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アンニュイなオレの日常 5
しおりを挟む「はぁ、はぁ・・・や、やっぱ、機敏な動きはオレにゃ合わねえな」
ドスドスと音を立てて戦場を大きく迂回したオレだったが、ほとんどの連中が目の前の敵とドラゴンに集中してるおかげで、誰にも気付かれることなく、でかい図体を物陰に潜めて戦場をじっくり見ることが出来た。
まずはどいつがドラゴンの召喚術者か確認する必要があるからな。
「さて、ドラゴンの召喚術者はどいつだ・・・って、あいつか」
探し始めて、すぐにそいつは見つかった。
ドラゴンに命令を出すのは初めてなのか、興奮した様子ではしゃぎまくってたからだ。
「見たところ護衛の召喚奴隷はいねえな。ドラゴン1匹で限界ってとこか」
詳しいことはわからねえが、1人の召喚術者が召喚契約出来る数には限界があるらしい。
なんだっけな? 前にレオンに教えてもらったんだが・・・忘れちまった。
まあとにかく、あの召喚術者にドラゴン以外の召喚奴隷はいない。
そしてそのドラゴンのせいで敵も味方も浮き足立ってる中で、レオンやフォーテル、ニャン吉が上手い具合にオレのいる場所とは正反対の方で注意を引き付けてくれている。
不意打ちはあまり褒められたもんじゃねえけど、隙を突くには今が絶好のチャンスだ。
「・・・うし! 行くぜ!」
気合を入れて槍を構えたオレは、一直線に突撃を開始した。
・・・リザドが突撃する数分前・・・ 。
「行け!! そこだ!! もっと燃やせ!! あはははは良いぞもっとやれ!! オレつええええッ!!」
召喚術者は自分の命令を聞くドラゴンの強さに酔いしれ興奮し、ドラゴンは召喚術者の命令を受けて、まさに無敵の強さで戦場を蹂躙していた。
「逃げねえでもっとかかってこいよ!! あははははは!!!」
ドラゴンの猛威によって逃げ惑うモノと、戦い続けるモノで混在する戦場。
そんな中、その流れに逆らうように、レオン。フォーテル。ニャン吉の3匹がドラゴンに急接近して来た。
「なんだぁ? 何かと思えばただのザコじゃねえか。まあいいや。俺様のドラゴンに向かってくる勇気にめんじて真っ先に殺してやんぜ! 何処の召喚術者に命じられたのか知らねえが、恨むんなら自分の召喚術者を恨むんだな! やれドラゴン!!」
「ギャオオォォォン!!」
真正面からドラゴンに近づいてきた3匹はそのまま3方向へと分かれた。
レオンはドラゴンの足元に入ったかと思えばすぐに尻尾の方へと抜け去り、フォーテルはドラゴンの周りを威嚇しながら回り、ニャン吉はフォーテルとは逆周りで走り続ける。
ドラゴンはそんな3匹を岩を砕くほどの尻尾でなぎ払い、前足を伸ばして地面をえぐり、首を伸ばして噛み付こうするが、それらは全てギリギリのタイミングで避けられている。
「ちょこまか動きやがって!! ザコはザコらしくさっさとやられろよ!! ドラゴンも何してんだ!! そんなザコさっさとやれ!!」
ドラゴンを倒すつもりで動けば、その分ドラゴンにも捕まり易くなる。
しかし元々そんなつもりがない3匹は、ドラゴンの攻撃を避けることだけに意識を集中し、その甲斐もあってドラゴンの攻撃に捕まることなく避け続けた。
そして、3匹の本当の目的など知る由もない召喚術者は、真後ろの死角から一直線に近付いてくるリザドに気付くことはなく・・・。
「フンッ!!!」
召喚術者がリザドの姿に気が付いたのは、リザドの槍が自分の体を貫いた後だった。
「・・・は?」
オレの槍に貫かれた召喚術者が、首だけ振り返らせ、信じられないものを見るような目で、オレと、そして自分の体を貫通してる槍を見てる。
「な、なんだよ、これ・・・う、うそ、だろ・・・? ドラゴンの、召喚術者の俺が、こんな、ザコのリザードマンに・・・」
「ドラゴンは強えが、てめえが強かったわけじゃなかったってことさ」
なんて言ったかは知らねえが、こういうヤツの言いそうなことは大体察しがつく。
槍を引き抜くと、人間はその場にばったりと倒れた。
「さて、後はドラゴンだが・・・」
そう思いながらドラゴンを見ると、ドラゴンはもう攻撃の手を止めていた。
元々召喚術者に命令されたから戦ってただけで、そいつが死ねばもう戦うこともないってこったな。
