鬼の王と笑わない勇者

モンスターラボ

文字の大きさ
上 下
6 / 19
一章出会いと旅立ち

第六話弓使いアマルフィ

しおりを挟む
 
 リュウジには双子の兄のリュウイチがいる。
 ほとんど同じタイミングにてこの世に生を受けたというのに、僅差にて生まれながらに兄と弟という上下関係を押し付けられたリュウジ。
 だがそれは彼の屈辱にまみれた人生のほんのはじまりにすぎなかった。
 兄のリュウイチは容姿端麗で学業も運動も優秀。何ごともそつなくこなす優等生。毎年、バレンタインデーになると、家中がチョコレートのニオイで甘ったるくなるほどの人気者。
 弟のリュウジは容姿その他、すべてが平凡。学校の成績も赤点こそは取らないが、突出することもない。どこまでいっても可もなく不可もなく。バレンタインデー? 母親からの義理チョコしかもらったことがないよ状態。下駄箱にラブレターなんて都市伝説の類だと思っている。
 あまりにも対照的な双子。
 それゆえに周囲からはよく「リュウジはお母さんの腹の中で、リュウイチに栄養をとられすぎたんだ」なんぞとからかわれたものである。
 学年が同じである以上、どうしたってことあるごとに二人は比べられる。
 そしてその度にこう言われるのだ。

「あー、おまえ、ダメな方か」と。

 物心がついた頃から、ずっとみんなからこんなことを言われ続けているうちに、リュウジ自身も「自分は兄とちがって、ぜんぜんダメな奴なのだ」と考えるようになっていく。
 両親や親族たちですらもが、表面上はとりつくろっているものの、そうであったのだから抗うなんていう考えは、はなから思い浮かびもしなかった。
 リュウイチはいい子で、リュウジはふつう。
 光と影ですらない。
 光と道端に落ちてる石ころ。
 ではいつも褒められ期待のまなざしを一身に集めるリュウイチは、どうであったのかというと、これまたよく出来たお兄ちゃんであった。
 驕ることなく、兄として弟をたえず気遣う。
 おそらくは唯一、リュウジを双子の片割れとしてではなく、一人の人間として扱い、ちゃんと向き合い、接していたのが兄のリュウイチ。
 リュウジはそんな兄を尊敬しつつも、妬ましさも感じ、コンプレックスを拗らせつつも、どうしても嫌いになれない。
 対等に扱われるほどに、しんしんと心の内に降り積もり、ぶ厚い層となっていく劣等感。
 こんな、なんともいえない複雑な感情を抱いたまま、リュウジはふつうに成長していくことになる。

 この先もずっとそんな日常が続くのか……。
 絶望にも似た、諦めの心境にあったとき、異世界へと渡り勇者となったリュウジ。
 ギフトはタワーマスター。
 これはタワー型のダンジョンを形成し管理運営できる異能。タワー内限定にて世界を構築できるので、いわば亜空間のグレードダウン版。
 スキルは宝物錬成。
 何でも造れる便利なインチキ錬成とはちがい、金銀財宝のみを造りだせる。しかしこの能力には制約があった、それは自身のタワー内のみで錬成させることが可能というもの。
 神さまに呼ばれた際に、リュウジがこのギフトを選んだ理由は「なんとなくおもしろそう」だったから。ダンジョン経営とか、いかにもファンタジーらしいし。
 スキルに関しては、どうしてこれが発動したのかは当人にもわからない。だが制約があることからして、ギフトとセットだったのかもしれない。

