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君が為に愛を誓う(最終話)

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長きに渡って続いたリバース子爵の計略は失敗で幕を閉じた。
エラの手を取ったオルレアン公のレオ王子は馬を走らせ、エラと共にオルレアン領へ戻り、凱旋するのであった。
その姿は切れ長の目に凛々しい顔立ち、金髪の髪を持つ重装兵姿の王子。
そして上はシャツにダボついたパンツを履いた姿のエラは戦闘で長い金髪を失い、負傷でぐったりとしていた。

一方、キャピュレット家のアンドレはリバース子爵の憲兵を拘束した後、アンドレが率いた一部の軍が撤退を始める。
旧リバース領ではアンドレの軍が残務として負傷した平民の手当を行っていたのであった。

「はて旧リバース憲兵の処遇、如何致そうか・・・」

アンドレは茶髪の髪を風でなびかせながら目を閉じ、腕組みをしていたのであった。


時を戻し、オルレアン公の屋敷前では馬を降りたレオ王子がエラを抱えて直ぐに屋敷に入るのだった。

「誰か!部屋に連れて加勢せよ!」

この後、エラはオルレアン公の屋敷の1室で暫く眠りにつくのであった。
負傷している傷口からは幾つかの血が衣類や布に付着していた。

3人程のメイドがエラの服を脱がせ、体を丁寧に拭きつつ傷口の手当を行う。
メイドの手で着替えを済ませたエラの姿は白いレースを纏った高価な寝間着であった。

深い眠りについたエラが目を覚ましたのはその1日後の事であった。
傷口の程度や痛みなどは快方に向かっている。
エラが起き上がろうとすると1人のメイドが声をかけるのであった。

「お加減は如何でしょうか。」

「ありがとう、落ち着いたわ。」

別のメイドがポッドとグラスを運んで来る。
ポッドからはレモンと仄かなミントの香り、そして甘い香りがする。

「ミント入りミードでございます。
 お飲みになられますか?」

ミードとは水の代わりとして広く飲用される水を酒で割った飲物である。
水のみを飲用する事は好まれず、基本的には腐敗しやすい水よりも発酵した酒が好まれていた。
この内、ミントミードは水とレモン、蜂蜜をベースとした飲料であり、ここイースト菌を入れて丸1日発酵させた後に砂糖、少量のミント、レーズンを加えたものであり、ワインやビールなどで割らない飲料である。
現代で簡略表現するならば、かなり甘い蜂蜜レモンに少量のミントを加えたイメージに近い。

「ありがとう、頂くわ。」

ミードを運んだメイドはグラスにミードを注ぎ、エラに手渡すのだった。
この後、無造作にショートカットになったエラの髪型を見たメイドはエラに申し出て髪を整えるためにハサミを入れるのだった。

この時、エラは旧リバース領の行く末が少し頭によぎる。
爵位を既に喪失しているエラには、もはやリバース領がどうなろうと本来ならば考える必要も無かった。
しかし、暴動が起きた領土において一定の始末は必要であると判断したのであった。

「私、そろそろリバースに戻らないと。」

「エレノア様。
 お食事をされてからでは如何でしょうか・・・あと少しでお食事の時間でございます。」

少し不安を寄せたエラにミードを注いだメイドがその様に言葉を返す。
メイトの顔が少し微笑むと、エラは頷いたのであった。

「ご支度をしてまいります。」

戻ったメイドは淡く爽やかな緑色で染められ、控えめながら気品の溢れるドレスを抱えてエラの部屋に入るのであった。

「王子からお預かりしました。
 お召しになられてください。」

「このドレスは預かれないわ。」

少し困惑しながら答えたエラにメイドは言葉をつづけた。

「王子からエレノア様への気持ちでございます。
 今までお召になっていた服では・・・」

メイドも少し困惑するような顔をしている。
これにより、エラはドレスに袖を通すのだった。
少し広い部屋に通されたエラの前には長テーブルが用意されていた。

「エレノア嬢、戻るのであろう。」

この様に声をかけたのはレオ王子であった。
軍服姿で正装した王子は手のしぐさでテーブルへ案内するのだった。

そこには鹿肉のパイが長机の上に運ばれていた。
エラはメイドに勧められるがまま、テーブルの席に座る。
この後、カブとパースニップのスープに続き、ポーチドエッグのマスターソース、サフランパン、大麦パン、アップルオムレツが次々と運ばれてきたのだった。

