98 / 100
第198章『再会』
しおりを挟む
第198章『再会』
『ボスー!会いたかったー!』
『……へ?』
突然相手の口から発せられた聞き覚えの有る声、そして口調。それに思わず間抜けな声を漏らして動きを失えば、広げられた両腕にがっしりと抱き締められる。
『――マリオ!?』
『そうだよ!マリオだよボス!俺が殺す迄は絶対に死なないと思ってたけど生きてて良かった!』
突然に目の前で始まった遣り取り、あの影――男はタカコを襲っていた筈だが一体全体どういう事だと動きを失う敦賀、敦賀を襲っていた筈のもう一つの影も動きを止め、取り残されていた小さな影と揃ってタカコの方へと向かって歩き出した。
『ちょっと待て!お前今私を殺そうとしただろう!背後からいきなり襲うとかなんて卑怯な奴なんだ!』
『俺がそんな事するわけ無いじゃないか!ボスを殺す時はじっくりねちねち時間を掛けて甚振り殺すって決めてるのに!ゆっくりと生気が失せていくボスの目を見ながらボスに突き立てたナイフをグリグリやるって昔から決めてるんだから!』
『……そうだよな、お前みたいなシリアルキラーが待ち伏せた挙句にあっさり殺すとか無いわ。うん、私が悪かった』
『ボス!俺の事理解しててくれて嬉しい!! 上陸した後は潜伏してたんだけどさ、妙な動きを察知して、で、その後を追ってここに来たんだよ。で、取り敢えず殺しておくかと思ってコソコソ動いてたんだけど、迫撃砲の砲撃見つけてここに来たら反撃にあってさ。それを片付けて上に上がって来たらボスがいたってわけ』
『マスター、御無事で何よりです』
『ジェフ!お前もか!』
『ボス、私もいますよ』
『リーサも!』
『アリサです』
目の前で繰り広げられるタカコと、マリオと呼ばれた男達との会話、その状況の突拍子も無さに敦賀は内心唖然とし、やがて湧き上がって来たのは静かな怒り。
「……おい、タカコ……状況を説明しろ……何がどうなってやがる」
その低く怒りを滲ませた声音にタカコは漸く我に返ったのか、敦賀へと向き直り少々バツが悪そうに頭を掻いた。
「ああ、そうだった、紹介するよ。私の部下だ、こっちの頭おかしいのがマリオ・ジュリアーニと、お前を襲った方がジェフリー・ウォーレン、この子がアリサ・マクギャレットだ。三人共、こちらはこの国の海兵隊の最先任上級曹長の敦賀、私の命の恩人だ、挨拶を」
タカコがそう言えば三人はそれに従い敦賀に歩み寄る、再び姿を現した月と星の光と遠くの炎の光に照らされて漸くその姿をはっきりと目にすれば、男二人は自分と同じ程の身長と体格で年の頃は四十程、ジュリアーニと呼ばれた男はこげ茶色の髪に緑色の瞳、ウォーレンと呼ばれた男は金色の髪に水色の瞳、どちらも自分達大和人とは大きく面容が隔たり、少し前に漂着船の内外に散らばっていた死体と同じ様な見た目。女の方はタカコとそっくりな体格で年の頃もほぼ同じ、こちらは大和系の血筋なのか髪も瞳も黒く顔立ちも自分達と変わらない、顔の半分程を覆う火傷らしき大きな痕が目を引いた。三人共言葉は無く、こちらを何とも言えない眼差しで見詰めている。
「……俺達のボスを助けてくれて有り難うね」
「……感謝する」
「…………」
人の心の機微にはそう敏くはないが幾ら何でもこれは分かる、敦賀はそう思いつつ無言のまま彼等三人をじっと見返す、三人から敦賀へと向けられているもの、これは、明確な敵意。
「……で?来たのはお前達三人だけなのか?」
取り敢えずは命の危険が有るわけではない様だ、何とも不愉快な状況には違い無いが一先ず落ち着いても良いらしい、敦賀がそんな事を考えているとタカコが三人に話し掛ける。
「はい、最低限の人員は本部に残さなければいけなかったので……マスター、他は何処に?」
