アンニュイな召喚奴隷リザードマンのレゾンデートル

アンニュイなオレのご主人様 5

「ギグォャアアアアアッッ！！！」

　足が切断されて体勢を崩したのもほんのわずか。
　絶叫が辺りを震わすと、切断した右足からウネウネした触手が生え、切断されて地面に転がった足の代わりになった。
　ただ、この間はさすがに合成モンスターの動きは止まっていて、

「フォーテル！！　ニャン吉！！」
「わかってる！！」
「任せろにゃ！！」

　動きが止まったところに、素早く後ろに回り込んだフォーテルとニャン吉が合成モンスターの背後を切り裂いた。

「このまま一気に決めるぞ！！」
「わかっ、にゃにゃ～ッ！？」

　ニャン吉が持ち前の反射神経でその場から離れた瞬間。
　背中の傷口から生えた触手がニャン吉のいた場所を打ち付けた。

「何処斬っても触手が生えるとか、中にタコでも入ってんのかよ・・・」

　その後もオレは槍、ミノは斧で正面から何度も斬りつけるが、その度に触手が生えて致命傷を与えられない。
　その背後からはフォーテルとニャン吉も攻撃を繰り返してるが、オレらと同じ状況だ。
　痛みを感じることなく、しかも無尽蔵とも思えるスタミナでめちゃくちゃに暴れまくるうえに、斬っても斬っても生えてくる触手に阻まれて中々攻めきれない。

「くっ！！　暴れんじゃねえよこのっ！！　少しはおとなしくしやがれ！！」
「ふにぃ！　ウネウネが邪魔にゃ！」
「不死身なんじゃねぇのかこいつ！？　こんなのマジで倒せんのかよ！？」

　合成モンスターの、あまりのしぶとさにうんざりしていた、その時・・・。

「・・・テ・・クレ・・・」
「あ？」

　合成モンスターの口が僅かに動き、苦しげな、うめき声のような声が聞こえた。

「な、なんか言ったのか？」
「・・・殺・・・シテ・・・クレ・・・」
「！？」
「・・・苦シイ・・・痛ィ・・・楽、ニ・・・ナリ・・・タイ・・・」

　合成モンスターの、濁って焦点の合ってない目から、一粒だけ涙が零れ落ちた。
　・・・そうだ。こいつらは人種どもにこんな姿に変えられて、無理やり戦わされてるだけなんだ・・・。
　人種がモンスターって呼ぶオレらにだって、心がある。意思がある。
　それを、あんな化け物みてえな姿に変えられて、心も縛られて・・・。

「・・・・・・・・・」

　・・・オレの中で、一気に戦意がなくなってくのがわかった。
　いや、正確には、ホントにこいつらと戦っていいのかわからなくなっちまった・・・。
　槍を構えてた腕も、下がっちまうのが止められねぇ・・・。

「しっかりせんか！！」

　オレ以外の連中も半ば戦意を失いかけてたところに、レオンの怒号が響いた。

「そやつらを解放してやるには殺してやるしかない！　憐れに思うのならば、苦しまずに済むよう一思いにトドメを刺すんじゃ！」
「けど、レオンちゃん・・・この子、可哀相にゃ・・・」
「だからそやつらに殺されるつもりか！？　そんなことをしてもそやつらは解放されん！！」
「・・・みんな離れろ。こうなったら一気に燃やし尽くす」
「フォーテルちゃん！？」

　覚悟を決めたような表情のフォーテルが一歩前に出て来た。

「合成モンスターには同情する。だからこそ、殺すことが救いになるのなら、そうしてやりたい」
「で、でも・・・」

　ニャン吉はまだ納得出来ないって感じだ。
　オレだって、出来ればこいつらとは戦いたくねえ。
　出来れば助けてやりてえ。
　・・・けど、それが、殺すことでしか無理だってんなら・・・。

「・・・ニャン吉の気持ちはわかる。だが、あいつらはもう元には戻れねえんだ。この先、あんな姿でずっと苦しみ続けるくらいなら・・・わかるだろ？　もし逆の立場だったら、どう思う？」

　ニャン吉に言ってんのか、それとも自分自身に言い聞かせてるのか分からないことを言ってると、何とかオレの言いたいことがニャン吉にも伝わったようだ。

「・・・わかったにゃ。もう、苦しまなくて良いようにしてあげたいにゃ・・・」
「・・・ああ。それじゃオレとミノでなんとかこいつを突き飛ばすから、そのタイミングでやってくれ」
「わかった。レオン！　俺とタイミングを合わせて一緒にヒートブレスを出してくれ！」
「了解じゃ！」

　周囲の合成モンスターを警戒しながらミシェリアを守ってたレオンも、フォーテルの提案を受けてこっちに近付いてきた。

「行くぞミノ！　気合入れろよ！」
「おうよっ！　おめえこそ変に同情してミスんなよ！」
「同情してるからこそ絶対にミスらねえよ！　ってわけだからこっちに来い！　お前の願いを叶えてやるよ！」

　合成モンスターを挑発すると、物凄い勢いでオレの方に突撃して来た。
　オレに殺されるつもりではなく、オレを殺すために。
　ただ、それは合成されたモンスターの本意じゃないことはわかってる。
　わかってる上で、オレとミノはタイミングを合わせ、合成モンスターの一瞬の隙をついて思いっきり突き飛ばした。

「今だッ！！！」
「「ゴハァァアアアアアッッ！！！」」

　この瞬間を待ってたフォーテルとレオンが、同時に合成モンスター目掛けてヒートブレスを噴き出す。

「ギャギャアアアアアアアアアッッ！！！」

　痛みなのか、苦しみなのか、それとも、解放される喜びなのか。
　そんなよくわからない絶叫を上げながら、合成モンスターの姿は炎の中に消えていった・・・。

「・・・ごめんにゃ・・・」

　ニャン吉は悲しそうに呟き、オレは合成モンスターの最後が他人事とは思えず、言葉が詰まる。

「オレサマが倒せなかったってのが気に入らねえが、まあいいか」
「安心するにはまだ早いぞ。合成モンスターはまだ他にもいるんだからな」