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第199章『憤怒』
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第199章『憤怒』
指揮所へと近付けば立ち込める煙とあちこちから響き渡る怒号、担架を、医療班をと叫ぶ様子にやはり無傷とはいかなかったかとタカコは舌を打った。高根は、黒川は無事なのかと周囲を見渡せば、医療班に取り囲まれて頭に包帯を巻かれている二人の姿。無傷とはいかなかったが生きてはいるらしい、良かった、と大きく息を吐けば、こちらの存在に気が付いた二人がしっかりと頷くのが見て取れた。
「司令、総監、御無事で何よりです!」
「ああ、しかしとんでもねぇ赤っ恥だよ……相手が活骸だけじゃねぇってのをすっかり失念してた、人間同士の戦争になってるんだよなぁ、もう。これからは指揮所の配置や兵員の展開も含めてしっかりと勉強しねぇとな、いてて……」
「お前達も無事で良かった、怪我は無いか?」
「はい、私達は何も。御心配痛み入ります」
駆け寄れば畏まった態度ではあるが労わりの言葉を掛けられ、この様子なら心配は無さそうだと再度小さく息を吐くタカコ、彼女はそこで二人へと報告すべき事を思い出し、す、と目を細めて二人の前へと正対した。
「司令、総監、至急お耳に入れておきたい事が。出来れば、人払いをお願い致します」
「……何が有った?」
「……お願いします」
高根の問い掛けにタカコは答えずに要求を短く繰り返すだけ、少々深刻な内容らしい、そう判断した高根は黒川と顔を見合わせ頷き合い、
「……分かった、あまり時間は取れないが……来い」
そう言って立ち上がり、周囲の人間に当面の指示を出し歩き出す。
「それで?何が有った?」
「あー、指揮所設置した場所については穴掘って埋まりたい位なんでツッコミは無しな?」
「そうじゃない、人間を三名紹介したいんだ」
「人間?」
「ああ……おい、入って来い」
高根と黒川が入ったのは無人の天幕の中、そこに続いて入って来たタカコと敦賀に問い掛ければ、敦賀は何も話そうともせず、タカコだけが静かに口を開く。人間を三名紹介したい、大和軍の関係者しかいない状況で外国人の彼女が誰を紹介するのか、そう思って高根と黒川が顔を見合わせれば、タカコの言葉に従う様に天幕の布製の扉が捲り上げられ、人影が三つ、中へと入って来た。
「……おい、タカコ、こりゃ……」
「右からマリオ・ジュリアーニ少佐、ジェフリー・ウォーレン少佐、アリサ・マクギャレット曹長、三人共私の忠実で優秀な部下だよ。三人共、こちらが海兵隊総司令の高根真吾准将、こちらが陸軍西部方面旅団総監の黒川龍興少将だ、挨拶を」
「初めまして、高根准将、黒川少将。我々のボスを助け保護して頂いた事、深く感謝します」
「感謝します」
「有り難う御座います」
タカコの言葉に従い挙手敬礼をし手短に謝意を述べるその所作からはよく教育と訓練が行き届いている事が窺えて、タカコは良い部下を持っているらしい、そんな事を思った高根と黒川が返礼を解いた後、三人はそれを待って右腕を下ろした。
(……女もいるのか……声が似てるな、タカコに)
カタギリとキムを最初にタカコの部下だと認識した所為か、彼女の部下に女性がいるとは思わなかった、体格もタカコとそっくりだが顔の火傷の痕が痛々しい、これでは潜入任務には使えないだろうから何か他に特技が有るのだろう、そんな事を考える黒川を他所に、高根はこの状況が少々気に入らないといった様子で頭を掻き口を開く。
「……それで?お前の部下だってのは分かった、しかしこいつ等は何処から来たんだ?あの事故ではお前以外に生存者は無かった、それは俺達海兵隊がきっちりと確認してる。対馬区以外には国外や大陸へと続く道は無い……一つ有るとすれば海路だが、どういう事か説明してもらえるか?」