「そうだよ、タカユキがボスの傍にいないなんてどうしたの?他の奴だって」
タカコのその言葉に対しての答え、それに続く当然と言えば当然なのであろう疑問に思わず敦賀の身体が動き、三人と彼女の間に割って入った。
「それは、俺が話す」
「……坊やに聞いてるわけじゃないんだけどな、どいてくんない?」
ジュリアーニのそんな言葉は実際は至極尤もで、タカコの仲間の状況をタカコに聞いているのだから彼女が答えるのが当然なのだ。しかし、その実際を知っている敦賀にしてみれば、あの重い事実を彼女自身の口から語らせたくはない、そう思ったのもまた自然な事だった。
「……敦賀、良いんだ、私には居合わせた者として指揮官として事実を語る義務が有る」
そんな彼を制したのは、タカコの静かな言葉と肩に置かれた右手、彼女の方を見てみれば笑みを湛えつつもその眼差しは毅然としていて、筋を通させろと、そこに示された意志を汲み、敦賀は口許を引き結びつつそっと脇へと身体をずらす。
「……有り難う……マリオ、ジェフ、アリサ、私以外は皆……死んだよ」
その言葉は薄らと予想は出来ていたのか三人はそれを聞いても動じない、
「二年と四ヶ月程前、私達が消息を絶った時の話だ。輸送機が突然トラブルを起こし、エンジンも油圧系統も無線も、何もかもがいきなり死んだ……その後必死に機体の姿勢制御や不時着を試みたが駄目だった……墜落したよ。その時に私とタカユキ以外は皆死んだ」
続けられるタカコの言葉、タカユキ以外は、では彼は生きているのかと顔を見合わせ、
「……タカユキは?」
と、そう問い掛けた。
止めろ、そいつの傷をそれ以上抉るなと、敦賀がもう一度割って入ろうとすればそれは再度タカコに押し止められる。
「……手の施し様が無かった……内臓はブチ撒けられて、脊椎も完全に折れてたんだ……楽にしてくれ……そう言われた……だから……私が殺した」
三人を見る真っ直ぐな視線、言葉は詰まりつつも視線は終ぞ逸らされる事は無く、逆にタカコの言葉を聞いた三人が視線を逸らし、
「……ごめん」
「……申し訳有りません」
「……申し訳、有りません」
と、消え入りそうな声を搾り出した。
「……おい、ここはここで制圧出来たんだろう、指揮所の様子が気になる、戻るぞ」
暗く沈んだ空気の中に響く敦賀の言葉、そう言えばそうだ、とタカコが他の三人に弾薬だけでも回収しろと指示を出しながら動き出す。
「……何も……何も出来なかったんだ、あの時」
「……無理すんな……別に話せとは言わねぇよ」
「……いや、話したいんだ……聞いてくれるか……お前と……それと、タツさんにも話したい」
「……分かった、とにかく、指揮所に戻るぞ、話はそれからだ」
『ボスー!会いたかったー!』
『……へ?』
突然相手の口から発せられた聞き覚えの有る声、そして口調。それに思わず間抜けな声を漏らして動きを失えば、広げられた両腕にがっしりと抱き締められる。
『――マリオ!?』
『そうだよ!マリオだよボス!俺が殺す迄は絶対に死なないと思ってたけど生きてて良かった!』
突然に目の前で始まった遣り取り、あの影――男はタカコを襲っていた筈だが一体全体どういう事だと動きを失う敦賀、敦賀を襲っていた筈のもう一つの影も動きを止め、取り残されていた小さな影と揃ってタカコの方へと向かって歩き出した。
『ちょっと待て!お前今私を殺そうとしただろう!背後からいきなり襲うとかなんて卑怯な奴なんだ!』
『俺がそんな事するわけ無いじゃないか!ボスを殺す時はじっくりねちねち時間を掛けて甚振り殺すって決めてるのに!ゆっくりと生気が失せていくボスの目を見ながらボスに突き立てたナイフをグリグリやるって昔から決めてるんだから!』
『……そうだよな、お前みたいなシリアルキラーが待ち伏せた挙句にあっさり殺すとか無いわ。うん、私が悪かった』
