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第190章『新戦法』
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第190章『新戦法』
急遽為された三個小隊編成、その内の一個分隊の指揮官を務める様高根から命令されたタカコ、分隊の構成兵員は一任するとの言葉を受け、対馬区での訓練で目星を付けていた海兵達の召集に取り掛かる。
「薮内軍曹、荒川伍長、片桐伍長、泉上等兵、藤田曹長、大河原曹長、毛利少尉、織田大尉、島津少佐、敦賀上級曹長、以上十名はこれより私の指揮下に入ってもらう!階級については非常時だ、目を瞑ってもらいたい!」
「了解!」
全員が博多基地襲撃前からの在籍、関係は悪くないしタカコの素性も知っている、その辺りの配慮をしないで済む分任務に専心出来るなと思いつつ居並んだ面々を見て思いつつ、装備を整える為に揃って動き出した。
「清水曹長!弾薬ゲージは!?」
「通常通り十二番を使用!」
「単発弾はどうする!?」
「お前等じゃあれの扱いはまだ無理だ!それにあれは熊なんかの大型獣用の弾薬だ、人間が被弾したら先ず助からない、混戦が想定されてる今回は使えない、積み込む必要は無い!」
「了解!」
慌しく走り回る海兵達、制服ではなく戦闘服を纏った高根がその様子を見渡し、タカコの分隊の弾薬の構成を確認し他の分隊も同じ構成とする様に指示を出していく。本来であれば対馬区での実地試験を経て実戦へと投入する筈だったものが今日突然に実戦での試験を強いられる事になった、いつどの時機で事が起きるかは分からないし常にそれを想定して、それは全員の頭に有った事ではあるものの、いざその時になればやはり心は落ち着かないもの。
対馬区への出撃と違い今こうしている間にも非戦闘員が襲われている、陸軍兵が戦っている。対馬区で博多市街地侵攻の報を受けた人間はあの日の気持ちを思い出しながら、当時残留していた者はあの日の地獄を思い出しながら、そして、当時未だ在籍していなかった者は鳥栖がどうなっているのかを思い浮かべながら準備を進め、発令から一時間で高根の指揮の下車両十台に乗り込んだ百五人は海兵隊博多基地から鳥栖市街地へと向けて出撃した。
「鳥栖に着いたらどう動く!」
「我々の車両が先ず一番の混戦地帯に突っ込む、そこからは現場の状況を見て私が判断して命令するからそれを待て!」
鳥栖迄は全速で飛ばして一時間程、そこに至る迄の幹線道路は既に陸軍によって封鎖され周辺も規制されているという事だから、時間の損失はそう無いだろう。運転席の敦賀から飛んで来た問い掛けに言葉を返し、タカコは前方を鋭い眼差しで見据えていた。
陸軍には活骸との遭遇から迎撃に至る過程は既に手引書の形にして教えてある、そりに基づいた訓練も行われていると黒川から聞いてはいるが、これがほぼ初の戦闘になるという事を考えれば上手くは行っていないだろう。本来であれば数十年の単位で無数の人間の経験を積み重ね磨き上げるものを、たった数十枚ばかりの手引書を読みそれに合わせて訓練をするだけで体得しろとは無理にも程が有るというのは、長年活骸や人間と戦い続けて来た自分が一番よく分かっている、タカコはそんな事を考えつつ荷台の長椅子へと腰を下ろし他の面々へと語り掛ける。
「市街地に突入したら活骸の数が一番多いところに突っ込む、そこで散弾銃による制圧を開始するが、どういう形で行うかを今から説明するからよく聞いてくれ」
活骸との戦いでワシントンは接触を何よりも嫌い忌避して来た、そして、太刀を使った接触戦のみで生き延びて来た大和。その二つが何の因果か出会い、今、新しい戦術を生み出そうとしている。
「よし、それじゃあ説明する――」
――鳥栖市街地――
「防衛線は死守しろ!鳥栖の外に一体たりとも活骸を出すな!」
「総監!海兵隊はまだなんですか!」
「持ち堪えろ!本土の防衛は本来我々陸軍の役目だぞ!」
鳥栖市街地に程近い小高い丘、そこに設置された前線指揮所の中で黒川が声を張り上げる。先程から入る報告の多くが部隊の総崩れを伝えるものばかり、未だ活骸の凡その数すら把握出来ないとはと舌打ちをして椅子へと腰を下ろした。
やはり危惧していた通りに各所で同士討ちが頻発し、その被害の多さを受けて太刀での戦闘に切り替えたものの、陸軍の兵員の持つ腕は海兵隊のそれには遠く及ばない。太宰府駐屯地のほぼ全ての兵員を動員し、それでも足りないと博多駐屯地と春日駐屯地にも動員の発令をしたが未だ現着はせず、太宰府駐屯地の司令を兼任する総監の立場として、直下の兵員が次々と戦死して行くのを歯噛みしつつも見ている事しか出来ない。自分が出て行きたいと思うもののそれが許される立場でもなく、また、出ても殆ど役には立てない事も分かっている。まだか、まだか、盟友である高根の率いる海兵隊の現着を待ち侘びる黒川の耳に聞きたかった言葉が飛び込んで来たのはそんな時だった。
「総監!海兵隊到着しました!高根総司令以下百五名、このまま現地に突入するとの事です!」
やっと来たか、その言葉に弾かれる様にして立ち上がり前線指揮所の天幕の外へと出てみれば、北北西方向へと伸びる幹線道路を海兵隊のトラックが凄まじい速度で鳥栖市街地へと進んで行く様子が見える。頼む、頼むぞと口元を引き締め拳を固く握り締める黒川や多くの陸軍兵が見守る中、車列は全く速度を緩める事無く市街地へと突っ込んで行った。
