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第245章『鍵開け』
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第245章『鍵開け』
物思いに耽る高根、タカコはそれを見て小さく笑うと
「仕事も溜まってるから早速戻るよ。お前はまぁ、頑張れ。色々と黙ってた事ちゃんと謝って全部正直に話せよ」
そう言って書類の束を手に取り立ち上がり総司令執務室を後にする。凛は島津の妹、それは間違い無いだろう、家族を全て亡くしたと思っていた凛と両親と妹を亡くしたと思っていた島津、大きな喪失感や悲しみを抱えて生きていた二人が再会しそれを埋める事が出来るのだとしたら、こんなに喜ばしい事は無い。以前島津からその辺りの話はちらりと聞いた事が有り、いつも穏やかに笑っている彼がひどく暗く沈んだ面持ちと声音をしていた事をよく覚えている。両親との関係はあまり良くなかったが、七歳年下の妹の事だけは悔やんでも悔やみきれないと、そう言っていた。
「相当可愛がってるみたいだし……これ、おめでたい再会と同時に真吾と仁一の修羅場になるよなぁ、絶対……面白くなって来たじゃないの」
そんな下世話な出歯亀根性丸出しの事をぼそりと呟いて歩き出せば、
「へぇ……自分の後始末はせずに逃げ出しておいて他人の事には首突っ込むのか……」
「てめぇ……俺等放置してさっさと帰るってどういうこった……」
そんな地を這う様な低い、怒りと苛立ちを滲ませた様な声が二つ。ぎくり、と顔を上げて声のした方を見てみれば、そこには黒川と敦賀が階段を上がり切って直ぐの位置に並んで立ち、タカコの進路を完全に塞いでいた。
「え、いや、あの、ほら、ね?何だか二人で睨み合っててさ、話しかけ辛いなーって……思った……から?」
「何で最後に疑問符付いてるんだよ……」
呆れ混じりにそう言ったのは黒川、敦賀の方はと言えば苛立ちが先立って言葉も無く不機嫌そうに睨み付けるだけ。放置したのは悪かったがそもそも敦賀の父親である中将が意味不明な勘違いをして黒川にそれを話した事が発端だろう、自分はあまり悪くない筈だ、タカコはそう内心で呟き、この場を逃げ出してしまうかと一歩後退る。
「おい……」
階段は建物の中央以外にも両端に非常階段が一つずつ、そちらへと逃げてしまおうと一歩下がればそれが二人にも伝わったのか、あちらは一歩こちらへと向けて踏み出して来る。
「……てめぇ、逃げる気か」
一歩、また一歩とじりじりと下がればその分だけ歩みを進める二人、男二人が過ぎた事をいつ迄も鬱陶しい、タカコは小さくそう吐き捨て、踵を返して一気に階段に向かって走り出す。
「ちょ!待て!」
「待ちやがれ!」
背中にぶつけられる言葉は無視して階段室へと駆け込み、数段ずつ飛び降りる勢いで階下へと向けて駆け抜ける。謝った方が良い気がしないでもないが筋違い、勝手にぷりぷりと怒っていろと笑って一階迄一気に駆け下りて本部棟の外へと出た。
書類の束は手に持ったまま、さて、これからどうしたものかと暫し思案に暮れる。真っ当に曹長の大部屋に戻って仕事をしようとすれば直ぐにあの二人に見つかり捕まってしまうだろう、高根の執務室には用事が有って来たのだろう黒川が来るだろうし、敦賀の執務室は論外だ。研究棟や他の部署にでも、そんな事を考えて当ても無く歩いていたタカコが立ち止まったのは駐車場、そこに停められた黒川の車を目にした時だった。外は寒いし、建物の中ではいつ敦賀に見つかるか分からない、それならば、と、一旦はその場から離れ鉤状になった固めの針金を何処かから探し出して来て、後部座席の扉の窓の隙間にそれを差し込み、数度素早く引き上げるという事を繰り返し、何度目かで開錠に成功すると素早く中へと入り込んだ。