『ボス!俺の事理解しててくれて嬉しい!! 上陸した後は潜伏してたんだけどさ、妙な動きを察知して、で、その後を追ってここに来たんだよ。で、取り敢えず殺しておくかと思ってコソコソ動いてたんだけど、迫撃砲の砲撃見つけてここに来たら反撃にあってさ。それを片付けて上に上がって来たらボスがいたってわけ』
『マスター、御無事で何よりです』
『ジェフ!お前もか!』
『ボス、私もいますよ』
『リーサも!』
『アリサです』
目の前で繰り広げられるタカコと、マリオと呼ばれた男達との会話、その状況の突拍子も無さに敦賀は内心唖然とし、やがて湧き上がって来たのは静かな怒り。
「……おい、タカコ……状況を説明しろ……何がどうなってやがる」
その低く怒りを滲ませた声音にタカコは漸く我に返ったのか、敦賀へと向き直り少々バツが悪そうに頭を掻いた。
「ああ、そうだった、紹介するよ。私の部下だ、こっちの頭おかしいのがマリオ・ジュリアーニと、お前を襲った方がジェフリー・ウォーレン、この子がアリサ・マクギャレットだ。三人共、こちらはこの国の海兵隊の最先任上級曹長の敦賀、私の命の恩人だ、挨拶を」
タカコがそう言えば三人はそれに従い敦賀に歩み寄る、再び姿を現した月と星の光と遠くの炎の光に照らされて漸くその姿をはっきりと目にすれば、男二人は自分と同じ程の身長と体格で年の頃は四十程、ジュリアーニと呼ばれた男はこげ茶色の髪に緑色の瞳、ウォーレンと呼ばれた男は金色の髪に水色の瞳、どちらも自分達大和人とは大きく面容が隔たり、少し前に漂着船の内外に散らばっていた死体と同じ様な見た目。女の方はタカコとそっくりな体格で年の頃もほぼ同じ、こちらは大和系の血筋なのか髪も瞳も黒く顔立ちも自分達と変わらない、顔の半分程を覆う火傷らしき大きな痕が目を引いた。三人共言葉は無く、こちらを何とも言えない眼差しで見詰めている。
「……俺達のボスを助けてくれて有り難うね」
「……感謝する」
「…………」
人の心の機微にはそう敏くはないが幾ら何でもこれは分かる、敦賀はそう思いつつ無言のまま彼等三人をじっと見返す、三人から敦賀へと向けられているもの、これは、明確な敵意。
「……で?来たのはお前達三人だけなのか?」
取り敢えずは命の危険が有るわけではない様だ、何とも不愉快な状況には違い無いが一先ず落ち着いても良いらしい、敦賀がそんな事を考えているとタカコが三人に話し掛ける。
「はい、最低限の人員は本部に残さなければいけなかったので……マスター、他は何処に?」
「そうだよ、タカユキがボスの傍にいないなんてどうしたの?他の奴だって」
タカコのその言葉に対しての答え、それに続く当然と言えば当然なのであろう疑問に思わず敦賀の身体が動き、三人と彼女の間に割って入った。
「それは、俺が話す」
「……坊やに聞いてるわけじゃないんだけどな、どいてくんない?」
ジュリアーニのそんな言葉は実際は至極尤もで、タカコの仲間の状況をタカコに聞いているのだから彼女が答えるのが当然なのだ。しかし、その実際を知っている敦賀にしてみれば、あの重い事実を彼女自身の口から語らせたくはない、そう思ったのもまた自然な事だった。
「……敦賀、良いんだ、私には居合わせた者として指揮官として事実を語る義務が有る」
そんな彼を制したのは、タカコの静かな言葉と肩に置かれた右手、彼女の方を見てみれば笑みを湛えつつもその眼差しは毅然としていて、筋を通させろと、そこに示された意志を汲み、敦賀は口許を引き結びつつそっと脇へと身体をずらす。
「……有り難う……マリオ、ジェフ、アリサ、私以外は皆……死んだよ」
その言葉は薄らと予想は出来ていたのか三人はそれを聞いても動じない、
