アンニュイな召喚奴隷リザードマンのレゾンデートル

ねこうさぎ

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アンニュイなオレと仲間たちの激闘 5

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「・・・なんでだ・・・」

 静寂の中。
 犬の頭に人種のような体を持つ「コボルト」が、茫然自失な様子で呟いた。

「最初からこのつもりだったんなら、なんで俺を呼び戻さなかったんだ? 召喚してくれたら、すぐに退避出来たんだぞ・・・?」

 オレにはコボルトが何を言ってるのかわからねえが、大体のことは雰囲気から察せられる。
 多分、召喚術者に見捨てられたことを言ってるんだろう。
 召喚術者と一緒にいたオレたちはともかく、安全な場所にいるはずの召喚術者に召喚されれば、少なくともこのコボルトはもっと簡単に、もっと早く安全な場所に退避できたはずだ。
 それなのに、召喚されることなく、最後まで戦わされたってことは・・・。

「そんなのは分かり切ったことだろう」

 感情の感じられない、ともすれば冷たく感じるような口調のフォーテル。
 むしろ、その感情の感じられない様子が、フォーテルの心情を如実に語ってるように思えた。

「ど、どういうことだ!?」

 どうやら似たような種族のせいか、コボルトとフォーテルは言語が通じるらしい。

「わからないのか? 呼び戻せたのに呼び戻さなかった。つまりお前は囮として捨てられたということだ」
「そ、そんなはずはない! 俺は今までマスターの為に必死に戦って来た! それなのに俺を捨て駒になんて――!!」
「召喚術者にとって、俺たちはただの駒。道具でしかない。お前がどんな思いで戦っていようとな」 
「・・・そ、そんな・・・そんな、はずは・・・」

 コボルトが何を言ってるのかはわからないが、フォーテルが言ってることから、どんな話をしてるか大体のことはわかる。
 わかるが、がっくりと項垂れるそいつに、慰めの言葉はかけられなかった。
 なぜなら、状況は違えど、ここにいる全員がそいつと同じだったからだ。

「・・・この子たち、これからど~なるにゃ?」

 オレら以外の召喚奴隷たちは、はっきり言って召喚術者に捨てられたと言っても過言じゃない。
 ただ、召喚契約自体はまだ切れていないはず。
 そして召喚術者は自分の召喚奴隷が死ねばわかるらしいから、こいつらを見捨てた召喚術者たちも、まだこいつらが生きていることには気付いてるはずだ。

「あ・・・」

 重い空気の中、オレら以外の召喚奴隷の足元に転送魔法陣が現れた。
 それは召喚術者の場所に呼ぶためのものじゃなく、元いた場所に帰すための帰還魔法陣。
 そんな魔法陣を、複雑な表情で見る召喚奴隷たち。
 ・・・この後、彼らがどうなるのかオレにはわからない。
 これからも召喚奴隷として使われるのか、それとも契約破棄されて自由になるのか。
 もし召喚奴隷として使われ続けるんであれば、自分を見捨てた、ある意味殺そうとした奴に使われ続けるなんて・・・自分のことじゃないが、あまりにも心苦しい。

「生き残ったことには必ず意味がはずじゃ。自暴自棄にならんようにな」
「げ、元気でにゃ・・・」

 なんとか励まそうと思いながら、前向きな言葉をかけるレオンと、遠慮がちに手を振るニャン吉だったが・・・彼らはそれに応えず、暗く沈んだ表情のまま、魔法陣の中に消えて行った。

「・・・こんな時、どんな顔すればいいのかわからないの・・・」
「・・・笑えねえな・・・」

 フォーテルが何処かで聞いたらしいニンゲンのセリフを呟くが、いくらオレでも、この状況でノッてやれるほど器用じゃない。
 やがて敵も味方もいなくなった戦場に、これを待っていたと言わんばかりの援軍が到着した。
 まあ、まず間違いなく待ってたんだろうけどな。