「そこなんだよ……私もこいつ等が投入されるなんて計画は聞いてない、ワシントンが区切った千日目もまだ暫くは先の話だ。それで、私が確認するのも当然だが、仮初めとは言え同盟を結んだお前等にも聞く権利は有ると思ってな、一緒に話を聞こうと思って連れて来た。お前等、話せ、一切の隠し事は許さん、全て正直に私に報告しろ」
指揮官として全てを把握しておきたいであろうタカコにとってもこの状況は若干の不愉快さを齎しているのか、冷たく硬い声音で自らの部下三名へと問い掛ける。高根も黒川も、そして敦賀も感じた事の無い程のタカコの威圧感、カタギリやキムだけでなく他の部下も現れた事で本来の立ち位置や振る舞いへと戻りつつある事を窺わせるその様に口を開いたのは、ウォーレンだった。
「ここに来た理由はマスターや他の人間の救援です、他に理由は有りません……二年四ヶ月前、マスター達との連絡が途絶え全員が行方不明になった後、JCSも我々も手を尽くして探しました。それでも行方は杳として知れず、部隊をどうするのか、代表を他に立て存続させるかそれとも解散するのか、その決断をしなければならないという空気になったのが半年程前です……その時に、奴が現れ取引を持ちかけて来ました、自分に降ればマスターの下に案内してやると……我々はマスターの御身の為にそれを受――」
タカコの掌底がウォーレンの下顎に叩き込まれたのはほぼ同時、そして脳震盪を起こしたウォーレンの大きな体躯がぐらりと揺れ、腹に膝を入れられて音を立てて床へと転がったのはその直後だった。
「ボス!ちょっと待って!話を――」
突然のタカコの動きにジュリアーニが焦った様に抗議の言葉を口にする、しかしタカコはそれを聞き入れる気は欠片も無い様に腰に差した拳銃を抜き、銃口をジュリアーニへと向けて狙いをピタリと合わせ安全装置を解除する。
「……お前等……よりによってあいつと手を組んだのか?奴と私の因縁を知っていて尚その行動を採ったという事は……それは私に対しての反逆と解釈して構わんな?」
指揮所へと近付けば立ち込める煙とあちこちから響き渡る怒号、担架を、医療班をと叫ぶ様子にやはり無傷とはいかなかったかとタカコは舌を打った。高根は、黒川は無事なのかと周囲を見渡せば、医療班に取り囲まれて頭に包帯を巻かれている二人の姿。無傷とはいかなかったが生きてはいるらしい、良かった、と大きく息を吐けば、こちらの存在に気が付いた二人がしっかりと頷くのが見て取れた。
「司令、総監、御無事で何よりです!」
「ああ、しかしとんでもねぇ赤っ恥だよ……相手が活骸だけじゃねぇってのをすっかり失念してた、人間同士の戦争になってるんだよなぁ、もう。これからは指揮所の配置や兵員の展開も含めてしっかりと勉強しねぇとな、いてて……」
「お前達も無事で良かった、怪我は無いか?」
「はい、私達は何も。御心配痛み入ります」
駆け寄れば畏まった態度ではあるが労わりの言葉を掛けられ、この様子なら心配は無さそうだと再度小さく息を吐くタカコ、彼女はそこで二人へと報告すべき事を思い出し、す、と目を細めて二人の前へと正対した。
「司令、総監、至急お耳に入れておきたい事が。出来れば、人払いをお願い致します」
「……何が有った?」
「……お願いします」
高根の問い掛けにタカコは答えずに要求を短く繰り返すだけ、少々深刻な内容らしい、そう判断した高根は黒川と顔を見合わせ頷き合い、
「……分かった、あまり時間は取れないが……来い」
そう言って立ち上がり、周囲の人間に当面の指示を出し歩き出す。
「それで?何が有った?」
「あー、指揮所設置した場所については穴掘って埋まりたい位なんでツッコミは無しな?」
「そうじゃない、人間を三名紹介したいんだ」
「人間?」
「ああ……おい、入って来い」
