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白秋
はくしゅう13
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朝、ベッドの上から出ないまま、WINGを起動する。
あの後から、反応は増えていなかった。
大学へ行く支度よりも前に、投稿をする。
『昨晩は反応いただきありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします』
好印象のスタートを維持したいので、敬語を使う。
普段は敬語を使った投稿なんてしないが、好印象のためなら使い慣れない敬語も使ってやる。
投稿できるクオリティの写真、もっと撮りたいな。
簡単に支度を整えながら、漠然と考える。浮き足立っているが、このまま足を浮かしたままで過ごす訳にはいかない。
このまま足を浮かせるか、地面に落下するかは今後の行動次第なのだから。
浮いた手足は普段より早く動いたらしく、講義室に着く時間は普段より早かった。
今日の俺はスキマ時間を有効に使う。
講義室で良いアングルが撮れないかと、カメラアプリを起動して構えてみた。
講義室のあちこちをカメラアプリを通して眺めてみるが、納得のいく構図は見つからない。
出来るだけ学生を入れないように心がけてみたが、学生は好き勝手動くので、どうしても入り込んでしまう。
当たり前のことだが、この空間は撮影に向いていなかった。
普段と変わらない時間になり、蒼依が入室している姿が画面に映る。
しばらくスマホ画面で追っていたが、スマホを下ろし自分の目で蒼依を追いかける。
「朝から俺の熱烈ファンじゃん。俺、盗撮魔を生み出しちゃった?」
そう言いつつ、俺の横に座る。
「良いアングルないかなって、探ってた」
「怪しすぎるわ。事務所に許可取ってもらっていいですか?」
蒼依は冗談を飛ばしつつ俺の頭を小突き、隣の席に座った。
自分のスマホを取り出すと、操作を始めた。
「まあそう焦るな、我が弟子よ。映える写真はポンポン撮れないのだよ」
「うっす、師匠」
「やれやれ、ワシもそのアカウントに参加しようかのぉ」
「へ?」
冗談めかして呟く言葉に一番合う返答を探すのに時間がかかり、無言の時間が流れる。
「あー、嫌だった? 嫌ならいいんだけど」
俺の無言を捉え切れなかった蒼依が、落胆の表情を見せる。
「いや違う違う、違うって」
濡れた犬が水しぶきを飛ばすように顔を振りながら、食い掛かるように言葉を返す。
「つまり、蒼依も青春の写真を撮るんだろ?」
「うん」
「で、同じように投稿するってことだろ?」
「うん」
同じ返事の繰り返しに、ボケたい俺が顔を覗かせる。
「蒼依の写真を俺が無断転載してもいいってことか」
返事の代わりに小突かれた。
先程の数倍、叩く力は込められていた。
「痛い痛い」
「そんなこと言うなら参加しないぞ」
先程から一転し、怒りの目線が俺に向けられる。
「そんなことしないって。そんなことした日には絶交でいいから」
「生ぬるい。慰謝料として百万くらいふんだくってやる」
「ごめんなさい」
こんな時は素直に謝るべきだと、大学生の俺はちゃんと知っている。
「で、どうするの。参加して欲しいの?」
「そりゃ参加して欲しいに決まってるだろ」
「んじゃ、奏汰が作ったアカウント、『共有モード』にしといてよ。俺も投稿するから」
お前にデータ送って投稿してもらうのも面倒だし、と口を尖らせながら蒼依は言う。
「共有モードってなに?」
無駄に知ったかぶらず、素直に訊ねる。
「WINGのアカウントって、複数で運営できるんだよ」
「へー」
そんな機能は初耳だった。今まで誰かと一緒にアカウントを運営する機会なんてなかったから、知るわけもない。
「おら、管理画面見せてみ」
俺は自分のスマホでWINGの管理画面を開き、蒼依に渡す。
蒼依は慣れた手つきで操作をすると、俺にスマホを返す。
「もう設定できたの?」
「これで、俺も投稿できるようになった。共有モードにしてるから、投稿の最後に名前が入るようになる」
「へー」
確認すると、朝は付いていなかった、人が複数並んだ黄色のアイコンがアカウント名の後ろに付いている。
「奏汰の名前も俺の名前も入れてるから、後で確認しといて」
蒼依はカバンからルーズリーフを取り出しながら言った。
前を見ると、教授が前で講義の準備をしているところだった。
