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ROUTE2(学園編)
2-03 迷える子羊
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それから俺は我妻クレアの案内の元、セントリアス学院の施設を一つ一つ
回っていった。
そうして学生棟、教員棟、部室棟に加え体育館や食堂、保健室に至るまで
その位置や避難経路からの距離などを事細かに記憶していく。
もちろん学院内の構造は事前にある程度把握しているが、
やはりデータで見るだけと実際に訪れるのでは具体的なイメージに差ができる。
このイメージの差というのは実践的な場面ではかなり重要な要素になることから、
要人の行動範囲を正確に把握することは警護官としては最低限スキルといえる
だろう。
「ところで教員の佐久間朱里とはもう会ったのか?」
「あぁ、さっきな。といっても少ししか話せなかったが――――」
「あれは相当な苦労人だからな。きっと相当疲れていたんだろう」
「――――我妻は佐久間先生とは話すのか?」
「まぁ一応な。なんせあの人が警護官相手の対応を学院から一任されているからな」
「そうなのか?」
「私と同じ中間管理職さ。そりゃ同情する気持ちも湧くってもんさね」
「なるほどな…………」
「それと私のことはクレアでいいよ。私も透次と呼ばせてもらうから」
「こちらとしてはまだそこまで仲良くなったつもりはないんだが」
「いいんだよ、こういうのは初めが肝心だ」
「…………」
「(やっぱりと言うべきか。我妻クレア、思った通りこういうタイプの女性は
対人における距離の詰め方が恐ろしい程に早い)」
「(いくら年が近いからといっても限度があるだろうに――――いやそれとも、
もしや会話の流れから主導権を握り、相手の情報を漏らしやすくする策という
ことも考えられるか…………)」
「――――どうかしたか?」
「いや、単に勢いに圧倒されただけだ。もしやそれも情報戦を有利にする
会話術ってやつか?」
「まぁ当たらずとも遠からずってところかな。単純に私がおしゃべりってだけかも
しれないだけかもだが」
とクレアは続ける。
「とはいえ情報のやり取りっていうのは持ちつ持たれずが基本だ。
そしてそれを成り立たせるには信用が何より大事になる」
「信用ね…………。なら聞くが、クレアの考える信用とはなんだ?」
「私の中で信用とは会話した時間。つまり私と対等にいられる人間のことだ」
「それは……何とも難易度が高そうな条件だな」
「そうでもないさ。特に特警局の一等警護官ならその心配もないだろうよ」
学院内を大体一周し中庭に出たクレアはそこにあったベンチに
静かに腰掛ける。それを見て俺も彼女の隣に座る。
「さて透次、とりあえず学院の案内はこれにて終了だが。感想は?」
「ここの生徒じゃなくてよかったと思ったよ、なんて――――」
「あはは、確かに。私も仕事じゃなかったら絶対迷ってた自信があるね」
「ま、冗談はさておき案内してくれて助かったよ。おかげで効率よく確認ができた」
「そう言ってもらえたなら私も案内した甲斐があったというものだ」
するとクレアはチラリと中庭にある時計に視線を向ける。
「そういえば時間は大丈夫なのかい? 今日は午前中で生徒は帰宅だろ?」
「あぁ、それなら事前に終わる頃に連絡するように言ってあるから心配はいらない」
そうこうしているとタイミング良く俺の端末に着信が入る。
「噂をすれば何とやらだ」
着信の相手は久世ミサであることを確認し通話を開始する。
「もしもし透次、始業式終わったわよ」
「了解した。教室まで迎えに行こうか?」
「いいえそれには及ばないわ。それよりも今すぐ生徒会室に来て」
「生徒会室?」
「いい、五分以内に来なさい。遅れれば承知しないわよ」
「あ、おい!」
必要最低限な要件を言い終えると一方的に通話が終了される。
「流石は久世のご令嬢。相当なじゃじゃ馬っぷりで」
「いつものことだ」
端末をしまいベンチから腰を浮かす。
「それじゃあそういうことだから俺はこれで失礼する」
「ああ。またな」
そうしてクレアと別れ、ミサに指定された生徒会室へと向かおうとするも