高根と黒川が入ったのは無人の天幕の中、そこに続いて入って来たタカコと敦賀に問い掛ければ、敦賀は何も話そうともせず、タカコだけが静かに口を開く。人間を三名紹介したい、大和軍の関係者しかいない状況で外国人の彼女が誰を紹介するのか、そう思って高根と黒川が顔を見合わせれば、タカコの言葉に従う様に天幕の布製の扉が捲り上げられ、人影が三つ、中へと入って来た。
「……おい、タカコ、こりゃ……」
「右からマリオ・ジュリアーニ少佐、ジェフリー・ウォーレン少佐、アリサ・マクギャレット曹長、三人共私の忠実で優秀な部下だよ。三人共、こちらが海兵隊総司令の高根真吾准将、こちらが陸軍西部方面旅団総監の黒川龍興少将だ、挨拶を」
「初めまして、高根准将、黒川少将。我々のボスを助け保護して頂いた事、深く感謝します」
「感謝します」
「有り難う御座います」
タカコの言葉に従い挙手敬礼をし手短に謝意を述べるその所作からはよく教育と訓練が行き届いている事が窺えて、タカコは良い部下を持っているらしい、そんな事を思った高根と黒川が返礼を解いた後、三人はそれを待って右腕を下ろした。
(……女もいるのか……声が似てるな、タカコに)
カタギリとキムを最初にタカコの部下だと認識した所為か、彼女の部下に女性がいるとは思わなかった、体格もタカコとそっくりだが顔の火傷の痕が痛々しい、これでは潜入任務には使えないだろうから何か他に特技が有るのだろう、そんな事を考える黒川を他所に、高根はこの状況が少々気に入らないといった様子で頭を掻き口を開く。
「……それで?お前の部下だってのは分かった、しかしこいつ等は何処から来たんだ?あの事故ではお前以外に生存者は無かった、それは俺達海兵隊がきっちりと確認してる。対馬区以外には国外や大陸へと続く道は無い……一つ有るとすれば海路だが、どういう事か説明してもらえるか?」
「そこなんだよ……私もこいつ等が投入されるなんて計画は聞いてない、ワシントンが区切った千日目もまだ暫くは先の話だ。それで、私が確認するのも当然だが、仮初めとは言え同盟を結んだお前等にも聞く権利は有ると思ってな、一緒に話を聞こうと思って連れて来た。お前等、話せ、一切の隠し事は許さん、全て正直に私に報告しろ」
指揮官として全てを把握しておきたいであろうタカコにとってもこの状況は若干の不愉快さを齎しているのか、冷たく硬い声音で自らの部下三名へと問い掛ける。高根も黒川も、そして敦賀も感じた事の無い程のタカコの威圧感、カタギリやキムだけでなく他の部下も現れた事で本来の立ち位置や振る舞いへと戻りつつある事を窺わせるその様に口を開いたのは、ウォーレンだった。
「ここに来た理由はマスターや他の人間の救援です、他に理由は有りません……二年四ヶ月前、マスター達との連絡が途絶え全員が行方不明になった後、JCSも我々も手を尽くして探しました。それでも行方は杳として知れず、部隊をどうするのか、代表を他に立て存続させるかそれとも解散するのか、その決断をしなければならないという空気になったのが半年程前です……その時に、奴が現れ取引を持ちかけて来ました、自分に降ればマスターの下に案内してやると……我々はマスターの御身の為にそれを受――」
タカコの掌底がウォーレンの下顎に叩き込まれたのはほぼ同時、そして脳震盪を起こしたウォーレンの大きな体躯がぐらりと揺れ、腹に膝を入れられて音を立てて床へと転がったのはその直後だった。
「ボス!ちょっと待って!話を――」
突然のタカコの動きにジュリアーニが焦った様に抗議の言葉を口にする、しかしタカコはそれを聞き入れる気は欠片も無い様に腰に差した拳銃を抜き、銃口をジュリアーニへと向けて狙いをピタリと合わせ安全装置を解除する。
「……お前等……よりによってあいつと手を組んだのか?奴と私の因縁を知っていて尚その行動を採ったという事は……それは私に対しての反逆と解釈して構わんな?」
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