アンニュイな召喚奴隷リザードマンのレゾンデートル

ねこうさぎ

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アンニュイなオレの日常 2

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「グルアグゴアルアーッグ、ッギャ(呼ばれて飛び出てジャジャジャーン、っと)」

  皮肉っぽく言いながら魔法陣から出て来たオレを待ってたのは、ミシェリア以外にも大勢の傭兵やら兵士やらがいる、物々しい雰囲気の野営地。 
 さすがにもう慣れたが、一瞬前までいた、のんびりした風景とのあまりの乖離に、最初は気持ちの切り替えが上手く出来ず困ったもんだ。

 「(今日も今日とて戦いか。たまには魚持って、のんびりピクニックでもしたいもんだぜ)」

 そんなことを内心ボヤキながら、野営地の隅で呼び出されたオレの向かい側には、何でか知らないが戦闘中以外はフードを被って顔を隠してるミシェリアが立ち、オレの隣にはいつもの面子が召喚されている。
  トライレオンのレオン。
  四尾狐のフォーテル。
  猫又のニャン吉。 
 ちなみに、この名前はオレたちで勝手に付け合ったものだ。 
 それまではお互いに種族名で呼び合ってたんだが、ニャン吉がそれなりに長いこと一緒にいる面子だからと、親しみを込めて固有名で呼び合おうと言い出したのがきっかけだ。 
 オレたちは特に反対することなくそれを受け入れ、今じゃみんな結構気に入ってる。
  ま、オレらのゴシュジンサマであるミシェリアは、今でもオレらを種族名でしか呼ばねえし、そもそもこうして固有名で呼び合ってることすら知らねえだろうけどな。 
 あいつにゃオレらの言葉は理解出来ねえし。

 「今回もいつもと変わらない戦場だ。てめえらはいつも通りあたしの命令通り戦え」 

 ミシェリアはそれだけ言うと、オレらの返事を聞く素振りすらなくその場に腰を下ろして、戦いが始まるその時まで休もうとしてる。
  やれやれ、相変わらず自己中で傲慢な女だぜ。

 ・・・それから数十分後・・・。

 「ふわぁ・・・。ったく、まだ戦いは始まらねえのかよ・・・」

  周りの緊張感は高まっているが、肝心の戦闘はまだ始まらない。 
 オレは暇を持て余し、槍の手入れをしながら何度目かのアクビを繰り返した。
  別に戦いたいわけじゃねえが、こうも暇だとそれはそれでキツイもんだ。 
 レオンは目を閉じて寝てるらしいミシェリアを守るように寄り添い、ニャン吉はその近くで丸まって寝てる。 

「ダラけ過ぎじゃないか?」 

 そんな中、何処かに行ってたフォーテルが戻って来た。 

「しょうがねえだろ、退屈なんだからよ。何か面白いもんでも見つけたか?」
 「別の召喚術者の召喚奴隷に同族がいたんでな。そいつと情報交換して来た。色々と情報を得られたぞ」
「聞かせてにゃ~!」 
「うおっ!? 寝てたんじゃねえのか?」

  寝てたと思ってたニャン吉が飛び起きたせいで、つい驚いちまった。

 「こんなピリピリした場所じゃ、気持ちよく寝てらんにゃいにゃ」 
「そう言われりゃそうか。で、フォーテル。情報ってなんだ?」 
「まずこの戦場の構図だが、どうやら2国間での領土の取り合い。要はニンゲン同士の縄張り争いらしい」 
「だから最近、オレらも立て続けに戦闘に駆り出されてんのか。戦争なら傭兵のミシェリアには稼ぎ時だろうしな」
 「戦わされる俺たちからすれば、百害あって一利なしだがな」 
「ハハハ。違いねえ」
「ミシェリアがいる国はどんな国なのにゃ?」
「正規軍の規模が小さく、その分、俺たちのような傭兵に頼ってる。だから他の国と比べて傭兵の報酬が良いそうだ」
 「戦況はどうなんだ? まだ戦争は続きそうなのか? オレらのいる国は勝てそうなのか?」 

 負ける側にいればその分戦いは厳しくなるし、死ぬ確立も跳ね上がってくる。
 だから自分の属する側が勝ちそうなのか負けそうなのかはかなり重要だ。

 「元は領土に攻め込まれた側だったようだが、今じゃ形勢は逆転して、攻めて来た国の領土を奪い取る勢いらしい。この調子で行けば、俺たちがいる側の勝利で決着が着きそうだと言っていた」
「そりゃ朗報だ! 戦争が終わればオレらも多少は楽になる!」