アップルオムレツは林檎をしっかり茹で切った後にバターで炒め、ここに砂糖、塩、スパイス、卵を混ぜたもので更にバターを落とし入れて卵綴じにした料理である。
パンに挟んで食すが、そのままでも十分に美味とされる。

テーブルに就いた者が十字架を切って祈ると鹿肉のパイが切り分けられ、パイ生地やサフランパンなどは指先で小さくちぎり、スープに浸して食していく。
汚れた指は長机に敷かれた白いテーブルクロスで拭う。
この中で話を切り出したのがレオ王子であった。

「せっかく少し回復したと思っていたのだが少々、名残惜しい。
 それにハインリヒ2世からの申し伝えは数日後の話となる。
 ゆっくりされると思っていたのだが・・・」

王子は少々、エラの様子を伺いつつ、少し困惑したような顔をする。
この言葉に素直な気持ちを真面目な顔で返したのはエラであった。

「レオ王子、申し訳ありません。
 私には領主の一人であった最後の勤めがあります。」

この言葉に感銘したのはレオ王子であった。

「君はどこまでも面白い女性だ、益々気に入った。
 支度させておくぞ!」

この様に言葉を返して王子は満面の顔で笑ったのであった。
この後に続いたデザートは、ローズ・プディング、胡椒やシナモン等のスパイスを効かせたヌカートであった。
ここにアーモンドミルクも提供された。

ローズ・プディングは牛乳とコメで煮詰め、砂糖と少量のシナモン・生姜パウダーで更に煮詰めてとろみをつけた後にデーツ、松の実、バラの花を添えたものである。

こうしてオルレアン公から馬車が用意され、エラは旧リバース領へ戻るのであった。
旧リバースの屋敷の前で馬車から降りたエラは驚くのだった。
そこには旧リバースの憲兵が敬礼し、出迎えていた。
更に屋敷の補修も少しづつ進んでいたのだった。

エラは少し呆然としていると、そこにキャピュレット家のアンドレがツカツカとした歩き方でやってきたのだった。

「エラ!無事だったか!」

この様に叫ぶと、両手を広げた抱きしめるかの様なポーズを取り近くで立ち止まった。
しかし、旧リバースの憲兵が編成されている事には少し違和感を持っていたエラであった。

「ありがとう、私は無事よ。
 所で屋敷の補修を始めたのはアンドレ、貴方なの?」

「そうだ。
 君との愛を誓うために考えてみた。」

この様な言葉を並べたアンドレの目は眩く輝いたものであった。
そしてエラの目の前で跪く。
違和感を持ちながらも礼は述べるべき立場のエラはスカートを広げてアンドレに会釈したのだった。

「アンドレ、感謝するわ。
 でも少しだけわからない事があるの、旧リバースの憲兵がなんで編成されてるの?」

ここでアンドレは少々、バツの悪そうな顔に変わっていく。
跪く姿から立ち上がるとこの様に述べるのだった。

「それは・・・
 処遇に困った所、兵士が足りない事も勘定して編成した。」

腕組みを始めると、上の空の様な顔を始める。
その顔を見たエラは怪訝に感じて問い正すのだった。

その内容とは旧リバースの憲兵が屈しない事を理由に拷問にかけるというもの。
その下りとは、旧リバースの憲兵の身柄をロープで縛り、尖った椅子とジョッキに入ったビールを用意し、ビールを飲み干して屈服するまで尖った椅子に座らせる。
ビールを飲み干せばロープを釣り上げて痛みから解放されるが、屈服するまでビールを飲ませて拷問が続くというものであった。
当然、ビールを飲み干さなければロープを下ろされて尖った椅子が尻に当たり、激痛を受ける。

