ペリペレイア探偵事務所

狐川 檸檬

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1.平和とは

1.事務所開設、団欒のひととき

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「いらっしゃいませー…」
コンビニにつくと、アイス売り場に直行した。
「どうせなら高いやつ買うか。優も喜ぶだろうし。それに、今日は事務所の開設記念日だしな。」
なーんてぶつぶつ言っているうちに5分経っていた。時間の流れとは速いものだね。
「すみません、これお願いします。」
「はい、ふたつで420円になります」
!?
「あ、はい。」
まさかそんなに高いとはな。そう言えば消費税増税されたとか。いやでも3%から3.5%にあがっただけだし、大して変わりはないはずなんだけど。
「こちらお品物に…なります。」
「眠そうですね。お仕事お疲れ様です。ちょっと失礼します。」
「う、うわぁ!何するんですか!」
「いえ、ちょっと気になったものですから。やはり、貧血ですね。病院に行って見てもらった方がいいですよ。」
「あの、お医者様ですか?」
「ええ、まあ」
うーん、仕事柄気になってしまう。他人とは言えど、同じ人間なのだしね。
「ありがとうございましたー」
コンビニを出て事務所に戻った。
「ただいま。優大丈夫?」
「おー茜、おかえり。何買ってきたの?」
「まあ、優の好きなやつだと言っておこう。」
「えー、なにそれ。あ、答え言わないで。探偵らしく当ててみせるわ!」
「ほう、ISD様のお手並み拝見」
そう言うと優は何やらうろちょろし始め、何かを閃いたように俺の方に走ってきた。
「わかった。バニラアイスだ、高級なやつ!」
「おー、正解。流石」
「じゃあ私の推理を…」
「いや、いいです」
「えーなんでよー!」
「だってこれから優の推理なんて嫌になるほど聞くだろ。それにそんくらい、あてずっぽうでも正解できる。」
「まあそうか。」
「早く食べよう、溶けるし。ていうか、俺が眠いだけなんだけどね。」
俺は優がアイスを食べる姿を眺め、自分の部屋に戻った。今日から、我々の探偵事務所労働が始まるわけだ。まあ、俺ら2人なら大丈夫だと思うが。

「さてと。」
優が寝たのを確認して、事務所の中を探索し始める。国の職員である宮沢さんにくぎを刺された、【やること】がある。
「この家で最も可燃性が高いものが置いてある部屋は…。やっぱり、ガスの元栓があるキッチンかな。」
こんな物騒なものを使う機会なんて、来てほしくないが、最近はサイバーテロも増えているわけだし、用心するに越したことはない。
「これの主導権は俺にしとこう。姉ちゃんに持たせると失くしそうで怖い。えーと…へー、指紋認証か!すごい時代になったもんだね」
指紋認証の設定を終えると、喉が乾いてきた。なにか飲もう。そう言えば確か炭酸のジュースが…。
「あ、あった。って、これジュースじゃなかった。本来ジュースは『果汁100%』という定義のもと成り立っているものだしな。ま、どうでもいいけど。」
別の職業柄、いちいち気になってしまう。
「あれ、茜何してるの?」
「!?す、優?どうしたの?寝てたんじゃないの?」
優の声がして、慌てて後ろを振り返った。おかしい。寝たことを確認したはずなのに。
「いやー、なんか喉乾いちゃって…。何かない?
あー!それ、私が買ったジュース!」
「え?あ、いや、これ果汁100%じゃないからジュースじゃ…」
「屁理屈はいいから、取り敢えずその手に持っているジュースを渡しなさい!…所長命令よ」
こんな所でそんなもん使うかね?普通。まあ仕方が無い。俺も別にジュース飲みたいわけじゃないし、ここは優に譲るか。
「はいはい、ごめんね、姉ちゃん」
「うーん…。やっぱり、姉ちゃんって呼ばれた方がしっくりくるのよね。」
「そう?…じゃあこうしよう。基本的には姉ちゃんって呼んで、人前では優所長って呼ぼう」
「わかった、そうして。」
「うん。じゃ、俺もう寝るね」
「うん、おやすみ」
やっと寝れる…。色々ありすぎて疲れた。今は…、22:03か。まあ午後11時までに寝れればいいか。よし、明日から依頼が来るだろうし、早く寝よう。