  つっても、ミシェリアは傭兵だからな。
  どうせすぐまた別の場所で戦いに駆り出されるんだろうが、少しの間だけでも平和に過ごせるのはありがてえ。

 「みんにゃが集まるのは、いっつも戦う時ばっかりにゃ。たまにはみんにゃでお酒でも飲んで楽しくしたいにゃ~」
 「あ、ああ・・・。そう・・・だな・・・」

  ニャン吉の何気ない発言に、オレは心が苦しくなった。 
 ニャン吉は元々戦いを好むような性格じゃない。     
 いま本人が言ったように、のんびり気ままに楽しく暮らすのが猫又って種族で、ニャン吉も例に漏れずそんな感じだ。
 それなのに、オレは・・・。

 「・・・その、悪かったな」
 「にゃ?」 

 突然謝ったオレを、ニャン吉は不思議そうな目で見てる。

 「お前は戦いなんてしたくねえだろうに、ミシェリアに命令されたからとは言え、オレはお前を襲って、召喚奴隷になんてしちまった・・・・」
 「にゃんでリザドが謝るにゃ? 別にリザドは悪くないにゃ」 

 リザドってのはオレの固有名だ。

 「だがオレはーー」
 「召喚術者恨んで召喚奴隷恨まず。俺とレオンがミシェリアの命令でお前を襲った時に、お前が俺たちに言った言葉だ」
 「リザド良いこと言ったにゃ! 最初はちょっと悲しかったけど、今はリザドもフォーテルもレオンも、ボクの大事なお友達にゃ!」 

 ・・・召喚術者恨んで召喚奴隷恨まず。

  召喚奴隷はそれがどんなに不服なものであったとしても、召喚契約した召喚術者の命令には絶対に逆らえない。
  何人もの召喚術者と召喚契約させられ、そいつらの道具として使われてきたオレが身に染みて理解したことだ。
  だからオレは召喚奴隷となった連中から襲われたとしても、そいつらを恨むようなことはしない。
  ・・・けど、それは前向きに捉えてそう思ったわけじゃねえ。
  こんな呪いみたいな契約を何度も結ばされた結果の、もうほとんど諦めの境地みたいなもんだ。
  だから、酒とひなたぼっこが好きなだけのニャン吉にまでそう思わせてしまうのかと思うと、それはそれでやっぱり心苦しい気分だ。

 「お前は気にしすぎだ。もしお前がやらなかったとしても、誰かがニャン吉を召喚奴隷にしていた。それが今の世の中だ」

  オレの心情を察してくれたのか、フォーテルはオレに頭を擦り寄せるようにしながらフォローしてくれた。
  基本的にクールな奴だけど、いつもこうして相手の心情を察してくれる優しいヤツだ。

 「そう考えると、リザドとかフォーテルがいる、ミシェリアの召喚奴隷にされてよかったにゃ。前に同じ召喚術者の召喚奴隷なのに、みんにゃ仲が悪くて最悪だったってお友達が言ってたにゃ」

  確かにオレも今まで色んな召喚奴隷を見てきたが、ここまで召喚奴隷同士の仲が良いのも珍しい。
  別にお互いを嫌悪し合うようなことはないが、一緒にいるのはほとんどが召喚された時だけだから、必要最低限のコミュニケーションだけってのが普通だ。  
 今もこうして見渡しても、召喚奴隷同士で話し合ってるような光景はあまりなく、大抵は個人個人でなんかしてるくらいだ。
  ・・・あ、そういや前に、自分が生き残るために他の奴を犠牲にしようとした奴もいたか。
  まあ自分が望んだ戦場にいるわけじゃねえから、気持ちはわからんでもないけどな。

 「俺たちは戦力としてヒエラルキーの上位にいるわけじゃない。いずれミシェリアも俺たち以上に強い連中と召喚契約するから、そうなったら俺たちは解放される。召喚奴隷になったことを嘆くよりも、それまで全員で生き抜くことを考えるべきだ」
 「フォーテルの言う通りにゃ! 生きてればいいことあるにゃ!」
 「・・・ああ。そうだな」

  召喚奴隷にしちまったニャン吉だけじゃなく、フォーテルもレオンもオレの仲間だ。
  オレに出来ることは、そんなニャン吉やフォーテルやレオンを守ってやることだけ。
  ・・・不本意だが、ついでにミシェリアも。
  なんて、恥ずかしくて言葉には絶対に出せないことを1人静かに決意してると、にわかに野営地が騒がしくなって来た。

 「てめえら気合入れろ! 行くぞ!」

  いつの間にか起きていたミシェリアが、オレらの前で仁王立ちで尊大に命令すると、いつも通りオレらの返事も聞かずに歩き出した。 
 こんな奴の命令を聞かなきゃならんと思うと癪に障るが、いまさらどうこう言っても仕方がない。

 「生き残ろうぜ。全員でよ」
 「もちろんにゃ!」
 「当然じゃ」
 「ああ」

  オレらは互いに頷き合い、ミシェリアの後ろについて戦場へ向かうのだった。 
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