これを聞いた憲兵の中には一寸の戸惑いもなく、服従を選択する者も複数出たのであった。
服従さえすれば金と立場まで保障される、後ろめたさが無ければ承諾した方が得である。

「アンドレ!
 あなた何やってんのよ!
 しかも、どういう趣味してんのよ!」

全力で漫才の如くツッコミをするエラであった。
しかし、アンドレの顔は知らぬ存ぜぬの様である。

「いや、これがベストな選択だと思ったのだが・・・」

この返答に強いモヤモヤ感を拭えず、頭を抱えたのはエラの方であった。
この後に続いてエラの帰宅を知った屋敷の者などが次々にエラと顔を合わせて歓迎するのだった。
この姿を見たアンドレはキャピュレットから率いた一部の兵を残し、大半の兵を率いて自らもキャピュレットに帰還するのであった。

屋敷に入り、今までエラが使っていた部屋に戻ると今まで使っていた衣装などはそのまま残されていた。
服を着替えると、直ぐに屋敷を出て馬を走らせた先は農村地帯であった。

ここでもエラは既に介抱されていた農民に驚くのであった。
そこには「エラ様」「お嬢様」という声が飛び交っている。

その中にステラ、ジャック、ポールの姿も見えていた。
この場面に安堵したエラは少しの間、農作業などを手伝うと再び屋敷に戻るのであった。
手伝いの中でアンドレの活躍を知ったエラは密かにアンドレに感謝するのであった。


屋敷の裏には父、ウィリアム侯爵と側近のアルフレットが眠る墓が建てられていた。
その場に立ったエラは、夕日が沈もうとする景色の中で十字を切って祈る。

”お父様、アルフレット、ありがとう。もう終わったわ。”

こうして、エラは墓から立ち去ると屋敷で数日の間、町や農村地帯などを行き来しながら過ごすのであった。
その翌日、王室からの使者がエラの元に出向くのであった。
その申し伝えとは主にリバース子爵の処遇に関するものであり、王都へ出向く事を即される内容であった。

使者に即される形で服を着替えたエラはオルレアン公から用意された馬車で再び、宮殿に向かうのであった。
その着替えた服はレオ王子から受け取った淡い緑色のドレスである。

馬車を走らせ、1夜明けた頃にエラは王都についていた。
馬車から降りると少し肌寒い風が吹く。
日差しは既に上っていた。

ここで使者が案内したのは公衆が集う広場であった。
この広場にはギロチンが用意されており、リバース子爵の姿が確認された。
相変わらず、目つきは犯罪者の様相、頬骨が見えて貧素でしゃくれた顎は”罪人”という言葉に疑いを感じさせないものであった。

周辺にはシュプレヒコールが鳴り響く。
広場に余裕はあるものの、そこそこの人集りとなっていた。

そこに3人の兵士から連れられ、手に縄をしっかり縛りつけられたリバースはギロチン台に仕掛けられるのだった。
ギロチン台に仕掛けられたリバースの姿を見た平民や兵の中から、ギロチン台に向けてゴミや石を投げつける者も散見された。

「反逆罪により、リバース子爵の爵位剥奪、およびギロチン刑に処す!」

この様な大きな声が鳴り響くとギロチン台に設置された大きな刃物は一瞬にしてリバースの喉元を切ったのである。
こうしてリバースはこの世を去っていったのであった。
その切られた首に残る顔は卑しい顔のままであり、見た者の多くが寒気を感じたのであった。

この光景を最後まで見届けたエラは表情を変えず言葉も出さず、ただ一回だけ十字架を切ったのであった。
使者は続けて案内するのであった。

「エレノア様、王からの託りでございます。
 どうかこのまま王宮へ・・・」

使者の言葉を聞き、エラは凡その事を悟ったのであった。
それは爵位と今後の行く末の事である。
こうして宮殿に出向いたエラは玉座の前で跪くのであった。

王が玉座の間に入り、玉座につくと”表をあげよ”その言葉が響いた。
50代頃に見える顔の堀が深く重責を背負った風貌、そして太く重く聞こえる声であった。
ハインリヒ2世は言葉を続ける。

