮り写真のようになっているものも見たような気がする。

「俺一人で飛ぶの?」
 ひとり寂しく飛んでいる写真を見た日には、涙が出ると思う。
「さすがにそこまでしません。私と蒼依さんも飛びます」

 何気ない一言が、チクチクと刺してくる。

 蒼依さん。

 あ、蒼依さんって呼ぶんだ、へー、そっかそっか、俺は名字なのに、蒼依さんなんだ、そっか。
 距離急に近いな君達。
 なんだよこの、形容できない差は。

「りょーちゃん、でもこれ青春活動用でしょ? SNSに顔出しするのは俺抵抗あるよ?」
 蒼依の言葉に、俺は現実に戻る。三宅さんは考え込んでいた。

「じゃあ、二枚撮りましょう。正面と背中から。後ろのだけWINGに」
「でも、誰がカメラ持つの?」
「あ、俺三脚あるよ」
 蒼依はそう言うと、ジャケットのポケットから小さい三脚を三つ取り出した。
「なんでそんなもん入ってんだよ、お前のポケット」
「りょーちゃんは分からなかったけど、奏汰は三脚持ってないと思って」
「準備いいな」
「貸せよ、お前のスマホ。りょーちゃん、俺と奏汰のスマホで撮るね」
 蒼依は慣れた手つきで三脚を組み立てつつ、三宅さんに声をかける。
「あ、ありがとうございます」

 その時、俺の本能がアラート付きで警告を出した。
 これは恋かもしれない。同時に、失恋記録更新かもしれない。

「奏汰。お前のスマホ後ろ側な。タイマーは十秒で設定してあるから、せーのでシャッター押して」
「おう」

 三脚付きのスマホに挟まれながら、三人は手を繋いだ。
 嬉し悲し、三宅さんは真ん中だ。
 俺の左手と三宅さんの右手が繋がれ、三宅さんの左手は蒼依の右手と繋がれる。

 蒼依が1番早く飛んでしまい、それに気づいた三宅さんと俺が追うように飛ぶ。
 波のようにうねる腕。

「え、ちょっとっ、早っ」
「えっえっ、早かった?」
「ちょ、ぐちゃぐちゃだって!」

 誰からか、笑顔が弾ける。

 笑いながら着地し、俺と蒼依はスマホを取りに行く。
「めちゃくちゃじゃんこれ」
 写真は案の定、歪な背中を撮影していた。
「蒼依さんが思ったより早く飛ぶから」
「こっちはいい感じかも」
 そう言うと、蒼依は自分のスマホを俺達に見せる。

 その手には、青春が掴まれていた。

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