「二年と四ヶ月程前、私達が消息を絶った時の話だ。輸送機が突然トラブルを起こし、エンジンも油圧系統も無線も、何もかもがいきなり死んだ……その後必死に機体の姿勢制御や不時着を試みたが駄目だった……墜落したよ。その時に私とタカユキ以外は皆死んだ」
続けられるタカコの言葉、タカユキ以外は、では彼は生きているのかと顔を見合わせ、
「……タカユキは?」
と、そう問い掛けた。
止めろ、そいつの傷をそれ以上抉るなと、敦賀がもう一度割って入ろうとすればそれは再度タカコに押し止められる。
「……手の施し様が無かった……内臓はブチ撒けられて、脊椎も完全に折れてたんだ……楽にしてくれ……そう言われた……だから……私が殺した」
三人を見る真っ直ぐな視線、言葉は詰まりつつも視線は終ぞ逸らされる事は無く、逆にタカコの言葉を聞いた三人が視線を逸らし、
「……ごめん」
「……申し訳有りません」
「……申し訳、有りません」
と、消え入りそうな声を搾り出した。
「……おい、ここはここで制圧出来たんだろう、指揮所の様子が気になる、戻るぞ」
暗く沈んだ空気の中に響く敦賀の言葉、そう言えばそうだ、とタカコが他の三人に弾薬だけでも回収しろと指示を出しながら動き出す。
「……何も……何も出来なかったんだ、あの時」
「……無理すんな……別に話せとは言わねぇよ」
「……いや、話したいんだ……聞いてくれるか……お前と……それと、タツさんにも話したい」
「……分かった、とにかく、指揮所に戻るぞ、話はそれからだ」
0
お気に入りに追加
42
あなたにおすすめの小説

蔑ろにされた王妃と見限られた国王
奏千歌
恋愛
※最初に公開したプロット版はカクヨムで公開しています
国王陛下には愛する女性がいた。
彼女は陛下の初恋の相手で、陛下はずっと彼女を想い続けて、そして大切にしていた。
私は、そんな陛下と結婚した。
国と王家のために、私達は結婚しなければならなかったから、結婚すれば陛下も少しは変わるのではと期待していた。
でも結果は……私の理想を打ち砕くものだった。
そしてもう一つ。
私も陛下も知らないことがあった。
彼女のことを。彼女の正体を。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
子持ちの私は、夫に駆け落ちされました
月山 歩
恋愛
産まれたばかりの赤子を抱いた私は、砦に働きに行ったきり、帰って来ない夫を心配して、鍛錬場を訪れた。すると、夫の上司は夫が仕事中に駆け落ちしていなくなったことを教えてくれた。食べる物がなく、フラフラだった私は、その場で意識を失った。赤子を抱いた私を気の毒に思った公爵家でお世話になることに。

アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。


[完結] 邪魔をするなら潰すわよ?
シマ
ファンタジー
私はギルドが運営する治療院で働く治療師の一人、名前はルーシー。
クエストで大怪我したハンター達の治療に毎日、忙しい。そんなある日、騎士の格好をした一人の男が運び込まれた。
貴族のお偉いさんを魔物から護った騎士団の団長さんらしいけど、その場に置いていかれたの?でも、この傷は魔物にヤられたモノじゃないわよ?
魔法のある世界で亡くなった両親の代わりに兄妹を育てるルーシー。彼女は兄妹と静かに暮らしたいけど何やら回りが放ってくれない。
ルーシーが気になる団長さんに振り回されたり振り回したり。
私の生活を邪魔をするなら潰すわよ?
1月5日 誤字脱字修正 54話
★━戦闘シーンや猟奇的発言あり
流血シーンあり。
魔法・魔物あり。
ざぁま薄め。
恋愛要素あり。

ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる