上 下
13 / 43

12話

しおりを挟む

「ところで、マコト様は公園に垂れ下がっていた糸を掴んだら、あの神殿に召喚されたと言っていましたよね?」
「最初はなんだと思ったけどな、あの糸」
「おそらく、その糸こそが王族に伝わる秘儀なのだと思います」
「へぇ~。あれがねぇ」

 あの空中から垂れていた糸。そんなすごい物とは思えなかったけどなぁ。
 なんか無造作っていうか、糸の先にクッキーついてたし。まるで釣り糸のエサみたいに。
 ・・・いやいや、そんなまさか。
「私が釣ったんだから、あなたは私の物」と言っていたお姫さんの言葉を思い出し、俺は恐ろしい想像をして、思わず首を振り考えを振り払った。

「で、でもさ、あの糸って普通に公園(雑木林)に垂れ下がってたんだけど? あんなんじゃ俺じゃない奴が掴んでたかも知れないけど、それで良いのか? あ、それとも、あの糸は俺にしか見えかったとか? なるほど。それなら説明が付くな」
「この秘儀はとてつもなく高度で、こちらの世界と別の世界を繋ぎ、とりあえず誰でも良いからとっ捕まえてお助けキャラとしてこちらに召喚する秘儀なのですが――」
「ちょ、ちょっと待って。今、聞き捨てならないことを聞いた気がするんだけど・・・?」
「なにか?」
「・・・とりあえず誰でも良いから、とか何とか? ま、まあ俺の聞き間違いだと――」
「いえ、聞き間違いではないですよ?」
「はぁ!? じゃ、じゃあ俺がこっちに召喚されたのは!?」
「マコト様がたまたま糸を掴んだからですね」
「なんだよそれ!? たったそれだけの理由!? 俺が特別だったからとかじゃねえの!?」
「あなたが? 特別? ・・・ふっ」
「なに鼻で笑ってんだおいっ!!」

 俺は怒りに任せてテーブルから身を乗り出し、対面にいるファンナさんの両方のコメカミを拳でグリグリした。

「あぅ~! 痛い痛いですぅ~!」
「ものすごく騙された気分だ!! それに今気付いたけど、元いた世界じゃ俺は突然行方不明になってるんじゃないのか!?」
「だから言ったじゃないですかぁ。この秘儀はとてつもなく高度だって。相手方の都合は関係なく、お助けキャラとして召喚することが出来る素晴らしい秘儀なんですよ?」
「秘儀なんですよ? じゃねえだろ!? 相手の都合は関係なしか!? っていうかそれ誘拐だろ!? 拉致だろ拉致!」
「今この国は――」
「無視かよ!?」
「ええそうですよ誘拐ですよ拉致ですよ。それが何か?」
「なに開き直ってんだゴラァ!!」
「はあぅ~!! 痛いですぅ~!! お嫁に行けなくなっちゃいますぅ~!!」
「なんでだよっ!?」
「うきゅ~~ッ!?」

 俺はひとしきりファンナさんのコメカミをグリグリしてから椅子に座り直した。

「はぁ。・・・で?」
「うぅ~・・・はい?」

 涙目で頭を抑えてるファンナさんは「キョトン」とした様子で聞き返して来た。

「いや「はい?」じゃなくて話の続き」
「あ~。頭をグリグリされて、意識が因果地平の彼方まで逝っちゃってました」
「ずいぶん遠くまで行ったな!」
「え~と、何処まで話しましたっけ・・・あ、そうそう。趣味は1人H――」
「だから読書だろ!? それはもう良いから!! 今この国はなんなんだ!?」
「あ、そうでしたね」

 ったく、この子はマジで大丈夫なのか? だんだん不安になってきたんだけど・・・。

「今この国は・・・滅亡の危機なんです」
「今までの流れ無視していきなり重いな」
「話の流れなど関係ないほどに危機なんですよ。それはもう、何処の馬の骨ともわからない人に頼らなきゃならないほどに」
「言葉遣いに悪意を感じる気がするんだが?」
「気のせいでは?」
「・・・まあ良いさ。で? なんだってそんな滅亡の危機なんだ?」
「魔王さんと、魔王さんが率いるモンスターさんのせいです」
「!?」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

一宿一飯の恩義で竜伯爵様に抱かれたら、なぜか監禁されちゃいました!

当麻月菜
恋愛
宮坂 朱音(みやさか あかね)は、電車に跳ねられる寸前に異世界転移した。そして異世界人を保護する役目を担う竜伯爵の元でお世話になることになった。 しかしある日の晩、竜伯爵当主であり、朱音の保護者であり、ひそかに恋心を抱いているデュアロスが瀕死の状態で屋敷に戻ってきた。 彼は強い媚薬を盛られて苦しんでいたのだ。 このまま一晩ナニをしなければ、死んでしまうと知って、朱音は一宿一飯の恩義と、淡い恋心からデュアロスにその身を捧げた。 しかしそこから、なぜだかわからないけれど監禁生活が始まってしまい……。 好きだからこそ身を捧げた異世界女性と、強い覚悟を持って異世界女性を抱いた男が異世界婚をするまでの、しょーもないアレコレですれ違う二人の恋のおはなし。 ※いつもコメントありがとうございます!現在、返信が遅れて申し訳ありません(o*。_。)oペコッ 甘口も辛口もどれもありがたく読ませていただいてます(*´ω`*) ※他のサイトにも重複投稿しています。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

W職業持ちの異世界スローライフ

Nowel
ファンタジー
仕事の帰り道、トラックに轢かれた鈴木健一。 目が覚めるとそこは魂の世界だった。 橋の神様に異世界に転生か転移することを選ばせてもらい、転移することに。 転移先は森の中、神様に貰った力を使いこの森の中でスローライフを目指す。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】ファンタジー陵辱エロゲ世界にTS転生してしまった狐娘の冒険譚

みやび
ファンタジー
エロゲの世界に転生してしまった狐娘ちゃんが犯されたり犯されたりする話。

異世界転生したら何でも出来る天才だった。

桂木 鏡夜
ファンタジー
高校入学早々に大型トラックに跳ねられ死ぬが気がつけば自分は3歳の可愛いらしい幼児に転生していた。 だが等本人は前世で特に興味がある事もなく、それは異世界に来ても同じだった。 そんな主人公アルスが何故俺が異世界?と自分の存在意義を見いだせずにいるが、10歳になり必ず受けなければならない学校の入学テストで思わぬ自分の才能に気づくのであった。 =========================== 始めから強い設定ですが、徐々に強くなっていく感じになっております。

処理中です...