青春活動

獅子倉 八鹿

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朱夏

しゅか6

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「というわけで、俺は青春を謳歌しようと思うんだ」
 残暑の出来事を伝え終わると、俺はアイスコーヒーを流し込んだ。

 苦味と冷たさが喉を過ぎるのが心地よい。
 予想外に大きな音を立てて置かれたグラスの、結露した水滴がトレーの上に散る。

 普段見なれないサイズ表記に困惑しながらも、一番大きいサイズを注文した。
 そのはずなのに、中身はもう半分程度しか残っていない。

 人気チェーンのカフェだが、テラス席はがら空きだった。
 ガーデンパラソルは設置してあるが、気温が高い屋外よりも、エアコンに管理されている室内のほうが需要があるのだろう。
 俺一人なら間違いなく室内を選んでいた。
 目の前に座る友人が、人の多い室内を嫌がったのだから仕方ない。

「それであの奏汰かなたが、カフェなんかに来たわけか。なるほどなるほど」
 俺が一番多く交流している男は、小馬鹿にしたような笑みを浮かべながら俺を見た。
蒼依あおいさん、今さりげなく俺をバカにしてませんでした?」
「別に?」
 蒼依は、ほとんど残っていないフローズンドリンクを、わざとらしく音を立てて吸い込む。俺は反射的に眉をひそめてしまうが、蒼依は気にせず音を立て続ける。

「WING見てたら、よくここの写真が投稿されてからさ。青春を堪能する第一歩になればと思ってここを選んでみた」
「奏汰って、カフェインが摂取できたらいいって言って、いつもはフードコートで待ち合わせて、安い缶コーヒーかエナドリ飲んでるもんね。進歩じゃない?」
 間違いなく小馬鹿にされていた。小馬鹿レベルではなく、馬鹿にされているかもしれない。

「初めてカフェ来てみてさ、どうよ? 青春ってやつを感じた?」
 蒼依に見つめられ、俺は即座に首を横に振る。
「コーヒーは美味いかも。けど、なんか疲れる。後高い」
 再び、アイスコーヒーに口を付ける。
「だよね。居酒屋で勢いよくビール飲み干すサラリーマンみたいだもん。青春とは遠いわ」

 その一言に、口に含んだコーヒーを吹き出しそうになるのを何とか堪え、飲み込んだ。
 蒼依は、口だけの謝罪をしながら背中をさすってくれる。

 落ち着いてから、予想外の酷使でダメージを受けた喉を震わせる。
「自分で考えても、青春って何すればいいかわからなくてさ。そこで。第三者の意見を聞きたい」
 蒼依は二回頷くと、ストローから口を離し、真剣な眼差しを向ける。

「奏汰。これは大事な事だから言っとく」
 辛辣な意見も受け止めることができるよう、覚悟を決める。
「青春的イベント盛りだくさんの八月は今日で終わっちゃうよ」
 薄笑いしながら、自分のスマホ画面を俺に向けてきた。

 そこには、オシャレな表記で八月三十一日と表示されている。
 一大決心をした夏が、今日で終わろうとしていた。


「相談するの遅いっての」
「仕方ないだろ。急にパートさんが長期で休むことになって、バイトに駆り出されてたんだから」

 夏がゆっくり溶けていく。
 残暑は、枯れていた俺の息の根を止めたのかもしれない。
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