俺も蒼依と同じように講義の準備をする。
「はい、始めまーす」
教授の声がスピーカーから流れ、講義が始まった。
あの後から、反応は増えていなかった。
大学へ行く支度よりも前に、投稿をする。
『昨晩は反応いただきありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします』
好印象のスタートを維持したいので、敬語を使う。
普段は敬語を使った投稿なんてしないが、好印象のためなら使い慣れない敬語も使ってやる。
投稿できるクオリティの写真、もっと撮りたいな。
簡単に支度を整えながら、漠然と考える。浮き足立っているが、このまま足を浮かしたままで過ごす訳にはいかない。
このまま足を浮かせるか、地面に落下するかは今後の行動次第なのだから。
浮いた手足は普段より早く動いたらしく、講義室に着く時間は普段より早かった。
今日の俺はスキマ時間を有効に使う。
講義室で良いアングルが撮れないかと、カメラアプリを起動して構えてみた。
講義室のあちこちをカメラアプリを通して眺めてみるが、納得のいく構図は見つからない。
出来るだけ学生を入れないように心がけてみたが、学生は好き勝手動くので、どうしても入り込んでしまう。
当たり前のことだが、この空間は撮影に向いていなかった。
普段と変わらない時間になり、蒼依が入室している姿が画面に映る。
しばらくスマホ画面で追っていたが、スマホを下ろし自分の目で蒼依を追いかける。
「朝から俺の熱烈ファンじゃん。俺、盗撮魔を生み出しちゃった?」
そう言いつつ、俺の横に座る。
「良いアングルないかなって、探ってた」
「怪しすぎるわ。事務所に許可取ってもらっていいですか?」
蒼依は冗談を飛ばしつつ俺の頭を小突き、隣の席に座った。
自分のスマホを取り出すと、操作を始めた。
「まあそう焦るな、我が弟子よ。映える写真はポンポン撮れないのだよ」
「うっす、師匠」
「やれやれ、ワシもそのアカウントに参加しようかのぉ」
「へ?」
冗談めかして呟く言葉に一番合う返答を探すのに時間がかかり、無言の時間が流れる。
「あー、嫌だった? 嫌ならいいんだけど」
俺の無言を捉え切れなかった蒼依が、落胆の表情を見せる。
「いや違う違う、違うって」
濡れた犬が水しぶきを飛ばすように顔を振りながら、食い掛かるように言葉を返す。
「つまり、蒼依も青春の写真を撮るんだろ?」
「うん」
「で、同じように投稿するってことだろ?」
「うん」
同じ返事の繰り返しに、ボケたい俺が顔を覗かせる。
「蒼依の写真を俺が無断転載してもいいってことか」
返事の代わりに小突かれた。
先程の数倍、叩く力は込められていた。
「痛い痛い」
「そんなこと言うなら参加しないぞ」
先程から一転し、怒りの目線が俺に向けられる。
「そんなことしないって。そんなことした日には絶交でいいから」
「生ぬるい。慰謝料として百万くらいふんだくってやる」
「ごめんなさい」
こんな時は素直に謝るべきだと、大学生の俺はちゃんと知っている。
「で、どうするの。参加して欲しいの?」
「そりゃ参加して欲しいに決まってるだろ」
「んじゃ、奏汰が作ったアカウント、『共有モード』にしといてよ。俺も投稿するから」
お前にデータ送って投稿してもらうのも面倒だし、と口を尖らせながら蒼依は言う。
「共有モードってなに?」
無駄に知ったかぶらず、素直に訊ねる。
「WINGのアカウントって、複数で運営できるんだよ」
「へー」
そんな機能は初耳だった。今まで誰かと一緒にアカウントを運営する機会なんてなかったから、知るわけもない。
「おら、管理画面見せてみ」
俺は自分のスマホでWINGの管理画面を開き、蒼依に渡す。
蒼依は慣れた手つきで操作をすると、俺にスマホを返す。
「もう設定できたの?」
「これで、俺も投稿できるようになった。共有モードにしてるから、投稿の最後に名前が入るようになる」
「へー」
確認すると、朝は付いていなかった、人が複数並んだ黄色のアイコンがアカウント名の後ろに付いている。
「奏汰の名前も俺の名前も入れてるから、後で確認しといて」
蒼依はカバンからルーズリーフを取り出しながら言った。
前を見ると、教授が前で講義の準備をしているところだった。
俺も蒼依と同じように講義の準備をする。
「はい、始めまーす」
教授の声がスピーカーから流れ、講義が始まった。
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