魔術師たちに革命を

諸星影

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ROUTE1(プロローグ/斬裂魔事件編)

1-05  初めてのトラブル

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 翌日、俺は学園周囲の状況を確認しつつ、日課であるランニングと筋トレを
 こなし、午後からは休日を利用して街の散策に出ていた。

 情報屋から提供された資料はかなり正確で分かり易いものではあったが、やはり
 百聞は一見に如かずということもありこうして現場へと赴いているという訳だ。

「この辺りか」

 幸い、生徒が襲撃された場所はそのほとんどが学園までの登下校に使われる
 場所であり、休日といえど生徒が立ち入っても不審がられることはなく、
 また転校生という肩書もあってか割と自由に行動できるのも地味に有り難い。

「…………」

 とはいえそれだけ無難な場所なだけに特にこれといった手掛かりがあるわけ
 でもなく。分かるのは精々、細かな地形と雑多な情報くらいである。

「次行くか」

 それでも少しでも事件の手掛かりが見つかればと順を追って街を回っていく。


     ◇


 そうして調査も大方終了し、現場近くの公園内のベンチで休んでいた時のこと。
 どこかから荒々しい声が聞こえてきた。

 見るとベンチから然程遠くない場所で数人の男たちが揉めている光景を発見する。
 どうやらよく見ると三人の男たちが一人の男に対し何か言い寄っているように
 見える。

「(なんだ揉め事か? いや、あの様子だと恐らくカツアゲかな)」

 魔術特区とはいえ物騒なこともあるもんだと俺は視線を外す。
 絡まれている痩せ男には悪いが助けてやる義理もなく、任務のことを考え
 無為に揉め事の渦中にいくわけにもいかず傍観することに決める。

 すると――――ふと、男たちの声色が変わったのに気が付いて、
 再び視線を彼らへ。

 と、そこには彼ら四人とは別に一人の少女、遠乃緋音の姿があった。

「――――先輩? どうしてこんなところに?」

 不意の再会に心躍らせつつ、俺はその状況を固唾を飲んで見守る。
 話の内容までは聞き取れないが、状況から察するに遠乃先輩は絡まれていた
 痩せ男を不良から庇っているように思えた。

「(昔から正義感の強い人ではあるとは思っていたが、よもやここまで
 お人好しとは…………)」

「(…………止めに入るべきか)」

 そう思ったのも束の間。
 不良生徒の拳が遠乃緋音に向かい振り下ろされる。

 しかし先輩はそれをスルリと躱す。

 ひらりひらり――――振り下ろされる度に余裕をもって躱す先輩の様子に
 不良生徒の頭に徐々に血が上る。

「このっ!!」

 瞬間、男の手に光の模様が浮かび上がる。
 それは強化系の魔術師によくある魔術使用による副作用であった。

 再び振り下ろされる拳。
 浮かび上がる紋様が見えたのであろう、先輩が咄嗟に防御の姿勢を取る。

 刹那――――。

「やめろ」

 ガバッと俺の腕が大男の腕を絡めとる。

「司……くん?」

 突然の俺の登場に先輩は目を丸くしながら呟く。
 どうも彼らとのやり取りで、俺が近づいて来ていたことに気が付いて
 いなかったらしい。

「なんだお前!」

 そんな先輩の様子は余所に目の前の男が目くじらを立てこちらを睨みつける。

「お前今、魔術を使おうとしただろ。やり過ぎだ」
「あぁ?!」

 激高する相手に対し、こちらはあくまでも冷静に言葉を投げかける。
 そして振り返り、先輩の後ろで未だビクビクと震える痩せ男を見つめる。

「君、もう行きなさい。ここは俺が何とかするから」
「あ、は、はい! あ、あのありがとうございます!」

 と、深々と頭を下げ彼は立ち去る。

「お前、何者だ?」
「ただの通りすがりの転校生さ」
「転校生? あぁなるほど。お前がそうなのか」

 転校生と聞き得心のいった様子の大男は今度は俺の全身を嘗め回すように
 視線を流す。

「学園じゃお前の話で持ち切りでな、どんな奴か気になっていたんだが。
 これはまたとんだ正義の味方様だぜ」
「…………」

「(見え見せの安い挑発。魔術師といえど程度が知れるな。
 これなら手の内を見せる必要もないか)」

「カリキュラムの内容に含まれない学園外での魔術使用は校則で禁止されている
 はずだろ」
「それがどうした。バレたところで証明するものは何もない」

 男の言葉にチラリと周囲を確認する。
 確かにここは公園内に設置されている監視カメラからの死角の位置に該当する。

 なるほど――――ただのバカではないようだ。

「相手は魔導師生だぞ」
「知ってる。だが元はといえばその女が割って入ってきたのが原因だろ?」
「恫喝も立派な犯罪だ」
「へぇ」

 男は反省するどころか、知らぬ存ぜぬな態度を続ける。

「ならこうしよう。お前が俺に勝てば女は見逃してやる」
「如何にもチンピラの考えそうなことだ」
「やるのか?」
「構わないぞ」

 するとそこまで黙って聞いていた先輩が俺の服の袖を掴む。

「司くん、私は大丈夫だから危ない真似はしないで」
「心配いりませんよ、先輩。すぐ終わります」

 俺は着ていたジャケットを先輩に預け、シャツの腕を捲る。
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