魔術師たちに革命を

諸星影

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ROUTE1(プロローグ/斬裂魔事件編)

1-12  そのフードの下は

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 公園到着から僅か数分。
 俺は激闘の末に目的の人物、斬裂魔の確保に成功していた。

 しかし俺の心にはその目的達成による喜びよりも、もっと複雑な多くの感情に
 支配されていた。

「(は? ――――なんで遠乃先輩がこんなところに? いや待て
 先輩が斬裂魔の正体だと……?)」

「どういうことだ、意味が分からない…………」

 ブルルルル。
 混乱の最中、俺の思考を遮るかのようにポケットにあったスマホが
 マナーモードで着信を知らせる。

『どうだハイド7、目標は確保できたかい?』
「あぁ――――」
『そうかい、それは上々だね。しかしそううかうかもしていられない。
 現在君たちの方に再び風紀委員会の追手が迫ってきている』
「情報屋、こちらの状況は掴めているか」
『悪いがその辺りは監視カメラのエリア外だ。風紀委員の動向も彼らのGPS機能で
 確認しているから正確な到着時間は判らない』
「そうか」

「(ということはつまり情報屋はまだ斬裂魔の正体が遠乃緋音だとは気付いて
 いないというわけか……)」

『どうしたハイド7? 移動するなら今の内だぞ。斬裂魔を置いて
 その場から離脱しろ』
「離脱は……しない」
『なんだと?』
「情報屋、お前の依頼は仕事の邪魔になる斬裂魔を何とかしてほしいという
 話だったな。つまり斬裂魔を捕まえることではない」
『…………何が言いたいんだ』
「悪いが問題が起きた。斬裂魔の件、俺に一任してもらう」
『…………』

 数秒の沈黙。
 周りが静かなせいかその間は嫌に長くに感じられると共に、僅かにだが遠くから
 人の気配も近づいて来ていることに気が付いた。

『いいだろう。確かにこちらの目的は斬裂魔の対処であり、逮捕ではない。
 今後、私の仕事の邪魔にならないのであれば問題はない』
「感謝する」
『だがどうするつもりだ? いくら君といえど人一人を抱えたまま逃げ切れるとは
 到底思えないのだが』
「俺が囮になる」
『本気かい?』
「あぁ」
『言っておくが君が捕まっても私にはどうすることもできないからね』
「分かっている」
『……ならいい。好きにしな。運がいいことに役職持ちはまだ来てないからね』
「了解した」

 俺は通話を終了後、気絶したままの遠乃先輩のローブを脱がせると自身に
 纏わせ、彼女と同じくフードを深くまで被り顔を隠す。

 元から着ていた戦闘服の効果もありこれならば素性を知られることも
 ないだろう。

「…………」

「(ともあれ我ながらバカなことをしているな。いくら先輩の為とは言え、
 犯罪者を助ける為に囮役を買って出るなど、エージェントとして
 失格もいいところ…………)」

 ――――だが、それでもこれで昔の恩が少しでも返せるなら安いものだろう。

「いたか!」
「いえ、見当たりません」

 そうこうしている内に続々と周りに風紀委員会の捜索隊がもうすぐそこまで
 近づいて来ているらしく、彼らの声が林の中に響き渡る。

「確かにうかうかはしていられないな。いくか」

「おい、そっち何か動いたか!」
「発見! 本部、こちらデルタ、斬裂魔を発見しました!」

「――――ッ」

 ダダダダっと俺はあえて大きな足音を出し、できるだけ目立つようにして
 捜索隊の前を通り抜ける。

 案の定、暗闇の中ではためくローブにより、俺を斬裂魔と誤認して
 くれたようだ。

「(とはいえ対格差を誤魔化す為に姿勢を低めて走るのは思ったよりも
 中々につらいな……)」

 情報屋の話を信じるなら生徒会や風紀委員長クラスの生徒は
 まだ近くにはいない。ならその間にできる限り遠乃先輩から
 距離を取りたいところではある。

 とすれば公園の隅から中央方向に向け林の間を走り抜け、
 可能な限り視界を釘付けにし、逃走するのがベストか。

 バァン――――!

 すると後方から撃鉄の音共に銃弾が放たれ俺の過ぎ去った木の幹に命中。
 命中した木の表面を削り取る。

「ライオットガン…………やはり使ってきたか」

 風紀委員会所有の暴徒鎮圧用ゴム弾。
 大の大人の拳に匹敵するというその威力は術式で強化しているとはいえ
 十二分に脅威である。その為、願わくば直撃するような行動は避けたい。

「アレがある以上、広い公園内では格好の的か」

 俺が想定していた脱出ポイントまではまだ少し距離がある。
 しかもそこへ行くまでには街灯のある歩道を突っ切らなければならず
 道幅も広い。

「…………」

「(あまり使いたくはないが致し方ない。もう”一つの魔術”を使うか――――)」

 俺は懐から一本の鉄製の串を取り出すとそれを背後にいる二人組へと
 投げ飛ばす。

 ビュンっと凄まじいスピードで飛んで行ったそれは男の持っていた武器を弾くと
 続いてもう一人の男の手に突き刺さる。

「ぐぅ!」
「うぎゃ!」

 そしてそのまま踵を返し二人に接近。徒手空拳により彼らを気絶させると
 持っていた銃を奪い取り、再度ダッシュ。

 バァンバァンバァンバァン――――!

 予定ルートにあった街灯のある歩道に出ると走りながら銃を構え発砲。
 そうして一息の間に等間隔に並べられた街灯を破壊し、相手の視力を奪い。
 そのまま全力疾走で闇へと紛れ公園内を脱出することに成功した。
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