 異世界に行けば、もう兄と比べられることもなく、新たにやり直せる。
 リュウジはそう考えていた。
 だが現実はちがった。
 召喚された先にて待っていたのは、またしても比較。
 同時期に召喚された勇者たちと見比べられて、品定めをされて、吟味の上に選別される。
 ちょうど戦争中であった彼の国にて求められていたのは、戦う術を持つ者。目の前の戦局を左右し、先陣に立って難局を打開できる者。
 設置型のリュウジの異能は、一部に高く評価こそはされたものの、現状の国が求めるチカラではなかった。活用次第では無限の富をもたらす打ち出の小槌だというのに、それを活かす余裕すらもなかったのである。
 戦えないごくつぶし。
 いつしかリュウジは勇者仲間たちからも孤立し、一人でいることが多くなっていく。
 異世界渡りの勇者として、周囲はそれなりに敬意は払ってくれるけれども、その瞳の奥にあったのは、かつて元の世界で自分に向けられていたものと同じであった。
 それを知ったリュウジは、何もかも放り出して逃げた。
 すっかり諦めていたところに提示された新たな世界と可能性。
 なのにそこもやはり同じだったとわかって、ついに彼の魂が悲鳴をあげたのである。
 どこをどう彷徨ったのかも忘れてしまった、ある日のこと。
 リュウジはベリドート国の荒地に流れ着く。
 そこで、ふと、思い出したのは自分のギフトとスキル。

「そういえばノットガルドへ来てから、まだ一度も試していなかったか」

 ずっとため込まれていた魔力や想いに比例するかのようにして、出現したのは千階層をも誇る超大な天空の塔。
 その塔の内部はリュウジの世界。
 タワーマスターの能力にて環境を整える作業に、彼は次第に夢中になって没頭していく。
 これがベリドート中を巻き込んだ試練の塔の誕生秘話である。

 勇者リュウジくんのわりと長いお話。
 これをわたしはグビグビお茶をのみながら聞いていた。
 そして彼の語りもひと段落ついたらしいので、率直な感想を口にした。

「赤点一個もなしで『ボクふつうだから』とかイヤミか? こちとら毎回、ニ三個が当たり前だってぇの。その都度、恥じも外聞もかなぐり捨てて、全力で先生に泣きつき媚びへつらって、追試やレポートや補習でどうにか生きてきたっていうのに……。ぜいたく言ってんじゃねえぞ、この野郎!」

 わたしの発言を受けて、リュウジくん「えー」
 ルーシーは「ふつうってムズカシイですよね」としみじみ。
 まったくもって青い目のお人形さんの言うとおり。
 毎回、テストのたんびに徹夜して頑張っても、ギリギリのわたしからすれば、赤点ゼロの学園生活とか充分に勝ち組。
 わたしだって一度くらい友だち相手に「ねえ、あんたテストどうだった?」「わたし? とりあえず赤点は回避かな」ぐらいの余裕しゃくしゃくな台詞を言いたかったよ。
 だが現実は「ヤッべー、完璧に山をハズしたぁ」だ。それどころか一度なんて「おまえ、もう、いっそカンニングでもしろよ。先生、見逃してやるから」なんて言われたことすらあるというのに。

「マジメに上ばっかり見てっからしんどいんだ。もっと下を見ろ、下を! 足下でにょろにょろしているダメな連中を眺めて、ほくそ笑み、溜飲をさげ、おおいにストレスを解消しろ。それで万事解決する」
「いや、それはさすがに人としてどうかと……」

 せっかく人生をオモチロおかしく過ごすコツを伝授してやったというのに、リュウジが不満を表明した。
 でもルーシーにはウケたらしく、お人形さんはカタカタ肩をふるわせていた。


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

幸福の魔法使い〜ただの転生者が史上最高の魔法使いになるまで〜

霊鬼
ファンタジー
生まれつき魔力が見えるという特異体質を持つ現代日本の会社員、草薙真はある日死んでしまう。しかし何故か目を覚ませば自分が幼い子供に戻っていて……? 生まれ直した彼の目的は、ずっと憧れていた魔法を極めること。様々な地へ訪れ、様々な人と会い、平凡な彼はやがて英雄へと成り上がっていく。 これは、ただの転生者が、やがて史上最高の魔法使いになるまでの物語である。 (小説家になろう様、カクヨム様にも掲載をしています。)