「エレノアよ。
 こたびリバース卿の件、誠に大儀であった。
 オルレアン公の王として謝意を申すものである。」

このように申し伝えたハインリヒ2世は、一呼吸置くと言葉を続ける。

「また、ヴェール家、キャピュレット家、オルレアン家の3家の総意により、キャルロット家と紳士協定を結ぶ事を進言する。
 これは其方の爵位を保障する為のものである。
 エレノア侯爵、異論があれば申すが良い。」

このハインリヒ2世の言葉にエラは片手を胸に当て、臣従儀礼を示した上でこの様に返したのであった。

「キャルロット家はオルレアン公に忠義を尽くすものでございます。」

「よかろう。
 エレノアよ、侯爵の爵位を授けるものとする。
 キャルロット家を守るがよい。」

この言葉の後、ハインリヒ2世は意味深な言葉を続けるのであった。

「別件であるが其方も年頃。
 良い縁があれば祝福を願うものである。」

ハインリヒ2世はこの様に述べると横のレオ王子を見て何かを即す仕草をする。
この王の仕草に反応するかの様にレオ王子はハインリヒ2世の顔を少し見ると牽制したかの様に意味深な咳払いするのであった。

玉座の間から出たエラは大きく背伸びをすると、再び領地を与えられたキャルロットへ戻ろうとしていた。
ここに颯爽と現れたのがレオ王子であった。

「エレノア嬢、私とお付き合い願えないだろうか。」

レオ王子はこの様に述べ、エラの前で片手を胸に当て、跪くのであった。
いきなりの事で動揺するエラ。

ここに恰好つけたかの様に茶髪の髪をかき上げながら勇み足で乱入したのがキャピュレット家のアンドレであった。
もはや何処で何の情報でもってやってきたのか意味不明である。
レオ王子もエラも同様に仰天するのであった。

更に何故か軍服正装をした上、華やかなバラの花束を片手に颯爽とエラの目の前で止まる。
そして至極真面目な顔で跪く、その眼差しはきらめきを放っている。

「エラ、僕は君が好きだ!
 僕と結婚して欲しい!」

アンドレの言葉は何時にも増して情熱であった。
エラはキョトンとした眼差しを向ける。
この姿を見たレオ王子は怪訝な顔の中に呆れを交えながら頭を抱えたのであった。

「アンドレ卿、少しは場を弁えぬか。
 物には順序というものもあろう?」

「おや、王子程の高貴なお方がお珍しい。
 私ごときに謙遜なされるとは。。。はっっはっは。」

アンドレの顔は非常に引きつった顔に変わるのであった。
そして目を泳がせながら冷笑し、王子へ言葉を返す。
しかしレオ王子も負けず劣らずの様だ。

「アンドレ卿、それは其方とて同じであろう。
 アンドレ卿ほどの御仁が、赤面物のプロポーズとはこれは参った。
 フッフッフ・・・」

王子はひきつった顔の中にある種の怒りと冷笑を交えて返すのだった。
アンドレと王子の額には静かな怒りを覚えているかの様だ。

膠着状態に入った二人を困った顔で見つめたのがエラであった。
この顔を見た王子は気持ちを切り替えるのであった。

「ではアンドレ卿。
 私と勝負しようではないか、どちらがエレノア嬢の心を掴めるか。」

レオ王子は少し鼻で笑ったかの様にアンドレへこの様に言葉をかけると、アンドレは拳を握ったかの様にある種の怒りを交えて即答するのであった。

「仰せつかった。
 受けて立ちましょうぞ王子。」

レオ王子、アンドレの双方が一致した所で王子はこの様に述べるのであった。

「エレノア嬢。
 どうかお付き合い願えないだろうか。」


アンドレとレオ王子はエラの前で跪き、片手を胸に当て、もう一方の手をエラへ差し伸べるのだった。
エラは一呼吸置くと二人の手を取り、満面の笑みでこの様に受け答えたのだった。

「お受けしますわ、喜んで!」

エラの笑顔は春の日向のようでした。

fin
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