23 / 41
白秋
はくしゅう17
しおりを挟む
どうしよう。一気に気まずい雰囲気になってしまった。
「お疲れ様です」
最初に挨拶をしたのは、恥ずかしながら年下の三宅さんだ。
動揺しているだろうが、俺を睨みつけてくる目線の鋭さは変わらない。
今日は制服ではなく、無地の黒いTシャツにカーキ色のカーゴパンツといった出で立ちだ。
太陽の位置関係により、俺も三宅さんを睨みつけることになっている。
傍目からみると犬猿の仲に見えそうだな、などと考えていた。
「お疲れ様です」
挨拶を返しながら俺がボールを差し出すと、三宅さんは素早くボールを回収する。
「じゃあ、また、バイトの時に」
何も言わずに離れるのも気が引けたので、無難な言葉を発しておく。
「はい」
かろうじて聞こえる声で返答すると、三宅さんは一礼して走り去っていった。
走り去っていく三宅さんは、小さな男の子の近くへ行くと立ち止まり、男の子に向かってボールを蹴っていた。
どちらもコントロールが良いわけではないらしく、ボールを捕まえるために男の子が右往左往しているのが見える。
あの男の子は、弟かな。
そういえば、俺は三宅さんのことを詳しく知らない。
仲が良いわけでもないし、そんなことを知らなくてもバイトに支障はないのだから、当たり前かもしれない。
そう考えてみると、なんとも言えない寂しさで心が曇る。
今度、雑談として聞いてみようか。
そう考えていると、再び黄色いボールがこちらに転がってきた。
もちろん、三宅さんがボールを追いかけてきた。
え、いや、今度聞こうと考えたけど。
今度が来るの早すぎだろ。
しかし、ボールを拾わず逃げるわけにもいかない。
渋々、ボールを拾う。
「すみません、何度も」
二回も見知った人物にボールを拾われて恥ずかしいのだろう。
目線を逸らしながらボールを受け取る。
「弟?」
自然な口調を装いながら質問を投げかける。
「いえ、ボランティアで」
「へえ、ボランティア」
気の利いた言葉が返せなかったが、三宅さんはそんなことを気にしている様子はない。
「昔通ってたこどもクラブのボランティアで、あの男の子がなかなかみんなの輪に入れないので、私が一緒に遊んでます。鈴名さんは?」
「写真撮影してた。映えるような、なんていうか、青春を感じる写真が撮りたくて」
「へえ」
俺は素直に答えた。
心なしか、三宅さんの目線が冷たさを帯びた気がした。
三宅さんが走ってきた方から、三宅さんが一緒に遊んでいた男の子が走ってくる。
「三宅先生! トイレ!」
「じゃあここで待ってるね」
「はーい!」
元気の塊はトイレに向かって走っていく。
三宅さんは男の子を目で追いながらため息をついた。
「鈴名さんも映えとか気にするんですね。意外です」
その言葉には、さすがにカチンときた。
「まあね」
怒りを抑え、返答をする。
「他人の評価とか気にして、馬鹿らしくないですか。大学生で青春って遅い感じもしますけど」
ああ、苦手だ。
それは俺も思ったことではあるけど。
この子、本当に苦手だ。
「お疲れ様です」
最初に挨拶をしたのは、恥ずかしながら年下の三宅さんだ。
動揺しているだろうが、俺を睨みつけてくる目線の鋭さは変わらない。
今日は制服ではなく、無地の黒いTシャツにカーキ色のカーゴパンツといった出で立ちだ。
太陽の位置関係により、俺も三宅さんを睨みつけることになっている。
傍目からみると犬猿の仲に見えそうだな、などと考えていた。
「お疲れ様です」
挨拶を返しながら俺がボールを差し出すと、三宅さんは素早くボールを回収する。
「じゃあ、また、バイトの時に」
何も言わずに離れるのも気が引けたので、無難な言葉を発しておく。
「はい」
かろうじて聞こえる声で返答すると、三宅さんは一礼して走り去っていった。
走り去っていく三宅さんは、小さな男の子の近くへ行くと立ち止まり、男の子に向かってボールを蹴っていた。
どちらもコントロールが良いわけではないらしく、ボールを捕まえるために男の子が右往左往しているのが見える。
あの男の子は、弟かな。
そういえば、俺は三宅さんのことを詳しく知らない。
仲が良いわけでもないし、そんなことを知らなくてもバイトに支障はないのだから、当たり前かもしれない。
そう考えてみると、なんとも言えない寂しさで心が曇る。
今度、雑談として聞いてみようか。
そう考えていると、再び黄色いボールがこちらに転がってきた。
もちろん、三宅さんがボールを追いかけてきた。
え、いや、今度聞こうと考えたけど。
今度が来るの早すぎだろ。
しかし、ボールを拾わず逃げるわけにもいかない。
渋々、ボールを拾う。
「すみません、何度も」
二回も見知った人物にボールを拾われて恥ずかしいのだろう。
目線を逸らしながらボールを受け取る。
「弟?」
自然な口調を装いながら質問を投げかける。
「いえ、ボランティアで」
「へえ、ボランティア」
気の利いた言葉が返せなかったが、三宅さんはそんなことを気にしている様子はない。
「昔通ってたこどもクラブのボランティアで、あの男の子がなかなかみんなの輪に入れないので、私が一緒に遊んでます。鈴名さんは?」
「写真撮影してた。映えるような、なんていうか、青春を感じる写真が撮りたくて」
「へえ」
俺は素直に答えた。
心なしか、三宅さんの目線が冷たさを帯びた気がした。
三宅さんが走ってきた方から、三宅さんが一緒に遊んでいた男の子が走ってくる。
「三宅先生! トイレ!」
「じゃあここで待ってるね」
「はーい!」
元気の塊はトイレに向かって走っていく。
三宅さんは男の子を目で追いながらため息をついた。
「鈴名さんも映えとか気にするんですね。意外です」
その言葉には、さすがにカチンときた。
「まあね」
怒りを抑え、返答をする。
「他人の評価とか気にして、馬鹿らしくないですか。大学生で青春って遅い感じもしますけど」
ああ、苦手だ。
それは俺も思ったことではあるけど。
この子、本当に苦手だ。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説

俺と代われ!!Re青春
相間 暖人
青春
2025年、日本では国家主導で秘密裏に実験が行われる事になった。
昨今の少子化は国として存亡の危機にあると判断した政府は特別なバディ制度を実施する事により高校生の恋愛を活発にしようと計ったのだ。
今回はその一組の話をしよう。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

執事👨一人声劇台本
樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。
一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。
⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠
・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します)
・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。
その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

切り札の男
古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。
ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。
理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。
そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。
その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。
彼はその挑発に乗ってしまうが……
小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。
とあるアプリで出題されたテーマから紡がれるセカンドストーリー❤︎
砂坂よつば
青春
「書く習慣」というアプリから出題されるお題に沿って、セリフが入っていたり、ストーリーが進む予測不可能な小説。第2弾は新たな物語ラブコメでお届け!!
主人公、高校1年生 輪通 萌香(わづつ もえか)が屋上でクラスメイトの友達と昼食を食べながらグランドを眺めていると、萌香好みの男子生徒を発見!萌香は彼と両思いになって楽しくも甘酸っぱい?青春高校生活を送ることが出来るのだろうか運命やいかに––––!?
※お題によって主人公が出てこない場合もございます。
本作品では登場する様々なキャラクターの日常や過去、恋愛等を描けてたらと思っています。小説家になろうとカクヨムの方でも同じ内容で連載中!※
いくつかのお題をアルフォポリス限定で執筆予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる