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エピローグ アンニュイな「とある」召喚奴隷のレゾンデートル

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 ミシェリアが復讐を果たした数年後。
 とある町の酒場で、客たちが噂話に興じていた。

「そういや知ってるか? 最近、この辺りに変な女召喚術者が現れたってさ」
「女召喚術者?」

 ジョッキのビールを飲みながら、上機嫌に話す男の言葉を、一緒に飲んでる男が不思議そうに聞き返した。

「そいつはモンスターどもを敵と決め付けて戦ったり利用したりするんじゃなくて、共存しようって呼びかけてるんだとさ」
「はぁ? なんだそりゃ?」
「実際に人間とモンスターが戦ってる場所に割り込んで、戦いを止めさせようとしたって話もあるみたいだぜ?」
「何考えてんだ? 頭ん中にお花畑でも咲いてんのか?」

 男はさしてバカにしてる様子はなく、むしろこの反応こそが常識。
 それは周りで話を聞いてる人たちの反応でも明らかだ。

「もしかしたら、その女召喚術者って、人間じゃないんじゃないのか?」
「そうだよな。モンスターの肩を持つっておかしいぜ」
「モンスターが人間を襲うから、人間は身を守るためにモンスターと戦ってんのに、頭おかしいよな」
「まあまあ、まだこの話には続きがあるんだ」

 騒ぎ始める周りを抑えて、男はビールを一口飲んで話を続けた。

「変なのはそれだけじゃねえんだ。召喚術者ってのは、モンスターどもを瀕死に追い込んで、抵抗する意志を奪ってから召喚奴隷にするだろ?」
「そうだな。そうじゃねえとモンスターが従うはずねえからな」
「ところがだ! その女召喚術者はモンスターどもと一切戦うことなく、説得して召喚奴隷にしてるんだとさ!」
「あっはっは! そりゃ夢でも見たんだろうさ。モンスターどもを説得なんて無理に決まってるだろ」
「そうだよなぁ。にしても、そんな変な女召喚術者ってことは、顔もよっぽど変わった顔してんだろうなぁ。体もオークみたいなんじゃね?」
「・・・ところが、その女召喚術者。結構な美人らしい」

 ジョッキを持った男の一言で、男たちの目つきが急に変わった。
 とは言え特に危険な感じではなく、単純に美人だと言われると見たくなる、男の本能のようなものだ。
 酔っている時には尚更の。

「しかも見た目は綺麗な女なのに言葉遣いが乱暴で、そのギャップがたまらねえらしい!」

 酔っ払っている男たちから歓声が上がる。

「俺を罵ってくれぇ!!」
「罵りながら踏んでくれぇぇ!!!」

 バカ笑いが酒場に響き、女召喚術者の話題から、別の話題へと移り変わっていく。
 しかし隅っこの席では、まだ細々と女召喚術者の話しは続いていて・・・。

「それで、その女召喚術者ってのは、いま何処にいるんだ? 一目見てみたいんだが、ここにいりゃそのうち飲みに来るか?」
「それが街には入らなかったらしい。っていうか、入れなかったみたいだぜ」
「なんでだ?」
「実はその女召喚術者。モンスターの肩を持つ召喚術者ってことで、それなりに有名らしくてな・・・」
「あぁ、なるほど。そりゃ街の人間から嫌われそうだな。街に入ったとしても嫌がらせとか受けそうだ」
「そういうことさ。目撃者もいるし、近くにはいるんだろうが、今頃、何処かで野宿でもしてんじゃないか?」

 ・・・同時刻・・・

 街の明かりが遠くに見える、大きな木の下。
 ここでミシェリアは1人、街の人たちの反応を思い出しながら、火を起こして野宿の準備をしていた。

「ったく。あたしの活動が知れ渡って来たのはいいけど、その分、面倒な反応が多くなって来たな。まあ、しょうがねえっちゃしょうがねえんだが・・・」

 野宿はもう何度もこなしているようで、愚痴をこぼしながら、焚き火の傍に手慣れた様子でテントを張っていく。

「やれモンスターの味方だ。やれ人間の敵だって、先入観と固定観念に縛られてる奴が多すぎだ。・・・ふぅ」

 ムカついているようにぶつぶつ言いながらも、それほど悲観的な表情をしてるわけでもなくテントを張り終える。
 そして焚き火の前で座り、一息ついていると。

「マスター。付近に人種やモンスターの姿はありません」

 上空を旋回して辺りを見渡してた、半人半鳥のハーピーがミシェリアの元に降りてきた。

「偵察ありがとさん。っていうか、マスターって呼ぶなっつってんだろ。あたしらはどっちが上でどっちが下とかじゃない、対等な仲間なんだから」
「そんな風に考えるニンゲンはマスター、いえ、ミシェリアくらいですよ」
「今はな。さっきは愚痴っちまったけど、そう簡単にいかないことは最初からわかってたことだ」

 この程度の逆風なんて何てことない。
 とばかりのミシェリアの表情だが、ハーピーの表情は険しいままだ。

「そんな顔すんなって。いずれ分かり合える時が来るから、気長にやろうぜ」
「・・・ミシェリアはいつもそう言いますが、本当にそんな時が来るでしょうか? もしミシェリアが助けてくれていなければ、私はニンゲンに殺されていました。ニンゲンは野蛮で好戦的な種族です。それに、モンスターにもニンゲンを好物にしてる者もいます」
「人種とモンスター間の争いを全部なくせるなんて思ってねえよ。お互いにどうしても殺し合いがしたいなら好きにすりゃいい。ただ人種にだってモンスターにだって戦いたくねえ奴らはいるのに、そいつらを召喚奴隷にする為とか、人種だから、モンスターだからって理由で、無理やり戦いに巻き込むようなことを止めたいだけだ」
「・・・道は険しいと思いますが」
「それでもあたしはこの道を進むと決めた。お前や他の仲間たちも、そんなあたしの考えに共感してくれたから、あたしの仲間になったんだろ? 人種の中にだって、まだまだ少ねえけど分かってくれる奴だっている」
「・・・変わったニンゲンですね。あなたは」
「自覚してるよ」

 そう言ってミシェリアが笑うと、ハーピーも呆れたような、でも嬉しそうに笑い返した。

「では、私は木の上にいますので、何かあったら呼んでください」
「ありがとよ。明日も忙しくなるから、ゆっくり休みな」
「はい」

 ハーピーが木の上に飛び立ち、ミシェリアは一息つく。
 座った状態で背中を逸らし、満天の星空を見上げた。

「・・・見てるかトカゲ野郎? まだまだ先は長いし、こんなことであたしの、お前らを召喚奴隷にして、復讐の道具にして死なせちまった罪滅ぼしになるなんて思ってねえけど、何もしねえよりはマシだろ?」

 数年経っても忘れることの出来ない、過去の後悔を思い出しながら、そろそろ寝るかとテントの中に入ろうとした矢先。

「ミシェリア!!」
「キャッ!?」

 木の上にいたはずのハーピーが急降下して来たせいで、思わず声が出てしまった。

「へぇ? あなたもそんな可愛らしい声を出すんですね?」
「う、うるせえな!! それでなんだってんだ!?」
「あ、そうでした! 遠くでニンゲンの悲鳴が聞こえました! どうやらモンスターに襲われているようですが、どうしますか!?」
「どうするもこうするも助けに行くに決まってんだろ! 出来れば戦わずに済ませてえが、もしかしたらモンスターと一戦交えるかも知れねえから覚悟しとけよ!」
「わかってます! 私もミシェリアと同じように、無闇に命を奪う者は、人種でもモンスターでも嫌いですから!」
「上等だ! 行くぞ!」
「はい!」

 ミシェリアは傍らに置いてあった、折れて薄汚れた槍を持つと、多種族の仲間を召喚して飛び出して行ったのだった。

 多種多様な種族が生きる世界【ハースヴェルド】。
 そんな世界に、人種とモンスターの共存を掲げる女召喚術者がいた。
「人種とモンスターは殺し合わなければならない関係」という認識を、長い時間をかけて覆し、後世に多大な影響を与えた彼女は、折れて薄汚れている一本の槍を常に持っており「命の恩人であり、自分に大切なことを教えてくれた、大切な仲間の形見だ」と言って、その槍を生涯大切に持ち続けたのだった。
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