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ROUTE1(プロローグ)
1-01 対面
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それから数時間後。
俺は警護対象者である久世ミサに会うために、彼女のいるという
とあるビルへとやってきていた。
セントラルビル――――都内にある超高層ビルであり、オフィスビルを
中心とした複合型の商業施設である。
どうやら彼女はVIPらしく現在このビルで行われておる上層階級の
パーティーに参加しているらしかった。
「はぁーこりゃすごいな」
職業以外、何一つとして特別なことがない庶民的な俺からしてみれば
こんなところは仕事でなければ訪れない場所なわけで、職務中とはいえ
その物珍しさに、つい目の前の大きなビルを見上げてしまう。
こんな場面を高藤さんに見られればきっと怒られるかもしれないが、
俺としてはこの任務前の最後のフリー時間は気を張らずにいたいのだ。
「とはいえそろそろ時間か――――」
腕時計で時刻を確認しつつビルへと向かう。
するとその入り口で警備員らしき男性がこちらに視線を向ける。
「関係者の方ですか? IDカードを確認します」
「はい」
「ご協力感謝します」
俺は任務前に受け取っていたIDカードを警備員の端末にかざし中へと入る。
ちなみにこれは余談だが、警護官のIDは特別製でシステム上、
国政施設も含めどの施設にも自由に出入りすることができるように
なっているのだ。
ビルのエントランスを抜けエレベーターに乗り込むとパーティー会場である
フロアへと向かう。事前に見た資料では現状、ビル内で人がいるのは
このフロアだけであり、そういった意味ではここは閑散としていた。
エレベーターが到着してすぐ――――広々とした廊下の一角に佇むスーツ姿の
男たちと目が合った。
「ご苦労様です」
「どうも」
再びIDカードをかざし先へ進む。
彼らは先の警備員とは違い、このパーティーの主催者によって雇われている
民間の警備会社の人たちであり、謂うならば同業者である。
当然、彼らもまた俺と同じように武装もしているし経験も豊富な人材なのは
間違いない。そうして彼らの鋭い視線を横目に受けつつ真っすぐに会場へと
向かう。
「おぉ」
会場の入り口からチラリと中を覗く。
すると正装に身を包んだ男女が数十人という規模で会場を跋扈していた。
「(これが上級社会ってやつか――――)」
なんてことを考えつつ会場内へ入り、警護対象者である久世ミサを探す。
重役の親族だろうか。
意外にも自分と年の近いような若い人物も思ったより多く、
なかなかどうしてすぐには見つからない。
「おっいた」
ようやく発見したとかと思ったのも束の間。
彼女はその周囲を多くの著名人に囲まれており、簡単に近づけるような
状況ではなく。流石にその中を無理に進むのも非常識かと思い、
彼女が一人になるのを待つ。
するとしばらくして彼女が彼らを間引き、壁際へ移動したのを見計らい
彼女に近づく。
「久世ミサさんですね」
「…………はい」
一瞬ニッコリと微笑んだかに見えた彼女だったが、こちらの姿を見るなり
表情を曇らせる。
「自分は特警局から参りました諏訪透次警護官です」
「はぁ、やっぱり警護官か」
こちらの素性を知るなり分かり易く肩を落とす少女。
警護嫌いという話からある程度の対応は覚悟していたが、
まさかこうも露骨とは思わず言葉に詰まる。
「あなた階級は?」
「一級です」
「あら、若い意外と優秀なのね」
「光栄です」
「でもお生憎様、私に警護なんて必要ないの」
「ですがこれはミサさんのお父様からの直々のご依頼だとお伺っておりますが」
「皆まで言わなくてもいいわ」
彼女は持っていたシャンパンのグラスをグイッと傾け、中身を一気に飲み干す。
