青春活動

白秋

はくしゅう6

　渡された紙は、やはり名刺だった。

　ビジネスマンが使うような名刺とは違い、水色の背景にリボンが散りばめられており、可愛らしい名刺になっている。
　更に違うのは、電話番号の代わりにWINGのアカウントIDやQRコードが書かれていることだ。

　そこに写っている写真には、先程の女性スタッフが写っていた。

　ブレザーに似た紺色の服を着て、名刺を持つ俺に向かって微笑んでいる。

　真ん中には、可愛らしいフォントで『板木いたきアリシャ』と書かれており、こだわりが詰まった名刺だ。

　名前を脳みそに叩き込むと、俺はリュックから財布を取り出し、ほとんど中身の入っていないカード収納部に入れた。


　幸か不幸か、中古ゲームショップの窓には店内改装という張り紙が貼られていた。
　建物は鉄骨で覆われており、ヘルメットを被った作業員が出入りしている。

　なんか今日、ついてないな。

　渋々コンビニに入り、俺はATMから一万円を引き出すと、財布に入れ、外に出た。

　少し早い時間ではあるが、ハンバーガー屋に入り、スマホを見ながらゆっくりと昼食を取ることにした。
　
　ハンバーガー屋を後にし、立ち並ぶビルや店を眺めながらイセカイトビラの行列に並んだ結果、俺は二時過ぎにはイセカイトビラに足を踏み入れることに成功していた。

　スタッフの説明と表示に従いながら道を進み、俺はステラ魔法学園日本校と書かれたドアを開ける。

　ドアの向こうには、映画のセットと見間違う程作り込まれた魔法学校の教室が広がっていた。

　少し暗い室内には、アンティーク調のカウンターや机、棚が置いてあり、人が入れそうな大きさの大釜が置いてある。
　もちろん、実際に使う人間はいないだろうが、大釜を混ぜるための大きなスプーンが釜の中に入っていた。

　客席側の棚には、魔法陣が描かれていたり、読めない言語が記された革張りの分厚い本や、謎の液体が入った瓶、杖が並んでいた。
　俺より先に入店し、中で過ごしている客の中には、オムライスに向かって棒を振り回している人もいる。

　残念なことというと、カウンター内の壁には現実感がある飲み物のボトルやストローなどが置いてあることくらいだ。
　それは飲食を提供する場なのだから仕方ないだろう。

「おはようございます、特待生さん」
　開けた瞬間、女性スタッフ達の可愛らしい声がハーモニーを奏でる。
　学生らしく、ブレザーを着用した女性スタッフがお辞儀をしてくれる。
　肩より少し長い丈のケープがふわりと揺れた。
「こんにちは」
　条件反射で口から出た言葉は、失礼ではないだろうが不慣れさを全面に出してしまう。
　実際、慣れてないから仕方ないかもしれないが、どうしても気にしてしまう。

「こちらへどうぞ」
　そんな俺に嫌な顔ひとつせず、カウンターに立つ、明るい茶髪のスタッフがカウンターへ案内してくれる。
　その声は、入店するきっかけになったアリシャの声だった。

　近づくと、確かに今朝出会った女性のようだ。
　髪の色も長さも変わっているし、目の色も金に変わっているため、判断できるのは背の高さと声くらいしかない。