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「ねえ、見て聞いて。」
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「別れよう」
ベッドの横に立つ男はそう言った。
部屋の照明を消し、寝るためにスマホも手から離した時だった。
カーテンから零れる月明かりが輪郭を縁取る。
なんで?
「理由を言って。」
「いや、その、さ。理由は……世界を……助けるため……なんだけど」
「今度はどの漫画から思いついたのさ。」
私は思わずため息をついた。
「また嘘つくんだね。君が嘘つきなのは、もうずいぶん前から分かっているけど。」
「そんな深いため息つくなよ。詳しく話せないけど、今から出発しないと世界が滅びるんだって。ホントよホント」
ばつが悪そうに、こちらを見ては目を逸らす。
「好きだよ」
目を逸らしたまま放つ言葉。
「好きだ。ホントは離れたくない。けど、俺がやらないと世界が」
「ちゃんと現実を見て。私は純粋な子どもじゃないの。ちゃんと実際に起こり得ることと起きっこないことの区別はつくの。」
「さすがに、信じてもらえないか」
うん。
「なんでそんな嘘つくの。私、貴方に嫌われないようにしてるのに。本当の理由を教えてよ。」
私の視界も悪くなっているが、あちらはそれ以上らしい。
乱雑に、止まらない涙を手で拭っている。
そのことを認識しても、どちらの涙も止まる訳では無い。
「小さい嘘も、大きな嘘も、何度も聞いてきたよ。黙っていたけど、嘘だと知っていてもわざとびっくりしてみたりした。貴方のことを否定もしなかった。なのにどうして。」
彼――もう彼氏ではないかもしれない――はゴソゴソと腕を動かし、何かを取り出した。
「この期に及んでプレゼントなの? やめてよ。悲しくなるだけだよ。」
「これ。もし俺が失敗しても、1回なら守ってくれるはずだから」
私の手を勝手に開き、ゴツゴツした何かを手に乗せた。
「好きだ。こんな俺に何も言わず、一緒にいてくれてありがとう」
こちらこそ、ありがとう。
「嘘が沢山あったけど、それを引いても楽しかったよ。」
「じゃ、世界救ってくる。30分後くらいかな? 紫色の閃光を悪者にお見舞いしてくるからさ。空見ててよ」
さよなら。
「言いたい言葉、最後まで飲み込んでしまったな。」
照明を付け、ベッドの上で、手に握らされた紫色の石を眺める。
「夜空見てって言ったけど、花火でもあがるのかな。最後のお願いだったし、見てみようか。」
鉛になった身体を無理やり動かしてベランダに立つ。
「普通の夜空じゃん。最後まで嘘ついてたな」
ベランダの柵に肘をつき、ため息をついた。
「もう少しだけ見たら戻るか。」
スマホを開き、SNSを開いた瞬間、一筋の光が夜空と私の心を割いた。
ベッドの横に立つ男はそう言った。
部屋の照明を消し、寝るためにスマホも手から離した時だった。
カーテンから零れる月明かりが輪郭を縁取る。
なんで?
「理由を言って。」
「いや、その、さ。理由は……世界を……助けるため……なんだけど」
「今度はどの漫画から思いついたのさ。」
私は思わずため息をついた。
「また嘘つくんだね。君が嘘つきなのは、もうずいぶん前から分かっているけど。」
「そんな深いため息つくなよ。詳しく話せないけど、今から出発しないと世界が滅びるんだって。ホントよホント」
ばつが悪そうに、こちらを見ては目を逸らす。
「好きだよ」
目を逸らしたまま放つ言葉。
「好きだ。ホントは離れたくない。けど、俺がやらないと世界が」
「ちゃんと現実を見て。私は純粋な子どもじゃないの。ちゃんと実際に起こり得ることと起きっこないことの区別はつくの。」
「さすがに、信じてもらえないか」
うん。
「なんでそんな嘘つくの。私、貴方に嫌われないようにしてるのに。本当の理由を教えてよ。」
私の視界も悪くなっているが、あちらはそれ以上らしい。
乱雑に、止まらない涙を手で拭っている。
そのことを認識しても、どちらの涙も止まる訳では無い。
「小さい嘘も、大きな嘘も、何度も聞いてきたよ。黙っていたけど、嘘だと知っていてもわざとびっくりしてみたりした。貴方のことを否定もしなかった。なのにどうして。」
彼――もう彼氏ではないかもしれない――はゴソゴソと腕を動かし、何かを取り出した。
「この期に及んでプレゼントなの? やめてよ。悲しくなるだけだよ。」
「これ。もし俺が失敗しても、1回なら守ってくれるはずだから」
私の手を勝手に開き、ゴツゴツした何かを手に乗せた。
「好きだ。こんな俺に何も言わず、一緒にいてくれてありがとう」
こちらこそ、ありがとう。
「嘘が沢山あったけど、それを引いても楽しかったよ。」
「じゃ、世界救ってくる。30分後くらいかな? 紫色の閃光を悪者にお見舞いしてくるからさ。空見ててよ」
さよなら。
「言いたい言葉、最後まで飲み込んでしまったな。」
照明を付け、ベッドの上で、手に握らされた紫色の石を眺める。
「夜空見てって言ったけど、花火でもあがるのかな。最後のお願いだったし、見てみようか。」
鉛になった身体を無理やり動かしてベランダに立つ。
「普通の夜空じゃん。最後まで嘘ついてたな」
ベランダの柵に肘をつき、ため息をついた。
「もう少しだけ見たら戻るか。」
スマホを開き、SNSを開いた瞬間、一筋の光が夜空と私の心を割いた。
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