「どうせ私には拒否権なんてない、そう言いたいんでしょう?」
「まぁ、そうですね」
すると彼女はフンッと鼻を鳴らすと威圧的にヒールの高い足音を鳴らし
俺の横を通り抜ける。
「どちらへ?」
「レストルームよ。まさかついてくる気?」
「お近くまでは」
「あっそ、なら勝手にすれば」
そうして彼女は俺を待たずにスタスタと会場を後にする。
「…………」
「(なんというか、思った以上に刺々しい性格のようだな…………)」
彼女の背中を追いかけつつ、どうしたものかと頭を悩ませる。
年下のそれも思春期真っ盛りのボンボン少女とどう関わり合っていいものか。
庶民的な自分とは似ても似つかぬ境遇の相手への接し方など、俺には到底
想像もできなかった。
久世ミサがトイレと会場を往復し、しばらく。
俺は彼女に会場にいると気が散るからと、外の廊下へと追い出されていた。
「はぁー」
廊下の途中に点在する椅子に腰かけ深めの息を吐く。
すると、ふと隣から声が聞こえてくる。
「あら、随分と大きい溜息ですこと」
「――――!」
その声に咄嗟に俯いていた視線を上げる。
「え、なんであなたがここに――――?」
「ふふっ、びっくりした?」
そこに居たのは、俺の元上司とでもいうべき女性、九條天万音さんだった。
彼女はこちらの表情を確認すると、いたずらな笑顔を浮かべたまま隣に座る。
「聞いたわよ。移動後の初任務にしては厄介な案件を任されたって」
「ははっ、仰る通りで。それについてはもう既に実感しつつあります」
「そう」
「九條さんはどうしてこんなところに? まさか俺の顔を見に来たって
言うんじゃないですよね?」
「どうでしょうね~」
九條さんは背負っていた木箱を隣に立てかけつつ足を組み、こちらを見据える。
「でもまぁ、半分は正解かな」
「半分?」
「透次くんの様子を見たかったってのは本当。でもここに来たのは仕事」
「仕事? 冗談ですよね?」
「まさか。これ持ってきてて仕事じゃないことないでしょ」
と、コンコンッと木箱を叩く。
「でも明らかに任務外の仕事ですよね?」
「それは確かにそうね。でもこのパーティーには政財界のお偉方も
結構いるからってんで、上層部からのお達しなわけよ」
「……はぁ」
俺はその答えに呆れ口調で返す。
それもそのはず。何故なら彼女は俺とは違い、こんな場所に易々と
出てきていい人材ではないからだ。
彼女の肩書は特別警備隊『エクストラフォース』隊長。
組織の中でも統括官以上にしかその存在を知らされない、
特警局の影の実働部隊。
俺たち警護官が行う通常の護衛とは違い、護衛対象者の安全の為ならば
拉致監禁や暗殺などあらゆる法外行為が黙認されている特殊部隊である。
その隊長である九條さんをあろうことか会場の警備に当てるなんて、
とんだバカもいたものだ。
「でもそれならこの会場は今、日本一安全という訳ですね」
「かもね――――」
と、二人微笑む。
「とはいえ正直な話、透次くんが元気そうで少し安心したわ」
「そうなんですか?」
「えぇ、だって貴方、しばらく前までは相当落ち込んでる様子だったから」
「アハハ。あの時はご心配をお掛けしました」
「…………」
九條さんのその見透かすような瞳に耐えかね、乾いた笑い声が口から洩れる。
しかし彼女はそんなことには気にも掛けない様な素振りを見せつつも、
優し気な口調で続ける。
「透次くん。何度も言うけど、あれは貴方の責任じゃないわ」
「…………はい」
その言葉にどう返していいか分からず思わず閉口する。
そうして長いような短い沈黙が流れた後、不意に彼女が席を立つ。
「ま、いいわ。こういうのは時間が解決してくれることもあるでしょう」
すると彼女は立てかけていた木箱を持ち上げながら、
こちらに向かってひらひらと手を振るう。
「それじゃあ、私も仕事に戻るから。透次くん、任務頑張ってね」
