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白秋
はくしゅう17
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どうしよう。一気に気まずい雰囲気になってしまった。
「お疲れ様です」
最初に挨拶をしたのは、恥ずかしながら年下の三宅さんだ。
動揺しているだろうが、俺を睨みつけてくる目線の鋭さは変わらない。
今日は制服ではなく、無地の黒いTシャツにカーキ色のカーゴパンツといった出で立ちだ。
太陽の位置関係により、俺も三宅さんを睨みつけることになっている。
傍目からみると犬猿の仲に見えそうだな、などと考えていた。
「お疲れ様です」
挨拶を返しながら俺がボールを差し出すと、三宅さんは素早くボールを回収する。
「じゃあ、また、バイトの時に」
何も言わずに離れるのも気が引けたので、無難な言葉を発しておく。
「はい」
かろうじて聞こえる声で返答すると、三宅さんは一礼して走り去っていった。
走り去っていく三宅さんは、小さな男の子の近くへ行くと立ち止まり、男の子に向かってボールを蹴っていた。
どちらもコントロールが良いわけではないらしく、ボールを捕まえるために男の子が右往左往しているのが見える。
あの男の子は、弟かな。
そういえば、俺は三宅さんのことを詳しく知らない。
仲が良いわけでもないし、そんなことを知らなくてもバイトに支障はないのだから、当たり前かもしれない。
そう考えてみると、なんとも言えない寂しさで心が曇る。
今度、雑談として聞いてみようか。
そう考えていると、再び黄色いボールがこちらに転がってきた。
もちろん、三宅さんがボールを追いかけてきた。
え、いや、今度聞こうと考えたけど。
今度が来るの早すぎだろ。
しかし、ボールを拾わず逃げるわけにもいかない。
渋々、ボールを拾う。
「すみません、何度も」
二回も見知った人物にボールを拾われて恥ずかしいのだろう。
目線を逸らしながらボールを受け取る。
「弟?」
自然な口調を装いながら質問を投げかける。
「いえ、ボランティアで」
「へえ、ボランティア」
気の利いた言葉が返せなかったが、三宅さんはそんなことを気にしている様子はない。
「昔通ってたこどもクラブのボランティアで、あの男の子がなかなかみんなの輪に入れないので、私が一緒に遊んでます。鈴名さんは?」
「写真撮影してた。映えるような、なんていうか、青春を感じる写真が撮りたくて」
「へえ」
俺は素直に答えた。
心なしか、三宅さんの目線が冷たさを帯びた気がした。
三宅さんが走ってきた方から、三宅さんが一緒に遊んでいた男の子が走ってくる。
「三宅先生! トイレ!」
「じゃあここで待ってるね」
「はーい!」
元気の塊はトイレに向かって走っていく。
三宅さんは男の子を目で追いながらため息をついた。
「鈴名さんも映えとか気にするんですね。意外です」
その言葉には、さすがにカチンときた。
「まあね」
怒りを抑え、返答をする。
「他人の評価とか気にして、馬鹿らしくないですか。大学生で青春って遅い感じもしますけど」
ああ、苦手だ。
それは俺も思ったことではあるけど。
この子、本当に苦手だ。
「お疲れ様です」
最初に挨拶をしたのは、恥ずかしながら年下の三宅さんだ。
動揺しているだろうが、俺を睨みつけてくる目線の鋭さは変わらない。
今日は制服ではなく、無地の黒いTシャツにカーキ色のカーゴパンツといった出で立ちだ。
太陽の位置関係により、俺も三宅さんを睨みつけることになっている。
傍目からみると犬猿の仲に見えそうだな、などと考えていた。
「お疲れ様です」
挨拶を返しながら俺がボールを差し出すと、三宅さんは素早くボールを回収する。
「じゃあ、また、バイトの時に」
何も言わずに離れるのも気が引けたので、無難な言葉を発しておく。
「はい」
かろうじて聞こえる声で返答すると、三宅さんは一礼して走り去っていった。
走り去っていく三宅さんは、小さな男の子の近くへ行くと立ち止まり、男の子に向かってボールを蹴っていた。
どちらもコントロールが良いわけではないらしく、ボールを捕まえるために男の子が右往左往しているのが見える。
あの男の子は、弟かな。
そういえば、俺は三宅さんのことを詳しく知らない。
仲が良いわけでもないし、そんなことを知らなくてもバイトに支障はないのだから、当たり前かもしれない。
そう考えてみると、なんとも言えない寂しさで心が曇る。
今度、雑談として聞いてみようか。
そう考えていると、再び黄色いボールがこちらに転がってきた。
もちろん、三宅さんがボールを追いかけてきた。
え、いや、今度聞こうと考えたけど。
今度が来るの早すぎだろ。
しかし、ボールを拾わず逃げるわけにもいかない。
渋々、ボールを拾う。
「すみません、何度も」
二回も見知った人物にボールを拾われて恥ずかしいのだろう。
目線を逸らしながらボールを受け取る。
「弟?」
自然な口調を装いながら質問を投げかける。
「いえ、ボランティアで」
「へえ、ボランティア」
気の利いた言葉が返せなかったが、三宅さんはそんなことを気にしている様子はない。
「昔通ってたこどもクラブのボランティアで、あの男の子がなかなかみんなの輪に入れないので、私が一緒に遊んでます。鈴名さんは?」
「写真撮影してた。映えるような、なんていうか、青春を感じる写真が撮りたくて」
「へえ」
俺は素直に答えた。
心なしか、三宅さんの目線が冷たさを帯びた気がした。
三宅さんが走ってきた方から、三宅さんが一緒に遊んでいた男の子が走ってくる。
「三宅先生! トイレ!」
「じゃあここで待ってるね」
「はーい!」
元気の塊はトイレに向かって走っていく。
三宅さんは男の子を目で追いながらため息をついた。
「鈴名さんも映えとか気にするんですね。意外です」
その言葉には、さすがにカチンときた。
「まあね」
怒りを抑え、返答をする。
「他人の評価とか気にして、馬鹿らしくないですか。大学生で青春って遅い感じもしますけど」
ああ、苦手だ。
それは俺も思ったことではあるけど。
この子、本当に苦手だ。
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