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「・・・糸切ったのは悪かったよ。だから教えてくれ。一体何がどうなってんだ?」
「・・・反省した~?」

 重そうな着ぐるみの首を傾げながら、俺を探るように聞いてくる。
 自分が悪いとは全く思ってないけど、あの変な糸はこの着ぐるみ姫様に繋がってた。
 つまり、この状況の鍵は彼女が持ってるはずだ。
 納得はいかないけど、背に腹は変えられない・・・。

「・・・反省した。ものすごく反省した。だからどうなってるのか説明してくれ」
「反省したんなら~、許してあげる~。ねえ~? これもう取っても良いよね~?」

 着ぐるみ姫様は、自分の頭部を回しながら着ぐるみ連中にそう尋ねてると。

「そうですな。儀式は終わりましたし、もうよろしいでしょう」

 儀式? やっぱりこいつらが俺をここに引っ張って来たのか? やっぱりこれはMAGでよくみる異世界召喚なのか? そのわりには、なんか俺が思ってたのとは違うんだが・・・。

「それでは、取りますぞ」
「お願い~」

 着ぐるみの1人が、着ぐるみ姫様の頭部を両手で持ち上げた。

「ぷは~」
「おおっ!?」

 着ぐるみの下から出てきた顔を見て、俺は今までとは別の意味で衝撃を受けた。
 光を浴びて光ってるような、金髪の長くてまっすぐでサラサラな髪。緑色の目。綺麗に整った、幼いとも言える小さくて可愛らしい、明らかに日本人ではない顔。
 まだ頭部しか見えないけど、この真っピンクな少女趣味な世界に、俺を含めた中で唯一違和感のない存在だと、一目見てわかるくらいの美少女だ。

「えっと~、あなたは~、私が釣ったんだから~、私のものなんだよ~」
「・・・はい?」

 今まで見たこともない美少女を舐め回すようにガン見していたら、その相手が着ぐるみ越しで聞くよりもずっと可愛らしい声で、にこやかに訳のわからないことを言い出した。

「・・・ごめん。何言ってるかわからないんだけど?」
「だから~、あなたは~――」
「姫様」

 着ぐるみの1人が、頭を下げながら控えめにお姫さんに声をかけた。

「そろそろ門限のお時間ですので、城にお戻りになるべきかと」
「え~? もうそんな時間なんだ~。じゃあ~、帰ろうか~」

 お姫さんのその一言で、着ぐるみたちは仕事が終わったようなリラックスした雰囲気になると、俺に背中を向けて出入り口らしき扉へぞろぞろと歩いて行く。

「ちょちょちょっちょちょっと待てお前ら! なに何事もなかったみたいにのほほんと行こうとしてやがんだ!? まずは何がどうなってんのか説明しろよ!? お前ら誰なんだよ!? ここは何処なんだよ!?」

 俺の必死な叫びにお姫さんは振り返ると、

「ごめんね~。門限に遅れちゃうから~、もう帰らなきゃダメなの~。だから~、お話は~、また今度ね~」
「また今度だもん!!」
「それはもう良いっつの!!」

 そのまま姫さんを先頭に、着ぐるみどもは悪びれた様子もなく、真っピンクの部屋に俺1人残して出て行ってしまった。

「・・・え? なに? どういうこと?」

 わけがわからない状況で、1人ポツンと取り残された俺。

「・・・放置プレイか? これが巷で流行ってるフリーシナリオなのか? これがいわゆる、自由度が高すぎて何をすれば良いのかわからないって状態なのか?」

 俺は一本道で十分なんですけど・・・と思いながら、とりあえずここにいても何もないみたいだし、この真っピンクの部屋にずっといると精神的におかしくなりそうだから、着ぐるみ連中が出て行った扉から俺も出ることにした。
 とりあえず、連中の後ろに付いて行けば何かわかるだろうしな。

「・・・いや、待てよ? フリーシナリオなら、ここはあえて正面の扉からではなく、裏口とか窓から外に出るのもありか?」

 何て思いながらも「まあ普通が一番だよな」と、結局は普通に扉から出る、冒険心溢れる俺だった。
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