「やっと来やがったかクソどもが!! どういうことだ!? こんな作戦だなんて聞いてねえぞ!!」

 援軍の到着を苦々しく見てたミシェリアだったが、援軍の中で一際目立つ馬に乗ったニンゲンのオスを見つけると、激しく怒りを露にして怒鳴りながら向かって行った。
 今までおとなしかったのに突然どうしたのかと思ったが、身に着けてるものを見た感じ、おそらく数少ない正規軍人。
 捨て駒にされたってのに、妙におとなしいと思っちゃいたが、不満をぶつける相手がいなかっただけか。
 前に何かイヤなことがあったら、手出し出来ないのを良いことに召喚奴隷に当たり散らす召喚術者もいたが、ミシェリアは何かイヤなことや不満があっても、オレらに当たったりしたこと・・・あるわ。
 まあでも小言くらいで、殴られたり、斬られたりすることがないだけマシだけどな。

「・・・なんだこの小娘は?」

 正規軍人のオスは、明らかにミシェリアを見下してる態度。
 ミシェリアはどうでもいいが、こういう態度をする奴は気にいらねえな。

「あ~、はい。彼女はミシェリア レイミルズ。今回の作戦に参加していた傭兵ですね。はい」

 オスの傍にいた小太りなオスは、持っていた書類をペラペラめくり、ミシェリアがこの国の傭兵として登録した時の情報を読み上げた。

「ほう。つまりは生き残りか。運がよかったのか、それとも戦場から逃げ出した腰抜けか」
「なんだとてめえ!! もっぺん言ってみろハゲ!! 残った髪全部毟るぞボケ!!」

 オスは咄嗟に薄くなった自分の髪の毛を押さえた。

「ふん。女とは言え所詮は傭兵か。品の無さがにじみ出ておるわ」
「んだと!?」
「わかったわかった。今回の報奨金はいつもより多めにしておいてやる。それでいいだろ」
「ふざけんな!! こっちは死ぬところだったんだぞ!? 金の問題じゃ――」

 今にも飛び掛らんとしてたミシェリアに、レオンは静かに近寄ると。

「落ち着くんじゃお嬢。お嬢には目的があるじゃろう」
「・・・ちっ!」

 ミシェリアは怒りをぐっと抑え、勢いよく反転すると、それ以上は何も言わずその場を立ち去った。

「・・・ふぅ。一瞬ヒヤっとしたが、思いのほかあっさり引き下がったな」
「こ、怖かったにゃ・・・」
「もしあのままミシェリアが飛びかかってたら、オレたちもただじゃ済まなかったな」

 フォーテルもニャン吉も、ミシェリアがどういう奴か知ってるから、あのオスとのやり取りにヒヤヒヤしてたようだ。
 なんて言いながらも、オレも内心ヒヤヒヤしてたんだけどな。

「ミシェリアはもっとブチ切れるような奴かと思ったが、案外そうでもねえんだな」

 まだミシェリアの性格をよくわかってないミノは、肩透かしを食らったような表情だ。

「いや、今回は運が良かっただけで、普段ならブチ切れてるさ。さっきレオンが言った「目的」ってのが足枷になってんだろ」
「目的ってなんだ?」
「オレは知らん。フォーテルかニャン吉は聞いたことあるか?」
「知らにゃい」
「俺も知らないし、そもそもミシェリアのことなど興味もない」
「ってことは、それを知ってるのはレオンだけか・・・」

 う~ん。
 今までさして興味はなかったが、今度機会があれば、レオンに色々と聞いてみるかな。

「・・・それにしても、もしあのまま戦い続けていたら、オレたちは敵もろとも吹っ飛ばされてたんだよなぁ・・・」

 そうこう考えてると、足元に帰還用の転送魔法陣が現れた。

「おっと、オレたちの出番は終わりか。なんで戦いが終わってすぐに帰還させねえのか疑問だったが、文句を言う奴が来るまでの護衛目的だったみたいだな」
「やれやれ。やっと休めんぜ」
「ふにぃ~。疲れたにゃ~。みんな元気でにゃ~」 「さすがに俺も疲れた。ゆっくり休みたい」
「レオンにも挨拶したかったが、ミシェリアと一緒にどっか行ったままか・・・。まあいいや。じゃあなお前ら。腹出して寝んなよ」
「にゃはは。わかったにゃ~」

 今回はマジで危なかったが、仲間が全員無事だったのは不幸中の幸いだ。
 次はどうなるかわからねえが、とりあえず今回みたいな戦場はもうこりごりだぜ。
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