急遽為された三個小隊編成、その内の一個分隊の指揮官を務める様高根から命令されたタカコ、分隊の構成兵員は一任するとの言葉を受け、対馬区での訓練で目星を付けていた海兵達の召集に取り掛かる。
「薮内軍曹、荒川伍長、片桐伍長、泉上等兵、藤田曹長、大河原曹長、毛利少尉、織田大尉、島津少佐、敦賀上級曹長、以上十名はこれより私の指揮下に入ってもらう!階級については非常時だ、目を瞑ってもらいたい!」
「了解!」
全員が博多基地襲撃前からの在籍、関係は悪くないしタカコの素性も知っている、その辺りの配慮をしないで済む分任務に専心出来るなと思いつつ居並んだ面々を見て思いつつ、装備を整える為に揃って動き出した。
「清水曹長!弾薬ゲージは!?」
「通常通り十二番を使用!」
「単発弾はどうする!?」
「お前等じゃあれの扱いはまだ無理だ!それにあれは熊なんかの大型獣用の弾薬だ、人間が被弾したら先ず助からない、混戦が想定されてる今回は使えない、積み込む必要は無い!」
「了解!」
慌しく走り回る海兵達、制服ではなく戦闘服を纏った高根がその様子を見渡し、タカコの分隊の弾薬の構成を確認し他の分隊も同じ構成とする様に指示を出していく。本来であれば対馬区での実地試験を経て実戦へと投入する筈だったものが今日突然に実戦での試験を強いられる事になった、いつどの時機で事が起きるかは分からないし常にそれを想定して、それは全員の頭に有った事ではあるものの、いざその時になればやはり心は落ち着かないもの。
対馬区への出撃と違い今こうしている間にも非戦闘員が襲われている、陸軍兵が戦っている。対馬区で博多市街地侵攻の報を受けた人間はあの日の気持ちを思い出しながら、当時残留していた者はあの日の地獄を思い出しながら、そして、当時未だ在籍していなかった者は鳥栖がどうなっているのかを思い浮かべながら準備を進め、発令から一時間で高根の指揮の下車両十台に乗り込んだ百五人は海兵隊博多基地から鳥栖市街地へと向けて出撃した。
「鳥栖に着いたらどう動く!」
「我々の車両が先ず一番の混戦地帯に突っ込む、そこからは現場の状況を見て私が判断して命令するからそれを待て!」
鳥栖迄は全速で飛ばして一時間程、そこに至る迄の幹線道路は既に陸軍によって封鎖され周辺も規制されているという事だから、時間の損失はそう無いだろう。運転席の敦賀から飛んで来た問い掛けに言葉を返し、タカコは前方を鋭い眼差しで見据えていた。
陸軍には活骸との遭遇から迎撃に至る過程は既に手引書の形にして教えてある、そりに基づいた訓練も行われていると黒川から聞いてはいるが、これがほぼ初の戦闘になるという事を考えれば上手くは行っていないだろう。本来であれば数十年の単位で無数の人間の経験を積み重ね磨き上げるものを、たった数十枚ばかりの手引書を読みそれに合わせて訓練をするだけで体得しろとは無理にも程が有るというのは、長年活骸や人間と戦い続けて来た自分が一番よく分かっている、タカコはそんな事を考えつつ荷台の長椅子へと腰を下ろし他の面々へと語り掛ける。
「市街地に突入したら活骸の数が一番多いところに突っ込む、そこで散弾銃による制圧を開始するが、どういう形で行うかを今から説明するからよく聞いてくれ」
活骸との戦いでワシントンは接触を何よりも嫌い忌避して来た、そして、太刀を使った接触戦のみで生き延びて来た大和。その二つが何の因果か出会い、今、新しい戦術を生み出そうとしている。
「よし、それじゃあ説明する――」
――鳥栖市街地――
「防衛線は死守しろ!鳥栖の外に一体たりとも活骸を出すな!」
「総監!海兵隊はまだなんですか!」
「持ち堪えろ!本土の防衛は本来我々陸軍の役目だぞ!」
鳥栖市街地に程近い小高い丘、そこに設置された前線指揮所の中で黒川が声を張り上げる。先程から入る報告の多くが部隊の総崩れを伝えるものばかり、未だ活骸の凡その数すら把握出来ないとはと舌打ちをして椅子へと腰を下ろした。
やはり危惧していた通りに各所で同士討ちが頻発し、その被害の多さを受けて太刀での戦闘に切り替えたものの、陸軍の兵員の持つ腕は海兵隊のそれには遠く及ばない。太宰府駐屯地のほぼ全ての兵員を動員し、それでも足りないと博多駐屯地と春日駐屯地にも動員の発令をしたが未だ現着はせず、太宰府駐屯地の司令を兼任する総監の立場として、直下の兵員が次々と戦死して行くのを歯噛みしつつも見ている事しか出来ない。自分が出て行きたいと思うもののそれが許される立場でもなく、また、出ても殆ど役には立てない事も分かっている。まだか、まだか、盟友である高根の率いる海兵隊の現着を待ち侘びる黒川の耳に聞きたかった言葉が飛び込んで来たのはそんな時だった。
「総監!海兵隊到着しました!高根総司令以下百五名、このまま現地に突入するとの事です!」
やっと来たか、その言葉に弾かれる様にして立ち上がり前線指揮所の天幕の外へと出てみれば、北北西方向へと伸びる幹線道路を海兵隊のトラックが凄まじい速度で鳥栖市街地へと進んで行く様子が見える。頼む、頼むぞと口元を引き締め拳を固く握り締める黒川や多くの陸軍兵が見守る中、車列は全く速度を緩める事無く市街地へと突っ込んで行った。
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