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一章出会いと旅立ち
第二話:ラクスの秘密
しおりを挟むゼクスとラクスは、フジ老人に見送られ、村の外れに広がる道を歩いていた。空は澄み渡り、風は心地よかったが、ゼクスは相変わらず無表情だった。ラクスは気にすることなく、軽い足取りで進んでいた。
ラクス「ねぇ、ゼクス。あんたはどうして笑わないの?」
ゼクスは一瞬考えたが、すぐに答えた。
ゼクス「笑ったことがない。笑う理由が見つからないんだ。」
ラクスは少し驚いた表情を見せたが、すぐに微笑んだ。
ラクス「なるほどね。それじゃあ、笑いの剣は役に立たないわけね。」
ゼクス「今のところはな。」
ラクス「まぁ、それでも強いんでしょ? あんた、顔には出さないけど、腕は立ちそうだもん。」
ゼクスは何も言わず、ただ前を見て歩き続けた。ラクスの明るさに触れても、彼の感情は揺らがない。彼は自分がなぜ笑えないのか、それすらも理解できていなかった。
二人が歩く道中、突然、遠くから叫び声が聞こえてきた。ゼクスとラクスはその音に反応し、急いで駆けつけた。
村の中央広場に着くと、そこには何か巨大な影がうごめいていた。それは明らかに人間ではなく、鬼の手下の一体だった。全身を硬い鱗に覆われたその鬼は、周囲の村人たちを威圧していた。
鬼「人間ども! 鬼の王ガイム様に逆らう者は、こうなるのだ!」
鬼は鋭い爪を振り下ろそうとしていたが、その瞬間、ラクスが素早く剣を抜き、鬼の腕を阻んだ。
ラクス「気持ち悪い豚ね。」
鬼「お前、何者だ!」
ラクス「ただの冒険者よ。あんた不快だから消えなさい。」
ゼクスは一歩引いて様子を伺っていた。ラクスの動きには鋭さがあり、鬼を翻弄していた。彼女の剣の名はルーンアルバトロス。
彼女の剣技は見事で、鬼は焦りの表情を見せ始めていた。
鬼「くっ、こんな人間に…!」
その瞬間、ラクスの剣が鬼の胸に深く突き刺さり、鬼は体内から爆発した。ルーンアルバトロスは使い手の感情が昂ると威力を増すのだ。そして、鬼は絶命した。村人たちは歓声を上げ、ラクスを英雄のように讃えた。
ゼクス「…強いな。」
ラクス「ふふん、これぐらい朝飯前よ。あんたも手伝うかと思ったけど、私一人で十分だったみたいね。」
ゼクスは軽く肩をすくめたが、その表情に変化はなかった。ラクスはそんな彼を見て、少しだけ興味を持ったようだった。
村人たちが安堵の表情を浮かべる中、ラクスとゼクスは村の宿に戻った。夕食を取りながら、二人はこれからの旅について話をした。
ラクス「ねぇ、ゼクス。あんた、鬼の王を倒すために旅してるんでしょ?」
ゼクス「ああ。」
ラクス「なんで?」
ゼクスは少しの間を置いて答えた。
ゼクス「ガイムに家族と村を滅ぼされた。だから、復讐する。」
ラクスはその言葉に真剣な顔をして聞いていたが、すぐに口元を引き締めた。
ラクス「そっか。でもさ、あんたが笑わないのって、そのせいだけじゃないんじゃない?」
ゼクス「どういうことだ?」
ラクス「私の勘よ。まぁ、気にしないで。とにかく、ガイムを倒すには一筋縄じゃいかないわ。鬼の手下だって、さっきのはただの雑魚だったけど、もっと強いやつがいるかもしれないし。」
ゼクス「分かっている。それでも行く。」
ラクスはゼクスをじっと見つめた後、少し微笑んだ。
ラクス「面白いわね、あんた。口にソースついてるわよ。」
ゼクスは無表情のまま、ソースを拭った。すると
ラクス「フフフ(笑)あんたは笑わないけど、笑わせる才能はあるみたいね。」
ゼクスはポカンとしていたが、心の奥で何かを感じていた。
翌朝、二人は再び旅を続けることにした。村を出たところで、ラクスが何かに気づいたように足を止めた。
ラクス「ゼクス、ちょっと待って。なにか感じる…」
ゼクスも辺りを見回す。確かに、ただならぬ気配が漂っていた。すると、茂みの中から現れたのは、再び鬼の手下だったが、今回は明らかに先ほどの鬼とは違い、力強さと凶暴さが感じられた。
鬼「お前たち、人間か? この先に進む者は誰であろうと命を捨てることになるぞ!」
ゼクスは無言で剣を抜き、鬼を見据えた。ラクスも剣を構え、ニヤリと笑った。
ラクス「いいじゃない、面白そう。ゼクス、今度はあんたの力見せてみななさいよ?」
ゼクス「ああ。」
そして、二人は新たな敵に向かって突進していった。戦いは始まったばかりだったが、その裏にはさらに大きな謎と強敵が待ち受けていた。
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