大和―YAMATO― 第四部

良治堂 馬琴

文字の大きさ
上 下
29 / 100

第329章『援護』

しおりを挟む
第329章『援護』

「制御棟以外には構うな!!侵入はもう指揮官に伝わってる!一気に侵入して散開するぞ!!」
「了解!!」
 建屋群の間を走る道を全速力で疾走する幾つもの影、その先頭はタカコ、その彼女が張り上げる声に答えながら、敦賀は小さなその背中を見詰めていた。解けてしまった髪はいつもの様に結び直され、今は三つ編みではなく引っ詰めただけの長い髪が走る勢いに合わせ、ゆらゆらと揺れている。まるで尻尾を振りながら目標に向かって真っ直ぐに疾走する猟犬の様だと、そんな場違いな事を考えつつ、先程目にした光景と、ドレイクに言われた言葉を思い返す。
 高過ぎる能力が故に周囲と協調出来ずに弾き出され、他で生きる事も出来ずに行き場所を無くしていた、そんな人間が集められた、それが彼女の指揮する部隊、Providence。そして、その司令官の座に在るタカコもまたその一人で、自分が全力で動く為に周囲を同類で固めたと言っていたドレイク、彼のその言葉は俄かには納得出来るものではなかったが、よくよく考えてみれば至極納得の出来る言葉でもあったなと思い至る。
 強烈だ、ブッ飛んでいる、寒気すら覚える、彼女の行動を目にして感じて来た数々の感情、それは結局自分との実力差を本能的に感じ取ってのものだったのだろう、自分は未だその境地には達していないと、無意識で感じていたのだろう。それなのに自分は彼女と肩を並べ戦って来た、その二つを合わせて考えれば、彼女が力を制御して自分達大和人に合わせてくれていた、それが答えなのだ。
 男として女に後れをとったという事実に、何も感じずにいられる程に人間は出来ていない、実際のところに気付いた今となっては、心の中に有るのは悔しいという思いばかり。けれどそこに拘泥する事も出来ずにこうして動いてはいるものの、手を伸ばせば届く場所にいる筈の背中がやけに遠く思えて、知らず歯を軋らせた。
 動きが止まったのは走り出して数分程してから、到達した制御棟、その扉の前でタカコが左手で拳を作りそれを高く掲げ、追送していた敦賀達はそれを見て身体に急制動を掛け、そのまま二手に分かれて扉の両脇の壁へと身体を這わせる体勢をとり小銃を抱え直す。
「ケイン、来い」
 小さく短いタカコの言葉、カタギリがそれに応えてタカコと同じ様に扉の前に並んで立ち、二人はナイフを腰に戻す。
「お前左、私、右」
「了解」
「ジャス、ケインに付け、敦賀、私に付け。私とケインが先に入る、二人は援護を」
「はいよ、了解」
「分かった」
「各員、図面は頭に叩き込んだな?制御棟内に侵入した後は事前の取り決め通りに散開して行動に移れ、発砲、無力化、全て各員の判断に任せる……行くぞ」
「了解!」
 タカコの言葉に返される幾つもの声、タカコはそれを聞くと素早く踵を返し、扉に手を掛けてそれを引きながら素早く横の壁へと退避する。観音開き式の扉の反対側ではカタギリが同じ様に動き、二人が扉を開け放った瞬間、凄まじい爆風と破片が外へと噴き出して来た。
「甘いな、壁の厚さがクレイモアを防ぎきれるだけの厚さが有る事は確認済み……なんだよ!」
 爆風の勢いでよろめいたタカコは直ぐ脇にいた敦賀に抱き止められ、そう言いながら勢いを付けて体勢を立て直すと、そのまま扉を挟んで向かい側にいるカタギリと頷き合う。そして二人揃って腰に付けた袋の中から手榴弾を二つ三つ取り出し、その針金を引き抜くと直ぐ様それを粉塵の立ち込める廊下へと放り込んだ。
 一秒、二秒、三秒、タカコも、様子を見守っていた全員も心の中で数えれば、やがて廊下から外へと響いて来る爆音と震動、そしてそれと同時に再び扉から噴き出す粉塵。タカコとカタギリの二人はそれを見て再び頷き合い、再度手榴弾を取り出し針金を引き抜き、先程よりも勢いを付けて再び廊下へと放り込む。
 勢いのついた手榴弾は床へは落ちず、突き当りの壁へとぶつかった後に床へと落ちる音がして、直後先程よりも僅かばかり弱い爆音と震動がやって来る。
「行くぞ!!援護を頼む!!」