「はい、頑張ります」
彼女の背中を見送り、俺もまた任務へと戻る。
俺は警護対象者である久世ミサに会うために、彼女のいるという
とあるビルへとやってきていた。
セントラルビル――――都内にある超高層ビルであり、オフィスビルを
中心とした複合型の商業施設である。
どうやら彼女はVIPらしく現在このビルで行われておる上層階級の
パーティーに参加しているらしかった。
「はぁーこりゃすごいな」
職業以外、何一つとして特別なことがない庶民的な俺からしてみれば
こんなところは仕事でなければ訪れない場所なわけで、職務中とはいえ
その物珍しさに、つい目の前の大きなビルを見上げてしまう。
こんな場面を高藤さんに見られればきっと怒られるかもしれないが、
俺としてはこの任務前の最後のフリー時間は気を張らずにいたいのだ。
「とはいえそろそろ時間か――――」
腕時計で時刻を確認しつつビルへと向かう。
するとその入り口で警備員らしき男性がこちらに視線を向ける。
「関係者の方ですか? IDカードを確認します」
「はい」
「ご協力感謝します」
俺は任務前に受け取っていたIDカードを警備員の端末にかざし中へと入る。
ちなみにこれは余談だが、警護官のIDは特別製でシステム上、
国政施設も含めどの施設にも自由に出入りすることができるように
なっているのだ。
ビルのエントランスを抜けエレベーターに乗り込むとパーティー会場である
フロアへと向かう。事前に見た資料では現状、ビル内で人がいるのは
このフロアだけであり、そういった意味ではここは閑散としていた。
エレベーターが到着してすぐ――――広々とした廊下の一角に佇むスーツ姿の
男たちと目が合った。
「ご苦労様です」
「どうも」
再びIDカードをかざし先へ進む。
彼らは先の警備員とは違い、このパーティーの主催者によって雇われている
民間の警備会社の人たちであり、謂うならば同業者である。
当然、彼らもまた俺と同じように武装もしているし経験も豊富な人材なのは
間違いない。そうして彼らの鋭い視線を横目に受けつつ真っすぐに会場へと
向かう。
「おぉ」
会場の入り口からチラリと中を覗く。
すると正装に身を包んだ男女が数十人という規模で会場を跋扈していた。
「(これが上級社会ってやつか――――)」
なんてことを考えつつ会場内へ入り、警護対象者である久世ミサを探す。
重役の親族だろうか。
意外にも自分と年の近いような若い人物も思ったより多く、
なかなかどうしてすぐには見つからない。
「おっいた」
ようやく発見したとかと思ったのも束の間。
彼女はその周囲を多くの著名人に囲まれており、簡単に近づけるような
状況ではなく。流石にその中を無理に進むのも非常識かと思い、
彼女が一人になるのを待つ。
するとしばらくして彼女が彼らを間引き、壁際へ移動したのを見計らい
彼女に近づく。
「久世ミサさんですね」
「…………はい」
一瞬ニッコリと微笑んだかに見えた彼女だったが、こちらの姿を見るなり
表情を曇らせる。
「自分は特警局から参りました諏訪透次警護官です」
「はぁ、やっぱり警護官か」
こちらの素性を知るなり分かり易く肩を落とす少女。
警護嫌いという話からある程度の対応は覚悟していたが、
まさかこうも露骨とは思わず言葉に詰まる。
「あなた階級は?」
「一級です」
「あら、若い意外と優秀なのね」
「光栄です」
「でもお生憎様、私に警護なんて必要ないの」
「ですがこれはミサさんのお父様からの直々のご依頼だとお伺っておりますが」
「皆まで言わなくてもいいわ」
彼女は持っていたシャンパンのグラスをグイッと傾け、中身を一気に飲み干す。
「どうせ私には拒否権なんてない、そう言いたいんでしょう?」
「まぁ、そうですね」
すると彼女はフンッと鼻を鳴らすと威圧的にヒールの高い足音を鳴らし
俺の横を通り抜ける。
