ある意味凄惨な異世界 ～ 憧れた異世界転移だったのに ～

32話

「こ、こっちだ化け物！！」

　俺は化け物の近くまで走り寄ると、そう大声で挑発した。
　俺にはわけのわからん戦い方なんて出来ないし、かといって普通に戦うことも出来ない。殴り合いの喧嘩もしたことない。
　そんな俺に出来ることと言えば、化け物の注意を引いて、襲われてる女の子が逃げるキッカケを作ることだけだ。
　豊富なＭＡＧ知識があるおかげで、こういう時どうすれば良いか瞬時にわかる。
　妹に２次元オタクと言われながらも、日々耐え忍んできた甲斐があったというものだ。
　ふっ。こんな世界だろうと俺に死角はないな。

「・・・って、あれ？　おい化け物！？　こっちだって！！」

　触手の化け物は俺のことをガン無視して女の子を追い詰め続けてた。

「無視してんじゃねえよ化け物！！　こっちだって！！」
「触手モンスターさんは女の子が大好きなんです！　そこで大声出しても意味ないですよ！」
「それを先に言えや！！」

　遠くから大声で教えてくれたファンナさんだけど、そういうことはもっと早く知りたかった！。
　それにしても変態モンスターめ！　囮作戦がダメならどうすりゃいいんだ！？。
　豊富なＭＡＧ知識があるはずなのに役に立ちそうなことが全然思い浮かばねえ！！。
　死角がねえとか言ってたヤツ何処のどいつだよ！？。

「キャーーーッ！！！」

　俺がアタフタしてる間に、触手モンスターの触手が女の子に伸ばされた。

「ええぃクソっ！！」

　もうどうすりゃいいのかわからなくなった俺は、頭が真っ白になったまま走り出すと、女の子と触手モンスターの間に割って入った。

「フシャーーーッ！！！」

　女の子の前に立ちはだかった俺が邪魔だと言わんばかりに、触手モンスターは怒ってるような声を出してる。
　そして触手をブンブン振り回し、やがて決めポーズらしいタイミングで動きが止まった。

「・・・あ、これか？　これがいわゆる「必殺技」なのか？」

　確かに本物のモンスターがやるとかなりの迫力だけど、物理的に痛かったりするわけじゃないから、別にどうとも・・・。
　むしろこれで必殺技を出してるつもりっていうのがイタイというか・・・。
　・・・っていうか、こんなんで倒れさえしなければ負けじゃないんだよな？。
　なら、俺って無敵なんじゃね？。

「何をしてるんですかマコト様！？　早くマコト様も必殺技を出さなきゃ負けになってしまいますよ！？」

　ちょっと余裕こいてるところに、焦った様子のファンナさんの声が聞こえてきた。

「そ、そんなこと言われても、俺にはそんな必殺技なんかないし・・・っていうか、エア必殺技なんて恥ずかしいことしたくないし・・・」
「それでは強制負けですよ！？　負けたら触手でイロイロされてしまいますよ！？」
「マジで！？　全然無敵じゃないじゃん！！　それは嫌だ！！　女の子が触手で襲われてイロイロされるのは見てみたいけど自分がそれをされるのは絶対に嫌だ！！」

　・・・思わず本音が出てしまったような気もするけど、気のせいだよな。うん。
　と、とにかく俺が触手で「アッー！」な展開だけは絶対に・・・嫌だ！！。

「後１０秒です！！　９！！　８！！」
「時間制限ありなの！？」

　あぁもうしょうがない！！　背に腹は代えられない！！。
　必殺技ごっこだよな！？　出したつもりで良いんだよな！？。

「くそっ！！　もうどうにでもなれ！！」