 一回目は廊下の曲がり角迄の間の地雷や仕掛けの破壊、そして二回目は曲がり角の向こうに待ち構えているであろう敵の排除が目的。取り敢えず曲がり角迄の安全は確保されたとばかりに制御棟内に踏み込み、二手に分かれて一気に走り出すタカコとカタギリ、敦賀はそれを見ながら、遅れるわけにはいかないとばかりに自らも地面を蹴った。
 入った制御棟内の廊下は天井も対人地雷と手榴弾に破壊され明かりは無くひどく暗い、曲がり角の向こう側のその更に先に残っていた明かりが微かにこちらへと届く中、凄まじい速度でそちらへと向かって行くタカコの背中を追い続けた。角を曲がればそこには待ち構えていて退避し遅れたのか手榴弾の破片に切り裂かれた敵の死体が複数、それにちらりと一瞥をくれた敦賀が視線を前へ戻せば、タカコの小さな背中と、そしてその向こうに現れた二つの大きな影が視界へと飛び込んで来る。
「相棒!頼むぞ!!」
 そんなタカコの怒声が鼓膜を叩いたのと、携えていた小銃の銃口を二つの影へと向け引き金に指を掛けたのはほぼ同時、そして、その刹那の後、影の上半身へと向けて引き金を引き絞った。
 連続して弾丸を吐き出す小銃、その振動が身体へと伝わり、銃身に携えた左手で弾の向かう先を固定する。視線の先では連続して銃弾に貫かれ奇妙な踊りを踊る二つの身体、その彼等の手にした銃からは出鱈目に銃弾が吐き出され、壁や天井に当たり或る物は敦賀の身体を掠め、やがて彼等は床へと崩れ落ちて動かなくなった。
「ぼーっとしてんな、行くぞ!」
 突っ込むと同時に床へと身を投げ出したタカコ、その彼女が素早く起き上がり身体についた汚れを払う事も無く先へと視線を向けて動き出す。敦賀もそれに合わせ進もうとしたその時、不意にタカコは立ち止まり、顔だけを敦賀へと向けて口を開いた。
「やるじゃん、ちゃんと上半身に固定してブチかますとか。下に向けられたら私迄被弾してた。頼りにしてるぜ、相棒」
 目出し帽を被っていて表情は分からない。けれど、声音は実に楽しそうで、敦賀はそれを聞きながら僅かに口角を上げ、
「誰にモノ言ってやがる、馬鹿女」
 と、そう吐き捨て、再び前を向き走り出したタカコに続いて床を蹴った。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

もしかして寝てる間にざまぁしました?

ぴぴみ
ファンタジー
令嬢アリアは気が弱く、何をされても言い返せない。 内気な性格が邪魔をして本来の能力を活かせていなかった。 しかし、ある時から状況は一変する。彼女を馬鹿にし嘲笑っていた人間が怯えたように見てくるのだ。 私、寝てる間に何かしました?

【完結】ある二人の皇女

つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。 姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。 成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。 最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。 何故か? それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。 皇后には息子が一人いた。 ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。 不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。 我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。 他のサイトにも公開中。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

冤罪で追放した男の末路

菜花
ファンタジー
ディアークは参っていた。仲間の一人がディアークを嫌ってるのか、回復魔法を絶対にかけないのだ。命にかかわる嫌がらせをする女はいらんと追放したが、その後冤罪だったと判明し……。カクヨムでも同じ話を投稿しています。

処理中です...