「暖房入ってないから寒いは寒いけど、吹きっ曝しの外にいるよりはよっぽどマシかな、タツさんが戻って来る前に場所変えないといけないけど」
自分の行為の犯罪性については特に問題にも思っていないのか後部座席へと身体を沈めるタカコ、出来るだけ長居をしたいから黒川が戻って来るのは遅い方が良いな、そんな事を考えつつ膝の上に書類の束を置き、その一枚一枚に目を通し始める。泣こうが喚こうが怒鳴ろうが、とにかく何をしようとも後約三ヶ月で『その時』がやって来る。その先に待つのは同盟か侵攻か、今は未だ分からないが、高根達と交わした約束は守らなくては、本国が侵攻という答えを出したとしても、その瞬間迄自分は全身全霊を懸けて彼等大和人に協力し続ける、その約束を。
「OPFORの創設も助言すべきだろうなぁ……しかし、これは流石にどうしたもんかなぁ……」
OPFOR――、opposing force、仮想敵部隊や対抗部隊と呼称されるそれはワシントンの存在が無かったとしても、活骸だけではなく人間との戦いへと突入せざるを得なくなっている大和にとって、ワシントン同様に今後必要不可欠なものとなって来るだろう。『その瞬間迄は』全面的に協力をすると約束はしたものの、OPFORの創設とその運用方法についての知識と技術と情報は長く残る事になる。同盟が仮初めのまま決裂し袂を分かつ事になったとしたら、自分が置いて行くそれ等はそのままワシントンへと向けられる刃と銃口となる可能性を考えると、そこ迄踏み込むのは、と、流石に躊躇が残ってしまう。それでも大和がワシントン以外の人間との戦いへと突入するのであればその手助けはしてやりたい、一体どうしたものかと溜息を吐き、三分の一程目を通した書類の束を膝の上に戻し車の天井をぼんやりと仰ぎ見た。
あちらを立てればこちらが立たず、歳をとり立場も有ると全てを収める事はなかなかに難しく、それでも出来るだけ良い方向へ、傷付く者が出来るだけ少なくなる様になれば良い。そんな事を考えつつタカコはポケットから煙草を取り出して火を点け、窓を開けて外へと向かって静かに煙を吐き出した。
物思いに耽る高根、タカコはそれを見て小さく笑うと
「仕事も溜まってるから早速戻るよ。お前はまぁ、頑張れ。色々と黙ってた事ちゃんと謝って全部正直に話せよ」
そう言って書類の束を手に取り立ち上がり総司令執務室を後にする。凛は島津の妹、それは間違い無いだろう、家族を全て亡くしたと思っていた凛と両親と妹を亡くしたと思っていた島津、大きな喪失感や悲しみを抱えて生きていた二人が再会しそれを埋める事が出来るのだとしたら、こんなに喜ばしい事は無い。以前島津からその辺りの話はちらりと聞いた事が有り、いつも穏やかに笑っている彼がひどく暗く沈んだ面持ちと声音をしていた事をよく覚えている。両親との関係はあまり良くなかったが、七歳年下の妹の事だけは悔やんでも悔やみきれないと、そう言っていた。
「相当可愛がってるみたいだし……これ、おめでたい再会と同時に真吾と仁一の修羅場になるよなぁ、絶対……面白くなって来たじゃないの」
そんな下世話な出歯亀根性丸出しの事をぼそりと呟いて歩き出せば、
「へぇ……自分の後始末はせずに逃げ出しておいて他人の事には首突っ込むのか……」
「てめぇ……俺等放置してさっさと帰るってどういうこった……」
そんな地を這う様な低い、怒りと苛立ちを滲ませた様な声が二つ。ぎくり、と顔を上げて声のした方を見てみれば、そこには黒川と敦賀が階段を上がり切って直ぐの位置に並んで立ち、タカコの進路を完全に塞いでいた。
「え、いや、あの、ほら、ね?何だか二人で睨み合っててさ、話しかけ辛いなーって……思った……から?」
「何で最後に疑問符付いてるんだよ……」
呆れ混じりにそう言ったのは黒川、敦賀の方はと言えば苛立ちが先立って言葉も無く不機嫌そうに睨み付けるだけ。放置したのは悪かったがそもそも敦賀の父親である中将が意味不明な勘違いをして黒川にそれを話した事が発端だろう、自分はあまり悪くない筈だ、タカコはそう内心で呟き、この場を逃げ出してしまうかと一歩後退る。
