青春活動

獅子倉 八鹿

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朱夏

しゅか5

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 一昨日の出来事を思い出したせいで、記憶上の妹に再び傷を抉られた。

 バイトに精を出し、夏季休暇をゲーム画面と見つめ合って消化する大学生。
 時折友人と遊びはするが、外出は必要最低限の用事に限られている。
 彼女はいない。

 自身を客観視すると、確かに落ち着き過ぎている気もする。
 律花の言う通り、俺は枯れているのだろうか。

 いや、待て。結論を出すには証拠がなさすぎる。
 律花の周りが枯れていない日々を送っているだけかもしれない。
 巷に溢れかえっているフィクションを、リアルだと勘違いしているのかもしれない。

 俺はWINGを起動し、皆の投稿を見る。
 フォローしているアカウントの投稿を確認すると、ゲームの話題やマンガのネタバレ、先日律花に指摘されたキャラクターの二次創作が流れてきた。

 二次創作に反応した後、普段はあまり表示することのない、トレンド一覧を開いた。

 普段見ている投稿欄には、俺が反応したり、フォローしたりしているアカウントの投稿が表示されている。
 それに加えて、AIが俺の反応する投稿を分析し、俺の好みそうな投稿がいくつかピックアップされ、表示される。

 ただ、ここは違う。
 トレンド一覧には俺の反応は反映されず、閲覧数や反応が多い投稿が表示される。
 ここを開けば、世間で流行している物事や一般人の生活を切り抜いた投稿が表示されるはずだ。

 人気芸能人の不倫に関する意見。
 人気マンガ原作者の結婚。
 長年ファンが待ち続けていた、映画の続編の情報。

 それらに負けずと流れてくるは、一般人の夏だ。

『久々に浴衣着た!』
『やっぱりフェスは暑いよねー』
『彼女の水着が似合いすぎて、他の奴に見せたくない』

 夏色に染まった景色を背景に、一般人達が写真を撮影している。
 SNSで流行しているポーズをした男女やピースサインをした女性グループの写真が飛び込んできた。

 諦めが悪い俺は、画面をスクロールし、他の投稿を確認する。

 明度を変更した覚えはないが、普段の数倍明るく見えるスマホの画面を手早く消した。
 どうやら、俺は枯れているらしい。

 というか、俺が枯れていなかった時期はいつなんだ?

 校庭で走り回り、ゲームの面白さに目覚めた小学生時代。
 友達は何人かいたはずだが、皆習い事が忙しく、頻繁に家で遊ぶことはなかった。

 高校に入学するには受験が必要と知り、過剰に怯えた中学時代。
 部活動に入らず、功績を残すために生徒会長として過ごしながら、死に物狂いで検定を受験していた。

 功績を積み上げた結果、特待生として入学したものの、反動で努力が出来なくなり、怒られない程度の成績を残して卒業した高校生時代。
 入学当初は入部も考えていたが、努力するのが嫌で帰宅部として過ごしていた。

 そして高校生時代の延長で緩々と日々を過ごしている現在。
 今もサークルには所属せず、ゲームとマンガの購入資金のために牛丼屋でバイトをしている。

 こんな人生を過ごしてきたものだから、交際経験はない。
 中学卒業後、ほとんど話したことのないクラスメイトが俺に好意を抱いていると風の噂で聞いたが、そのクラスメイトの行方は知らない。

 中学時代は恋愛どころではなかったが、高校生にもなると、俺も好きな人ができた。
 ただ、三回連続で相手に彼氏がいたという記録を持つ。
 こんな不名誉な記録を更新したくないので、最近は二次元の女性に夢中になっている。

 現実を直面して、憂鬱になる。

 人並みの生活を送っていると思っていた。
 個人差はあるだろうが、一握りの人間だけが光り輝く生活を謳歌し、俺を含む大半の人間はそんな日々を送っていないものだと勘違いしていた。

 こんな、輝きのない人生でいいのだろうか。
 己に問いかける。

 俺は枯れてなどいないのだと、周囲に思い知らせたい気持ちもある。
 律花に言われた通り、俺は見栄を張りたい人間だ。
 彼女を作って、光り輝く日々を送っている姿を律花に見せつけ、枯れていると言ったのは間違いだったといわせたいと思う。

 そんなちっぽけな見栄よりも、光を放ちたくなった。

 WINGに映っていたのは、人々の光、青春だった。
 自分とは比べ物にならない程眩しい投稿を見せつけられると、俺も青春と呼べるような体験をしてみたい。
 大学生で青春を謳歌するのも遅いような気もするが、年老いてから青春を味わおうと本腰を据えるよりいいだろう。

 今からでも、青春を味わいつくしたい。

 達成感からか、先ほどまで冴えていた目が閉じてくる。
 具体的な計画を練るのは明日にしよう。
 睡眠に向けて動きが鈍くなる身体を無理やり動かし、明かりを消した。
 夜の暗さと意識が溶けあい、一つになった。
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