【完結】勇者学園の異端児は強者ムーブをかましたい

エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング2位獲得作品】  ゼルトル勇者学園に通う少年、西園寺オスカーはかなり変わっている。  学園で、教師をも上回るほどの実力を持っておきながらも、その実力を隠し、他の生徒と同様の、平均的な目立たない存在として振る舞うのだ。  何か実力を隠す特別な理由があるのか。  いや、彼はただ、「かっこよさそう」だから実力を隠す。  そんな中、隣の席の美少女セレナや、生徒会長のアリア、剣術教師であるレイヴンなどは、「西園寺オスカーは何かを隠している」というような疑念を抱き始めるのだった。  貴族出身の傲慢なクラスメイトに、彼と対峙することを選ぶ生徒会〈ガーディアンズ・オブ・ゼルトル〉、さらには魔王まで、西園寺オスカーの前に立ちはだかる。  オスカーはどうやって最強の力を手にしたのか。授業や試験ではどんなムーブをかますのか。彼の実力を知る者は現れるのか。    世界を揺るがす、最強中二病主人公の爆誕を見逃すな! ※小説家になろう、pixivにも投稿中。 ※小説家になろうでは最新『勇者祭編』の中盤まで連載中。 ※アルファポリスでは『オスカーの帰郷編』まで公開し、完結表記にしています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

30年待たされた異世界転移

明之 想
ファンタジー
 気づけば異世界にいた10歳のぼく。 「こちらの手違いかぁ。申し訳ないけど、さっさと帰ってもらわないといけないね」  こうして、ぼくの最初の異世界転移はあっけなく終わってしまった。  右も左も分からず、何かを成し遂げるわけでもなく……。  でも、2度目があると確信していたぼくは、日本でひたすら努力を続けた。  あの日見た夢の続きを信じて。  ただ、ただ、異世界での冒険を夢見て!!  くじけそうになっても努力を続け。  そうして、30年が経過。  ついに2度目の異世界冒険の機会がやってきた。  しかも、20歳も若返った姿で。  異世界と日本の2つの世界で、  20年前に戻った俺の新たな冒険が始まる。

Sランクパーティを引退したおっさんは故郷でスローライフがしたい。~王都に残した仲間が事あるごとに呼び出してくる~

味のないお茶
ファンタジー
Sランクパーティのリーダーだったベルフォードは、冒険者歴二十年のベテランだった。 しかし、加齢による衰えを感じていた彼は後人に愛弟子のエリックを指名し一年間見守っていた。 彼のリーダー能力に安心したベルフォードは、冒険者家業の引退を決意する。 故郷に帰ってゆっくりと日々を過しながら、剣術道場を開いて結婚相手を探そう。 そう考えていたベルフォードだったが、周りは彼をほっておいてはくれなかった。 これはスローライフがしたい凄腕のおっさんと、彼を慕う人達が織り成す物語。

老女召喚〜聖女はまさかの80歳?!〜城を追い出されちゃったけど、何か若返ってるし、元気に異世界で生き抜きます!〜

二階堂吉乃
ファンタジー
 瘴気に脅かされる王国があった。それを祓うことが出来るのは異世界人の乙女だけ。王国の幹部は伝説の『聖女召喚』の儀を行う。だが現れたのは1人の老婆だった。「召喚は失敗だ!」聖女を娶るつもりだった王子は激怒した。そこら辺の平民だと思われた老女は金貨1枚を与えられると、城から追い出されてしまう。実はこの老婆こそが召喚された女性だった。  白石きよ子・80歳。寝ていた布団の中から異世界に連れてこられてしまった。始めは「ドッキリじゃないかしら」と疑っていた。頼れる知り合いも家族もいない。持病の関節痛と高血圧の薬もない。しかし生来の逞しさで異世界で生き抜いていく。  後日、召喚が成功していたと分かる。王や重臣たちは慌てて老女の行方を探し始めるが、一向に見つからない。それもそのはず、きよ子はどんどん若返っていた。行方不明の老聖女を探す副団長は、黒髪黒目の不思議な美女と出会うが…。  人の名前が何故か映画スターの名になっちゃう天然系若返り聖女の冒険。全14話+間話8話。

処理中です...