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リューシャ編
53話
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白亜の城。その名に全くの偽りなく外観も内装もほぼ全てが真っ白。床や壁、天井でさえも純白の輝きを放つ城の中、とある部屋の奥に白を主に基調として美しく装飾のなされた玉座があり、そこに王妃ことセレナが座っていた。
セレナの前にはリリエとルーナが立っており、スカイは部屋の入り口近くの壁にもたれかかって会話の様子を見つめている。が、スカイにはリリエがかなり緊張していることを背中越しでも理解していた。
「リリエ。今回は、ルーナが迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
セレナは、少しでもリリエの緊張を和らげようとしているのだろう。優しく、本当に申し訳なさそうにそう言った。
「い…いえ、連れ戻しに行くなんて自分で勝手に決めたことですし、リューシャ…ルーナが一緒に帰ってくれる確証もないのにただ突っ走っていただけです…。こちらこそ、それだけのことで城に乗り込んでしまって…すみません…」
リリエもそう頭を下げるが、緊張で体が強張っているせいなのか、どこか動きがぎこちない。
「リリエ、そんなに緊張しなくても良いんだよ…?」
ルーナが心配そうにリリエに言うが、そう言ったところで緊張がほぐれるわけでもないだろう。
「わ、分かってるよ…!で、でもやっぱり、緊張…して…」
王妃が目の前にいるせいか、私語を控えなければと考えてしまい、ルーナに言う言葉が少しずつ小さくなっていく。
「人の皇子と皇女にはそれほど緊張してなかったよね?」
「だって、皇子様と皇女様はよくお話することも多かったから慣れてるだけで…、王妃様は格が違うというか…」
事実を言っているのだが、緊張で言葉が小さくなっているせいでどこか言い訳のようにも聞こえる。
「格、だなんて気にしなくても良いのよ?私なんて、この世界の象徴みたいな存在であるだけだし」
「…緊張も、してますけど、それだけ…じゃないかもしれないです」
セレナの言葉に、リリエはそう呟くように言葉をこぼした。
「自分自身のことなんですけど…私、出来もしないことを無理にしようとする癖のようなものがあるんです。でもそのせいで、昔、取り返しのつかないことになったんです…。」
俯いて言うリリエの目が、悲しみを含んで潤んだ。
「だから、もうそんな無茶は止めようって思ってたんです。なのに、無我夢中になってまた突っ走っちゃって…自分で起こしてしまったことだから、周りを巻き込まないように、頼りすぎないように、努力してたんですけど…やっぱり私は弱くて、スカイや他の皆に頼ってばかりで、…あ、だから、ただ申し訳ないなって思ってるだけで、王妃様への辿々しい言動の理由になってないですけど…」
困ったように笑うリリエをルーナは心配げに見つめ、セレナは優しく言葉をかける。
「リリエ、あなたの言うように、頼りすぎることは己の成長を妨げてしまって、悪影響を及ぼすわ。でも、逆に頼りすぎないことも、時として己に悪影響を及ぼしてしまう。自分一人で抱え込みすぎることもいけない。私も、昔悩んでいたことがあったの。」
「…!セレナ様…」
「大丈夫よ、ルーナ。」
どこか驚きながらルーナはセレナに何かを言おうとするが、それをセレナは制止し、言葉を続ける。
「…私は、その悩みは自分で解決しなければならないと思っていたわ。そう、今のあなたみたいに。でも、ルーナや皆が私の悩みに案を出してくれて。とても嬉しかった。だから、あなたももう少し、誰かを頼っていいの。ほら、三人寄ればなんとやら、と言うでしょう?」
笑うセレナに、リリエはその悩みが何だったのか、その悩みは解決したのか、問いかけたかった。しかし問いかけられなかった。それを聞いてはいけないような気がした。
「リリエ?」
「あ、何でもないです!王妃様、ありがとうございます」
セレナに、リリエは丁寧にお辞儀をした。セレナはそんなリリエに微笑むと、ふと何かを考えるかのように斜め上を見上げ、呟いた。
「そういえばリリエ。あなたの魔法は、スカイから{元素}だと聞いたわ。それは本当かしら?」
「え、えれめんと…ですか?」
リリエはその言葉に思わず首を傾げる。
「あー…セレナ様。まだリリエにはそこまで話はしてないんです。」
頭の上にハテナを浮かべるリリエに、スカイがフォローを後ろから加えた。
「あら、そうなのね。ならば、そこから説明をしないといけないわね…。」
「えっと…魔法、のことですか?」
自分が一番関係しているはずの会話に入るに入れず、なのに勝手に話がポンポンと進んでいっていることに困惑しながらも、どうにか会話に入れたリリエはそう問いかけた。
「ええ、そうよ。リリエは、属性魔法と物質魔法の違いは知っている?」
「属性魔法と物質魔法の違い、ですか…分からないです…」