「おい……」
階段は建物の中央以外にも両端に非常階段が一つずつ、そちらへと逃げてしまおうと一歩下がればそれが二人にも伝わったのか、あちらは一歩こちらへと向けて踏み出して来る。
「……てめぇ、逃げる気か」
一歩、また一歩とじりじりと下がればその分だけ歩みを進める二人、男二人が過ぎた事をいつ迄も鬱陶しい、タカコは小さくそう吐き捨て、踵を返して一気に階段に向かって走り出す。
「ちょ!待て!」
「待ちやがれ!」
背中にぶつけられる言葉は無視して階段室へと駆け込み、数段ずつ飛び降りる勢いで階下へと向けて駆け抜ける。謝った方が良い気がしないでもないが筋違い、勝手にぷりぷりと怒っていろと笑って一階迄一気に駆け下りて本部棟の外へと出た。
書類の束は手に持ったまま、さて、これからどうしたものかと暫し思案に暮れる。真っ当に曹長の大部屋に戻って仕事をしようとすれば直ぐにあの二人に見つかり捕まってしまうだろう、高根の執務室には用事が有って来たのだろう黒川が来るだろうし、敦賀の執務室は論外だ。研究棟や他の部署にでも、そんな事を考えて当ても無く歩いていたタカコが立ち止まったのは駐車場、そこに停められた黒川の車を目にした時だった。外は寒いし、建物の中ではいつ敦賀に見つかるか分からない、それならば、と、一旦はその場から離れ鉤状になった固めの針金を何処かから探し出して来て、後部座席の扉の窓の隙間にそれを差し込み、数度素早く引き上げるという事を繰り返し、何度目かで開錠に成功すると素早く中へと入り込んだ。
「暖房入ってないから寒いは寒いけど、吹きっ曝しの外にいるよりはよっぽどマシかな、タツさんが戻って来る前に場所変えないといけないけど」
自分の行為の犯罪性については特に問題にも思っていないのか後部座席へと身体を沈めるタカコ、出来るだけ長居をしたいから黒川が戻って来るのは遅い方が良いな、そんな事を考えつつ膝の上に書類の束を置き、その一枚一枚に目を通し始める。泣こうが喚こうが怒鳴ろうが、とにかく何をしようとも後約三ヶ月で『その時』がやって来る。その先に待つのは同盟か侵攻か、今は未だ分からないが、高根達と交わした約束は守らなくては、本国が侵攻という答えを出したとしても、その瞬間迄自分は全身全霊を懸けて彼等大和人に協力し続ける、その約束を。
「OPFORの創設も助言すべきだろうなぁ……しかし、これは流石にどうしたもんかなぁ……」
OPFOR――、opposing force、仮想敵部隊や対抗部隊と呼称されるそれはワシントンの存在が無かったとしても、活骸だけではなく人間との戦いへと突入せざるを得なくなっている大和にとって、ワシントン同様に今後必要不可欠なものとなって来るだろう。『その瞬間迄は』全面的に協力をすると約束はしたものの、OPFORの創設とその運用方法についての知識と技術と情報は長く残る事になる。同盟が仮初めのまま決裂し袂を分かつ事になったとしたら、自分が置いて行くそれ等はそのままワシントンへと向けられる刃と銃口となる可能性を考えると、そこ迄踏み込むのは、と、流石に躊躇が残ってしまう。それでも大和がワシントン以外の人間との戦いへと突入するのであればその手助けはしてやりたい、一体どうしたものかと溜息を吐き、三分の一程目を通した書類の束を膝の上に戻し車の天井をぼんやりと仰ぎ見た。
あちらを立てればこちらが立たず、歳をとり立場も有ると全てを収める事はなかなかに難しく、それでも出来るだけ良い方向へ、傷付く者が出来るだけ少なくなる様になれば良い。そんな事を考えつつタカコはポケットから煙草を取り出して火を点け、窓を開けて外へと向かって静かに煙を吐き出した。
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