青春活動

獅子倉 八鹿

文字の大きさ
上 下
11 / 41
白秋

はくしゅう5

しおりを挟む
 再び目を開いた時には、終点の駅に到着していた。
 軽快な音が流れた後にドアが開き、乗客が続々と電車から出ていく。
 俺も座席から立ち上がり、電車から出た。

 駅に隣接している商業施設は賑やかで、都会に出てきたことを嫌でも実感する。
 目的地がない俺は、人の波に合わせて移動し、南口から出た。

 タクシーやバスの停留所がひしめく中、居酒屋やパン屋、ネカフェなどが立ち並ぶ。
 とりあえず、以前行ったことのある中古ゲームショップへ行くことにした。
 運動も兼ねて、交通機関は使わず歩いて行くことにする。

 駅前を過ぎ、裏通りに入ると、回転しそうにない寿司屋や居酒屋、地元の人物が営んでいそうな中華料理屋などが増えてきた。
 ホストクラブやキャバクラらしい店もその間に並び、太陽が登る今は眠っている。

 こんな裏通りの隅に、なぜか行列が出来ていた。
 広くないこの裏通りで行列が出来ているため、嫌でも近くを通ることになる。

 建物に近づくにつれ、徐々に全貌が明らかになっていく。
 それは新しく開店したカフェらしい。
 ゲームから出てきたような、ゴシックな服装を纏った男性が看板を持って立っており、呼び込みを行っていたり、並んでいる列の整理を行っている。
 立て看板には、『イセカイトビラ』と書いてある。

「映え体験できるカフェでーす! ただいまキャンペーンを行っておりまーす!」
 コスプレにも近い、サイバーパンクな服装を身に纏った小柄の女性が声を張り上げている。
 笑顔を絶やさずビラを配り、動くたびに外にはねた金髪のショートヘアが揺れていた。

 同じ店舗だとは思うが、世界観合わなすぎだろ。
 世界観の違いに寒気がするわ。

 目を合わさないよう、目を逸らして歩くことにした。
「こんにちは!今日開店した『イセカイトビラ』です!」
 しかし、捕まってしまった。
 どうやらこれは、強制イベントだったらしい。

 金髪ショートヘアの女性は、笑顔を絶やさないまま、俺に小さなビラを渡す。
「本日、チャージ料金が半額になっております!」
 目の前に出されてしまうと、受け取らないわけにはいかなかった。
 渋々、ビラを受け取る。

「このビルの3階、ワンフロア分使っていて、サイバーパンクな世界観と、ゴスロリな世界観、魔法学校の生活が楽しめるんです!」
「へえ、すごいですね」
 すぐ離れたら良いものの、異色の施設への驚きが隠せず、思わず感想をこぼしてしまう。
 コンカフェが三軒合体したようなものならば、ゴシックな服とサイバーな服の従業員がいてもおかしくない。

 充分客が並んでいると思うが、オープンまでの費用や従業員雇用などを考えると、これでも赤字だろうと余計な想像をしてしまう。

「私、午前中はサイバーパンク担当なんですけど、午後からは魔法学校担当なんですよね。よければ私達と青春しませんか?」

 首を傾げながら、女性は俺に笑いかけた。
 サラサラと金髪が揺れ、光が反射する。

「せいしゅん」
 それだけを復唱する俺は、とても間抜けに映っただろう。
 しかし、今の俺はそのキーワードだけが見事に引っかかってしまった。

「青春かあ」
「素敵な青春、お手伝いしますよ?」
 今度はウインクされる。
 カラコンを付けているのだろう。日本人離れした真っ青な瞳に吸い込まれそうになる。

「じゃあ、午後行きます」

「ありがとうございます!」
 女性はその場で飛び跳ねる。腰から下げているクリアポーチから、名刺と思われる紙を取り出した。
「私の名刺です。二時くらいから魔法学校ゾーンの方にいますから! 楽しみにしてますね!」

 両手で渡された紙を、両手で受け取る。
 俺が受け取ったのを確認すると、女性は俺の前から離れ、他の通行人の元へ向かった。

 その姿を見送り、俺も中古ゲームショップに向けて歩き始める。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

俺と代われ!!Re青春

相間 暖人
青春
2025年、日本では国家主導で秘密裏に実験が行われる事になった。 昨今の少子化は国として存亡の危機にあると判断した政府は特別なバディ制度を実施する事により高校生の恋愛を活発にしようと計ったのだ。 今回はその一組の話をしよう。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

Missing you

廣瀬純一
青春
突然消えた彼女を探しに山口県に訪れた伊東達也が自転車で県内の各市を巡り様々な体験や不思議な体験をする話

将棋部の眼鏡美少女を抱いた

junk
青春
将棋部の青春恋愛ストーリーです

鐘ヶ岡学園女子バレー部の秘密

フロイライン
青春
名門復活を目指し厳しい練習を続ける鐘ヶ岡学園の女子バレー部 キャプテンを務める新田まどかは、身体能力を飛躍的に伸ばすため、ある行動に出るが…

執事👨一人声劇台本

樹(いつき)@作品使用時は作者名明記必須
青春
執事台本を今まで書いた事がなかったのですが、機会があって書いてみました。 一作だけではなく、これから色々書いてみようと思います。 ⚠動画・音声投稿サイトにご使用になる場合⚠ ・使用許可は不要ですが、自作発言や転載はもちろん禁止です。著作権は放棄しておりません。必ず作者名の樹(いつき)を記載して下さい。(何度注意しても作者名の記載が無い場合には台本使用を禁止します) ・語尾変更や方言などの多少のアレンジはokですが、大幅なアレンジや台本の世界観をぶち壊すようなアレンジやエフェクトなどはご遠慮願います。 その他の詳細は【作品を使用する際の注意点】をご覧下さい。

切り札の男

古野ジョン
青春
野球への未練から、毎日のようにバッティングセンターに通う高校一年生の久保雄大。 ある日、野球部のマネージャーだという滝川まなに野球部に入るよう頼まれる。 理由を聞くと、「三年の兄をプロ野球選手にするため、少しでも大会で勝ち上がりたい」のだという。 そんな簡単にプロ野球に入れるわけがない。そう思った久保は、つい彼女と口論してしまう。 その結果、「兄の球を打ってみろ」とけしかけられてしまった。 彼はその挑発に乗ってしまうが…… 小説家になろう・カクヨム・ハーメルンにも掲載しています。

とあるアプリで出題されたテーマから紡がれるセカンドストーリー❤︎

砂坂よつば
青春
「書く習慣」というアプリから出題されるお題に沿って、セリフが入っていたり、ストーリーが進む予測不可能な小説。第2弾は新たな物語ラブコメでお届け!! 主人公、高校1年生 輪通 萌香(わづつ もえか)が屋上でクラスメイトの友達と昼食を食べながらグランドを眺めていると、萌香好みの男子生徒を発見!萌香は彼と両思いになって楽しくも甘酸っぱい?青春高校生活を送ることが出来るのだろうか運命やいかに––––!? ※お題によって主人公が出てこない場合もございます。 本作品では登場する様々なキャラクターの日常や過去、恋愛等を描けてたらと思っています。小説家になろうとカクヨムの方でも同じ内容で連載中!※ いくつかのお題をアルフォポリス限定で執筆予定です。

処理中です...