「どちらへ?」
「レストルームよ。まさかついてくる気?」
「お近くまでは」
「あっそ、なら勝手にすれば」
そうして彼女は俺を待たずにスタスタと会場を後にする。
「…………」
「(なんというか、思った以上に刺々しい性格のようだな…………)」
彼女の背中を追いかけつつ、どうしたものかと頭を悩ませる。
年下のそれも思春期真っ盛りのボンボン少女とどう関わり合っていいものか。
庶民的な自分とは似ても似つかぬ境遇の相手への接し方など、俺には到底
想像もできなかった。
久世ミサがトイレと会場を往復し、しばらく。
俺は彼女に会場にいると気が散るからと、外の廊下へと追い出されていた。
「はぁー」
廊下の途中に点在する椅子に腰かけ深めの息を吐く。
すると、ふと隣から声が聞こえてくる。
「あら、随分と大きい溜息ですこと」
「――――!」
その声に咄嗟に俯いていた視線を上げる。
「え、なんであなたがここに――――?」
「ふふっ、びっくりした?」
そこに居たのは、俺の元上司とでもいうべき女性、九條天万音さんだった。
彼女はこちらの表情を確認すると、いたずらな笑顔を浮かべたまま隣に座る。
「聞いたわよ。移動後の初任務にしては厄介な案件を任されたって」
「ははっ、仰る通りで。それについてはもう既に実感しつつあります」
「そう」
「九條さんはどうしてこんなところに? まさか俺の顔を見に来たって
言うんじゃないですよね?」
「どうでしょうね~」
九條さんは背負っていた木箱を隣に立てかけつつ足を組み、こちらを見据える。
「でもまぁ、半分は正解かな」
「半分?」
「透次くんの様子を見たかったってのは本当。でもここに来たのは仕事」
「仕事? 冗談ですよね?」
「まさか。これ持ってきてて仕事じゃないことないでしょ」
と、コンコンッと木箱を叩く。
「でも明らかに任務外の仕事ですよね?」
「それは確かにそうね。でもこのパーティーには政財界のお偉方も
結構いるからってんで、上層部からのお達しなわけよ」
「……はぁ」
俺はその答えに呆れ口調で返す。
それもそのはず。何故なら彼女は俺とは違い、こんな場所に易々と
出てきていい人材ではないからだ。
彼女の肩書は特別警備隊『エクストラフォース』隊長。
組織の中でも統括官以上にしかその存在を知らされない、
特警局の影の実働部隊。
俺たち警護官が行う通常の護衛とは違い、護衛対象者の安全の為ならば
拉致監禁や暗殺などあらゆる法外行為が黙認されている特殊部隊である。
その隊長である九條さんをあろうことか会場の警備に当てるなんて、
とんだバカもいたものだ。
「でもそれならこの会場は今、日本一安全という訳ですね」
「かもね――――」
と、二人微笑む。
「とはいえ正直な話、透次くんが元気そうで少し安心したわ」
「そうなんですか?」
「えぇ、だって貴方、しばらく前までは相当落ち込んでる様子だったから」
「アハハ。あの時はご心配をお掛けしました」
「…………」
九條さんのその見透かすような瞳に耐えかね、乾いた笑い声が口から洩れる。
しかし彼女はそんなことには気にも掛けない様な素振りを見せつつも、
優し気な口調で続ける。
「透次くん。何度も言うけど、あれは貴方の責任じゃないわ」
「…………はい」
その言葉にどう返していいか分からず思わず閉口する。
そうして長いような短い沈黙が流れた後、不意に彼女が席を立つ。
「ま、いいわ。こういうのは時間が解決してくれることもあるでしょう」
すると彼女は立てかけていた木箱を持ち上げながら、
こちらに向かってひらひらと手を振るう。
「それじゃあ、私も仕事に戻るから。透次くん、任務頑張ってね」
「はい、頑張ります」
彼女の背中を見送り、俺もまた任務へと戻る。
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