「じゃあ、そこからの話になるわね。少し、お話をしましょうか。私としても、リリエには少しでも緊張をほぐしてもらいたいから」
セレナはそう言ってリリエに優しく微笑んだ。その微笑みに、リリエは少し申し訳なさげに笑みを返した。
セレナの前にはリリエとルーナが立っており、スカイは部屋の入り口近くの壁にもたれかかって会話の様子を見つめている。が、スカイにはリリエがかなり緊張していることを背中越しでも理解していた。
「リリエ。今回は、ルーナが迷惑をかけたわね。ごめんなさい。」
セレナは、少しでもリリエの緊張を和らげようとしているのだろう。優しく、本当に申し訳なさそうにそう言った。
「い…いえ、連れ戻しに行くなんて自分で勝手に決めたことですし、リューシャ…ルーナが一緒に帰ってくれる確証もないのにただ突っ走っていただけです…。こちらこそ、それだけのことで城に乗り込んでしまって…すみません…」
リリエもそう頭を下げるが、緊張で体が強張っているせいなのか、どこか動きがぎこちない。
「リリエ、そんなに緊張しなくても良いんだよ…?」
ルーナが心配そうにリリエに言うが、そう言ったところで緊張がほぐれるわけでもないだろう。
「わ、分かってるよ…!で、でもやっぱり、緊張…して…」
王妃が目の前にいるせいか、私語を控えなければと考えてしまい、ルーナに言う言葉が少しずつ小さくなっていく。
「人の皇子と皇女にはそれほど緊張してなかったよね?」
「だって、皇子様と皇女様はよくお話することも多かったから慣れてるだけで…、王妃様は格が違うというか…」
事実を言っているのだが、緊張で言葉が小さくなっているせいでどこか言い訳のようにも聞こえる。
「格、だなんて気にしなくても良いのよ?私なんて、この世界の象徴みたいな存在であるだけだし」
「…緊張も、してますけど、それだけ…じゃないかもしれないです」
セレナの言葉に、リリエはそう呟くように言葉をこぼした。
「自分自身のことなんですけど…私、出来もしないことを無理にしようとする癖のようなものがあるんです。でもそのせいで、昔、取り返しのつかないことになったんです…。」
俯いて言うリリエの目が、悲しみを含んで潤んだ。
「だから、もうそんな無茶は止めようって思ってたんです。なのに、無我夢中になってまた突っ走っちゃって…自分で起こしてしまったことだから、周りを巻き込まないように、頼りすぎないように、努力してたんですけど…やっぱり私は弱くて、スカイや他の皆に頼ってばかりで、…あ、だから、ただ申し訳ないなって思ってるだけで、王妃様への辿々しい言動の理由になってないですけど…」
困ったように笑うリリエをルーナは心配げに見つめ、セレナは優しく言葉をかける。
「リリエ、あなたの言うように、頼りすぎることは己の成長を妨げてしまって、悪影響を及ぼすわ。でも、逆に頼りすぎないことも、時として己に悪影響を及ぼしてしまう。自分一人で抱え込みすぎることもいけない。私も、昔悩んでいたことがあったの。」
「…!セレナ様…」
「大丈夫よ、ルーナ。」
どこか驚きながらルーナはセレナに何かを言おうとするが、それをセレナは制止し、言葉を続ける。
「…私は、その悩みは自分で解決しなければならないと思っていたわ。そう、今のあなたみたいに。でも、ルーナや皆が私の悩みに案を出してくれて。とても嬉しかった。だから、あなたももう少し、誰かを頼っていいの。ほら、三人寄ればなんとやら、と言うでしょう?」
笑うセレナに、リリエはその悩みが何だったのか、その悩みは解決したのか、問いかけたかった。しかし問いかけられなかった。それを聞いてはいけないような気がした。
「リリエ?」
「あ、何でもないです!王妃様、ありがとうございます」
セレナに、リリエは丁寧にお辞儀をした。セレナはそんなリリエに微笑むと、ふと何かを考えるかのように斜め上を見上げ、呟いた。
「そういえばリリエ。あなたの魔法は、スカイから{元素}だと聞いたわ。それは本当かしら?」
「え、えれめんと…ですか?」
リリエはその言葉に思わず首を傾げる。
「あー…セレナ様。まだリリエにはそこまで話はしてないんです。」
頭の上にハテナを浮かべるリリエに、スカイがフォローを後ろから加えた。
「あら、そうなのね。ならば、そこから説明をしないといけないわね…。」
「えっと…魔法、のことですか?」
自分が一番関係しているはずの会話に入るに入れず、なのに勝手に話がポンポンと進んでいっていることに困惑しながらも、どうにか会話に入れたリリエはそう問いかけた。
「ええ、そうよ。リリエは、属性魔法と物質魔法の違いは知っている?」
「属性魔法と物質魔法の違い、ですか…分からないです…」
「じゃあ、そこからの話になるわね。少し、お話をしましょうか。私としても、リリエには少しでも緊張をほぐしてもらいたいから」
セレナはそう言ってリリエに優しく微笑んだ。その微笑みに、リリエは少し申し訳なさげに笑みを返した。
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