レオンやフォーテル、ニャン吉もそれがわかってるのか、ミシェリアからはドラゴンを倒せって命令だが、もうドラゴンに対して敵対行動は取ってない。
とはいえ、このまま放っておけば、あのドラゴンを召喚奴隷にしたい召喚術者どもがこぞって襲い掛かるか、ドラゴンを倒したって箔をつけたい召喚術者に殺されちまう。
どちらにしても、ドラゴンにとっていい結果にはならねえ。
「おい! ドラゴン!」
オレはすぐにドラゴンに近付いて声をかけた。
「向こうに深い森があるらしい! お前のデカイ体が隠せるかわからねえが闇雲に逃げるよりはマシだろ! 召喚奴隷になるのも殺されるのもイヤならとりあえずそこに行け! 今なら戦場も混乱してるしなんとか逃げ切れるはずだ!」
ドラゴンに言葉が通じるとは思えないが、俺はさっきフォーテルが言ってた森がある方へ腕を伸ばし、頭を隠すようなジェスチャーを交えながらそう伝えると、
「・・・わかった。そうしよう」
「え? お前リザードマンの言語が理解出来んのか?」
「以前、リザードマンの言語を少し聞く機会があった」
「さすがドラゴン。強さだけじゃなくて、知性も高いって言われてんのは伊達じゃねえってことか。とにかくそういうことだから早く行け!」
「我を醜い鎖より解放し、逃がす機会を与えてくれたことに感謝する」
「おう!」
思った通りドラゴンと召喚契約したり倒そうとする連中が出て来たが、まだ戦いの勝敗は付いてないおかげで戦場は混乱中。
ドラゴンは追っ手を振り払うように暴れながら、そのドサクサに紛れて戦場から離れて行った。
「・・・上手く逃げてくれりゃいいが」
本来なら、戦いが終われば召喚奴隷は元いた場所に帰される。
けどそれは召喚術者の力だから、そいつが死んだりしていなくなると、元いた場所に帰されることなく、その場に残されちまう。
これが原因で元いた場所に帰ることも出来ず、はぐれモンスターとして見知らぬ地を放浪する連中も多々いるくらいだ。
だから召喚術者を守るってのは、自分の帰る手段を守るのと同じことにもなる。
「・・・ふぅ。全くやれやれだぜ」
「おいリザードマンてめえ!! なに休んでんださっさと戦え!!」
ふと周りを見ると、未だ辺りでは戦いが続いていて、近づいて来たミシェリアがオレに向かって怒鳴りつけてきやがった。
見ればニャン吉たちも、もう別のモンスターたちと戦っている。
「・・・そうだった。ドラゴンを追い返して終わりじゃなかったんだ・・・」
オレは大きな溜息をつくと、また槍を構えなおし、疲れた体にムチ打って再び戦い始めたのだった。
・・・2時間後・・・
「あのクソ検分役ふざけんじゃねえぞ!! 何がドラゴンを退治したわけじゃねえから追加報酬は出せねえだ!! あたしがいなかったら間違いなく負けてたんだぞ!!」
あの後、ミシェリアや仲間たちが欠けることなく何とか戦いには勝ったものの、ご覧の通りミシェリアは荒れていた。
せめて労いの一言くらい欲しいもんだが・・・ま、こいつにそれを期待するだけ無駄か。
「てめえらもてめえらだ!! あたしはドラゴンを倒せって言ったんだぞ!? なのにてめえらがやったのは追い返しただけだろうが!!」
追い返しただけでも十分だろうが・・・。
そもそもオレらにドラゴンを倒せっつう方が無理だって、なんでわからんかな。
「クソッ! 女だからってナメやがって!! いつかアイツの×××を切り刻んで豚のエサにしてやる!!」
「・・・なあフォーテル」
「なんだ?」
「ニンゲンのことはよくしらんが、ニンゲンのメスってのは、こうも口が悪いもんなのか?」
「俺が知る限り、ここまで口が悪く気性が荒いメスはミシェリアだけだ」
「・・・すまんのぅ」
「なんでレオンじいちゃんが謝るにゃ?」
「てめえらあたしのわからねえ言葉で喋ってんじゃねえよ!! もういいからさっさと帰りやがれ!!」
「八つ当たりだな」
「八つ当たりにゃ」
「八つ当たりじゃな」
「・・・やれやれだぜ」
うんざりするオレたちの足元に、暴君ミシェリアが作り出した帰還用の魔法陣が現れると、オレらはその中に吸い込まれ、それぞれの場所へと帰って行くのだった。
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