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朱夏
しゅか4
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ゲーミングチェアに座り、律花は無言でスマホを操作する。
座る場所を失った俺は、ゲーミングチェア近くに立ちつくす。
「ところで、可愛い可愛い律花さん」
しばらくは俺もスマホを眺めていたが、この無言の時間に耐えきれなくなり、話題を提供することにした。
「なんですか、しばらく会わない間にシスコンをこじらせたお兄様」
「その格好はどうした。最後に見た律花は、上下俺のお下がりのジャージだったはずなんだが」
律花から本気のストレートが飛んできた。
速度を乗せ、俺の腹を狙ってくる。
「高校デビューか」
片手でストレートを受け止め、会話を続ける。
「うるさい――あ、あれ」
ストレートを止められ、俺の手を敵視していた律花だが、ベッドサイドの本棚に目線を移した。
「なんだよ」
「なんであたしが読みたいマンガがこんなに揃ってるのよ。貸してよ」
返事を待たず、ゲーミングチェアから立ち上がると、律花はマンガを取り出した。
「別にいいけど、どうやって返すつもりだ。実家からここまで来るの大変だろ。ネカフェ行け」
「家まで取りに来て」
「めんどくさい」
何故貸したマンガ回収のために電車を何駅も乗り継がなきゃいけないのか。
「いいじゃん。どうせ彼女いないんだから暇でしょ」
どうせ彼女いないんだから。
その決めつけは、流石に見過ごせない。
「いないっていつ言った」
「聞いてないけど、こんな枯れた生活してるお兄ちゃんにいる訳がない」
律花の言葉が徐々に鋭さを増しているが、倒れる訳にはいかない。
「証拠を出せ。物的証拠を」
「部屋に女の形跡がない。男臭いもので溢れてる」
間髪入れずに自信満々に言い放たれ、俺は言葉に詰まる。
彼女がいないことは間違っていないのだが、素直に認めたくない。
兄には兄のプライドがある。
「お兄ちゃんシャイだからまだ呼んでない」
「ダウト」
勝利を確信しているのだろう。
律花の人差し指は、迷うことのない動きで持ち上がり、俺の顔を指す。
「お兄ちゃんは見栄っ張り。自慢したがり。自分はいい男ですって彼女に見せつけたくなる。彼女が出来たら嫌という程周りにアピールしたくなる」
勝利を確信した右手は、こちらに近づく。
「お揃いの何かを買って、部屋に置く。着用する。愛用する」
我が妹よ、先程までの愛らしさはどこへ行った。
「SNSに匂わせ投稿をして、チヤホヤされようとする」
人差し指を動かすことなく、空いた手でスマホを操作する。
「これは好きなゲームキャラクターの二次創作イラストへの反応ばかりしてるアカウント。このアカウントの持ち主であるお兄ちゃんに、彼女はいない」
『Q.E.N』というアカウントの投稿一覧を突きつけられ、うなだれた。
「はい」
敗北を認める一言が俺にのしかかる。
間違いなく、俺の敗北だった。
俺を言い負かしたからか、その後の律花は機嫌が良いように見えた。
「じゃ、全部読んだら連絡する」
律花は厚底の靴に足を滑らせ、リュックを背負う。
「なんか、大人になったな」
律花の動きを目で追っていると、率直な感想が口から溢れた。
こちらを振り向く律花と目が合う。
「え?」
驚きを隠せない律花の眼差しに晒され、顔を逸らす。
「なんでそんな格好なのかよく分からないが、似合ってると思う」
「まぁ、彼女いないお兄ちゃんみたいに枯れてないから。好きな人いるし」
時間経過により、回復の兆しを見せていた傷が抉られた。
そんな俺を見ながらケタケタと笑う律花と共に、外に出る。
「じゃ、気をつけて」
「うん、またね」
律花の大人びた顔が熱気を持つ日光に照らされ、朱色に染まっていた。
座る場所を失った俺は、ゲーミングチェア近くに立ちつくす。
「ところで、可愛い可愛い律花さん」
しばらくは俺もスマホを眺めていたが、この無言の時間に耐えきれなくなり、話題を提供することにした。
「なんですか、しばらく会わない間にシスコンをこじらせたお兄様」
「その格好はどうした。最後に見た律花は、上下俺のお下がりのジャージだったはずなんだが」
律花から本気のストレートが飛んできた。
速度を乗せ、俺の腹を狙ってくる。
「高校デビューか」
片手でストレートを受け止め、会話を続ける。
「うるさい――あ、あれ」
ストレートを止められ、俺の手を敵視していた律花だが、ベッドサイドの本棚に目線を移した。
「なんだよ」
「なんであたしが読みたいマンガがこんなに揃ってるのよ。貸してよ」
返事を待たず、ゲーミングチェアから立ち上がると、律花はマンガを取り出した。
「別にいいけど、どうやって返すつもりだ。実家からここまで来るの大変だろ。ネカフェ行け」
「家まで取りに来て」
「めんどくさい」
何故貸したマンガ回収のために電車を何駅も乗り継がなきゃいけないのか。
「いいじゃん。どうせ彼女いないんだから暇でしょ」
どうせ彼女いないんだから。
その決めつけは、流石に見過ごせない。
「いないっていつ言った」
「聞いてないけど、こんな枯れた生活してるお兄ちゃんにいる訳がない」
律花の言葉が徐々に鋭さを増しているが、倒れる訳にはいかない。
「証拠を出せ。物的証拠を」
「部屋に女の形跡がない。男臭いもので溢れてる」
間髪入れずに自信満々に言い放たれ、俺は言葉に詰まる。
彼女がいないことは間違っていないのだが、素直に認めたくない。
兄には兄のプライドがある。
「お兄ちゃんシャイだからまだ呼んでない」
「ダウト」
勝利を確信しているのだろう。
律花の人差し指は、迷うことのない動きで持ち上がり、俺の顔を指す。
「お兄ちゃんは見栄っ張り。自慢したがり。自分はいい男ですって彼女に見せつけたくなる。彼女が出来たら嫌という程周りにアピールしたくなる」
勝利を確信した右手は、こちらに近づく。
「お揃いの何かを買って、部屋に置く。着用する。愛用する」
我が妹よ、先程までの愛らしさはどこへ行った。
「SNSに匂わせ投稿をして、チヤホヤされようとする」
人差し指を動かすことなく、空いた手でスマホを操作する。
「これは好きなゲームキャラクターの二次創作イラストへの反応ばかりしてるアカウント。このアカウントの持ち主であるお兄ちゃんに、彼女はいない」
『Q.E.N』というアカウントの投稿一覧を突きつけられ、うなだれた。
「はい」
敗北を認める一言が俺にのしかかる。
間違いなく、俺の敗北だった。
俺を言い負かしたからか、その後の律花は機嫌が良いように見えた。
「じゃ、全部読んだら連絡する」
律花は厚底の靴に足を滑らせ、リュックを背負う。
「なんか、大人になったな」
律花の動きを目で追っていると、率直な感想が口から溢れた。
こちらを振り向く律花と目が合う。
「え?」
驚きを隠せない律花の眼差しに晒され、顔を逸らす。
「なんでそんな格好なのかよく分からないが、似合ってると思う」
「まぁ、彼女いないお兄ちゃんみたいに枯れてないから。好きな人いるし」
時間経過により、回復の兆しを見せていた傷が抉られた。
そんな俺を見ながらケタケタと笑う律花と共に、外に出る。
「じゃ、気をつけて」
「うん、またね」
律花の大人びた顔が熱気を持つ日光に照らされ、朱色に染まっていた。
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