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悲しみのエラと青春

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金髪でセミロング姿をしたエラが8歳を迎えた頃だった。
エラの母、アンヌの一族であるメルバン家の遠縁に当たるリバース子爵の不穏な噂が拭えない中、父であるウィリアム侯爵と側近であるアルフレッドと間に密かな会話が続くのだった。

ある日の事、白髪交じりで眼鏡をかけているアルフレッドは眼鏡のフレームを持ち直しながらウィリアム侯爵に伝えるのであった。

「エラ様が16歳を迎えるのはそう遠い話では御座いません。
 8年という月日は長いようで、あっという間で御座います。
 舞踏会に参加される為のたしなみを始めとする教養教育をなさった方が良いかと存じます。」

ウィリアム侯爵は側近、アルフレッドの進言に一つの異論も持ってはいなかった。
問題はエラのやる気次第でしか動かないという事だった。
ウィリアムは言葉を詰まらせている。

「キャピュレット家のアンドレ様をお呼びした上、アンヌ様にも参加して頂いてはどうでしょう。
 上手くいけば切磋琢磨される事でしょう。
 仮にエラ様とアンドレ様が思いを寄せる事になろうとも、お家柄に申し分ございません。」
 
アルフレッドの進言は妙案であったが、エラがアルフレッド達の意図に沿ってその策に乗るとは限らないという話だった。
「アルフレッド、そなたに任せよう。
 私があれこれ考えていても理屈以上の話を超えて進まぬだろう。」

そのウィリアム侯爵の言葉にアルフレッドは深々と頭を下げたのであった。
「ヴェール家としては貴方様に助けられた恩義が御座います。
 微力を尽くしましょう。」

こうしてキャルロット家とキャピュレット家は今まで以上の親交を深め、屋敷にアンドレ侯爵子息を迎え至ったのであった。
アルフレッドの意図に沿ったかはともかく・・・

アンドレ侯爵子息の容姿は茶髪で顔が整っており、世の女性から一目置かれても不思議では無かった。
しかし、アンドレは女性だからと言ってエラに何かを容赦する事は無かった様だ。

「エラ、決闘だ。僕は今度こそ負けないぞ!」

威勢の良い声を出したアンドレはたった数秒で負けてしまう。
エラは腰を低く慎重に構えたのに対し、アンドレは上から振りかざし、腹に木刀を当てられるのだった。
この様な決闘は日常茶飯事の様に行われていたのであった。

同時に文学教養や貴族としてのマナーもお互いに競い合う仲であった。
教養面はアンヌと年配メイドのリズが教育した。
アンヌが飴であればリズは鞭といった塩梅であった。

文学教養や貴族としてのたしなみは概ね、アルフレッドの思惑通りであった。
しかし、剣術は男性貴族がたしなむものであり、アルフレッドが考える想定に入ってはいなかった。
剣術はエラがアンドレに勝っており、アンドレが悔しがる姿が散見された。

時は流れ、エラは13歳を迎えていた。
アンドレ侯爵子息はこの頃になると剣術もエラと互角か運が良ければそれ以上に戦えるまでに成長していた。
その経緯の一つとしては武器屋バズーの息子、ジェルマンが途中から剣術の時だけ遊びで参戦してきたからである。
ジェルマンは父親であるスキンヘッド姿のバズーと容姿は少し違っていたが、体格は父親譲りだった。
同時にアンヌの体調が急激に崩れた年でもあった。
また、アンドレ侯爵子息はエラに微かな思いを寄せている様にも見えていた。
そのエピソードはやはり決闘だった。

「エラ、決闘だ。
 もし僕が負けたら君に従おう、僕が勝ったら聞いて欲しい話がある。」

エラは笑ってすんなり承諾するのだった。

「いいわよ、でも私が勝ったら何でも言う事聞いてくれるの?」

エラは少し茶化した様に返すとアンドレ侯爵子息はこう返すのだった。

「男に二言はない!」

こうして始まったエラとアンドレ侯爵子息の決闘は互角を続けて熾烈を極めた。
アンドレ侯爵子息に筋力がついた分、エラは受け流しながら隙を突く攻め具合だった。
しかし、最後の一撃はアンドレ侯爵子息の首元に回ったエラに軍配が上がった。
結局、アンドレ侯爵子息は負けてしまい、エラに伝えようとした言葉を逃すのだった。

この年の秋に入る頃、アンヌは死の縁をさまよっていた。
名医と呼ばれる者を招いても快方する事は無かったのだった。

「立派なレディーになるのよ、強かに生きなさい。
 罪は憎みなさい、人を恨んではいけない。」

この言葉がアンヌの最後となった。
町の教会でアンヌの身柄を送った後、キャルロット家は悲しみに暮れ、春を迎えるまで喪に服したのだった。
気の進まないエラはこの日を境にアンドレ侯爵子息と距離を置いていく事になる。
その姿を見守っていたのがアンドレ侯爵子息であったが、この時にアンドレ侯爵子息自身がエラに手助け出来るものは持ち合わせていなかったのだった。

アンヌを失ったウィリアム侯爵には後釜に入って爵位を狙う縁談が既に幾つか入っていた。
その全てが政略に関わる縁談であった。
その中にルイーズと名乗る婦人がおり、その婦人にはハンナとマリーの二人娘を抱えていた。
アルフレッドはルイーズ婦人の不倫癖を薄々と耳にしていたため、ウィリアムに進言する事はなかったのでした。

しかし、ルイーズ婦人はキャルロット領に流入する商人達と親交を持っており、断った先に何が起きるのか見当がつかない状況であった。
ルイーズ婦人は巧妙な言葉を並べながらウィリアム侯爵と接近し、再婚を果たすのであった。
但し、その祝福が長く続く事は無かった。
気位の高いルイーズ婦人は何かにつけて今までキャルロット家に尽くして来た人達にケチをつけては文句を言い放つ場面が目立つ様になった。
その大きな転機が年配メイド、リズの解雇だった。
派手なメイクに派手な服装を着こなし、羽で出来た扇子を緩やかに仰ぎながら上から目線の言葉を投げるのであった。

「私の前に老婆は目障りです。」

これがリズが解雇された時の言葉だった。
アルフレッドはこの状況を理解し、キャピュレット家と交渉した末、リズを預けるのであった。

また、ハンナはエラと同い年、マリーは2歳ほど上だった為に比較される事も屡起きた。
この様な状況でエラは逆境に負けまいと、強かな行動に移すのであった。
マリーがエラに向けた陰湿な虐めは自分から墓穴を掘ってしまう羽目に遭う事が多く、陰湿な虐めに陰湿な虐めをそっくり返す状況が幾つか続く。

これに看過できなくなったウィリアム侯爵はルイーズ婦人との再婚破棄を申し立てる様になったのである。
こうした環境が2年程続いた頃、オルレアン公王室から不可解とも思える突如の遠征が通達されるのであった。
この遠征こそがリバース子爵が仕掛けた確信的な罠であった事をキャルロット家の者が知る由も無かったのでした。
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