問題児たちはまともな青春を送れない

諸星影

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序章(プロローグ)

第二話  『意中の彼女』

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「もしもし星那、私だ。悪いんだが今から執務室に来れるかな? あぁ頼む」

 執務室を訪れて数分。
 俺が必要書類を記入し終えた後、彼女は電話をものの数秒で終わらせると
 再びこちらに視線を移した。

「今からうちの『筆頭』がここにやって来る。詳しいことは彼女に聞きくといい」
「筆頭?」
「筆頭は顔役の右腕、もっというなら各会場の花形の選手のことだ」
「ってことはもしかして?」
「あぁ。君の意中の彼女だよ」
「――――!?」

 俺は彼女のことを聞き、咄嗟に心臓の音を逸らせる。
 それが顔に出ていたのだろう。黒峰さんはその様子に笑みを溢す。

「ははは、君はやっぱり分かりやすいな。何というか可愛らしいね」
「……もしかして馬鹿にしてますか?」
「いやいや、そんなつもりはないよ。ただ彼女はちょっと変わり者でね。
 もし君が本気ならこれから苦労することになるよ」
「――? どういうことですか?」
「直に分かるさ」
「はぁ……?」

 そうして待つこと数分。
 カツカツという足音が聞こえてきた後、唐突に執務室の扉が開かれる。

「豊世さん、入りますよー。ってあれ、お客さん?」

 俺の初恋の相手である件の彼女は入室と同時に俺の顔を見て首を傾げる。

「やあ星那、彼が前に私が言っていた男の子だよ。今日から正式に私たちの仲間に
 なることになった」
「へぇ、君が例の新入生か。初めまして、私の名は青柳星那。君の名前は?」
「桐生寿人です。よろしくお願いします」

 青柳星那と名乗った女性はそっと自身の右手を差し出し、僕はその手に
 自分の手を重ねる。すらりと伸びた白く細長い指に試合の時のような
 荒々しさはなく、彼女の手は女性らいい小さく可愛らしいものであった。

「それで豊世さん、まさかとは思うけど、また私を面倒をさせようとしてる?」
「いけない?」
「当たり前です。私はもう新人の育成はしたくないんです」
「まぁそういってくれるな星那。この子は私のお墨付きだぞ?」
「だけど――――」

 彼女は黒峰さんの言葉に閉口すると同時に、ギラリとした鋭い瞳でこちらを
 見据える。

「桐生寿人くんといったわね?」
「はい」
「どうしてエスぺラルドを始めようと思ったの?」
「理由ですか?」
「えぇそうよ。ただ好き勝手に暴れたいだけ? それともポイントのため?」
「それは…………」

 一瞬、俺は彼女の問いに対し言葉を詰まらせる。
 と同時に彼女を初めて見た時の鮮烈な記憶が蘇る。

 呼吸を忘れ心臓をぎゅっと締め付けられるようなあの思い。
 初恋以外の何物でもない。しかし、だからこそこの気持ちを何の前準備もなく、
 正直に彼女に伝えるようなことは俺にはできなかった。

「……強いて言うなら刺激の為、ですかね」
「刺激?」
「えぇ。俺は自分のこの退屈な人生を変えたい。その為には何かキッカケが
 必要なんじゃないかと思うんです」
「それがエスぺラルド?」
「それはまだ分かりません。ですが、この学園に来た以上はエスぺラルドのことを
 知っておくべきだと思ったんです」
「――――なるほどね」

「…………。分かったわ、そういうことなら仕方ないわね。試合に関して
 助力くらいはしてあげる」
「本当かい?」
「ただし条件があるわ」
「条件?」
「言ってごらん」
「彼を明日の試合に参加させて」
「いきなり試合にですか?」
「不満かしら?」
「いえ、そういう訳じゃないのですが…………」
「それと――――条件はそれだけじゃないわ」

 数舜の間の後、先輩は一歩前へと出ると俺の前に立ち威圧的な雰囲気を
 醸し出す。

「桐生くん。私はね、人間本気で変わろうとするならそれ相応の覚悟が
 必要だと思うの。だから証明してほしい、あなたにその覚悟があるかどうかを」
「どうすれば?」
「――――明日の試合、君は誰よりも早くオブジェクトを取って試合に勝つの」

 先輩は続ける。

「今の時期、まだ新人も多いし大会の規模も小さい。だからこそ明日の試合で
 最初に勝ち抜けないのであれば見込みはないと、そう判断させてもらうわ」
「星那、それは流石に新人相手に厳しすぎやしないかい?」
「いいえ。私が面倒を見る以上はこれくらいしてもらわないと困るの。
 豊世さんならこの意味解かるわよね?」
「…………」

 黒峰さんは先輩のその射るような視線と言葉に対し、彼女は返答することなく
 ただ少し困ったように苦笑いを浮かべる。

「本当ならそれができない時点でエスぺラルドには関わってほしくはないの
 だけれど……流石にそれは私が決められることじゃないし今は言わないでおく」

 そういうと彼女は短く揃えられた髪を耳に掛け「ふぅ」と一呼吸の間を置く。

「それで桐生寿人くん。返事は決まったかしら?」
「――――分かりました。それで俺の覚悟が証明できるのであればやります」
「そう。ならいいわ。では明日の試合、精々頑張ってね。応援してるから」

 そうして些か、いや、かなりのスピードで話が進み…………俺は選手登録初日に
 して初の試合出場が決まったのであった。
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