「…ん。あれ、もう6:30か。起きよう。」
自分の部屋で寝てみて、俺の部屋には太陽の光が入らないことは理解出来た。そのせいで、体内の生活リズムが壊れたら、どうしてくれるのだろう。キッチンに向かい、朝食を作る。珍しく真面目な朝食を作ろう。まあ、姉ちゃんの手抜き朝食も好きなのだけれど。
「おー、今頃だけど、ここってIHなんだ。使いやすーい」
何を作ろうか迷ったが、丁度バナナが冷蔵庫に入っていたから、バナナサンドとバナナスムージーにすることにした。
「バナナを切って…うーん、姉ちゃんピーナッツアレルギーだしな。どうしよ。あ、マーマレードにしよう」
バナナとマーマレード。一見不味そうかもしれないけど、意外といける。姉ちゃんが好きな味…だと思う。
「あ、やばい。牛乳が無い。買ってくるか。」
牛乳が切れていたので、買いに行くことにした。でもおかしいな、昨日の夜には半分くらい残ってたんだけど。まさか姉ちゃんが夜中で500mlを?いや、少食の姉ちゃんがそんなに飲むはずもないか。
「いらっしゃいませー。あ、この前の医者のお兄さん」
「ああ、あの時の。こんばんは。体調良さそうですね。医者行きました?」
「はい。お兄さんの言った通り、貧血でしたよ。とりあえず血を増やす薬貰いました。流石ですね。」
「それはそれは。お大事になさってください。」
牛乳を手に取り、お金を払い、会釈して店を出た。こういう時に、人の温かみを感じられるのはいい事だなとつくづく思う。
 さてと。ぶらぶらと歩きながら帰ってきたせいで、7:15になってしまった。これはまずい、事務所が始まるのは8時だしね。
「姉ちゃん起こしに行くか」
ミキサーをセットして、姉ちゃんを起こしに行く。どうせまた抱きつかれるだろうし、その覚悟で行った。
「姉ちゃん、朝だよ」
「ん~…」
「依頼、来ちゃうよ」
「依頼…あ、そっか。もう朝か。茜おはよー。あのね、今鳥が飛んでてねー」
はぁ。完全に夢の世界を泳いでる。大丈夫だろうか、うちの姉は。
「姉ちゃんほら、寝ぼけてないで早く着替えて。もう朝ごはん作ってあるよ。」
「おー、ありがと」
姉ちゃんと一緒に1階まで降りて席につくと、姉ちゃんが「いただきます」と言ってサンドイッチにかぶりつく。
「どう?」
「うん、おいひい」
「それは良かった」
姉ちゃんのサンドイッチを食べる姿、まるでクリオネの捕食みたいだなと笑いながら眺める。これ自体褒め言葉ではないので、言わないで黙っているけど、姉ちゃんはやはり察しがよかった。
「ん、茜今、『姉ちゃんのサンドイッチを食べる姿、まるでクリオネの捕食みたいだな』とか思ってるでしょ。絶対そうだ!ISDをなめないでよね」
「まー、流石は天才のお姉様だ。」
「おだられても乗らないよー」
こんな感じの会話をすることだって、今まではあまりなかった。めちゃくちゃ楽しんでいる自分がいる。
「ねえ茜」
「ん?」
「上手くやって行けるかしらね、私たち」
「どうした、藪から棒に」
「いや、別に茜が心配とかじゃないんだけどさ」
「大丈夫、きっと上手くいくよ。今まで俺らだけで暮らしてたし、生活面は大丈夫だよ。」
「いや、そういんじゃなくて。私が言いたいのは、私たちが間違った判断をすることによって、誰かが傷ついたり、傷ついた人が私たちを恨んで、私たち殺されるかも…」
「大丈夫だよ、そんなの。俺らには国が付いてる。それに…」
「それに?」
「それに、姉ちゃんは、俺が守るよ」
「おー」
うん、我ながら今の発言イケメン!
「茜がそう言うなら大丈夫ね。」
「そうか?」
姉ちゃんは、コクリと頷いた。
「さて、片付けますか。」
「ええ、そうね。それに早く開きましょう。」
「どんな謎が待ち受けているのやら…」
「平気よ。私たち、日本に3人しかいないISDが、姉弟なのよ?乙宮姉弟に解けない謎なんてない!とは思うけど、心配はいささかあるわねぇ」
「はは、まあそうだな。」
そうだ。俺らは一応頭だけはいいはずなのだ(自分で言うことでもないのだが)。
「茜、仕事する前に、1回だけ」
「はいはい…。子供か?姉ちゃん。でも確かに姉ちゃんちっちゃくて子供っぽいかも。」
(まあ、具体的にどこがとは言わない)
「むー、子供って何よ!茜が大きいのよ。それに、どこがとは言わないってどういうこと!?」
「言ってないよ。まあいいや。あと姉ちゃん、一応釘さしとくけど」
「ん?」
「これ、姉弟のラブコメじゃなくて、推理小説だから。そこんとこよろしく。」
「わ、分かってるわよ。メタいこと言わないの!って、きゃっ!」
「はいはい。」
しまった、強く抱きすぎた。姉ちゃんが苦しそうにしている。
「ふぅ。よし!では助手の茜くん。今日からよろしく頼むよ!」
「お任せ下さい、優所長」
「探偵チーム乙宮、始動!」
「ちょっと待って、いつそんなネーミングセンスの欠けらも無いチーム名付いたの?」
「え、そう?じゃあなんか付けてよ」
「そうだな…。探偵チーム『アンリマユ』とか」
「いや、それゾロアスター教の唯一神アフラ・マズダに対する最悪神じゃない」
「じゃあ、俺らのシンボル的なのない?」
「シンボルかー…」
うーん、どうしたものかな。優と茜か。姉ちゃん天才だし、ダ・ヴィンチとか入れてみる?でもなー。
「『ペリペレイア』とかどう?円周率の語源。」
「おー、いいじゃん。無理数なのが気になるけど、まあいいわ」
確かに無理数っていうのは気になるけど、無限の可能性を秘めているって意味も込めて、『ぺリペレイア探偵事務所』として活動することにした。
「茜、仕事を始める前にいくつか確認することがあるんだけど」
「うん。何?」
「まず、給料について」
「依頼頻度とかによるけど、そもそも国からお金出るし、基本は給料なしで貯金するということで」
「ちょっと待った、給料なしだって!?まあうちに金がないのはわかってはいるけど、姉の助手をしてる健気な弟がここにいるんだぞ。それなのにその弟をただ働きさせる気かよ」
「うーん、確かに。じゃあこうしよう。私と茜の二人でもらった報酬の30%をわける。ってことでいい?」
「…まあいいだろう」
それってつまりはもらった報酬の15%しかもらえないってことだよな。例えば10万円もらったとしたら、15000円か。うーん、微妙なところが、まあいいだろう。大してほしいものもないし、いいんだけどね。
「残りの70%は銀行に振り込んどくわね。」
「ここから俺らの口座確認しに行くのには、単純計算で往復3時間はかかるんだけどね。まあでも、そんな大金が必要になるときなんて、そうはないとは思うし、大丈夫か。」
話も済んだことだし、俺らへの依頼を待つこととしよう。
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