再度クレアが俺を呼び止める。
「あぁ、最後に一つ。藤咲ゆかりには気を付けろよ」
回っていった。
そうして学生棟、教員棟、部室棟に加え体育館や食堂、保健室に至るまで
その位置や避難経路からの距離などを事細かに記憶していく。
もちろん学院内の構造は事前にある程度把握しているが、
やはりデータで見るだけと実際に訪れるのでは具体的なイメージに差ができる。
このイメージの差というのは実践的な場面ではかなり重要な要素になることから、
要人の行動範囲を正確に把握することは警護官としては最低限スキルといえる
だろう。
「ところで教員の佐久間朱里とはもう会ったのか?」
「あぁ、さっきな。といっても少ししか話せなかったが――――」
「あれは相当な苦労人だからな。きっと相当疲れていたんだろう」
「――――我妻は佐久間先生とは話すのか?」
「まぁ一応な。なんせあの人が警護官相手の対応を学院から一任されているからな」
「そうなのか?」
「私と同じ中間管理職さ。そりゃ同情する気持ちも湧くってもんさね」
「なるほどな…………」
「それと私のことはクレアでいいよ。私も透次と呼ばせてもらうから」
「こちらとしてはまだそこまで仲良くなったつもりはないんだが」
「いいんだよ、こういうのは初めが肝心だ」
「…………」
「(やっぱりと言うべきか。我妻クレア、思った通りこういうタイプの女性は
対人における距離の詰め方が恐ろしい程に早い)」
「(いくら年が近いからといっても限度があるだろうに――――いやそれとも、
もしや会話の流れから主導権を握り、相手の情報を漏らしやすくする策という
ことも考えられるか…………)」
「――――どうかしたか?」
「いや、単に勢いに圧倒されただけだ。もしやそれも情報戦を有利にする
会話術ってやつか?」
「まぁ当たらずとも遠からずってところかな。単純に私がおしゃべりってだけかも
しれないだけかもだが」
とクレアは続ける。
「とはいえ情報のやり取りっていうのは持ちつ持たれずが基本だ。
そしてそれを成り立たせるには信用が何より大事になる」
「信用ね…………。なら聞くが、クレアの考える信用とはなんだ?」
「私の中で信用とは会話した時間。つまり私と対等にいられる人間のことだ」
「それは……何とも難易度が高そうな条件だな」
「そうでもないさ。特に特警局の一等警護官ならその心配もないだろうよ」
学院内を大体一周し中庭に出たクレアはそこにあったベンチに
静かに腰掛ける。それを見て俺も彼女の隣に座る。
「さて透次、とりあえず学院の案内はこれにて終了だが。感想は?」
「ここの生徒じゃなくてよかったと思ったよ、なんて――――」
「あはは、確かに。私も仕事じゃなかったら絶対迷ってた自信があるね」
「ま、冗談はさておき案内してくれて助かったよ。おかげで効率よく確認ができた」
「そう言ってもらえたなら私も案内した甲斐があったというものだ」
するとクレアはチラリと中庭にある時計に視線を向ける。
「そういえば時間は大丈夫なのかい? 今日は午前中で生徒は帰宅だろ?」
「あぁ、それなら事前に終わる頃に連絡するように言ってあるから心配はいらない」
そうこうしているとタイミング良く俺の端末に着信が入る。
「噂をすれば何とやらだ」
着信の相手は久世ミサであることを確認し通話を開始する。
「もしもし透次、始業式終わったわよ」
「了解した。教室まで迎えに行こうか?」
「いいえそれには及ばないわ。それよりも今すぐ生徒会室に来て」
「生徒会室?」
「いい、五分以内に来なさい。遅れれば承知しないわよ」
「あ、おい!」
必要最低限な要件を言い終えると一方的に通話が終了される。
「流石は久世のご令嬢。相当なじゃじゃ馬っぷりで」
「いつものことだ」
端末をしまいベンチから腰を浮かす。
「それじゃあそういうことだから俺はこれで失礼する」
「ああ。またな」
そうしてクレアと別れ、ミサに指定された生徒会室へと向かおうとするも
再度クレアが俺を呼び止める。
「あぁ、最後に一つ。藤咲ゆかりには気を付けろよ」
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